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第七章 身内か仇敵かを問わず賢人は推挙せよ


現代語訳

唐の太宗が即位して間もない頃のことである。
太宗は側近の臣下たちに向かって、こう述べた。

「私は今、政治に全力を注ぐため、優れた人物を広く探して登用している。
誰かが良い人物だと聞けば、すぐに引き立てて使うようにしている。
だが世間ではこう言う者が多い。
『あれは宰相や重臣の親戚・知人だから抜擢されたのだ』と。

だがそなたたちは、そうした**誹謗や偏見に惑わされてはならぬ。
真に公正を貫き、人材登用に一片の私情を挟まぬことが大切だ。

昔の賢人はこうも言っている。
親族だからといって遠慮せず、仇敵であっても除外しない
これは、真の賢者を見逃さないための心得である。

だから、有能な人材であるならば、たとえ自分の子であろうと、
あるいは怨みを持つ者であろうと、必ず推挙すべきなのだ
。」


注釈と背景

  • 宰臣親故(宰相や大臣の親族):当時の唐でも人脈や血縁による登用(いわゆる“縁故採用”)が批判されていた。
  • 内舉不避親、外舉不避仇(ないきょはしんをさけず、がいきょはあだをさけず):
    • 『礼記』や『後漢書』にも見られる古典的な信条。
    • 公的な推挙においては、私情を交えてはいけないという、古代中国における重要な政治倫理の一つ。

心得

1. 採用は「誰から紹介されたか」ではなく「何ができるか」で判断する

政治や組織運営において、血縁・地縁・利害関係による偏った登用は腐敗の温床となる。
太宗は、たとえ周囲から誤解を招くような抜擢であっても、実力ある人間であれば登用する覚悟を示した。

2. 「敵」や「嫌いな人」でも、能力ある者は登用せよ

組織を私物化せず、天下のために人材を使うという太宗の姿勢は、器の大きさと統治者の気構えを示している。
これは現代の経営者や管理職にも通じる「人物本位」の評価軸である。

3. 人の目を恐れず、正しいことを貫く覚悟

「外野の批判」に左右されて正道を曲げてはならない。
太宗は、「世の中の風評」よりも、「国家に資するかどうか」を重視していた。


まとめ

「賢才に親疎(しんそ)なし、登用に私情なし」
「身内でも、敵でも、有能ならば推挙せよ」
「誹りを恐れて真の人材を見逃すな」

この章は、人材登用における公平と公正の理想像を太宗が力強く語ったものであり、
現代の人事評価・採用基準にも深い示唆を与える内容となっています。

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