◇優れた戦略の条件ここまで、経営者にとっての経営理念の重要性について述べてきました。自社の存在価値や事業の目的を経営理念とするならば、そこへ至る道筋や移動手段を選択することが経営戦略であり、立案された戦略を進捗スケジュールにまで落とし込んだロードマップが経営計画ということになります。この第3章より、具体的な戦略的中期経営計画の策定について解説していきます。「企業とは環境適応業である」という言葉を耳にされたことはあるでしょうか。既にご説明してきたように、企業にはそれぞれ社会において果たすべき使命、社会に対して提供すべき価値というものがあり、その実現のためには売上を上げ、利益を上げて永く存続することが必須となります。しかしながら、その間も、企業を取り巻く環境は常に、刻々と変化しています。この変化に適応できるか否かで、企業の寿命は決まるのです。例えば、人口動態の変化により、市場のニーズが大きく変わることがあります。新しい道路ができたり、橋の位置が変えられたりすることで人や車の流れが一変し、それまでの繁華街が一気に寂れてしまうこともあります。盤石の基盤を築いていると思われた大企業が、技術の進化についていけず、いつの間にか姿を消してしまうこともあります。優れた戦略とは、「連続的、長期的に勝ち続ける方法」であり、企業経営においては、「将来の成功要因を獲得することで永く存続を続け、発展し続ける方法」と言い換えられます。そして永く存続するためには、上述のような環境の変化に適応し続けることが必要となるわけです。経営環境が変化すれば、その環境下での成功要因も、当然変化します。従って具体的には、●過去の成功要因(失敗要因)を分析して当時の経営環境との関係性を明らかにする●今後3~5年後までの間に起こり得る経営環境の変化を予測する●そこから導き出される将来の成功要因を明らかにし●いかにしてその成功要因を獲得していくか、自社の強み・弱みも踏まえて検討し●必要な体質の強化を図るというステップに基づき、立案された戦略こそ優れた戦略ということになります。このようにご説明すると、「今後の予測なんて、そう正確にできるものじゃないのに、外れたら意味がなくなるじゃないか」と疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。予測の中には、誰でも間違いようのないもの、例えば、「今後ますますこの地域の高齢化が進む」とか、「このまま行けば、この土地を訪れる国内の観光客は減る一方だ」というものもありますし、異常気象や海外で起こった貿易摩擦、そこから発生する為替リスク……というように、予測のつけようのないものもあります。予測が当たった、外れたといって一喜一憂する必要はありません。不測の事態が起こった時には、その都度計画を見直し、修正していけばよいのです。戦略的中期経営計画を立案し、実行する中で、いかなる環境の変化にも速やかに適応できる、強靭な企業体質がいつしか築かれていることに気づくことでしょう。なお、一般的な経営計画においては「3年後には売上○億」、「○%成長」というような数値目標だけのものがよく見られますが、これはあまり意味がありません。もちろん「数値」とは、自らの仕事を通じて創意工夫した結果、お客様から得た「評価」ですから、当然ながら大切な経営指標です。ただし戦略的中期経営計画における「数値」とは、●自社の経営ビジョン実現のために●既存業務だけでなく新たな取り組み(販路開拓、商品開発等)をも視野に入れ●「誰が」やるのか?という責任分担も含めて計画化し●同時に社員にとって働き甲斐のある環境を整備することで組織を活性化する……という一連のプロセスを経て策定された計画が、どの程度実現されたか進捗を確認するためのもの(指標、評価目標)です。従って数値目標だけを設定するのではなく、それを実現するためのプロセスを策定することこそが重要となります。確実に実行される計画とするためには、戦略を細かい行動レベルにまで落とし込み、「なるほど、これなら実行できそうだ」という取り組みイメージを社員に持ってもらうことが有効です。さらにもう一点、戦略の実行性を高めるには、「周囲を巻き込んで策定する」ことも有効です。例えば、自社の過去の成功要因(失敗要因)を分析するなら、昔を知る先代社長や、古参の社員の協力が不可欠です。また、幹部陣と一緒になって策定すれば、コミュニケーションを深める場ともなり、同時に幹部陣の経営スキル向上にも効果があります。一緒になって会社の将来を考える中で「この人、こんなことを考えていたのか」と互いへの理解も深まりますし、「みんなで考えた」ことで最終的にできあがった計画への納得性も高まります。もちろん、新規事業を手がけるとか、新しい市場に打って出る、というような大方針はトップが打ち出すべきことですが、ではどんな事業がいいか、どんな新商品が開発できるか、と検討する段階では、衆知を集めたほうが、より有効なアイデアが得られるかもしれません。◇過去の成功要因、失敗要因を把握する~過去の売上・営業利益の推移~「敵を知り己を知れば百戦殆うからず」と言いますが、特に己=自分のことになると、なかなか客観視できない、という方は少なからずいらっしゃるようです。例えば、会合の場での自己紹介1つ取っても、「どこで、何を製造しています」、「○○屋です」と言うだけで済ませてしまわれる方がよくいらっしゃいます。私はよく、経営者の方々にはエレベーターピッチのスキルを身につけることをお勧めしているのですが、これはエレベーターに乗るようなほんの僅かな時間を利用して忙しい相手に事業のプレゼンを行いビジネスチャンスにつなげるというものです。商談会などの場で短い時間に「我が社はこういう強みのある会社です」、「こういう点でお役に立てます」と端的にアピールできるようになれば、これは経営者にとって大きな力となります。ただ、15秒~30秒という短時間で必要なことを伝えるためには、言わんとすることを簡潔に整理して話さなければなりません。自分自身や自社の製品・サービスというテーマで「簡にして要を得た」説明ができないのは自身が十分に理解していないからで、日頃から自社の特徴を意識していないと端的に説明するのはなかなか難しい。案外、取引先や金融機関のほうが、「この会社はこの技術がすごい」、「社長に先見の明があり、このような営業構造を築いてきた」といった特徴を捉えています。自己を客観視して現状を把握することは、戦略の立案においては不可欠です。そのために、まず、前項でもご説明した通り、●過去の成功要因、失敗要因を把握し、●それが当時の経営環境と、どう結びついているか分析するという作業を行っていきます。考察の前提として会社の歴史を振り返り、「あの時はうまくいった」、「あの時期はまいったなあ」という浮き沈みを「ライフウェイク」という図にまとめることがよく行われますが、記憶頼りでは見落としも多いため、私は「過去の売上・営業利益の推移」のグラフ化をお勧めしています。売上は棒グラフに、営業利益は折れ線グラフにして、まとめてみましょう。業績の浮き沈みという「傾向」を確認するためのものですので、単位は適宜設定していただいて構いません。グラフで業績の動きを確認できたら、次に、特に大きく落ち込んだ時期、あるいは特に大きく成長した時期に何が起こったか、業績に影響を及ぼしたであろう環境要因と、その時自社で行った政策をグラフに重ねていきます。次のグラフは、複数の飲食事業を営んでいるA社の売上と営業利益をまとめたものです。売上のグラフだけ見ればそう悪くない経営状況に見えますが、ご覧の通り営業利益のアップダウンが激しく、私がコンサルタントとして入った時には大きな負債を抱えていました(図3)。
A社では、高速道路の開通などが追い風となり、バブル景気にさしかかる前まで、ほぼ順調に出店を続けてきました。当初は店舗を増やせば増やすだけ売上が上がり、利益も後からついてくる形で成長を続けていたのです。その間、オイルショックや配送センターへの投資などの一時的なマイナス要因もありましたが、すぐに回復できていました。しかし、バブル景気にさしかかる頃には、いくら店舗を増やし、売上を上げても、営業利益は下がる一方となってしまいました。実は商品と同じく会社にもライフサイクルがあり、成長期を過ぎればやがて成熟期、衰退期へと向かっていきます。一般的に企業の寿命は25~30年と言われますが、そのくらいの期間で一回りして、以後は業態そのものが陳腐化します。自分の会社が今、どの時期にあるかによって、何に、どのくらい投資すべきかの判断も変わるのです。成長期は投資先行となるのが当然であり、A社の場合はこの時期、できるだけ早期に認知を得てより多くの顧客を獲得することが最大の成功要因でした。積極的な出店政策がはまり、店を出せば出すほど集客力も高まって、売上も利益も後からついてきたわけです。しかし成熟期にはもう、どれだけ投資しても見合った効果は得られません。あとはただ、利益が回収できるよう適切な店舗運営を行うこと、そして企業として体力があるうちに、より魅力的な新商品・新業態の開発や、あるいは、顧客に飽きられ始めている店舗のリニューアルを図ることが必要だったのです。ところがA社は、創業から20年30年経ち、業態が陳腐化してしまった時期にあっても、まだ成長期と同様の出店政策を継続していました。過去の成功体験にこだわり、外部環境や会社のライフサイクルという内的要因の変化を考慮せずに同じ政策を打っていては失敗するのも当たり前です。過剰出店しては利益悪化を理由に撤退し、また出店に転じる。これを何度も繰り返したことが、A社の財務内容を悪化させた理由でした。◇経営環境の変化を予測し、今後獲得すべき成功要因を明らかにする過去の成功要因、失敗要因の分析においては、前項でご説明したように、「何」をしたから成功した、失敗したというより、「なぜ」成功したか、どのように環境が変化し、それにどう適応できたか、という点にポイントをおき、「あの時思い切って交通量の増加が見込まれる立地へ店舗を移転したから売上が向上した」、「設備投資して自動化を進めていたから需要の急増に対応できた」というように、ストーリー、シナリオとしてまとめていきます。これは、●経営環境と成功要因、失敗要因の関係性を学ぶのと同時に、●自社の経営に影響を与える環境要因にはどのようなものがあるか、整理していくためです。前項では、企業の寿命は一般に25~30年であると書きましたが、これも業種や地域により、また時代により、多少の差があります。時代、と書いたのは、近年特に情報分野における技術革新のスピードがすさまじく、消費者のライフスタイルから社会構造、ビジネスそのものを一変させてしまう、その速さに対応できない企業が急増しているからです。例えば通販大手アマゾンの出現に、全国の中小書店は大きな影響を受けました。日本の書籍流通の問題点(再販制度や利益率の極端な低さ等)は以前から指摘されていたことですが、何十年もの間、改革の手がつけられないでいたところを狙われたのです。また、スマホの普及により、デジタルカメラの国内出荷台数は7年でピーク時の2~3割にまで落ち込みました。このままでは一部のハイエンドモデルを除き、デジカメという商品が市場から姿を消す日も近いと予測されています。需要のないものや競合に負けたものが市場から消えていくということ自体は、もちろんこれまでにも起こってきたことですが、ここまでのスピードではありませんでした。これは大企業においても言えることで、アメリカでは2018年10月中旬に小売業大手のシアーズが経営破綻し、その中でアマゾンエフェクト、つまり先ほどの書店と同じくアマゾンが次々に仕掛ける破壊的イノベーションにより、伝統的な小売業を中心に様々な市場で進行している変化や混乱を報じられたことは記憶に新しいことです。そういう意味では大企業だからといって安泰とは決して言えない時代です。もちろん逆に、営々と伝統産業を営んできた小さな企業が、その技術を最先端の分野で活かしているという例もあります。業種ごとにみれば、比較的長寿であるのは酒造メーカーや不動産業で、これは他の業種に比べ陳腐化しにくい独特の商品を有していたり、長い歴史を通じて確固とした地盤を築いてきた企業が多いということでしょう。小売・飲食・製造は、特に中小企業の場合、地域依存度が高いため、その地域の人口構造や産業構造、経済の動きに大きな影響を受けます。また、インフラ関連や福祉分野など、ある程度規制で守られてきている業種は安定していると言われます。ただ法改正などで規制緩和の方向に向かう可能性ももちろんありますので、常に競争力を高める努力は必要です。このほか、今後ますますあらゆる業種業態において、人口の減少による労働力不足、という問題がクローズアップされていくでしょう。既に人手が確保できなくなってしまっている業種は当然として、まだ大丈夫というところでも、今後はいかにして人財を確保するか、もしくはいかに業務の効率化を図り、現在働いてくれている人の負担を軽減するかを検討していかなければならないでしょう。「我が社の事業は、こういう変化に影響を受けやすいな」というポイントが整理できたら、それらの環境要因が、今後どのように変化していくかを予測します。ネットを使えば景気動向の予測、市場予測、人口動態や消費動向など、政府が公的に発表している統計データを集め、研究することは容易ですし、新聞などのニュースや、日頃のお客様との会話でふと気になったことなど、広くアンテナを張っておくことも重要です。得られた情報を前項で検討した過去の売上、及び営業利益の推移に結びつけ、●今後このような環境変化が起こり●それが自社にどのような影響を与えるかという未来のシナリオを考えてみましょう。未来といってもあまり遠い先のことは描きにくいので、3~5年後を想定し、どこに勝機があり、どんな点でリスクがあるか、その時までに獲得しておかなければならない将来の成功要因とは何か、を考えていきます(3~5年では達成できないような目標を掲げる場合は、1度長期的な展望を描き、そこに至る道筋の中で、10年後にはどうなっていなければいけないか、そのために3~5年後にはどのような状態にしていたいか、と考えていきます)。●3~5年後、我が社は市場においてどのような位置を占めているか●どのような営業構造となっているか●どのような魅力的な商品を有しているか●その時にはどのような人財が育っており、どのような社風を持っているか●どのような財務体質を実現しているか様々な角度から考え、できるだけ具体的なイメージにまとめていくのがポイントです。以下、そのための手順をご紹介していきます。◇自社の現状を把握するために~SWOT分析~まず、戦略立案に先立ち、自社の現状を把握しなければなりません。マクロ環境の把握にはPEST分析、業界環境の把握としてはファイブフォース(5F)分析、競争環境の把握には3C分析、そして強み・弱みの把握ではVC分析というように、環境分析には様々なフレームワークが存在しますが、次世代経営塾ではSWOT分析と3C分析について詳しくふれています。ここではSWOT分析について解説していきます。
の頭文字から名づけられた環境分析手法で、その名の通り自社の現状を「強み」と「弱み」、そして「機会」と「脅威」という4つの観点から整理していきます。自社の現状を分析・把握する際、ただ思いつくまま羅列していくのでは偏りや漏れ、重複等が生じてしまい、満足な結果が得られません。SWOT分析はこのような場合に有効な手法と言えるでしょう。さらに詳しくご説明すると、内部環境については「ヒト」、「モノ」、「カネ」、「情報」、「ノウハウ」という項目ごとに「強み」と「弱み」を挙げていくといいでしょう。例えば「ヒト」では、経営者の人望、経営能力、右腕となる経営幹部の存在、技術を持った従業員の存在などが挙げられます。「モノ」は販売している商品、仕入れている原材料、保有している設備、店舗など。「カネ」は会社の財務状況、自己資金の有無、資金調達力の有無などが挙げられます。「情報」は顧客情報(データベース)、情報インフラの存在など。そして「ノウハウ」は、競合他社よりも秀でた加工技術や、代々受け継がれてきた無形資産が当てはまります。強み・弱みとして挙げられる例資源(財務・知的財産・立地)、顧客サービス、効率性、競争上の優位、インフラ、品質、材料、経営管理、価格、輸送時間、コスト、容量、主要顧客との関係、市場における知名度・評判、地域言語の知識、ブランド、企業倫理、環境etc.一方、外部環境は、前項で整理した、「自社の事業に影響を与えやすい環境要因」をそのまま用いることができます。抜け漏れのないよう、「政治」、「経済」、「社会」、「技術」の4つの切り口で見直してみましょう。政治(政府の動きや事業を取り巻く法規制)に変化があったか、経済(景気状況、金利、株価)に変化があったか、社会(事業の対象としている層の人口、男女比率、年齢構成、ライフスタイル)に変化があったか、技術(特許、最先端技術)に変化があったか……という視点で外部環境を見ていきます。そのうち「機会」とは自社が経営を行っていく上で有利に働く要素であり、追い風である要素。「脅威」はその逆と理解すると比較的考察しやすくなります。例えば、地域の高齢者をターゲットとした事業を行う場合、地域での高齢化が進んでいる=「機会」があると捉えることができます。機会・脅威として挙げられる例政治・法令、市場トレンド、経済状況、株主の期待、科学技術、公衆の期待、競合他社の行為etc.このように内部環境と外部環境を考慮しながら自社にとってどんなことが強みになっているのか、どういう弱みがあるのか、機会になっているのか、脅威になっているのかと分類していきます。なお、通常、コンサルティング先でSWOT分析を行う際には5~6人のグループで、SWOTの項目ごとに1人5~10項目(全員で計30~60項目)を挙げていただいています。これを適宜ディスカッションを加えながら整理していくことで、分析の客観性と参加者の経営への参画意識を高めることを狙うわけです。ポイントは、特に「強み」を追求していくことです。中小企業では、往々にして「自分では当たり前と思っていること」が、実は第三者から見れば十分競争力のあるすごい技術であったり、ノウハウであったりします。「弱み」は逆に、日々「うちはこれが足りないな……」と痛感しているため、的確に把握できていることが多い。自社を客観的に評価することは困難なことですので、可能であれば経営幹部とディスカッションしたり、取引のある金融機関の方などに意見をあおぎ、「我が社の強みとは何か」について考えていきましょう。ここで分析したことは、今後の成長戦略の方向性を考察するベースとなります。戦略立案の視点は以下の4つです。●自社の「強み」を活かし、いかに「追い風」に乗っていくか(積極攻勢策)●自社の「弱み」を、「追い風」を利用して克服できないか(弱点強化策)●自社にとっての「逆風」を、「強み」を利用して克服できないか(差別化策)●「逆風」と「弱み」から生じる危機を、いかに回避するか(防衛・撤退策)特に中小企業経営においては、自社の「強み」を活かし、いかに「追い風」(=機会)に乗っていくか、という姿勢が必要です。「弱み」を数えあげて1つひとつ強化していこうとすると、時間がかかる上に「うちはだめだな」という自己暗示にかかってしまうことがあります。それよりも「強み」をよりブラッシュアップして、一気に企業体質を強化しようと考えていくほうが、限られた経営資源を活用する上でも有効かつ効果が高いのです。ColumnSWOT分析フォーマット以下のキーワードを参考にしながら、実際に記入してみましょう(図4)。参考「強み」を表すキーワード小回り、スピード、短納期対応、フットワークの良さ、少数精鋭、家族経営(結束力)、お客様への細かな対応、接客力、社員の質、若い人財、社内で設計・施工(オリジナル性)、多品種少量生産体制、他社が入りにくい取引の仕組み、海外との直接取引、製造技術、施工能力、ブランド、品揃えの豊富さ、定番商品、仕入力の強さ、原材料へのこだわり、環境に配慮した商品、当社しかできないサービスを保有、全商品手づくり、資金力が豊富、目の前の資金繰りを気にしなくてよい、社長が若い、社長の人脈、経営力が高い、先代の人脈、創業して半世紀、地域(地元)密着、昔からの顧客、固定客がいる、顧客リピート率の高さ、顧客が分散している、創業50年、創業から100年以上参考「機会(追い風)」を表すキーワード
同業他社の減少、ライバル店の減少、近隣に同業者がいない、当地域内では同業者が少ない、健康志向、お客様の『ホンモノ』志向、高齢化社会、シルバー層の増加、高齢者率の増加、ライフスタイルの変化によるリフォーム需要の増加、労働力の多様化(女性、高齢者の活用など)、ITの進化、インターネットの普及、通信販売市場の拡大、地球環境、エコロジーへの貢献、再生医療の進展、グローバル化
◇自社の現状を把握するために~3C分析~同じく自社の現状を分析していく手法として、SWOT分析の他にもう1つ、競争環境を把握する3C分析があります。ここでは3C分析について解説します。3C分析とはCustomer(市場・顧客)Competitor(競合)Company(自社)の3つの「C」について分析する方法です。前項のSWOT分析は外部環境について、「機会」か「脅威」かという評価を加えながら分析し、最終的には「自社はいかにして勝ち残っていくか」という企業としての生存戦略を考えるものでした。これに対し3C分析は、外部環境を「市場」と「競合」に分け、自社の勝機はどこにあるか、主にマーケティング的な観点から、自社の成功要因を見出していこうというものです。3C分析で検討すべき項目の例をまとめていますのでご参照ください。市場環境・顧客市場規模、市場の成長性、顧客ニーズ、顧客の消費行動・購買行動etc.競合環境競合各社のシェア、各競合の特徴、新規参入・代替品の脅威、競合の業界ポジション、自社にとって特に注意すべき競合対象となる企業、注意すべき競合対象の企業と特徴と今後想定される行動(自社への対抗手段など)etc.自社環境自社の企業理念・ビジョン、既存事業・自社製品の現状、資本力・投資能力、ヒト・モノ・カネの現有リソース、既存ビジネスの特徴、強み、弱みetc.この場合、特に重視すべき点は「競合」です。ライバルはどことどことどこか、今現在まともにぶつかっていないにしても、今後我が社の商品にとって代わりそうなものが出てくるかどうか。具体的に挙げ、それぞれのシェアや特徴を、顧客の視点から研究していくのです。このように申し上げると、「いや、うちはうちで誠心誠意やっていくだけですから」と言われる会社も少なくないのですが、それだけでは、いかにいい商品を開発しても、画期的なサービスを発表しても、肝心の顧客に伝わっているかどうか、疑問です。マーケティングにおいては「いかにして顧客から選ばれる立場に立つか」が重要であり、そのためにどんな戦略を採るにしても、必ず、「他とは違うことをする」ことが求められます。競合先・競合商品の研究は、その前提として欠くことのできないステップなのです。マーケティングで失敗する理由は、●情報不足……市場、競合、自社の情報が正確でない●油断…………「まさか」こんなことは起きないだろうという行動●過信…………うちの商品は競合より良いという思い込みの3点です。競合の存在を知らず、あるいは知っていてもその研究もしていないというのはまさしく情報不足であり油断であり過信であると言えるでしょう。なお、競合の分析においては、●直接競合だけでなく●間接競合も視野に入れる必要があります。直接競合として分析すべきなのは、自社と同一カテゴリに入る商品・サービス、あるいはそれらを提供している「同業者」です。例えば、自社が「質店」である場合、同じ業態の質店や、近年増加しているブランド品・貴金属の買取販売店が競合先として挙げられます。これに対し間接競合とは、業態や商品を通じ、顧客に提供する価値がほぼ同一だという状態を指します。やはり「質店」を例にとるなら、自社を「ブランド品や貴金属を担保に現金を貸し出す金融サービス業」と捉えた場合、間接競合先は消費者金融などになるのかもしれません。また、消費者が単に「不要なブランド品や貴金属を処分して現金に換える」、「中古のブランド品や貴金属を安く購入する」ことを目的に質店を訪れているのだとすれば、その需要に対応する間接競合先は、メルカリやヤフオクなどのフリマアプリ、ということになるかもしれません。Column3C分析事例初めに、来店客(Customer)のニーズにどのようなものがあるかを把握します。例えば自社が「喫茶店」であるなら、●美味しいコーヒーが飲みたい●手軽に食事ができ、美味しい●マスターの接客がよく会話が楽しみ●居心地が良い●もう少しインテリアがお洒落で雰囲気が良ければ……etc.といったものが挙げられるでしょう。地域や店舗によって「喫茶店」に求められる価値は異なりますので、利用客の年齢や男女比、学生か社会人か地元の高齢者か、固定客の割合は、といったことを分析し、そこから想定されるニーズを列挙します。また、例えば近隣に顧客層を一変させるような施設が新しくできた(撤退した)などの変化があればその点も考慮に入れます。アンケートやヒアリング調査を実施するのもよいでしょう。次に、自社(Company)の提供しているものを整理していき、●コーヒーだけで勝負、軽食はカレーのみ●住宅街の立地で、昔からの常連も多い●インテリアは昔ながらのものでお洒落ではないetc.……と書き出していって、顧客ニーズとの整合性を確認します。さらに近隣の競合(Competitor)を確認し、それぞれの特質を例のように表に整理します(図5)。コンビニD社を競合先に含めているのは、近年拡大している100円コーヒーを考慮してのものです。その他、「清掃」など気になる部分や、「おしゃれ」、「庶民的」、「居心地の良さ」、「高級感」、「インスタ映え」など、自店のコンセプトに関わる要素も付け加えていき、「顧客ニーズがあるのに、現状競合先がそれを満足させておらず、自店が勝てる分野はあるか」と検討します。この分野こそ、今後最もリソースを割いていくべき、自店の差別化要因です。上記の例では、コーヒー及び軽食の味や、居心地の良さが最も高く評価され、自店を特徴づけていますので、それならば「こだわりの本格派」としての姿勢をよりアピールしていこう……というふうに、今後のブランディングを検討していきます。◇自社の本当の商品は何かアルミ加工における卓越した技術でNASA、ウォルト・ディズニー社をはじめ、名だたる先進企業を顧客とする試作品メーカー、HILLTOP株式会社の前身は、1961年に創業された家族経営の鉄工所でした。高度経済成長期を支える大量生産体制の典型、自動車メーカーの孫請けとして安定した成長を遂げてきた同社ですが、実は発注元より毎年毎年3~8%ものコストダウン要請を受け続け、その内実は苦しいものでした。工場内の工作機械はほとんどすべてが親会社からのリースであり、速度等を調整して生産性を高めることは禁じられていたため、コストダウンに対応するには稼働時間を延長するほかなかったのです。自動車業界特有の短納期や、年々悪化する契約条件にも耐え続けてきた同社ですが、1981年、ついに売上の8割を占める親会社との契約更新を停止。大幅な転換を図ることになりました。自動車部品の大量生産体制は効率を極限まで求め自動化・標準化を進めた結果、「必要な工程の大半は機械で行われ人間はその補助を行う存在」という状態を実現していましたが、「毎日、単純なルーティン作業の繰り返しで全く面白みがない。もっと知的な、人間にしかできない仕事がしたかった」(山本昌作副社長)と、量産から試作へ転換しました。この経験から、新たな顧客を求め東奔西走する中でも技術力向上や創造性の発揮につながる分野、即ち試作に的を絞り、同業者の間では忌避されがちな単品生産、ないし少量生産の仕事を積極的に受注。また、開発事業部を立ち上げ、設計・製図・部品加工・組立制作・ソフトウェアからデザインまで、すべての工程を社内でこなすことが可能となり、評価を高めていきました。「単品から対応可能」、「発注から納品まで3~5日」という強烈な商品力によって、現在は約3000社もの顧客から支持を得、右肩上がりの急成長を遂げています。「自社の本当の商品は何か」という問いは、「自社はいかなる価値を社会に提供する会社なのか」という、顧客に対する価値提供を検討するものです。事業を通じ、誰の、どのような幸せや繁栄に貢献するのか。自社のいかなる技術でそれを実現するのか。得られた答えは顧客はもちろん、従業員、取引先、そして社会にまで、普及・啓蒙し続けていかなければなりません。HILLTOPの事例では自社の提供したいもの(豊富な実績と優れた製造技術に裏づけられた創造性や問題解決能力)と、顧客から求められる価値(短納期低コスト)に乖離が生じた結果、新しい顧客・市場を獲得するに至ったのですが、同じ顧客に対し、真のニーズを理解し、対応し続けて行く上でもこの視点は有効です。例えば、計測器メーカーのタニタは創業当初はトースターや電子ライター等のOEM生産を行っていましたが、1950年代、アメリカで普及していた家庭用体重計の製造販売にいち早く着手したことを皮切りに「健康をはかる企業」と自社を位置づけ、さらには計測器というモノにこだわらず「日本を健康にする」ことを自社の使命と捉えたところからタニタ食堂のような新しい展開が可能となりました。同様にアマゾンは、日本進出時には「ネット書店」として紹介されることが多かったのですが、経営理念である「地球上で最もお客様を大切にする企業」を主にその利便性(品揃え・検索の容易さやサジェスト機能・送料無料・即日配達等)の面で追求した結果、書籍に限らずあらゆる商品サービス分野で消費者の支持を得る巨大企業となりました。経済学者のT・レビット博士は1968年、著書『マーケティング発想法』の冒頭にて、「ドリルを買う人がほしいのは穴である」と記しています。有名なフレーズなのでご存知の方も多くいらっしゃるでしょう。正確には「人々がほしいのはインチのドリルではない。彼らはインチの穴がほしいのだ(Peopledon’twantquarterinchdrills.Theywantquarterinchholes.)」となります。今から50年以上も前の言葉ですが、このように「顧客は商品を買うのではない。その商品によって提供されるベネフィットを購入しているのだ」という考え方は、古くから存在します。人は必ずしも商品そのものを欲しているわけではなく、それによって自身の用事が片づいたり、要望が満たされたりすることに価値を見出しているので、当然ながらもっと良い解決法があるならそちらを選択します。従って、経営者は常に、「自社は顧客に対していかなる価値を提供する会社なのか」を考え続けなければなりません。「我が社は○○屋です」という自己認識の何が問題かといえば、今現在取り組んでいる商品や事業、おつきあいのある顧客しか、視野に入っていないのです。自社の経営が陳腐化し、抜本的な改革を迫られる場面で「今までこうしてきたんだ」と過去の成功体験や現在の事業ドメインに縛られていては、自由な発想が阻害され、機を逸してしまう可能性が高い。実際、事例のHILLTOPでは現副社長が経営改革を提案するまで、年間8%というとんでもないコストダウン要請にも対応してきました。自社を「自動車部品を製造する会社」、「自動車メーカーの孫請け」と位置づけていたために、「この仕事がなくなったら立ち行かなくなる」という固定観念を持っていたのです。しかし、その後我が国に起こった産業の空洞化を見ても、方向転換しないままだったほうがより「危険」だったと思われます。対策とは、まだ業績が良いうちに打つべきもの。体力がある間はまだいろいろな試みが可能です。負債が膨らみ、返済に窮するようになってからでは、打てる手も限られます。この点にいち早く気づき、「いや、我が社の商品は多種多様な製造技術であり柔軟な対応力だ」、「それを最も評価してくれる顧客はどこにいるか?」と自社の価値を見直したことから、現在のように試作品メーカーとして創造性を発揮する道が開けたのです。普段、自社の「本当の商品」を明確に意識していない会社は少なくありません。が、突き詰めて考えることから転機が開けることがあります。定義1つで会社は変わるのです。「我が社は○○業」、「○○屋」という捉え方に固執していると、自社で行うべき顧客への価値提供を狭く解釈しすぎて変化への対応力を失い、産業構造に大きな変化が起こった際もそれに対応できず、やがて衰退していくということになりかねません。さて、あなたの会社の本当の商品とは何でしょうか。顧客が真に求めているものを、あなたの会社は十分提供できているでしょうか。◇事業ドメインの再定義経営ビジョンとは、長期的視点に立って自社の目的や使命、顧客や社会に提供すべき価値などの「あるべき姿」を明らかにしたものであり、企業理念の実現のため、具体的に●自社の中核能力(コア・コンピタンス)を活用して●いかなる戦略、戦術を●いかなる目標、いかなる行動規範を以て実践していくかを社の内外に向け、明確に示すものです。ここまで、自社の企業理念や強み、自社の本当の商品について検討していただきましたが、それらがすべて同じ方向を向いているなら、それが今後の進むべき道と考えて間違いありません。改めて「自社は何業であるか、誰に対していかなる価値を、どのように提供することで顧客満足を追求していくのか」といった事業ドメインを再定義し、首尾一貫した経営ビジョンを策定していくのです。事例:はせがわ酒店はせがわ酒店(東京都)は1960年創業の家族経営の酒店でした。当初は経営も安定していましたが、1980年には年商3000万円と低迷。規制緩和の影響で、台頭するディスカウントショップとの価格競争に巻き込まれてしまったのです。仕入においてスケールメリットが発揮できない個人商店が大手チェーンと競合しても勝ち目がなく、同店は事業承継を機に、「近隣で誰もが売っていないものを売る」ことに方針転換。たまたま地方の酒蔵でつくられた旨い地酒に出会ったことから、「まだ東京で知られていない、美味しい日本酒を売ろう」と考えつきました。日本酒やワイン
等、特定の分野に特化して差別化を図る酒販店は増えていますが、同店はそのはしりであったと言えます。が、地酒はそもそも生産量が少なくほとんどが地元で消費されるため、仕入は困難でした。直接個別の酒蔵に足を運び、直談判する中で日本全国には3000もの酒蔵があると知った後は、自分の足と舌でこれぞという酒蔵を開拓し、その魅力を発信していく「日本酒伝道師」となることを自らの使命とし、毎年200蔵を訪問。現在では東京スカイツリー店など都内7店舗を展開、2018年6月期には単体で35億円、グループで48億円の売上を上げています。はせがわ酒店の事例は中小企業が事業ドメインを再定義し、確固とした経営ビジョンのもとに改革を実現したお手本のような事例ですので、ご存知の方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。知る人ぞ知る、しかし一般にはあまり知られていない地方の銘酒を、もっと東京の消費者に味わってほしい、その情熱を以て造り手と会い、造り手の想いと共に発信していく。その努力が「はせがわ酒店に行けば他にない、美味しい日本酒が手に入る」との評価につながっています。事例:株式会社セルコ株式会社セルコ(長野県)は1970年創業のコイル製造業。コイルとは銅線を筒状に巻くことで電流をエネルギーに変える電子部品です。かつては1つひとつ手巻きでつくられており、手間の割に安価なため、無数の零細業者が生産の担い手となっていました。そんな中、セルコは大手プリンターメーカーの下請けとして順調に成長を続け、ピーク時には3工場が稼働、120名で月間数百万個のコイルを製造していました。しかし80年代より親会社が海外へ工場を移転したため同社の業務は激減。社員は13名にまで落ち込みました。それまで親会社の指導により生産管理や品質管理に力を入れていたことから、高いコイル製造技術を有する同社は、その競争力を活かすべく自社を「コイル&コイル周辺技術のソリューションパートナー業」として活動を開始します。国内大手メーカーの開発担当へ特殊コイルの試作を請け負うと営業し、取引先の課題を技術で解決していくことを徹底。結果、特殊コイルにおいては他の追随を許さないレベルまで技術力を高め、「高付加価値コイルならセルコ」と発注側から指名されるまでになりました。さらには内科医との共同研究により、外部の静電気や電磁波を取り除き、生体電流の流れをスムーズにするコイル「セルパップ」を開発、完成品メーカーとなることが実現しました。大手企業の下請けというポジションは、少数の顧客から売上の大半を上げられるという点で効率的なのですが、反面、営業基盤としては脆弱で、1度顧客の業績が悪化すると価格引き下げ要請に対抗できずこちらの財務内容まで悪化させたり、顧客の廃業や海外移転によって大きな打撃を受けることになります。自社の属する業界、もしくは市場が成熟~衰退期にある場合、状況が好転することはありえませんので、早急に自社の事業ドメインを見直し、新たな市場を切り拓く、成長産業へシフトする、などの対策を打たねばなりません。確固たる経営ビジョンのある会社は、苦境にあってもそれを確固たる経営の軸とすることができますので、ぶれることがありません。また、「自社の本当の商品は何か」を社員に伝えることは、「自分たちはこの方向に進むんだ」、「自分たちはこのようにしてお客様に喜んでいただくんだ」という具体的なイメージを社員に持たせることですので、●方向性が明らかであることから1つにまとまりやすくなり●やりがいがモチベーションアップにつながり●「そのために自分は何をすべきか」、「自分のやっていることはビジョンに合ったものか、顧客のためになっているだろうか」と各人が自分の業務について考え始めるという効果が得られます。人は誰でも、顧客に喜ばれた、顧客に感謝されたという体験に最もやりがいを感じるものです。そもそも、山登りに際しどんな山に登ろうとしているか、山の名前も高さも、ルートも何も知らされていない状況では、ただリーダーについて来いと言われてもなかなか登っていけません。苦しい山道で先が見えない状況では、途中で脱落してしまうかもしれません。一緒に登っていく仲間のためにも、経営ビジョン=希望を共有することが不可欠なのです。Column産業廃棄物処理業から「自然と共生する、つぎの暮らしをつくる」事業へ石坂産業株式会社埼玉県入間郡にある産業廃棄物処理業の石坂産業株式会社は、業界屈指と言われる「減量化・リサイクル化率98%」を実現したことで注目を集める会社です。同社が誇る最先端の資源再生プラントは、「分別分級の徹底追求」を目指し、設計された全天候型施設。CO2を排出しない重機を自社開発したり、埃や音漏れを防ぐクイックシャッターの設置、道路を汚さないために雨水でタイヤを洗浄する設備の設置など、随所に独自の工夫が凝らされています。周辺の自然環境や働く人のことが、よく考慮された運営は高く評価されており、工場見学には業界内外はもとより、世界各国から多くの人が訪れています。同社は同時に地域貢献・環境問題にも熱心に取り組んできました。工場周辺の森の再生化に注力している他、環境テクノロジーの開発、農産物の栽培・加工・販売、公園の整備、地域住民との交流を目的とした各種イベントなどが行われています。これらを実践するには、当然ながら、接客・サービスや農業、小売業、研究開発……など多様で広範な活動を行う人財が必要となります。同社はそのための組織体制の整備、人財育成を手がけてきました。こうした取り組みは、ゴミを焼却・減量・再資源化するといった、いわゆる産廃の事業領域を大きく超えています。考え方のベースにあるのは、同社のスローガンである「自然と美しく生きる」。そして使命とする「自然と共生する、つぎの暮らしをつくる」という思想です。産廃事業をコアとしつつも、この使命があるからこそ、周辺領域での様々なアイデアや発想が生まれ、その実践を続けることで、業界内で揺るぎないポジションを勝ち得たと言えるでしょう。この使命が生まれた背景には、「私たちが目指すのは、地域に貢献し、地域に必要とされる企業になること」(代表取締役社長の石坂典子氏)という強い信念があります。というのも、氏には、かつて「地域に必要とされていない」という危機に陥った経験があるからです。同社は1967年、石坂氏の父親がダンプカー1台で土砂処理業を始めたのがスタートです。大量生産、大量消費の時代にあってゴミ処理需要は増え続けました。それに伴い、同社も順調に成長していきました。97年には15億円の費用をかけ、ダイオキシンを発生させない最新式焼却炉を導入、当時年商20数億円の企業にとっては大きな先行投資でした。ところがその2年後、「周辺の野菜から高濃度のダイオキシンが検出された」というテレビ報道(後に誤報と判明)をきっかけに、同社はマスコミ・世間から事実無根の批判を浴びせられるようになりました。この厳しい状況を打開するには信頼回復が不可欠でした。前述の全天候型のプラントの設置や、積極的に見学者を受け入れプラント内部を公開するといった施策を打ち出していったのにもこうした経緯があります。事業が順調に進んでいない時に、将来のビジョンや成長戦略を描くことは容易ではありません。しかし逆境の時こそ、事業の目的や自社の存在理由を見つめ直すチャンスでもあります。2代目社長を継ぐという石坂氏の不退転の覚悟もこの時に生まれたと言います。それが今日の同社の発展の起点となったのです。【逆境から這い上がる経営ビジョン策定のポイント】◇自社の原点である先代の理念に立ち戻り、信念を以て再生に取り組む◇社会に受け入れられるためには、との観点から事業を見直し再定義CompanyProfile石坂産業株式会社所在地……埼玉県入間郡三芳町1589‐2資本金……5000万円売上高……54億4000万円(2018年8月期)従業員数…180名(2019年1月)https:/ishizakagroup.co.jp/Column工具問屋からネット通販にシフト。廃業を迫られる中で経営者としての覚悟を示す
株式会社大都DIY用品のネット通販サイトで躍進している大都(大阪市)。もともとは工具問屋でしたが、そのビジネスモデルを大きく転換させたのは3代目社長の山田岳人氏でした。同サイトの強みは取り扱い点数の多さ。長年蓄積された数多いメーカーとの取引により多様な品揃えを実現し、納期面でも消費者から受けた発注情報が直接メーカーに流れる独自システムを開発、優位性を確保しています。さらに工具専門ならではの提案力(関連商品の選択など)を有し、今では同社の売上の大半を占める事業に育て上げました。古い業界にIT技術を持ち込み、BtoBからBtoCへと軸足をシフトした典型的な成功例と言えるでしょう。ただし、ビジネスモデルを転換するというアイデアは浮かんでも、それを実行するのは並大抵のことではありません。業歴が長いからこそのしがらみや旧態依然とした組織風土が足かせとなることもあります。1つひとつ地道に解決していく他ないのですが、何より大切なのは、こうした局面で、「決断」できるかどうか。まさに経営者としての覚悟が問われることになったのです。3代目とはいえ山田氏は娘婿でした。妻の父である先代から結婚する際に「後を継ぐ」よう要請され、もともと自分で起業したいとの思いもあった山田氏はすぐに承諾されたそうです。勤務していた大手企業を退職し、業界知識が全くないまま、当時従業員数15名ほどの同社に入社しました。まずこの業界のことを勉強しようと、以後5年間、山田氏はひたすら研究に没頭することになります。休日も厭わず、ありとあらゆる工具の展示会に足を運び、新商品の情報を仕入れたり、配送の都度メーカーで工具の使い方を訊ね、小売店には売れ筋や問題点について質問しました。分厚いカタログ、職人や会社ごとに異なる符丁のような商品の呼び名もすべて憶え、いつしか社内の誰よりも詳しくなっていたのです。一方、事業そのものには全く将来性が感じられませんでした。他社との差別化は価格しかなく、ただ仕入れて売るだけの日々に、山田氏のくすぶっていた挑戦心に火がつきました。「消費者をターゲットにしよう」と独学でIT知識を習得。2002年、独力でネット通販サイトを立ち上げました。「この事業はいける」という手応えはあったものの、それ以上に本業の収益悪化が厳しい状況にあり、1度は廃業も考えたそうです。しかし、「会社だけは残してほしい」という先代の言葉に折れ、本格的にネット通販事業にシフト。生き残りをかけた勝負に挑む決意を固めました。当時の社員からは協力を得られず、06年にはやむなくリストラを実施。それでも、「社会に何らかの価値を提供する会社を新たに目指したい」と、以後、迷いなくネット通販事業に力を注いでいきました。そんな山田氏の姿に経営者としての凄みや覚悟をみてとったのか、先代が山田氏の経営に口出しすることは一切なかったとのことです。【ビジネスモデル変革につながった、事業ドメイン再定義のポイント】◇自社の商品を工具を用いた「DIY」というライフスタイルであると捉え直す◇強みである商品知識を活かしたコンサルティング力を発揮できる顧客を選定CompanyProfile株式会社大都所在地……大阪府大阪市生野区生野東2‐5‐3資本金……4億9901万円売上高……38億2124万円(2017年12月期)従業員数…49名https://www.daitotools.com/Column構造不況業種にあって大幅な業績拡大を実現株式会社TTNコーポレーション市場の縮小が顕著な業界で成長戦略を描くのは難しく、畳業界はその代表例と言えるでしょう。住宅着工件数の減少、ライフスタイルの変化による和室の減少、海外産製品との価格競争などマイナス要因は多く、畳表の国内生産枚数は減少の一途をたどっています。そんな中、急成長を遂げ、注目を集める企業がTTNコーポレーション(兵庫県伊丹市)です。いわゆる〝町の畳屋さん〟として1934年に創業された同社は、戦後の高度経済成長期に発展。80年代には社員20名ほどを抱え、不動産会社や工務店、マンションオーナーなどを顧客とする企業体へと成長しました。が、以後は前述の理由から、伸び悩むことになります。どうすれば差別化を実現し、業績拡大できるか。これが4代目である現社長、辻野佳秀氏が入社直後から直面していた課題だったのです。課題解決のため、当時、同社が取り組んでいたのは機械化による製造の効率化でした。これにより1日に1人1枚だった生産ペースが1人25枚まで引き上げられたのです。スピードは安さにも通じ、差別化の武器になると期待したのですが、思ったほどの効果は得られませんでした。転機となったのは営業先で耳にした、ある和食レストランオーナーの一言。「畳は張り替えたいけれど、それで1日、店を休むわけにはいかない。閉店後の夜中に張り替えてくれたらなあ」畳の張り替えは職人仕事。24時間対応など業界の常識からは考えられないことでしたが、辻野氏はここに可能性を感じました。社内に持ち帰り相談したものの、「24時間なんて無理」と誰からも相手にされず、「ならば自分1人ででもやろう」と決意することになります。最初の週、飲食店からの注文は1件だけ。通常業務を終えた後、深夜に客先に出向き、畳を工場へ持ち帰りました。張り替えたものを再度車で運び、元通り敷き終えた時にはもう朝です。次の週は3件。そして3週目には、150件の注文が舞い込んできました。慌てて夜間対応スタッフの採用を行いましたが、勤務体制が整ったのは半年後。その間も注文は増え続け、売上はそれ以前(約4億5000万円)と比べ、初年度から10億円と、倍以上に跳ね上がりました。「夜に張り替えてほしい」との要望を耳にしたことのある畳店は、辻野氏だけではなかったかもしれません。ただ、それを「1人24時間体制」によって検証し得たのは辻野氏だけ、だったのです。健康管理面からは決して問題のないやり方とは言えませんが、氏の可能性があればすぐに試してみる行動力や、現状を打破したいという執念によって、同社は手つかずの市場を得ることができたのです。「不況だから」、「市場が縮小しているから」──構造不況業種では、会社の成長を阻害する要因はいくらでも挙げられます。が、厳しい経営環境にあっても成長できる企業は確かに存在し、それを実現するのはやはり、リーダーの情熱であると言えるのです。【新たな市場を切り拓く差別化のポイント】◇常日頃からいかにして差別化を図るかを意識することでチャンスをつかんだ◇機械化によって実現していた高い生産性を最大限発揮できるタイムシフトに着目CompanyProfile株式会社TTNコーポレーション所在地……兵庫県伊丹市北伊丹9‐80‐3資本金……3000万円売上高……70億円(グループ合計)従業員数…350名http://www.ttncorporation.net/
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