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第七章「戴冑のボロ家」解説

◆ 現代語訳

**戸部尚書(こぶしょうしょ)である戴冑(たいちゅう)**が亡くなった。

彼の住居は、古く粗末な家屋であり、葬儀を行うための適当な場所も確保できないほど貧しく、質素なものであった

それを知った太宗は深く心を動かされ、役所に命じて、特別に彼のための霊廟を建てさせた


◆ 注釈と背景

  • 戴冑(たいちゅう):唐初期の高潔な官僚の一人。法律・裁判の公平さを強く主張し、貞観初年の司法制度整備において重要な役割を果たした人物。
  • 戸部尚書:財政・民政を管掌する尚書省六部の一つである「戸部(こぶ)」の長官。国庫管理や税制、戸籍・土地調査などを担当。
  • 居宅陋(きょたくろう):極めて質素で粗末な住居。
  • 霊廟(れいびょう):死者を祀るための建物。通常は高官や皇族のために建てられる。

目次

本章から導かれる「心得」

◉ 1. 清廉にして倹約な官僚の姿勢を称える

戴冑は、国の財政を扱う最高責任者でありながら、贅沢な生活を一切していなかった。死後、葬儀の場所さえ確保できないほどに倹約を貫いた彼の生き方は、公人としての理想像である。

→ 地位が高まるほど、私的な欲望を抑える覚悟が求められる


◉ 2. 倹約の姿勢は死後にこそ顕れる

彼の質素な住まいは、見栄を張らず、財を蓄えず、役目に徹した生活の証であり、死してなお、誠実さを物語っている

→ 「倹約」は生前の行動のみならず、死後の記憶にまで及ぶ人徳となる。


◉ 3. 誠実な者には、国家が報いるべき

太宗は、戴冑の清廉さを惜しみ、国家としてその死を丁重に弔うために公的に霊廟を設けた。これは、徳ある者を国家が正当に顕彰する姿勢を示すものであり、後世への模範ともなった

→ 功ある者を手厚く弔うのは、倹約の精神と矛盾するものではない。むしろ、清貧を貫いた官僚にこそ、社会的な敬意が払われるべきである


結び:倹約は、単なる節約ではなく「誠実さの表現」

この章は、戴冑という官僚の清廉さと倹約の精神を簡潔に、しかし深く印象付ける一節です。

彼の生き方そのものが「倹約」の具現であり、皇帝の心までも動かしたことが記されています。本当の倹約とは、地位や権力に溺れず、与えられた責務に忠実であること。それを黙して実践した戴冑の姿は、まさに時代を超えて称えられるべきものです。

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