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第四項 現場・現物・現実

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頭の中だけで経営はできない

ファーストリテイリングには、外部からある程度の経験を持って入社してくる人も多いので、特に、そこから経営者を目指すという人には注意してはしいのですが、頭の中だけでは経営はできないと思った方がいいです。

分かった気になって頭の中だけで経営をすると、間違った判断をするリスクが高まりますし、それでは、仲間が本気になつて一緒にやろうという気持ちにはなれないと思います。

昔から「売場に必ず答えがある」と言われているように、それぞれの現場・現物・現実、こうしたリアルなものに身を置いて、五感を傾けて経営をしないと、本当に外す。

外すというのは、お客様の期待を外すということもですし、仲間からの信頼や信用も外すということです。結果的に、商売が成り立たなくなります。

例えば、マーチャンダイザーの仕事でも、デザイナーと企画を立てて、自分の満足のいく服が作れたら、それで仕事が終了みたいな感覚の人がいます。

売れたかどうかよりも、自分が満足のいく服が作れたかどうかの方が関心事になっているわけです。

アパレルの業界では、マーチャンダイザーというと一般的にこういうものだと思って仕事をしている人が多いのですが、これではいいマーチャンダイザーとは言えません。

いいマーチャンダイザーの仕事というのは、商品が起点になりますが、取引先に発注をして、実際に店舗に入った時点から商売が始まって、在庫がゼロになるまで売り切っていく。それを全部見ていく。

見ていくというのは、観察しているという話ではなく、同僚や部下のみならず、営業や他の部署の人にも働きかけて、時には教えてもらいながら、リアルなモノを前に、リアルな場所で、リアルな人たちと、最後は売り切るところまでリアルに商売を回していくということです。

こういうことを大切にして行動できる人が、いいマーチャンダイザーですし、育っていくタイプの人はこういう人です。

また、実際に、こうやって、現場。現物。現実の中で仕事をして、自分で商売を回しているという実感をした方が、結果が出た時の喜びや達成感が全然違って、自分の仕事が本当に面白くなってくると思います。

指示をして仕事が終わりではない

ユニクロがフリースに挑戦をし始めた頃、 一九九〇円の低価格で高品質のフリースを作ろうと思うと、やはり非常に難しくて、粗雑なものしかできあがってきませんでした。

その時、担当者に話を聞いたら「中国の工場に、何回も電話で指示しているのですが」という返事でした。

私は、それに対して「電話で指示?・工場はパートナーなのですから、直接あなたが現場に行って、現物を前にして一緒に問題解決をしないとだめなのではないですか」と厳しく指摘をしました。

実際に中国に行ってみると、当時の状況ですと、工場の作業者側は「自分たちはまじめにやっている。どうして、そんな指示を受けなければいけないのですか」という考え方であることが分かりました。

ですから、いくら電話で指示をしていても、右から左に流されておしまいだったわけです。

指示をすれば相手は動いてくれる、指示をしたことで自分の仕事は終わった、自分のやるべきことはできていると勘違いする人は意外と多いのですが、指示したことがリアルに動いていなければ、それは何も仕事をしていないのと同じなのです。

そしてフリースのこの例のように、難しい問題こそ、現場。現物。現実でことにあたらないと、本当に求める解決にはならないのです。

リアリティーの中に身を置いて仕事をするメリット

経営者になりたいと思って、経営に悩んだら、現場に入ってみたらいかがでしょうか。特に、売場には答えがありますから、売場に入ってみるのはいいことだと思います。

店頭に立っていると、お客様が問題点を教えてくれます。

  • 「この商品のこのサイズはないのか?」
  • 「なぜ、このアイテムが置いていないのか?」

いろいろなことをお客様は言って下さいます。それを聞き流すのではなく、真剣に耳を傾けてみると、自分たちができていないこと、欠けていること、あるいは商売のポテンシャル、そういつたものが見えてきます。

とてもありがたいことです。どんなお客様が実際に購入されているのかもよく分かります。売場に立つと、ユニクロのお客様の質が高いことが分かるはずです。よく洋服を知っているし、勉強していらっしゃる方がお客様になって下さっています。

これを勝手に、自分たちの方がプロだと思って上から目線でお客様を見ていたら、とんでもないことになると思います。

帳簿上の数値だけに頼って、リアリティーのない指示をしていると、よかれと思ってやっていることが、かえって現場を疲弊・混乱させて、商売の利を損なわせることにもなります。

数値だけを見て、机上から「なぜできないのですか」「どうして私が指示していることをやつていないのですか」「はやくやって下さい」と指示をすることで仕事をしていると思ってはだめだということです。

問題が解決されないということは、何かあるなと考えて、現場。現物・現実を確認して、 一緒になって解決をするようでないと、本当の問題解決はできないのです。

例えばお店に商品が十分並んでいない時、帳簿数値だけを見て「もっと積まないとだめでしょ」と言って現場に怒って命令を繰り返すだけ。これでは仕事をしていないも同然、あるいは現場を疲弊させる分だけ、それ以下の仕事の仕方かもしれません。

そういった時には現場。現物。現実を確認してみることです。もしかしたら、あなたが上から目線で決めつけているような現場の怠慢ではなく、バックヤードがパンバンでどうしようもない状態になっているのかもしれません。

だとしたら、何をしてあげたら、あるべきお店の姿が作れるかを一緒になって考えて解決するということです。

もしかしたら、店頭にしばらく出さないような商品を別な倉庫に引き上げてあげたらいいのかもしれないし、バックヤードの人時を増強してあげることかもしれません。ケースバイケースで解決策は全部異なりますが、現場・現物。現実を確認すれば、あるべき姿のための現実的な問題解決ができるようになります。

たとえ話ではありますが、このように、数値が異常値になっていたり、問題が改善されない状況が続いていたら、「なぜそんなことになっているのか」を机上で考えるだけでなく、現場・現物を実際に見て現実を確かめたり、あるいは実際に自分も一緒に作業をやってみたら、 一発で分かることが多いと思います。

また、こうした体験を積んでいくと、数値を見た時でも「だいたいこういうことが起きているのではないか」

という勘が働き、実際の問題解決に役に立つアイデアが出てくるようにもなります。逆に、そうならないと、アイデアと言いながらいつまでも机上の空論ばかりで、現実感のある商売にはつながっていきません。

現場。現物・現実。このリアリティーの中に身を置いて商売をすることが、足腰の強い会社を作ることになるのだと思って下さい。

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