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第6章戦略的中期経営計画を作成する⑤経営者の会計思考

◇経営における論語と算盤の考え方「論語と算盤」とは日本資本主義の父、渋沢栄一氏の講演集において用いられた言葉で、論語、即ち倫理と、算盤、即ち金銭は矛盾しない、むしろ論語を取り入れることで経済は発展するのだという氏の基本的な考えを表しています。これを経営に置き換えれば、●論語=経営理念、行動指針、バリュー●算盤=戦略の実践による収益の確保両者は自社を発展させる上で両輪となって働くもので、決して相反するものではなく、どちらも同様に重要だ、ということになるでしょう。哲学の裏打ちのない単なる利益偏重主義は顧客との良好な関係を阻害し、早々に顧客の支持を失ってしまうでしょう。やはり、顧客や社会に貢献して喜ばれ、その対価として得られた利益こそが価値が高く、永続するものなのです。一方、いかに高い理想を持っていても、それを実現する力、即ちビジネスを実践して収益を上げる力がなければ、それは顧客にとって何の価値もない、絵に描いた餅に過ぎません。本書の冒頭でもご説明したように、企業とは経営理念実現のために存在するものです。そのために必要な利益を上げ続け、永く存続していくことは企業の「正義」とも言えるのです。このように申し上げるとよく、「私は数字のほうはちょっと苦手で」とおっしゃる方がいらっしゃいますが、もし今、ご自分が情熱を持って取り組んでいる分野──製造なら製造、営業なら営業──があるとするならば、今後はそれと同じくらい、否、それ以上に「算盤、つまり会社の数字に強くなること」が重要になってくるとお考えいただきたいのです。Casestudy会社の業績が悪化する場合、どのような理由が考えられるでしょうか。様々な理由を想定し、その1つひとつについて、少なくとも3回は「なぜ」を繰り返し、できるだけ数多く挙げてみましょう。例…「売上の減少」を想定し、更にその現象が発生した理由として「顧客離れ」→「商品に魅力がない」→「商品開発できていない」→「その体制がない」→「人財不足」……と追求を続けていきます。中小企業の業績が悪化する要因には、実に様々なものがあります。このケーススタディを講座で実施した際も受講生の皆さんからは、売上に関して「売上減少、受注減少、粗利の低下、販売不振、営業力不足、受注待ち状態が慢性化、大口先に依存した売上構成、新規開拓が進んでいない等」商品・サービスに関して「商品に魅力がない、市場に適した(お客様目線の)商品となっていない、価値提供ができていない、マンネリ化、商品のロス、新商品が出ない、サービスが悪い(クレームが多発)、技術力等」組織と人財に関して「社員とのコミュニケーション、理念の共有ができていない、組織がバラバラ、人財不足、社員のモチベーションが低下、親子のコミュニケーション、幹部が1つになっていない、人財の頻繁な入れ替わり等」その他「経営者の姿勢」「外的環境の変化」「競合との価格競争」「取引先の海外移転」etc.……と、多岐にわたる視点から非常に多くの「業績悪化の理由」を挙げていただきました。実際に自社の業績が悪化した際には、それだけ様々な要因が複雑に絡み合うことになっているでしょう。どうしても主観的になりがちな定性分析では、原因の正確な把握は困難極まるということになり、これらをより客観的な視点で検証するためにも、まずは自社の収益向上のプロセスを細分化し、その実行度合いを数値で測定・管理することが求められます。例えば、飲食店の収益を上げるプロセスは、以下に挙げる図の通り、売上を上げるか、コスト削減をするか、のいずれかです(図14)。売上を上げるにしても、客数を増やすのか、客単価を増やすかで打つべき施策が異なり、客数を増やすにも、新規客を増やすのか、リピーターを増やすのか、でふさわしい施策は異なります。

このように「数字」に強くなり、自社の収益プロセスを日頃から定量的に把握していれば、業績悪化に至る前にその兆候を「数字」から捉えることができます。早期に必要な手を打ち、環境の変化にも耐え得るような経営を行うことも可能となるわけです。一方で、過去、自らの経験だけでなく、中小企業の事業再生支援に携わった経験から申し上げると、残念ながら業績を悪化させてしまった経営者の特徴は、「ドンブリ勘定、かつマネジメントにおいても数字に弱く、楽観主義であった(現状を見て見ぬふりをした)」という一点に集約することができます。前述したように業績悪化の兆候は必ず数字に現れますので、それを早期に捉えさえすれば多くのリスクは回避できたはずなのですが、経営者が「数字」に弱かったばかりに、どうしようもないところまで来てしまった……というわけです。例えば私の実家の小売店では、売上は横ばいを保っていたのに、慢性的な営業赤字の状態に陥っていました。この要因をよくよく見ていくと明らかに原価と人件費の高騰が要因であり、それらをさらに見ていくと、大口取引先との取引において粗利額が大幅に下がっていることがわかりました。つまりこの赤字は構造的な要因から発生したものであったのに、元々の問題を解決しないまま、長い間、「働けど働けど収益上がらず」という状態を続けていたのでした。茹でガエル現象、茹でガエル理論という言葉もありますが、少しずつ進行していく変化に、人間はなかなか気づくことができません。このため、経営者は自社の状況の変化を、定量的な指標に置き換えて把握することが必要となります。私の実家の例であれば、ただ「粗利」にさえ注目していれば、「売上が上がっても収益性が低下するのでは意味がない」ということがわかり、もっと早期に、顧客構造の改善に取り組んでいたでしょう。このように自社に問題が発生したことを検証できる「数値」をいくつか管理指標として設定し、●定期的に現場から報告させる仕組みをつくる●この数値がこのラインを越えたら危機と捉える、という評価の目安を現場と共有することで、より適切なマネジメントが実現できるわけです。「数字」に疎い経営者であればどうしても後手に回ってしまう。即ち、経営者が「数字」に強くなるということが、自社を存続させる、最も確実で手っ取り早い方法なのです。第1章で述べた通り、売上や利益といった「数字」とは自らの仕事を通じて創意工夫した結果、お客様から得られた「評価」であり、その「評価」を客観的に捉える唯一の指標が「数字」です。「数字が苦手」という方は早急に克服していただき、「自社にとって重要な管理指標は何か?今現在、適切に管理されているのか?どのような管理の仕組みを築くべきか?」を明確にしていただきたいと思います。◇経営悪化のパターンと経営の3つの輪中小企業における経営悪化のパターン●販売不振……売れない●放漫経営……データ無視●赤字累積……長年の経営不振のしわ寄せ●過小資本……債務超過(過大投資)●連鎖倒産……関連倒産再建の可能性は「過小資本」〉「連鎖倒産」〉「赤字累積」〉「放漫経営」〉「販売不振」の順前項では中小企業が業績悪化に陥る理由について考察していただきましたが、実は中小企業の場合、業績不振、経営悪化に陥る典型的な5つのパターンというものがあります。これらはいつ起こるかわからず、また、私の実家の小売店のように、経営者がその状況を周囲にオープンにしていないことも多い。突然、社長が倒れて初めて「こんなことになっていたのか!」とびっくりさせられる、というのは、決して珍しい話ではありません。5つのパターンのうち、最も再建の可能性が低いと言わざるを得ないのが、「販売不振」(慢性的に売上が減少している状況)です。一時的な損失や経営者に信用=資金調達力があり、「お金だけは何とか回っている」という状況であれば、存続はできます。しかしながら、なんとか資金を調達し、コスト削減を図って会社として延命を図っても、本業の売上が慢性的に下がり続けているのであれば、また同じことが起こります。抜本的な業績改善が図られない限り、資金を調達する→さらに赤字を出す→さらに資金を調達する……の繰り返しで、最後にはその資金も調達できなくなってしまいます。そうなると時間との勝負になりますから、極めて短い期間で新商品やサービスを開発し、新たな販路を構築しなければなりません。新規の売上を立てることは難しいことですし、しかも、金策に走りながらでは、なかなか地に足をつけて本業に集中することなどできません。だからこそ、そうならないために手を打っておくべきなのです。再三申し上げているように会社にもライフサイクルがあります。成長期があれば必ず衰退期があります。そして業績が好調の時があれば不調の時もあります。こういった経営危機の時こそ経営者としての真価が問われ、ここで問題を先送りすることや、表面的に取り繕ったりすることは、後の選択肢を狭めることはもちろん、最悪、致命傷ともなり得ます。そうなる前に、即ち「手が打てるうちに抜本的な対策を行う」ことこそが重要です。これが私自身、自らの会社を事業再生させた経験を通じ学んだ教訓です。抜本的な対策を実行する際は、業績が悪化しているのが明らかであるにもかかわらず、それでも相当な反対勢力が現れるものです。痛みや軋轢の生じることが想定されます。特に、経験の浅い後継者が先代から事業を引き継いだ際は尚更です。また、後継者自身も「このプランで果たしてステークホルダーを説得することができるのか?」という不安に苦しめられます。事業再生に正解はありません。なぜならば、その会社の過去を真摯に受け止め、経営者が率先垂範して未来を創ることでもあるからです。ですので、このように経営が悪化した場合は、経営者自らが強い信念と勇気を持って真正面から目の前の困難に挑む他ないでしょう。少し話がそれましたが、このように後継者にとって、財務の知識を身につけるということは、早急に実行しなければならないことの1つです。とはいえ財務については様々な専門書も出ていますので、ここでは「最低限これだけは」という、ごく基本的なチェックポイントだけをご紹介しましょう。中小企業経営を財務面から見ると、図に挙げたような3つの「経営の基本サイクル」をうまく回すことができているか?が重要になってきます(図15)。

初めにお金の流れ、「キャッシュの輪」があり、そこから得られた利益の配分を表す「利益の輪」があります。さらには自社の財務基盤をより強固にしていくための「B/S(バランスシート)安全性の輪」があります。これらを適切に制御していくことがポイントで、いつもいつもアクセルばかり踏みこんでいるのもだめですし、もちろん、ブレーキをかけてばかり、というのも好ましくありません。上手くバランスを取って無理なく成長していくことが、企業にとって重要なのです。このうち、経営者にとって特に重要なのは●現金収支の構造(お金の流れ)●損益構造(儲かっているか?)の2点となります。◇自社の現金収支の構造を把握する前項に挙げた「経営の3つの輪」のうち、「キャッシュの輪」をうまく回していくために、ここでは「資金繰り表」を作成し、自社の現金収支の構造を把握していきます。私は経営者にとって、この資金繰り表こそ最も重要な管理指標だと考えています。……と申し上げると何だか面倒くさそうだな、と思われるかもしれませんが、要は「手元にすぐ使える現金がどれだけ残っているか」を示すもので、以下に一般的な資金繰り表のフォーマット例を挙げている通り、収入と支出を項目別に整理して、年次、月次、週次、日次でしっかりと管理していくだけのものです。家計簿、もしくはお小遣い帳の要領で簡単に作成することができるでしょう。少々堅苦しくなりますがとても大事なことですので以下に詳しく説明します。①一般的な資金繰り表資金繰り表の形式は1つではありません。主な形式としては、次のようなものがあります。□4区分法…前月繰入、収入、支出、翌月繰越□6区分法…前月繰越、収入、支出、差引過不足、財務、翌月繰越□7区分法…前月繰越、収入、支出、差引過不足、財務、翌月繰越、主要勘定残高4区分法の資金繰り表は、最も単純な形式であり、小規模な事業者でも利用しやすいような項目立てとなっています。6区分法の資金繰り表では、営業活動による収入・支出と財務活動による収入・支出を区分すると共に、営業収入と営業支出の差額である差引過不足が示されています。7区分法の資金繰り表では、6区分法の資金繰り表に、月別の売上高、仕入高、受取手形、売掛金、棚卸資産、支払手形、買掛金等の主要勘定月末残高を載せています。この表を矛盾なく作成することができれば、相当な情報を得ることができるようになります(図16~18)。

初めにお金の流れ、「キャッシュの輪」があり、そこから得られた利益の配分を表す「利益の輪」があります。さらには自社の財務基盤をより強固にしていくための「B/S(バランスシート)安全性の輪」があります。これらを適切に制御していくことがポイントで、いつもいつもアクセルばかり踏みこんでいるのもだめですし、もちろん、ブレーキをかけてばかり、というのも好ましくありません。上手くバランスを取って無理なく成長していくことが、企業にとって重要なのです。このうち、経営者にとって特に重要なのは●現金収支の構造(お金の流れ)●損益構造(儲かっているか?)の2点となります。◇自社の現金収支の構造を把握する前項に挙げた「経営の3つの輪」のうち、「キャッシュの輪」をうまく回していくために、ここでは「資金繰り表」を作成し、自社の現金収支の構造を把握していきます。私は経営者にとって、この資金繰り表こそ最も重要な管理指標だと考えています。……と申し上げると何だか面倒くさそうだな、と思われるかもしれませんが、要は「手元にすぐ使える現金がどれだけ残っているか」を示すもので、以下に一般的な資金繰り表のフォーマット例を挙げている通り、収入と支出を項目別に整理して、年次、月次、週次、日次でしっかりと管理していくだけのものです。家計簿、もしくはお小遣い帳の要領で簡単に作成することができるでしょう。少々堅苦しくなりますがとても大事なことですので以下に詳しく説明します。①一般的な資金繰り表資金繰り表の形式は1つではありません。主な形式としては、次のようなものがあります。□4区分法…前月繰入、収入、支出、翌月繰越□6区分法…前月繰越、収入、支出、差引過不足、財務、翌月繰越□7区分法…前月繰越、収入、支出、差引過不足、財務、翌月繰越、主要勘定残高4区分法の資金繰り表は、最も単純な形式であり、小規模な事業者でも利用しやすいような項目立てとなっています。6区分法の資金繰り表では、営業活動による収入・支出と財務活動による収入・支出を区分すると共に、営業収入と営業支出の差額である差引過不足が示されています。7区分法の資金繰り表では、6区分法の資金繰り表に、月別の売上高、仕入高、受取手形、売掛金、棚卸資産、支払手形、買掛金等の主要勘定月末残高を載せています。この表を矛盾なく作成することができれば、相当な情報を得ることができるようになります(図16~18)。

②資金繰り表の各項目を知る資金繰りを管理するためには、売上や仕入等の本業に係る収支と、本業以外の取引に係る収支を区別して把握することが必要です。資金繰り表には前述の通り様々な形式がありますが、本業と本業以外に係る資金収支をそれぞれ区分したほうが望ましいことから、ここでは6区分法の資金繰り表を例に、表の見方を説明します(図19)。

営業収支過不足は、前月繰越+営業収入合計─営業支出合計で計算されます。この額がプラスになっていれば問題はありませんが、マイナスになっている場合には資金不足となるため、何らかの手当てを行う必要があります。当面の資金不足に対応するためには、例えば、売掛金や受取手形の回収促進、支払いの延期や経費の節減、不足資金についての新規借入、有価証券や遊休資産の売却等をはじめ、いくつかの方法を検討することができます。資金繰り表作成の流れ資料収集資金繰り表作成に必要な現金出納帳、普通預金出納帳、当座預金出納帳を用意する↓項目分類用意した3つの帳簿から必要項目を抜き出し、それぞれ多桁式出納帳に記入する↓集計3つの多桁式出納帳に集計する↓記入多桁式出納帳の合計を資金繰り表の該当項目に記入し、集計する③資金繰り表から今後の資金繰りを予測する資金繰り表の実績から、見積資金繰り表をつくり、今後の資金繰り状況を予測することもできます。見積資金繰り表を作成する目的としては、次のようなものがあります。借入予測……………次月繰越を見て借入時期を予測する見積精度向上………見積と実績を比較し見積の精度を上げる経営者への報告……経営者が今後の資金繰りについて把握する銀行への報告………銀行から借入をする際に提出する見積資金繰り表に記入する数字の中には、手形期日落の金額や借入金返済額等のようにあらかじめ把握できるものと、そうでないものとがあります。把握できない項目については、資金繰りの実績や担当者の意見を参考にしながら記入していくことになります。以下は、その際の留意点です。今までの実績から予測●最近3ヶ月の実績と前年同月の実績を参考にする●収入については平均実績の7~8割程度に見積る●支出は額面通りに見積る担当者にヒアリングして予測●収入は少なめに見積る資金繰り実績、担当者へのヒアリング等を参考に、以下のような見積資金繰り表を作成し、今後の資金繰りの予測に役立てます(図20)。

④資金繰り表のチェックポイント以下に、資金繰り表の主なチェックポイントをご紹介します。資金繰り表作成ミスのチェック□収入として計上しているものは確実か借入の銀行了解、手形のジャンプ要請の危険、売上収入の確実性等□支出の計上額に漏れはないか税金、配当金、賞与等資金繰り状況のチェック□営業収支過不足(前月繰越+営業収入合計─営業支出合計)がマイナスになっていないか□月中に資金ショートは起きないか月末の資金残高がプラスであっても月中の入金日と支払日の前後関係に注意(日繰り表によるチェック)分析項目のチェック□本業に係る資金収支を分析しているか収支がマイナスに陥っている部分はないか□見積と実績の資金繰り差異を分析しているか□資金繰り悪化の要因を分析しているか□中長期的な資金繰り改善策を検討・実行しているか以下、資金繰り表のチェックについて改めて重要ポイントをご説明すると、経営者にとって最も重要な部分は、「翌日への繰越金額」という項目です。これにより、自社では今日収入がいくらあり、支出がいくらあり、残高としていくらが翌日に繰り越されるか、という現金の流れを随時把握することができます。現金の流れを把握することで何がわかるかというと、月次では当月の月末、必要な支払いを済ませた後でどれだけの残高が見込まれるか、正確に予測できるようになります。この「資金の未来管理」が重要であり、例えば年末であれば、賞与などをすべて支払った後にいくらの残高が見込まれるのか、あるいは年次でも、今後万が一、景気の低迷などで経営が悪化した場合、今年の残高で1年後のマイナスをカバーできるのか?と考え、未来に備えた資金計画を行うことが可能になります。このような過去会計ならぬ「未来会計」を実践するには正確な残高予想が不可欠であり、そのためには資金繰り表が必要になる、というわけです。適切な資金計画によって常に手元の現預金が確保されている状態であれば、いかに不測の事態にあっても会社がつぶれることはありません。例えば生花店を例にとれば、季節指数的に売上のピークとなるのは夏のお盆と冬の年末、この2つの時期になります。生花店の仕入は支払いサイトが短く、ほぼ現金払いに近い状態ですので、万が一この時期に天候不順が起こり、仕入値が上昇したり、客足が鈍ってしまえば一気に資金繰りが悪化します。悪化したところで、「今月の支払いで500万円ショートするから資金を借り入れよう」と考えるのがドンブリ勘定です。一方、「年末年始は苦しくなりそうだな、万一天候不順になったら金策に走らなければならないだろうが、それでは営業面で機会ロスになってしまう。念のため500万円の借入を予めお願いしておこうか」と、1ヶ月前、2ヶ月前からきちんとした資金計画に基づき準備するというのが正しい会計思考です。こうすることで、経営者は年末の忙しい時期、資金繰りに頭を悩ませることなく、営業に全力投球することができます。せっかくの書き入れ時に、経営者が金策に走り回って営業が疎かになるのでは本末転倒です。このような事態を防ぐために、現金の流れを把握することが必要なのです。◇自社の儲けの構造=損益構造を把握する引き続き「経営の3つの輪」から、「利益の輪」を回していくためのチェックポイントをご紹介していきます。その前にまず、基本的なことではありますが、損益計算書について少しご説明していきましょう。損益計算書とは、会計年度期間における企業の経営成績を記したものです。一定期間にいくらの収益が上がり、その収益を上げるためにいくらの費用を使ったか、企業の経営活動によってもたらされた、売上、原価、利益などの損益状況が記されています。ちなみに、損益計算書はP/Lと略されることが多くあります。P/Lとは、「Profit(利益)andLoss(損失)Statement」の略称です。損益計算書の構成は「経常損益の部」と「特別損益の部」に大別されます。そして、「経常損益の部」で売上総利益、営業利益、経常利益が算出され、「特別損益の部」で当期利益及び当期未処分利益が算出されるようになっています(図21)。

なお、損益計算書の基本要素、「収益」、「費用」、「利益」の関係を公式で表すと次のようになります。収益─費用=利益ではこの「収益」、「費用」、「利益」について、もう少し詳しく見ていきましょう。①収益収益とは、販売した商品や提供したサービスの対価のことを言います。収益は次のように細分化することができます。なお括弧の数字は右図「損益計算書の基本パターン」各項目に対応しています(以下「費用」、「利益」も同じ)。⑴売上高……………一定期間における商品や製品の売上によって得られた収入⑹営業外収益………本業のうち営業活動以外の部分で生じた収入例…受取利息⑼特別利益…………本業以外の活動で生じた臨時的な収入例…固定資産売却益②費用費用とは、収益を上げるために支払われた支出のことを言います。費用は次のように細分化することができます。⑵売上原価……………当期に販売された商品の仕入ならびに製造に関わる費用⑷販売費………………商品や製品の販売に要した費用⑷一般管理費…………企業の全般的な管理運営に要した費用⑺営業外費用…………本業のうち営業活動以外の部分で生じた費用例…支払利息⑽特別損失…………本業以外の活動から生じた損失、及び突発的な損失例…火災損失③利益利益とは、企業が商品の販売あるいはサービスの提供により、得られた収益と、その収益を得るために支払われた費用の差額のことを言います。損益計算書では以下の5つの利益が表示されます。⑶売上総利益………売上高とそれに対応した商品原価の差額。粗利益とも言う⑸営業利益……………売上総利益から販売や全体管理にかかった費用(販売費及び一般管理費)を控除した利益⑻経常利益……………営業利益に営業活動以外の部分で発生した収益(営業外収益)と費用(営業外費用)を加減した利益⑾税引前当期利益……経常利益に、本業以外の部分で発生した特別の利益(特別利益)と損失(特別損失)を加減した利益⒀当期利益……………税引前当期利益から法人税等を差し引いた利益財務諸表の中でも損益計算書は直近1年間の企業の成績表と言えるものであり、「数字はわからない」という方でも比較的理解しやすいのではと思います。中小企業の経営者として特に関心を持っていただきたいのは売上だけでなくやはり粗利、売上総利益の推移です。それに加えて原価率をはじめコストに関してはまずは変動要素のあるものは売上対比率での年次はもちろん、月次での推移を押さえておきたいところです。また、人件費については「労働分配率=会社の分配可能な付加価値(主に売上総利益、粗利)がどの程度労働の対価(人件費)に支払われているかを示す指標(人件費÷売上総利益×100)」にて適正値を管理するという方法もあります。経営計画立案手順の最初のほうでもご説明しましたが、過去からの売上推移と共に、粗利の推移を確認して初めて会社の現状が見えてきます。売上だけでは、「無理をしてあまり効果の上がらない分野、市場、顧客に過剰なコストをかけているのではないか」とか、逆に、「適切な投資が行われ、常に有望な商品・サービスが開発されているか」、といったところまで把握することができません。また、粗利は自社の商品やサービスが顧客にとって価値あるものなのか(値引きせずに買ってくれるものなのか)?という指標としても留意する必要があります。④自社の「儲ける力」を確認する次に、損益計算書(図22)の内容から、借入に対する年間の返済財源が適正であるかを把握します。仮に毎月の返済額が50万円であるとすれば、年間では600万円になります。この600万円を、今年自社が稼いだ中から返済するのか、それとも他からの借入や資金の切り崩しによって返済していくのかでは全く意味が異なってきます。稼いだお金、即ち図22の表でいえば「減価償却費」と「当期利益」の合計が600万円以上あり、ここを原資としての返済であれば、確実に借入は減っていきます。そうでない場合は返済のための借入を重ねることにもなりかねませんので、必ず「減価償却費」+「当期利益」が年間の返済額を上回っているかどうかを確認します。もし、この欄が赤字であったり、黒字でも返済額である600万円に達していない状況なら、これを「早々に財務体質を改善すべき予兆」と捉え、対策を立てなければなりません。

ちなみに、経営危機の予兆が見えた際、打てる手は●コストコントロール●売上拡大策の2つとなりますが、必ずコストコントロールから先に実施していきます。コストコントロールにおいては、まず、過去3~5期分くらいの損益計算書を用意し、原価、人件費といったコストの売上対比を出して、異常値がないか確認します。もし異常値があれば適切な数値を設定し、月次ペースで管理していきます。ここで留意すべきことは何でもかんでもコストダウン、コストカットではなく、「まずは適正値になるように徹底管理する」ということです。多くの中小企業の場合、それだけで赤字から脱却できることがあります。以上のように適正なコストコントロールを実践し、少なくとも収支を合わせた上で、売上拡大策を打つ段階に入ります。中小企業では、経営危機の際、この「利益を増やす順番」を間違わないようにしましょう。中小企業の場合、資金調達はどうしても間接金融(金融機関から借入をするなど)に頼らざるを得ません。そうなった場合、「この会社はお金を返せる会社なのか?」というのがお金を貸す側にとっての肝となります。このために、上記のような「順番」が重要となってきます。新たなチャレンジの前にまずは経営者自らが数値に強くなり、適正な管理によって足元を固めておくことこそ、企業存続の要諦となるのです。◇バランスシートの輪=自社の安全性を把握する前項の損益計算書に比べ、貸借対照表を苦手とする人は意外に多いようです。損益計算書は対象期間1年間の企業活動の成績表ですが、貸借対照表は会社設立から一定時点の決算期まで営々と続けてきた企業活動の積み重ねの結果としての財務状況、即ち「会社を経営するために資産をどのように保有し、その資産を調達するために必要な資金をどうやって調達しているか」を表しています。つまり、決算時点に自社にはどれだけの現金・商品・土地といった財産があり、一方、それらの財産を購入するためにどれほどの資金を投下しているかといった、資金の調達と運用の状態を示しています。資金の調達は貸借対照表(図23)の右側に「負債・資本の部」として記され、資金の運用については左側に「資産の部」として記されます。右側の負債には基本的には返済を必要とする借入金などが記載され、左側の資産からそれらの負債を差し引いたのが「純資産」となり、自分たちが調達した資本金や設立以来積み上げてきた利益などがここに該当します。図に示したように、左右の金額の合計は必ず一致します。なお、貸借対照表は、しばしばB/Sと称されます。B/Sとは、「BalanceSheet(バランスシート)」の略称です。

以下、資産・負債・資本の構成についての概要をそれぞれご説明します。①資産何を以て事業を行っているのか?資産とは、企業経営に貢献し、収益獲得活動に役立ち得る有形・無形の財貨または権利であり、貨幣的評価ができるものを言います。資産は次のように細分化することができます。●流動資産………1年以内に換金できる資産例…現金預金、売掛金、有価証券、商品●固定資産………1年を超える長い期間で換金化(償却)される資産例…建物、土地、設備、ソフトウェア●繰延資産………単一年度で発生する費用であるが、長期間かけて償却される資産例…のれん代、商標権②負債返さなければならない資金負債とは、将来他人に一定の資金・財貨及び用役を提供しなければならない義務であり、貨幣的評価ができるものを言います。負債は次のように細分化することができます。●流動負債………1年以内に返済しなければならない負債例…買掛金、短期借入金●固定負債………1年を超える期間をかけて返済する負債例…社債、長期借入金、退職給与引当金③資本返す必要のない資金資本とは、株式として事業主が出資した資金や一般から集めた資金、あるいは利益処分後社内に留保された利益のことを言います。資本は返済する義務がなく、利息を支払う必要もないため、自己資本とも呼ばれます。資本は次のように細分化することができます。●資本金……………株主が実際に出資した資本●法定準備金………会社法によって社内に留保することが義務づけられており、企業の自由裁量で処分することのできない資本例…資本準備金、利益準備金●剰余金……………企業が任意に積み立てあるいは処分できる資本、ならびに処分せずに次期に繰り越す利益例…資本剰余金、利益剰余金④貸借対照表で自社の安全性を判断する自社の安全性を判断する指標の1つとして「自己資本比率(自己資本/総資本×100)」がありますが、その理由を左図の「損益計算書と貸借対照表のつながり」から見ていきましょう(図24)。

大企業や新興企業と異なり、増資を繰り返して行わない中小企業にとっての資本とは、その多くは過去の利益の積み重ねです。損益計算書に記載される「当期純利益(税引き後純利益)」が、貸借対照表の「利益剰余金」とリンクしており、図24では斜線部で表しています。この「利益剰余金」が創業時からどんどん積み上がっていけば、「自己資本比率」もそれに比例してどんどん高くなっていきます。このように中小企業の場合、自己資本比率の高い会社ほど過去からの利益の積み上げがある=安全性の高い会社と判断することができますし、当然ながら自己資本比率の低い会社(儲けが少ないか赤字の状態が続いた可能性がある)=負債比率が高い会社は、今後返済しなければならない資金が大きくなるわけですから安全性は低いということになります。ちなみに過去からの赤字が積み上がっていけば、この資本そのものがマイナスとなってしまい、これを債務超過と言います。どの程度の自己資本比率が適正か、については、中小企業においては50%以上であることが望ましいとされていますが、一般に35%以上であれば安全圏内であると言ってよいでしょう。ただし、他の財務指標にも同じことが言えるのですが、その数字が適正か否かは、会社の規模や事業の性質によって、即ち大企業か中小企業か、あるいは、属する業界や業種によって異なってきますので、自社の数値を業界平均と比較する習慣を身につけるのがよいでしょう。◇手元資金の重要性これまで損益計算書、貸借対照表と説明してきましたが、中小企業の実態は実は財務諸表からは見えづらい点も多々あります。私は講座の中では特に「手元資金の重要性」を受講生の皆さんに強く訴えていますが、この手元資金こそが経営の実態を見るに最も確実な指標と言えるでしょう。中小企業の安全性を見る順番とは、①手元流動性②当座比率(当座資産/流動負債)、あるいは流動比率(流動資産/流動負債)③自己資本比率(自己資本/総資本)であり、「現金に近いところから見ていく」のが大原則です。緊急性の高い順、つまりは短期的な指標から見ていかねばなりません。まずは自社の「手元流動性」を把握していただくため、以下その重要性を解説していきます。手元流動性=(現預金+有価証券等すぐ換金できる資産+すぐに調達できる資金)/月商手元流動性とは、上記のようにすぐに用意できる現金、及びそれに準じたものを月商で割ったものです。中小企業であれば1・7ヶ月分(大企業なら1ヶ月、新興企業なら1・5ヶ月)が安全性の高い会社かどうかの目安となります。すぐ動かせる資金が多ければ、そうそう資金が枯渇することはありません。逆に0・3ヶ月も満たない状態ではその会社はいわゆる自転車操業であり、ギリギリの状態で資金を回している、という状況ですので、もし不測の事態が生じてしまったら一気に経営が傾き、金策に奔走することになります。それが1年の中での稼ぎ時であれば、その機会ロスは多大なものとなるでしょう。余談ながら、「うちは無借金経営です」という場合も、それが自転車操業であるなら、あまり意味はないと思われます。無借金経営であり、かつ手元流動性が高い、という状況であって初めてキャッシュリッチな会社と言えるのであり、自転車操業になるくらいなら、多少借入をしてでも手元流動性を確保していたほうが、不測の事態を見据えれば遥かに安全性の高い企業とみなされるのです。また、借入そのものはその企業の信用度を図る指標ともなりますから、その点からも一概に「無借金経営が最も好ましい」とは言い切れません。中小企業の財務諸表には経営者の姿勢、考え方が強く反映されてきます。私も多くの受講生から持参した決算書を見てほしいと依頼されるのですが、例えば創業から80年、100年を超える会社の財務内容は、傾向として安全性の高いものであることが多いようです。そこで受講生から現社長や先代社長の経営姿勢について伺うと、必ずと言っていいほど明確なポリシーをお持ちであり、それがそのまま数値に反映されています。長寿企業となると、「会社の存続」が第一ですから、必然的に安全性の高い経営となる傾向が強いように思われます。まさにその会社の社風が数値になって表れていると言ってよいでしょう。Column流動比率、当座比率とは本文中では流動比率、当座比率に関しては詳しく触れておりませんが、参考までに以下、簡単にご説明しております。いずれもいわゆる、その会社の短期的な支払能力を判断する指標です。①流動比率短期支払能力の分析指標としては、まず、流動資産と流動負債を対比する、「流動比率」が挙げられます。流動比率とは短期間(通常1年以内)に支払期限が到来する負債を、短期間(通常1年以内)で現金化される可能性の高い流動資産でまかなうことができるかどうかを見るものです。なお、流動資産とは、営業取引によって生じた債権及び1年以内に現金化または費用化する資産等を言い、現金預金、受取手形、売掛金、有価証券、棚卸資産、材料、前渡金等が含まれます。流動負債とは、営業取引によって生じた債務および1年以内に支払・返済する債務等を言い、支払手形、買掛金、短期借入金、未払金、未払法人税等、前受金、未払費用、預り金等が含まれます。

流動比率には「流動資産が流動負債の2倍以上あれば安全である」という「2対1の原則」がありますが、これはあくまでも理想であり、実際には流動比率が130%以上あれば良好であると言えます。ただし、流動比率が200%に近くとも支払能力に不安がある場合があります。例えば、●流動資産に不良債権や不良在庫が含まれている場合●流動負債に期日の近い支払手形が多く含まれている場合です。従って、流動比率をみる際は、売上債権回転期間※⑶等、他の指標と併せて総合的に評価する必要があります。★ワンポイント!流動比率は高いほどよいのですが、高すぎると資金が無駄に遊んでいることになります。②当座比率短期支払能力を分析するもう1つの指標に当座比率があります。これは、比較的早く現金化することができる当座資産(現金預金、受取手形、売掛金、短期的所有の有価証券)で、流動負債を返済できるかどうかを見るものです。流動比率が130%以上なくても、当座比率で安全な数値が出ていれば問題はありません。当座比率には、「当座資産が流動負債と同額以上であれば安全である」という「1対1の原則」が存在します。つまり、100%以上が理想と言えます。しかし、実際には中小企業では、当座比率は80%以上あれば安全と判断してよいでしょう。※⑶…売上債権回転期間:売上債権(売掛金、受取手形)額を1日あたりの売上高で割ったもので、売上債権回収の効率性をみる時に用いられる。Column財務知識はいかに身につけるか後継者の方には財務の知識を早急に身につけていただきたい、と申しましたが、「関連書籍を見てもよくわからないな」ということは当然、あるだろうと思います。財務諸表の大まかな構造は同じでも、書籍に紹介されているものは中堅企業、大企業を対象としているものが多く、参考にしにくいからです。それぞれの指標の意味や考え方を学んだ後はすぐ実践、即ち自社の決算書を3期分揃えて推移を見たり、同業他社と各種指標を見比べて自社は平均より高いか低いか、どういう理由でこうなっているのか、と考察していくほうが、力となって身につきやすいのではないでしょうか。身近な数字というのは関心が持ちやすく、また答えを得やすいものです。財務に関し、本書では基本的なことしか扱っていませんが、ここから関心を持っていただき、徐々に学習範囲を広げていただきたいと思います。何事も「わかる→楽しくなる→もっと知りたくなる」の順で始めるのが理解が早いと考えるからです。また、1人もくもくと勉強するより、財務に詳しい人や自社の経営を知っている人、例えば顧問税理士に「聞く」という学習法が効果的です。直接数字の意味を解説してもらったり、自社の課題について自分の考えを聞いてもらったりする中で理解を深めていただきたいと思います。そういう意味では取引金融機関の担当者は取引企業の後継者にとっては財務諸表の伝道師となっていることが好ましいでしょう。なお、直接自社の数字を教材にするということは、それだけ長く、自社の経営に向き合うということです。この時間を定期的に、長く設けるようにする中で、経営者としての姿勢や見識が培われていきます。自社の決算書と向き合う時間を長くすることが財務知識を身につける早道です。決算書は企業の過去の努力の成果を示すもの。この過去を見つめ、自社の現状を正しく知ることで、初めて「未来の数値を創るために、何を今すべきか」が見えてくるのです。◇事業計画の考え方~根拠のある計画数値とするために~前項までで、次世代経営者が保有すべき3つの財務知識として●現金収支の流れを把握する●自社の儲けの構造を把握する●現金に近い所から自社の安全性を把握することを挙げ、説明してきました。これらはいずれも「短期的に自社の経営を存続させるために必要な知識」という位置づけになります。つまり求められるのは「既存の事業」で「短期的に」現金が回らなくなるという事態を防ぎ、その間に儲かっていない部分を明らかにして改善を行い、その結果としての会社の安全性・効率性がどうであるか?を確認していくという視点です。そのため、この3つの財務ポイントの視点で自社を改善する方法は、「延命戦略」と呼ばれます。それに対し「戦略的中期経営計画」は「成長戦略」と呼ばれる考え方です。即ち必要となるのは、今後の環境変化に適応していくため3~5年後に向けて自社の体質をどのように変えていくか(どこの・誰に・何を・どのように提供するのか?それをどんな布陣で実現するのか?)という、今後数年間の過ごし方を考える視点ということになります。経営戦略は、この「延命戦略」と「成長戦略」の2つから構成されており、決してどちらか一方だけ考えればよいというものではありません。重ねての説明になってしまいますが、これこそが「次世代の経営者が押さえなければならないポイント」です。つまり、●目先の収益を確保するための「延命戦略」(=既存戦略)●将来の収益を保証してくれる「成長戦略」(=革新戦略)の2つを両立させるということです。では、改めてここから成長戦略である戦略的中期経営計画に話を戻し、計画策定の最後の仕上げとして、財務の観点から成長戦略を評価する「事業計画の考え方」をご説明しましょう。これまで作成してきた「戦略的中期経営計画」が絵に描いた餅で終わらないようにするためには、財務の観点からその妥当性を評価する必要があります。そもそも「戦略的中期経営計画」における数値計画とは、●ビジョン実現のため、既存業務に加えて行う新たな取り組み(販路開拓、商品開発等)を明確にする●「誰が」やるか?という役割分担を決めることで、社員にとって働き甲斐のある環境を整え、組織を活性化する●その取り組みの実現度、計画の進捗を評価目標(数値)によって確認するというものです。ここに新たに、●ここまで検討してきた「戦略的中期経営計画」を遂行したら、どれだけ儲かるのか(=会社として必要な財務目標に到達できるか?)という、計画の実現可能性そのものを評価する視点が必要となるのです(図25)。

事業計画の作成プロセスは以下の通りです。●経費等から割り出される会社にとっての「必要売上高」を算出します●案出した各施策から割り出される妥当な「見込み売上高」を算出します●最後に、両者の売上高の大小を比較します比較して「見込み売上高」のほうが大きかった場合は、考察した施策を実行さえすれば目指す状態を超えることになりますので、あとは施策の遂行に専念すればよい、ということになります。しかし「必要売上高」のほうが大きかった場合は、そのギャップを埋めるための施策を改めて策定し直すことになります。そうしなければ、このまま戦略を遂行しても会社として必要な財務状態を実現できない、ということになってしまうからです。このプロセスを、「見込み売上高」が「必要売上高」を超えるまで、何度も繰り返します。つまりは、施策として「やりたいこと」だけを優先させるのではなく、「それが収益につながるのか」と客観的な数値で評価することで、経営のバランスをとっていくわけです。このようにして最終的に「見込み売上高」が「必要売上高」を上回るまで施策の評価・検討を重ねることによって、初めて戦略的中期経営計画が、絵に描いた餅でなく、現実的かつ妥当性のある計画、つまり、気合と根性の計画ではなく十分な根拠を以て論理的に策定された事業計画となるのです。ちなみに、外部に財務諸表を提出することを目的とした「財務会計」と異なり、経営者が自社の舵取りに活かすための諸々の指標を反映させたものが「管理会計」と言われ、後者はもっぱら社内で日々の意思決定に向け、活用されています。管理会計は会社全体や個別の事業のパフォーマンスを把握するための会計で、製品をつくるのにラインごとにどれだけ原価がかかっているのか、付加価値を生んでいるのか、いくつ売れば利益が出るのか、どれだけのお客様を集客しどれだけの単価なのか等、会社の動きそのものを的確に知ることができる経営者のための会計です。財務会計と異なり外部に開示する必要は無く、社内でのパフォーマンスを測る指標となります。「財務会計」が過去の経営結果を示すものであるのに対し、「管理会計」は未来に向けたものなのです。戦略的中期経営計画を遂行する上ではこの「管理会計」を導入し、事業ごと、組織ごと、また店舗ごと等、それぞれ重要指標を設定し、数値管理していくことで計画の実現性を高めていきます。◇戦略的中期経営計画の運用ここまで、「戦略的中期経営計画」の策定について説明してきました。とはいえ、「ビジョンや経営計画を策定しても計画通りに進んだことがない……そんなのやる意味あるの?」と感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。実は、社内で「経営計画を作成しよう」と呼びかけると、必ずと言っていいほどそのような意見が出てきます。そこで全社を挙げてこの体質改善が確実に推進していくように、計画を立てたら必ず、仕組みとして計画が実施されていくような「推進体制」を築いていかねばなりません。具体的には、例えば、1ヶ月に1度とか3ヶ月に1度の単位で戦略的中期経営計画のレビュー(進捗管理と軌道修正)を現場管理者に対し、施す必要があります。また、事業レベルにおいては、現場管理者が個々の事業に属する社員に対して同じようなレビューを一定期間ごとに行う必要があります。このようなレビューが繰り返されていれば、世の中の環境がどのように変化しようともその環境に適合した経営計画の微調整(微修正)が常に行われていくことになります。これは極めて重要なポイントです。計画と現実とのギャップは、まま起こり得るものです。ギャップがあった=失敗だということではありません。重要なのは、それぞれの事業においてなぜギャップが発生しているのか、その要因を突き詰め、随時軌道修正していくことです。この考察を繰り返すことによって、計画の精度はより高められていくのです。経営者の能力は、日々の経営においてどれだけの「仮説」を立て、実際の行動によってどれだけ「検証」してきたか、その「量」と、試行錯誤を繰り返す、即ちPDCAサイクルを回す「スピード」によって高められていきます(図26)。同様に戦略的中期経営計画も、的確な検証を随時、そして繰り返し行っていくのがポイントです。

そもそも、戦略的中期経営計画とは向こう3~5年を見通して策定するものですが、それをアクションレベルまで落とし込んだ具体的な実行計画は今後1年分が中心となります。1年経ったらまた再評価し、そこから再び向こう3~5年間の経営計画を策定します。つまり、毎年毎年、繰り返し繰り返し、「ローリング・プラン」でつくっていくわけです(図27)。

逆にアクションプランも作成せず、ただ3年後、5年後の数値計画だけ独り歩きさせ、その達成だけに固執してしまうようなら、そんなものは立てないほうがましです。繰り返しますが「数値」とは、自らの仕事を通じて創意工夫した結果、お客様から得られた「評価」に過ぎません。決して、それを「目的」にしてしまわないように留意すべきでしょう。

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