MENU

競合会社を偵察する

競合他社といっても、すべてを対象にする必要はない。特に注目すべき数社に絞り込んで、重点的な情報収集を行うのが効率的だ。それ以外の企業に関しては、日常的に自然と入ってくる情報で十分といえる。では、どのような情報を集めるべきなのかが重要なポイントとなる。

①有価証券報告書や興信所調査表

これらは毎年継続して収集することが肝心だ。継続的な追跡によって、企業の動向や傾向を把握できるからである。仮に数字に粉飾があったとしても、それを長期にわたって隠し通すことは困難だ。

特に注目すべきは、取引先の変化、取引銀行の変更、役員の入れ替え、在庫の増減、減価償却といったポイントだ。これらはしばしば重要な情報を含んでおり、見逃さないよう細心の注意を払うべきである。

②営業案内、カタログ、チラシ、見本市案内、展示会案内、特売、価格表

これらは、競合他社の販売活動の実態を把握するための重要な手がかりとなる。特に見本市や展示会、即売会では、内部の情報を探るためにスパイを送り込むことも有効な手段だ。

また、企業の経歴や概要は営業案内などに記載されていることが多く、これを確認すれば十分な情報が得られる場合が多い。こうした資料を丹念にチェックすることで、相手の戦略や動向を見抜くことが可能になる。

③会社案内・社内報

会社案内や社内報は、経営者の考えや関心事を把握するうえで手軽で効果的な情報源だ。これらの資料を読むことで、社長が何を重視しているのか、どのような方向性を目指しているのかを把握することができる。企業の内部事情や方針を知るためには見逃せない資料といえる。

④組織図・職制表

組織図や職制表は、営業案内や会社案内などに掲載されていることが多い。これらは非常に重要な情報源だ。特に、社長が内部管理を重視しているのか、それとも販売に重点を置いているのかといった経営の指向性を読み取ることができる。組織の構造や役職の配置から、企業の戦略や運営方針が透けて見えるため、慎重に分析する必要がある。

⑤販売体制

販売体制の調査では、多角的な情報収集が求められる。営業組織に関しては、営業所の所在地や人員構成、特に第一線で活躍するセールスマンの人数や年齢層が重要だ。また、セールス車・トラック・サービス車の保有台数、配送センターや営業倉庫の規模、さらに小売業であれば店舗数や売場面積、陳列品の状況や環境整備の状態にも注目する必要がある。

さらに、営業の最高責任者や営業所長、店舗の店長の年齢、性格、長所や短所など、人的要素も見逃せない調査対象だ。こうした詳細な情報を把握することで、競合他社の販売戦略や運営方針をより的確に分析できる。

⑥テリトリー

テリトリーに関する調査は、占有率や主要な得意先の情報を把握することから始まる。得意先の地域分布や業種・業態別の占有率も重要なポイントだ。これらの情報を正確に把握しているかどうかで、実際の戦略計画の精度に大きな差が生まれる。

特に、地域ごとのシェアや特定の業種における影響力を見極めることで、競合との優劣関係や市場での立ち位置を明確にすることができる。こうした分析は、的確な作戦を立案するために欠かせない要素だ。

⑦活動状況

最も重要なのは、社長自らが顧客訪問を行っているかどうかだ。この点は、企業の販売方針の明確さを判断する上で極めて重要な指標となる。もし社長が顧客廻りをしていない場合、販売方針が曖昧である可能性が高い。その結果、部長や営業所長の個々のやり方が販売活動に大きく影響を及ぼしていると考えられる。

このような状況では、企業全体としての一貫した戦略が欠け、現場任せの運営が強まる傾向があるため、競争力や市場対応力に影響を及ぼすことが多い。

要するに、そういった組織は「烏合の衆」と見なして差し支えない。その弱点を見抜き、そこを的確に突くのが戦略の基本だ。特に、部長以下のセールスマンが得意先を巡回する頻度が少なく、計画的な訪問を行っていない場合、組織としての統制が取れていないことが明らかになる。

こうした実態を把握するだけでも、十分に効果的な作戦を立てることが可能だ。訪問頻度や訪問計画の有無は、販売体制の強弱を測る上で重要な指標となる。競合の弱点を突くためのヒントは、このような部分に隠されている。

次に注目すべきは配送サービスの体制だ。ここに抜かりがあれば、それは明確な弱点となる。配送フォローが不十分な場合も同様に、組織としての信頼性に欠ける点が露呈する。さらに、クレーム処理が杜撰であれば、それは致命的ともいえる重大な欠陥だ。

顧客対応の基本が崩れている状態では、企業全体の評価が下がり、市場での競争力を大きく損なう。このような欠陥を見抜くことができれば、競合の弱点を的確に突くための戦略を立案する上で非常に有利に働く。

いずれは隠しきれない問題が表面化するものと考えてよい。特に、返品対応の状況は重要な観察ポイントだ。返品を受け付けている場合、その理由や頻度から品質やサービスの問題点を推測できる。一方、返品を断っている場合は、顧客の不満を増幅させる要因となり、これもまた明確な弱点といえる。

こうした対応の悪さは、企業の信頼性に直結するため、戦略を立てる上で見逃してはならない部分だ。返品対応に問題がある企業は、顧客離れや評判の低下につながるリスクを常に抱えているといえる。

その他の注目点としては、セールスマンの動向や振る舞いが挙げられる。例えば、セールスマンが頻繁に退職している場合、それは組織内の問題や労働環境の悪さを示している可能性が高い。また、セールスマンがチャランポランであったり、服装や言語、態度に問題がある場合も、企業の印象や信頼性に直結する弱点だ。

さらに、訪問先で長居して迷惑がられている、使用する車が汚れている、あるいは顧客からの評判が悪いといった具体的な点も重要だ。逆に、これらがすべてきちんとしている場合は、企業としての管理が行き届いている証拠となる。こうした細かな観察を通じて、競合の強みと弱みを的確に把握し、それに基づいた戦略を練ることが求められる。

どんな些細なことも重要な情報となる。わずかな観察からでも相手の弱点を見つけ出せるため、「些細なこと」と軽視せず、営業日報にしっかり記録するよう指導することが大切だ。

実地調査

情報収集において最も重要なのは実地調査だ。これは市場調査業者に依頼するのではなく、自社で直接行う調査を指す。現場に足を運び、自らの目で確認することで得られる情報には、他では得られない価値がある。

市場調査業者に依頼できるのは、マクロ的な情報や基礎的なデータの収集に限られる。現場の「生きた調査」を頼むことはできない。それを行う意味があるのは、自社で直接取り組む場合のみだ。

実地調査には、大まかに分けて抜取り調査とローラー調査の二種類がある。それぞれの方法で得られる情報を活用し、具体的な戦略に結びつけることが重要となる。

したがって、抜取り調査は市場戦略そのものではなく、予備的な調査として位置づけられる。しかし、その重要性は軽視できない。なぜなら、未知のテリトリーでいきなりローラー調査を行った結果、期待外れの情報しか得られず、時間や労力が無駄になるといった事態を未然に防ぐことができるからだ。

ローラー調査とは、対象となるテリトリーを文字通りくまなく調べる手法を指す。これは市場の全体像を把握するための徹底的な調査だ。市場戦略は計画的な活動であるため、詳細までとはいかなくても、大まかにでも全体を理解しておくことが不可欠となる。そのため、ローラー調査は戦略立案において重要な役割を果たす。

ローラー調査は、書類だけで済ませるものではなく、直接訪問が不可欠だ。事前に設定した調査項目をもとに、聞き取りや観察を併用して徹底的に調べ上げる必要がある。もし社員では適切に進められない場合には、学生アルバイトを活用するという選択肢もある。現地で得られる生の情報こそ、正確な市場戦略を支える基盤となる。

F社が新テリトリー進出に先立って実施したローラー調査では、学生アルバイトを活用した。その結果は予想を上回る成功を収めた。F社長はその理由について、「学生が卒論のための取材とでも思ったのではないでしょうか」と分析している。学生の素朴さや柔軟性が、情報収集にプラスに働いたのかもしれない。

セールスマンの行動を直接調査する手法の一つに「尾行」がある。この方法では、相手の営業所付近に始業前から待機し、セールスマンの動きを追跡する。尾行には二人一組で行動するのが効果的だ。これにより、相手の訪問先や行動パターンを詳細に把握することが可能となる。

この方法を用いれば、セールスマンがどの会社を訪問したか、各客先での滞在時間、さらにはどこでお茶を飲み、どこで食事をしたかといった行動の詳細まで把握することができる。こうした情報は、相手の営業活動を分析する上で貴重な手がかりとなる。

S社でこの調査を行った際、S社長はこう語っていた。「強敵だと思っていた会社が、意外にも多くのくだらない得意先を抱えていることが分かり、強敵だという印象がだいぶ薄れました」と。その際、特に役立ったのが、相手の車に社名が書かれていたことだとも付け加えてくれた。このような具体的な情報は、競合分析において非常に有益だったと言える。

さて、「守り」の視点だ。多くの会社が車に社名を記載しているが、その理由は何だろう。おそらく宣伝目的だと考えられるが、それが本当に宣伝効果を生むかは疑問が残る。大企業で民生品を販売している場合には一定の宣伝効果が期待できるかもしれない。しかし、それ以外のケースでは、実際には宣伝効果はほとんどないと言える。むしろ、情報漏洩や調査の対象になりやすいリスクを考慮すべきだろう。

反対に、車に社名を記載することは、我社の活動状況を競合に知られるという大きなデメリットを生む。行動は常に密かであるべきだ。車に社名を記載するのは、販売戦の基本を理解していない会社のやることである。さらに悪い例として、目立つ色彩を使うケースが挙げられる。これは結果的に「利敵行為」となり、競合に有利な情報を与えるだけだ。

私は支援する会社に対して、車には社名を書かないだけでなく、目立たない色彩にすることを強く勧めている。それは車だけに限らず、建物の壁やフェンスに社名を記載したり、屋上に大きく掲げたりすることも同様に危険だ。こうした目立つ表示は、競合に自社の動向を容易に把握させるリスクを伴う。行動と情報は可能な限り秘匿することが、販売戦略の基本である。

ある会社が新テリトリーに進出する際、開業に先立って営業所の屋上に社名看板を掲げた。しかし、これは大きな失敗だった。看板を設置したことで、競合に進出計画が即座に察知され、準備段階から行動を読まれてしまったのだ。こうした目立つ行為は、競争環境において明らかに不利となる。慎重さが求められる局面では、行動を秘匿する姿勢が不可欠である。

この看板を見た既存業者たちは、「強敵が来る」と察知して一斉に警戒態勢を敷いた。実際に進出してみると、競合他社が築いた防御体制は異常なほど強固で、新規参入が極めて困難な状況となっていた。私が訪問した時点で、進出からすでに二年が経過していたにもかかわらず、業績は遅々として伸びず、苦戦を重ねている状況だった。事前に目立つ行動を取るリスクが、ここに如実に表れていた。

大阪に本社を置くS社が、関東地方での販売実績の増加を受けて関東に配送センターを設置する計画を立て、私に相談を持ちかけてきた。候補地は埼玉県南部で、立地条件としては申し分のない場所だった。

私のアドバイスはこうだった。「倉庫の屋上や壁、フェンスに社名広告を出してはいけない。それは敵にこちらの意図を察知されるだけだ。関東に拠点を持つライバル会社がこれを知ったら、どのように感じ、どんな対応を取るかは、立場を変えて考えれば容易に分かるだろう」と。

S社がこの勧告を受け入れてくれたおかげかどうかは分からないが、結果としてライバル会社に新拠点の存在が知られるまでに約一年の時間を稼ぐことができた。この間に基盤を整えることができたのは、大きな成果だった。

市場戦略において重要なことの一つは、行動を常に密かに行うことである。それにもかかわらず、社名広告を無闇に掲示して自社の行動を敵に知らせてしまうのは、明らかに誤った判断だ。目立つ行為は競争相手に警戒心を与え、計画の妨げとなる可能性が高い。慎重さこそが市場での成功を支える基本姿勢である。

社名広告を宣伝のつもりで行っている場合が多いが、その効果はほとんど期待できないか、あったとしても自社のターゲットや利害に直接関係のない層に極めて僅かに届く程度だ。実際、人は目にしても特に反応しないことがほとんどであり、無意味に近い行為といえる。むしろ競合に情報を与えるリスクの方が大きい。

ある社長は「最近は高層ビルが増えてきたから、自動車の屋根にも社名広告を書くべきだ」と言ったというが、これはまさに「天動説」的発想だ。誰が高層ビルの窓からわざわざ道を通る自動車に注意を向けるというのだろうか。現実的には、そのような広告が目に留まる可能性は極めて低く、むしろ労力とコストの無駄に終わるだろう。

抜取り調査は市場戦略そのものを練るための調査ではなく、その前段階で活用される。市場のおおよその見通しをつけたり、自社で不明な点を確認したりするために実施されるものだ。全体像を把握するための予備的な調査と位置付けられる。

競合会社を効果的に偵察し、戦略を立てるための情報収集について、いくつかのポイントに分けて整理しました。

1. 情報収集の優先順位と対象

競合会社の中でも特にマークすべき数社に焦点を当て、他の競合からの情報は自然に入手できる範囲で十分です。特に注目する情報源は以下のとおりです:

  • 有価証券報告書や興信所の調査表:取引先や銀行、役員変更、在庫状況などに着目し、継続的に確認して動向や隠れた傾向を見抜く。
  • 営業案内や展示会情報:販売活動や価格動向を把握するための手がかりとし、競合の展示会に参加して製品や活動の最新情報を収集する。
  • 会社案内・社内報:社長や経営層の考えや企業の方針を知る。
  • 組織図・職制表:競合の経営管理体制や組織指向が見えるため、特に注目すべき資料。

2. 実地調査の重要性

市場調査業者に任せるのではなく、自社での調査が不可欠です。以下の方法で実態を把握します:

  • ローラー調査:テリトリー内を隅々まで調査し、全体の状況を正確に把握する。
  • 抜き取り調査:テリトリー内で疑問点や特定の情報の裏付けを取るために行い、効果的にローラー調査に移行する前に行う。
  • 尾行調査:競合のセールスマンの行動や訪問頻度を把握し、営業活動の実態を明確にする。

3. 競合の営業活動の把握

特に競合の営業力や管理体制、社長や部長の動向に注目し、戦略に役立てます。

  • 販売体制の確認:営業所の数や配置、顧客対応、配送センターなどの体制は、競合の戦力と弱点を理解するための重要な情報源です。
  • 訪問頻度とサービス:競合のセールスマンがどれだけ頻繁に訪問しているか、返品対応やクレーム処理がどうなっているかに注目し、競合の隙をつく機会を探ります。

4. 情報を活用した戦略策定

収集した情報を基にして競合の弱点を見つけ出し、優位に立つための戦略を作成します。

  • 隙をつく営業活動:競合が対応しきれていない顧客や不満のある取引先にアプローチし、機会を創出する。
  • 密かな行動:社名やロゴを目立たせる車や看板などは避け、動向が察知されないようにする。

5. 社名広告の効果とリスク

社名やロゴの使用は宣伝効果がある一方、競合に情報を与えるリスクにもなります。大企業でなければ社名を目立たせる広告は避け、進出や営業活動を静かに進める方が得策です。

以上のポイントを踏まえて、競合情報を集め、戦略に活用することで、市場において効果的な競争優位を築くことが可能となります。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次