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第四章 上奏文を壁に貼る

この章では、唐の太宗が国政にいかに真摯に向き合っていたかを象徴的に示すエピソードが語られます。上奏文を単なる行政文書として処理するのではなく、日常的に目に入る場所に掲げて常に思考し、深夜まで政治の在り方を考え続けていたという逸話から、太宗の姿勢が非常に強調されています。


壁に貼られた上奏文:君主の意志と姿勢

貞観三年(629)、太宗は司空・裴寂に向かってこう述べます:

「最近、上奏文が多く上がってくるが、私はそれらをすべて宮殿の壁に貼っておく。出入りするたびにそれを眺め、飽きることなく読み続けている」

これは一種の「可視化された政務管理」です。ただの備忘録ではなく、常に政治課題と向き合う姿勢の表明であり、また臣下に対して、「私は君主としてここまでやっている、君たちも心して職務に当たれ」と伝えるメッセージでもあります。


深夜までの熟慮:太宗の自律と勤勉

太宗はさらにこう述べます:

「一度政治について思案しはじめると、深夜三更(午前0時過ぎ)になってようやく就寝する」

これは、「理想の政治を目指す者は、眠りすらも惜しむ」という太宗の覚悟の表れです。単なる責任感にとどまらず、「政を行うことは天命に応えることだ」という信念が、そこには強く反映されています。


臣下への期待:誠意と不断の努力を求める

裴寂を含む臣下に対して太宗は、「そなたたちも倦まずに励んで、私の志に応えてほしい」と要請しています。これは命令ではなく共に理想の政治を築く「仲間」としての期待の表明です。主従関係を超えた「協働」の精神が感じられます。


現代に通じるメッセージ

この章は、現代のリーダーシップ論やガバナンスにも通じる要素を多く含んでいます。

  • トップ自らが課題を見える化し、継続的に関心を持ち続ける
  • 部下にも自律的な努力を促す、信頼と期待のマネジメント
  • 思考の深さと誠意のある態度が、組織全体のモラルに波及する

上に立つ者がこうした姿勢を示すことで、下はそれに呼応するように動き、結果として「太平の政治」が実現されていく──それが貞観の治の本質でもあります。


総評

この章は非常に短いながらも、太宗のリーダーとしての哲学と日常的な努力、そして臣下への誠実な呼びかけが凝縮された逸話です。飾らず、実直に「為政者の基本」を語るこの場面は、後世においても多くの指導者が手本とすべき姿であり、**「理想の君主像」**を体現するものとなっています。

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