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経営者は資金運用の勉強を

中小企業の経営者が集まる場で、資金繰り表を作成している会社がどれくらいあるのか尋ねた。約20社中、2か月先までの資金繰り表を作っているのはたった1社だけで、他の会社は全く手をつけていなかった。

S銀行のF支店長はこう嘆く。「私たちの仕事はお客様にお金を貸すことだ。そのためにはお客様の資金需要を把握したいと考えている。せめて3か月先の資金繰り計画を出してもらえれば、もっと計画的なサービスを提供できる。それなのに、どれだけお願いしてもなかなか計画を提出してもらえない。そして、いざというときに資金が足りないと言われる。この状況を何とか改善できないものだろうか」と、ため息をつく。

日本の中企業の多くと、小企業の大半は、自社が利益を上げているのか損失を出しているのか、決算をしてみるまで分からないのが現状だ。当然ながら資金繰り表も存在しない。今月の資金不足がどれくらいかを経理担当者に尋ね、その場しのぎで銀行に駆け込む。この状況を何年も繰り返しているのが実態だ。

銀行も常に融資が可能というわけではなく、金融引き締めが始まればなおさら借入が難しくなる。銀行から借りられなければ、得意先に頭を下げ、親せきや知人を頼って奔走する。それでも資金が工面できなければ、高利の借金に手を出したり、融通手形を発行したりする羽目になる。ここまで来ると、もはや破滅への道であり、倒産劇の幕開けに過ぎない。

高利の利息を賄えるような利益を生む仕事など、存在するはずがない。ましてや、融通手形に手を出すのは、まさに麻薬に等しい。最初は痛みを和らげるように感じるかもしれないが、その代償は高くつき、次第により多くの量を求めなければ効果が薄れていく。最終的には抜け出せない泥沼に陥るのが常だ。

一度融通手形に手を出してしまうと、相手との間に切れない縁ができてしまう。過去に自分が頼んだ経緯があるため、相手から依頼されると断るのが難しくなる。そして、もし不渡りを出そうものなら、当座の資金繰りに追い打ちをかけられ、二重の打撃を受けることになる。ここまで来ると、もはやどうにもならない状況に追い込まれてしまう。

融通手形の最大の問題点は、ただの紙切れが合法的に日本銀行券へと姿を変えるところにある。そのため、偽札よりもさらに厄介な存在と言える。融通手形を発行する際、多少の後ろめたさを感じることはあっても、それを明確な罪悪感として意識する人はほとんどいないのが実情だ。この曖昧な倫理観が、融通手形の横行を助長している。

法律で罰する手段がないことが、融通手形の横行を許している。その結果として、莫大な金額の融通手形が日本中に蔓延している現状を目の当たりにすると、不安と恐怖を感じざるを得ない。この見えない爆弾がどこで炸裂するかわからない状況に、社会全体が危機感を持つべきだろう。

資金繰り表を作成している会社であっても、社長自身がそれを真剣に検討している例は少ないのが現状だ。多くの場合、経理部門が自分たちの業務の一環として作成するだけであり、社長に分かりやすく伝える工夫や配慮がほとんどされていない。結果として、経営の最重要課題であるはずの資金繰りが、トップの意思決定に十分に反映されないまま進んでしまうケースが多い。

それにもかかわらず、経理部門は「トップが資金繰りに関心を示してくれない」と嘆く。一方で、社長に話を聞くと「内容がわかりにくい」との声が返ってくる。このすれ違いの背景には、資金繰り表の形式や作り方自体に問題があることが見て取れる。見やすさや理解のしやすさを考慮しない形式では、経営者の関心を引き、意思決定に役立つツールにはなり得ない。

資金繰り表の問題点として、まず挙げられるのが項目の多さだ。次に、区分が細かすぎる点が挙げられる。これらは、金融機関や経理部門の業務上の都合に焦点が当てられているためであり、経営者が直感的に理解しやすい形にはなっていない。結果として、資金繰り表が社長にとって使いにくいものとなり、経営の意思決定に活用されにくい状況を生んでいる。

忙しい経営トップに見せる書類は、内容を問わず極力簡素化し、要点を要約することが不可欠だと考える。資金繰り表も例外ではなく、私は「原始的な四区分法」を採用し、項目を極限まで要約すべきだと主張している。これによって、資金の流れを直感的に把握できる表になる。社長のために特別な形式で作成するにしても、それほど大きな手間にはならず、その効果は十分に見合うものだ。

当月の資金繰り表には、理解しにくい断面チャートが多用されていることが課題だ。こうした形式は専門家でなければ読み解くのが難しく、「ここだと思えばあちらを見る」というような手間のかかる読み方を強いられる。その結果、経営者が内容を即座に理解できない原因となっている。資金繰り表は、日付ごとに資金の動きを明示した、時系列でわかりやすい暦日管理のチャート形式にするべきだ。これにより、トップが直感的に状況を把握し、迅速な意思決定に役立てられるようになる。

私がこの形式の資金繰り表を作成して渡すと、「わかりやすい」と喜ばれることが多い。「金銭出納帳が読めるなら、一倉式資金繰り表は誰でも読める」と胸を張りたいところだが、実のところ、ある会社で実際に使われていたものに少し手を加えただけのものだ。もともと実践の現場で培われた知恵から生まれたものであり、だからこそ多くの経営者にとって使いやすく役立つ形になっているのだろう。

次に挙げられる問題点は、数字が適当に記入されているケースが多いことだ。これは、売上や購入の発生月と、それに伴う回収や支払いの月、さらに手形の決済月との関係をどう整理して記入すればいいのか分からないために起きる現象だ。このため、表面上は整っているように見えても、詳細に突っ込んで確認すると、多くの場合で矛盾や不整合が露呈する。結果として、資金繰り表が本来の役割を果たせず、誤った判断を招く原因となる。

さらに重大な問題として挙げられるのが、計画と実績が完全に分離されているケースが多いことだ。計画は計画だけ、実績は実績だけで管理され、両者を比較検討する仕組みがない。これでは、資金繰りの改善に向けた具体的な対策を立てることができない。資金繰り表は、計画と実績を一目で比較できる形式にすることで、初めて有効な経営ツールとなり、前向きな対応を可能にする。

資金繰り表は、計画期間全体を通じて計画と実績を一覧できる形にするべきだ。一般的に見られる計画と実績の比較は、たいてい1か月分に限られている。しかし、この形式では先を見据えた対策を立てるには不十分だ。計画と実績を長期的に比較し、期間全体を俯瞰できる資金繰り表にすることで、経営者はより正確で戦略的な判断が可能になる。これが資金管理の本来のあるべき姿である。

以上のような工夫を凝らし、社長が意思決定をしやすい形式と分かりやすい表現で資金繰り表を作成するよう担当者に求めるのも、社長の重要な役割と言える。経営者として、情報をただ受け取るだけでなく、その情報が自らの判断に直結する形で整備されるよう指示を出すことが、健全な経営を支える土台となる。責任者として、こうした要求を明確に示すことが求められる。

何より重要なのは、社長自身が「資金繰りがどうなっているのかわからない」で済ませてはいけないということだ。資金繰りが不明確なままでは、企業経営は成り立たない。もしわからないのであれば、自ら学ぶ努力をするべきだし、必要に応じて専門家や信頼できる部下に尋ねるべきだ。資金繰りは経営の生命線であり、その管理を他人任せにするのは無責任であり、経営者としての本分を果たしているとは言えない。

資金運用の知識が不足している中小企業経営者にとって、資金繰表の作成と活用が非常に重要です。実際、多くの企業では資金繰表を作っていないか、経理担当者の業務用に限られており、経営者がその内容を理解していないことも多いです。このような状況では、突発的な資金不足に見舞われ、結果として高利の資金に頼らざるを得なくなり、経営が悪化するリスクが高まります。

資金繰表の活用に関しては、特に次の点を重視することが必要です。

  1. 簡素でわかりやすい形式:忙しい経営者にとって、資金繰表は極力簡潔であることが望まれます。項目や区分が多すぎると理解が難しくなるため、必要最低限の情報に要約した「四区分法」などの形式を取り入れ、月単位や週単位の資金の動きがひと目で分かるようにするとよいでしょう。
  2. 計画と実績の比較:資金繰表は、単なる計画の羅列ではなく、実績と計画を照らし合わせることで効果を発揮します。月次の比較だけでなく、計画全体を見渡せる一覧性のあるチャートにすることで、経営者が資金状況の変動を把握しやすくなります。
  3. リアルな数値の記入:売上や支払いの発生月と決済月を正確に把握し、それに基づいて数値を記入することが大切です。正確な情報が反映されていない資金繰表では、いざというときに判断を誤る可能性があります。
  4. 暦日管理の時系列チャート:断面的な情報ではなく、時系列の視点から資金の流れを示すチャートにすることで、経営者が資金繰りのタイミングをつかみやすくなります。こうしたチャートは、日々の資金流れを把握する助けとなり、突発的な資金不足を予防する役割も果たします。

資金繰表の作成と活用には、経営者自身の資金運用に対する理解が不可欠です。資金の流れを把握し、計画的な資金管理を行うことができれば、経営に安定をもたらし、成長に向けた資金の確保も可能になります。経営者が「わからない」で済ませることなく、自ら勉強し、時には他者の知恵を借りる姿勢を持つことが、経営を健全に導く第一歩です。

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