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第2章戦略的中期経営計画を作成する①自社の存続・成長を支えるものは何か?

◇なぜ、売上・利益を上げなければならないのかCaseStudyAさんは若手経営者の勉強会で戦略や経営計画の必要性を学び、さっそく自社の経営計画を策定しました。社員にも売上や利益などの数値目標を共有し、全社一丸となって「頑張って達成しよう!」という空気をつくることができた……と思っていました。しかし後日、社員のBさんから、こんな相談を受けました。***先日の売上と利益目標を店舗のアルバイトにも伝えたところ、中の1人、C君という学生アルバイトが、「そもそもなぜ、売上を上げなければならないのですか?」、「なぜ、利益を出さなければならないのですか?」と言い出し、こんな会話になりました。「そりゃ君たちの給与を払わなければならないからね」「では、赤字だったら給与は払っていただけないということですか?」「そういうわけではないが……」「僕が聞きたいのは、なぜ目標を掲げてまで売上や利益を上げなければならないのか?この店にとって売上と利益を上げるとは何を意味するのか?ということなんです」C君に思いがけないことを問われて、自分でもしっくりしない答え方しかできませんでした。こういう場合、Aさんならどう説明されますか?***Bさんは、Aさんの直属の部下にあたります。あなたがもしAさんだったとしたら、上司として経営者として、どう答えますか。BさんはC君に、どう説明すれば理解を得られたのでしょうか。前回のケーススタディと同じく、今回も正解はありません。過去には「そんなことを言う社員やアルバイトはいてくれなくてもいいのでは?」と言われた方もいらっしゃいましたが、それではケーススタディになりませんので、C君は口では時々そんな理屈っぽいことを言うものの、店にとっては頼りになる存在で、辞められては困る……という設定でお考えいただければと思います。いかがでしょうか。皆さんはどう説明されますか。実際の次世代経営塾の受講生の皆さんからは、●会社を存続させていくため、社員の生活のため●会社の成長のため、会社を大きくするため●社員への還元、会社が良くなれば時給・給与・ボーナスが上がる●自分や家族の生活を豊かにするため、皆の生活を良くするため●一緒に仕事をする社員みんなが幸せになるため●より良い事業の発展のため●より働きやすく未来のある企業、職場にするため●商品・サービスを発展させ、提供し続けるため●このお店だから働きたい、このお店で働けてよかったと思えるようなお店にしたい●社会の仕組みを説明する、納税による社会貢献、地域貢献等々……といったように、様々な視点からの意見が出てきました。「売上を上げ、利益を追求すること」は企業にとって当然の営みです。だからこそ、その当然のことを自分の言葉で、相手に伝わるように説明できなければなりません。しかしながら、改めて「なぜか?」と聞かれると、「このことについてこれまでしっかり考えたことがなかった」という方は意外と多くいらっしゃいます。このケーススタディは、「売上・利益を上げることで自社は何を実現したいのか?」を問うものです。即ち、何のために会社を存続させ、何のための経営を続けているのかという、企業経営の本質を訊ねています。売上とは何か。それは端的に言えば、顧客からの「支持」です。利益(この場合、粗利のことを指します)は、その会社が提供する商品やサービスを通じて顧客が受ける『価値に対する対価』と言い換えられます。売上=客数×客単価であり、自社を支持する顧客が増えれば、そして顧客1人あたりの購買価格が上がれば、売上が上がるということになります。従って、売上を上げていくというのは自社の商品やサービスを支持してくれる顧客を増やすことになります。そして利益とは、顧客が認めてくださった「価値」に対する対価でもあります。例えば、競合他社と価格競争に陥っている商品があるとします。他社が1円安くするなら自社は2円下げる、そんな競争を強いられるということは、即ち、「もはや価格を落とすことでしか顧客に自社の価値を感じていただけない」状況だということです。商品そのものの良さや提供面での魅力で選ばれているわけではなく、「どこでも買える、何の特別感もない商品」を他社と同じように売っているだけ、ただ価格が高いか安いかだけで顧客に判断されているという状況です。中小企業の場合、この状況に陥ると、自社の本来の利益を削らなければ売れませんので、当然ながら値引きが続き、粗利が低下していきます。利益が低いとは、それだけ他社と差別化が図られていない、自社独自の存在価値を確立できていないということで、日々の努力だけでは問題の解決は困難と言わざるを得ません。では、自社の価値を高め、顧客の支持を得ていくためには、何が必要でしょうか。様々な要素が挙げられますが、まずは事業の目的を明確にすること、会社の方向性を明示することが重要です。いわゆる経営理念です。経営者としてどのような価値観を大切にしていきたいか、それに基づいてどのような価値を創造していくのか、何を以て顧客に認められたいのか。経営者として何を軸に「経営判断」を行うのか、その心の拠り所となるものです。企業経営とは突き詰めれば「理念」実現のためにある、と言っても過言ではありません。高校の野球部を考えてみても、「身体を動かすのが好きだし、楽しく野球をしたいな」という程度の動機で入る子もいれば、「甲子園に行って、将来はプロ野球選手になる」と考えている子もいるかもしれません。しかしながら、1人ひとり、想いがばらばらのままでは、強いチームをつくることはできません。同じ目的を共有するからこそ、各自が「そのために自分は何をするか」と考えるのであり、その個々の努力が有機的に結びついてこそ、チームとしての力が発揮されていくのです。自社は何のために事業を行い、何を大切にする会社なのか、まずはその点を明確にしていきましょう。◇経営理念の本来の意義前項で企業経営は理念実現のためにある、とご説明しました。利益の追求はこの理念を実現する手段に過ぎません。また、理念においては、その内容や表現より、1人ひとりの社員がその理念をいかに深く理解し、己の信念として「信じて」いるかが重要です。経営とは人を通じて事を成すことです。自分1人の力などたかが知れています。経営者がどれほど優秀でも、個人にできることには限界があり、それよりもいかに社員の心に火を点け、1つの方向に率いていけるか、ということのほうがよほど経営者にとっては重要です。自社の理念が社員1人ひとりの一挙一動に一貫して理念が実現され、息づいている状態を実現すること、それこそが経営の真髄と言えるでしょう。企業経営の基本的な姿勢としては、目的…何のために、この会社を経営するのか(理念・使命)目標…何を目指す会社なのか?いつまでにどうなりたいのか?(経営ビジョン)行動基準…具体的に各社員はどんな行動基準で行動するのか(バリュー・行動指針)

段階です。第二段階(成長期)は経営者の価値観が確立されてくる時期です。会社の経営に携わると日々様々なことが起こります。その中で経営者は自身で考え、意思決定していかねばなりません。そういった経験を積み重ねることで自身の経営における確固とした価値観が形成されていきます。そして、第三段階(成長、成熟期)は企業として共有する価値観・思考、及び行動規範の確立と定着が図られる時期です。最後(事業承継期)に第三段階で醸成された企業文化が、学習によって社員に伝承されていくというステップにつながっていきます。前項のケーススタディに対し、様々な意見が出たように、自社がどのステージにあるかによって経営理念のあり方は当然異なります。ただ、何より重要なのは、経営者自身が、ご自分の想いや夢をこめたものか、そして、心から「必ずこれを実現する」という熱意を持てるものであるか、です。経営者が自分自身の言葉で経営理念を表現すべき理由は2つです。1つには、経営者にとって、経営理念こそがあらゆる判断の「基軸」となるものだからです。企業経営は決して良い時ばかりではありません。売上の低迷や関係法規の改正、天災や事故、どんな困難な状況に陥っても、誰にも頼れず、迅速な経営判断を下していくのが経営者です。そんな時、自分の中にこれだけは譲れないという確固たる軸がなければ、肝心の判断にぶれが生じます。いついかなる時でもそこに立ち戻ることのできる原点、あるいは拠り所となるもの。それが経営理念です。2つめは、経営者の価値観を明文化することで、共に働く社員や周囲の仲間が、その価値観を理解し、共感し、一緒にそれを実現してくれるようになるからです。もしあなたが、どこかから借りてきたような、心のこもらない経営理念しか持っていなかったとしたら。あるいは、理念を明文化せず、社員と共有しようともしていなかったとしたら。社員には、当然ながら、経営者の想いが伝わりません。いかに素晴らしい成長戦略を立てようとも、その「基軸」となる価値観、即ち「何に重きをおいて経営し、どのような会社にしていきたいのか」がわからなければ、必ず計画遂行の段階で齟齬が出てくるでしょう。社員が経営理念や行動指針に基づいて「今、自分はどうしたらよいか?」と主体的に考えることのできる会社なら、突発的な事故など計画通りに業務が進まない際にも、正しい対応をとることができます。それどころか、理念の実現のため、いかなる視点で商品を開発するか、その商品の価格設定はどうあるべきか、店舗の販売員はどのような態度でお客様に接するべきか、店舗のデザインはどうあるべきか……と、日常のあらゆる面で共通の経営理念に基づいた変革が見られるようになります。しかし理念のない会社、浸透していない会社では、●社員によってバラバラの考え方であるため品質が一定しない●何を大事にするかが曖昧で、時には保身のために顧客に損をさせてしまう●会社がどこに向かおうとしているかわからず社員の帰属意識が低くなる●常に経営者に依存することになり幹部陣が成長しない、人財育成がなかなか進まない……というように、目的を理解しない行動が積み重なっていきがちであり、最終的に会社の価値に大きなダメージを与える可能性すらあります。どんな戦略を立てても、実際にそれを遂行するのは個々の社員です。いかにして彼らを共に同じ理念を追求する仲間としていくかが肝要であり、この理念の浸透こそ、経営者が生涯をかけて取り組むべきテーマと言えるのです。経営理念と言うとどうしても、額縁に入った立派な書が会社の応接室に飾ってある光景を思い浮かべがちです。あれがそんなに重要なんだろうかと、読みながら首をかしげる方もいらっしゃるかもしれません。もちろん、素晴らしい理念を掲げているのに経営状況は精彩を欠く、そんな例はいくらもあります。経営理念を「つくっただけ」では何も変わりません。自社が経営理念の価値を発揮させられているか否か、以下のポイントから判断してみましょう。Checkpoint□明文化された経営理念があり、社員全員に共有されている□社員1人ひとりがその経営理念に心から共感し、自分自身の行動指針としている□その結果会社のあらゆる業務、行動に一貫してその理念が反映されている□この状況を実現するため、経営者は率先して理念浸透の努力を行っている◇事業承継と経営理念さて、創業者であればどなたでも必ず、前項に挙げたような会社の存在理由・意義について、とことん考え抜くというステップを経験しています。「理念なんて、そんな大層なものはありません」とおっしゃる方の場合でも、よくよくお話を伺えば、「ああ、この経営者はこういったことを心がけていらっしゃるんだな」、「こんな想いで顧客と向き合ってこられたのだな」ということが窺えるのです。もし皆さんの会社が、これまで●経営理念として明確に言葉で表現されたものがない●経営理念はあるが、社員や顧客にまで伝わっていないという状況であるなら、その見直しに、事業承継ほど適した機会はないでしょう。後継者が経営者となるには、「この会社で自分は何を実現したいのか」をとことん考え、覚悟を決めることだと書きました。その覚悟の内容、即ち将来への夢や実現したい理想が、これからつくっていく経営理念のベースとなります。ぜひ、第二第三の創業を行うつもりで、ご自分の実現したい夢、理想を追求していただきたいと思います。「いや、自分は後継者として、先代の理念を守っていきたい」とお考えであるなら、親子の会話の中で、既に存在している我が社の経営理念について解説を求めたり、この会社を起こした時(代々続いている家業であれば継いだ時)はどういう状況で、先代はそれについてどう感じていたか、どんな理想を持って、何を心がけてこの会社を経営してきたか、今までこの仕事をしていて一番困ったことや嬉しかったことは何か、そういった事柄に耳を傾ける機会を、設けていただきたいと思います。そこに貫かれている先代の価値観を抽出し、理解していくことが肝要です。会社の存続が事業承継の目的なのではなく、理念実現のためのバトンタッチであると考えるのです。経営理念抽出のポイント創業者、先代経営者の話「なぜこの会社をつくろうと思ったか」→(会社の目的・存在理由)「会社をつくり、どんなことを実現したかったか」→(社会的使命感)それを踏まえ、「社会全体に対して」「顧客に対して」「社員に対して」自社はどうありたいか?後継者に対し「まだ後を継がせるのは早い」と考え、具体的な事業承継の相談を後回しにする経営者は少なくありません。が、このように後継者のほうから「思

い出話を聞きたい」、「会社についてきちんと知りたい」という働きかけを示されると比較的受け入れやすいようです。先代となかなか腹を割った話ができないという場合には、コミュニケーションを深める糸口としても最適ではないでしょうか。なお、この経営理念も含め、先代の方針をそのまま踏襲すべきか、それとも最初から何もかも変えていくべきか、とお悩みの方もいらっしゃるかと思います。私としてはどちらも「あり」だと考えます。ベンチャー型事業承継の成功例をとってみても、●強引に社長交代を推し進め、先代のカラーを完全に払拭し、自社を全く新しい会社として生まれ変わらせた後継者もいれば、●あくまで先代の事業にかける想い・理想の延長線上でありながら、それを「社会から好感を持って受け入れられる」という非常に高いレベルにまで引き上げるため、社員の、そして先代社長自身の反対にも粘り強く対応し、抜本的な改革を実現した後継者もいます。何が正解かは、やはり、その会社の状況によるでしょう。ただ、これまでの経営理念をそのまま踏襲する場合でも、今後その理念を自らが社員の手本となって率先し体現していくべきであると考えれば、先代の話を傾聴する際も当時の経営環境を調べ、「先代はどんな気持ちでこれを実施したのだろうか」と感情移入したり、自分なりに咀嚼してみることが最低限必要になるでしょう。自分の言葉で社員たちに解説したり、受け継いだ経営理念をさらにビジョンやミッション、コアバリューという形に落とし込んでいくことができれば、なお良いでしょう。

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