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細分化ということ

前節では市場占有率について触れたが、「具体的に何を対象とした占有率なのか」という疑問が湧いてくるだろう。たとえば、「当社は複数の業界にまたがっているが、業界ごとに占有率の基準が異なる。では、自社の占有率とは何を指すのか」といった問いが生まれる。この点について、まず明確にしておく必要がある。

占有率という言葉を用いる場合、それが意味するのは常に「業界の占有率」だということになる。この場合、「業界」という言葉が省略されているだけの話だ。

「その業界の占有率」と言っても、それが全国規模を対象にしているのか、府県別なのかという問題が出てくる。また、「自社は多様な商品を扱っているが、それをどう考えればよいのか」という疑問も浮かぶ。さらに、同じ問屋業でも相手がデパートに強い場合と、自社が商品ごとに異なる占有率を持つ場合、あるいは主にスーパーを対象としている場合では、占有率の捉え方はどう変わるのかという課題も出てくる。

同様に、⑮と@は、a商品の地域別占有率を示しており、①はa商品の全国占有率を示している。そして、表の右下に位置する⑦が、会社全体の総売上に基づく全国占有率を表している。

このように、市場を地域別や商品別に細分化して占有率を分析することは、戦略を練る上で不可欠である。細分化することで、各市場での競争状況や強み・弱みを具体的に把握でき、より精度の高い意思決定が可能となるのだ。

なぜなら、どの会社でも地域別・商品別に占有率は大きく異なるためだ。占有率が異なれば、当然ながら戦略もそれに応じて変える必要がある。つまり、「占有率の原理」は全体の市場ではなく、細分化された個々の市場における占有率に対して作用する。

各地域や商品の市場特性を無視して一律の戦略を採用しても、効果は限定的である。細分化された市場に焦点を当てることで、それぞれに適した戦略を立案でき、競争優位性を高めることが可能となる。

全国占有率が8%では限界企業に過ぎないが、A地域で占有率25%を持つなら、その地域では「不安定な一流」といえる。

地域細分化は必ずしも行政区画に従う必要はない。むしろ、行政区画にとらわれないほうが効果的だ。後述するように、経済圏は行政区画とは大きく異なる場合が多いため、それに合わせた柔軟な分割が求められる。

地域細分化は、行政区画ではなく経済圏に基づいて行うほうが適している。経済圏とは、地理的条件や気象条件、水質・土質の違いが影響し、農産物や地場産業を通じて古くから人間の社会生活を規定してきた領域である。そのため、経済圏を考慮した細分化は、実態に即した分析と戦略立案を可能にする。

各経済圏では、独自の物の考え方や習慣が長い歴史の中で形成されてきた。現代では交通の発達や人々の交流、移住が進み、情報伝達も広く行き渡っているが、それでもなお、これらの特性は根強く残っている。この現実を無視すると、どんな戦略や計画も成功を収めるのは難しい。

また、小売店の場合は、商圏を店舗を中心とした同心円で考えると分かりやすい。「第一商圏は半径500メートル、第二商圏は1,000メートル」といった形で区分するのが実用的である。これにより、地域ごとの需要や顧客動向を効率的に分析できる。

もし市場活動に何となく違和感を覚えるなら、「細分化が適切かどうか」を疑うことが重要だ。適切でない細分化では、戦略の効果が十分に発揮されない可能性がある。

重要なのは、「有利な戦い」を展開できることである。そのためには、行政区画にこだわらず、必要に応じて異なる経済圏を組み合わせたり分割したりする柔軟な発想が求められる。また、敵のテリトリーと一致しても食い違っても構わない。大事なのは、それらを十分理解した上で、「自分にとって最も有利な」テリトリーの細分化を行うことである。

商品の細分化も多様な方法が考えられる。大きな分類では「民生品」や「工業品」といったカテゴリーに分けられ、さらに品種別や品目別に細かく分類することができる。また、商品のグレードによって「高級品」「中級品」「普通品」といった区分を設けることも有効だ。こうした細分化により、ターゲット市場や戦略を明確にしやすくなる。

こうした細分化は、「価格帯」を基準にすれば簡単に整理できる。また、商品のサイズによって「大型」「中型」「小型」と分ける方法も重要だ。これにより、顧客ニーズや市場ターゲットに合わせた戦略を立てやすくなる。

デザイン面でも、「モダン」「クラシック」「華やか」「渋い」「オーソドックス」「サイケ」など、多様な細分化が可能だ。また、素材に基づく分類も重要である。これらの分類により、商品の特性を明確化し、ターゲット層や市場ニーズにより的確に応えることができる。

商品の分類は、年齢層やお客様の職業・職種などによる区分も考えられる。我が社の商品だけを見ても、無限に近い分類が可能だ。しかし、その分類は必ず市場や顧客層を基準とするべきであり、自社の都合や視点から行うべきではない。マーケットや顧客の立場に立った分類こそが、有効な戦略につながる。

「自社商品」「他社商品」という分け方をしている会社は少なくない。そして、自社商品にだけ力を注ぎ、他社商品を軽視してほとんど手をかけないという現象にも頻繁に出くわす。しかし、こうした考え方は市場での競争力を損ない、百害あって一利もない。すべての商品を公平に扱い、顧客ニーズに応える姿勢が求められる。

自社品か他社品かは、お客様にとっては全く関係のない話だ。その区別を持ち込むのは、企業側の勝手な論理に過ぎない。ここで忘れてはならないのは、商品だけでなく、お客様自身の細分化も絶対に必要だということだ。顧客の属性やニーズを的確に把握し、それに応じた対応をすることが、成功への鍵となる。

建築業界では、官公庁、ゼネコン、工事業者、建材店といった具合に細分化が可能だ。さらに、官公庁の中でも庁舎、文化施設、学校、病院、塵芥処理施設など、多岐にわたる分類がある。また、物件の大きさで大型・中型・小型と分けたり、構造で鉄筋、鉄骨、木造と分類することも必要だ。用途別にもオフィス、マンション、店舗、住宅、工場といった細分化が考えられる。これにより、対象となる市場や顧客層をより的確に把握し、戦略を立てる基盤が整う。

流通業者の場合、デパート、スーパー、専門店といった形で業態別に分けて考える必要がある。また、銀行、ガソリンスタンド、理髪店といったように業種別の分類も欠かせない。このように、細分化には無限に近い分類が可能であり、それぞれの特性に合わせた戦略を立てることが重要である。

「どのような分類が最も自社にとって有利か」を決めるのは、社長自身の責務である。この決定には、自社の力と競合他社の力関係、自社の方針、そして敵の戦略などを総合的に検討する必要がある。これは会社全体の方向性を左右する重要な判断であり、役員に任せるべきではない。ましてや管理職に任せるのは論外である。

一度決めたテリトリーが「適切である」と保証されるわけではない。むしろ、現実には適切でない場合も多々ある。また、状況が変化すれば、当初は適切だったテリトリーが不適切になることも十分に考えられる。テリトリーは常に見直し、変化に応じて柔軟に対応することが求められる。

このような状況を発見した場合は、ただちにテリトリーの変更を行い、同時に投入資源の再配分を検討すべきである。場合によっては営業所の移転や、店舗のスクラップ・アンド・ビルドが必要になることもある。しかし、その土地や建物が自社所有の場合、それに執着してしまい、移転やスクラップ・アンド・ビルドにブレーキがかかる可能性がある点には注意が必要だ。柔軟な判断が求められる局面である。

この点を十分に理解し、注意を払わなければ、変化に対応できず、業績の低下を招く可能性がある。そのため、「営業所や店舗は借りるほうがよい」という主張には、市場戦略の観点から確かな根拠がある。この考え方は柔軟性を確保し、変化への迅速な対応を可能にするからだ。私自身もこの説を支持する立場である。

結論として、市場細分化は流動的な市場の性質を反映したものであり、常にその変化の方向を見極めながら対応する必要がある。柔軟な思考を持ち、状況に応じて再編や修正を繰り返していくことが、成功の鍵となる。

市場の「細分化」は、企業が市場占有率を理解し、戦略を立てる上で不可欠な概念である。市場全体に占有率を適用するのではなく、地域や商品、顧客属性に応じて細かく分類して分析し、各分野での占有率に基づいて戦略を最適化することが求められる。

細分化の要点

  1. 地域別の細分化:
  • 地域をさらに小さなエリアや市場経済圏(経済圏とは、気候や地理、産業構造によって形成された区域)に分割し、エリアごとの特性や商圏範囲を考慮する。
  • 行政区画にこだわらず、企業の都合やエリアの特性に合わせた経済圏での細分化が重要である。
  1. 商品別の細分化:
  • 製品を品目ごとや、価格帯(高級品・中級品・廉価品)によって分類する。また、製品の機能やデザイン、顧客層に応じて分類し、商品カテゴリ別に戦略を変える。
  • 細分化によって、どの商品がどの市場で優位性を持つかを見極め、強化すべき分野にリソースを投入する。
  1. 顧客の細分化:
  • 業界(建築、流通、飲食など)、企業の規模、流通チャネル別(デパート・スーパー・専門店など)、職業別に細分化し、各顧客層へのアプローチ方法を工夫する。
  • たとえば、建築業界であれば、官公庁、ゼネコン、一般の工事業者などに分け、それぞれに対するマーケティング手法を検討する。

細分化の活用

市場の細分化は、企業が自社の強みを最大限に発揮し、効率的なリソースの配分を行うための基本戦略である。また、細分化によって得られた「有利なテリトリー」を基に、地域や商品に特化した戦略を立てることで、占有率をさらに高めることができる。たとえば、限界的占有率(10%以下)の企業でも、特定の地域や商品に集中することで、一部のエリアでの優位性を築きやすくなる。

流動的な再編と柔軟な対応

市場や顧客の変化に応じて、テリトリーや分類を随時見直すことも重要である。市場環境や競合の変化により、従来の細分化が適切でなくなる場合もあるため、常に柔軟な視点を持って再編を行い、最適な戦略にアップデートしていくことが成功の鍵となる。

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