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社長の方針それ自体が販売を阻害していた

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社長の方針それ自体が販売を阻害していた

K社はコンクリートの混和剤のメーカーであった。混和剤というのは、生コンの流れをよくするための界面活性剤である。

売上げは極度に不振で、倒産寸前の状態だった。K社長は「公共事業が少なくなってきているので生コンが売れない」と思いこんでいた。悪いのは需要減だから不可抗力だ、ということである。

こういう考えを持っている社長は世の中に多い。だから「今年の景気見通しは!」というような論文や講演会がやたらにはやる。

私はいつもそれを苦々しく思う。自由経済である限り、好況や不況はつきものだ。

事業というものは、好況や不況の波を超越して、長期的視野に立って行うものだ。

私は社長にこの点を強調して、社長自身の態度こそ大切なことと申しあげた。お客様のところを回っているかと聞いてみると、今までそんなことは夢にも考えたことはないということだった。

それが販売不振の根本原因であることを、様々な実例で説明し「会社を救いたければお客様のところを回りなさい。それがいやなら倒産しかない。どちらにするかは社長が決めることであって、 一倉が決めることではない」と決めつけたのである。

多くの社長は、コンサルタントは会社の内部を調べて仕事のやり方の指導をしてくれるものだと思っている。これは、私に関する限り大間違いである。

業績不振というのは、売上げが不調だからであって、会社の内部の仕事のやり方がまずいからではないのだ。売上げをあげたかったら、お客様のところへ行って教わってくるしか手はないのである。

K社長は、お客様のところを回る決心をした。これが会社を救ったのである。

K社長は、お客様のところ― 生コンエ場の巡回を始めた。そこでお客様から聞いたことは、文字どおリ「青天の露震」であった。

お客様は、K社長の訪間を喜んでくれた。そんなことをする社長などいないからだという。だから、できればK社から買いたいのだが、それはできないことだという。そんなことをしたら、操業に大支障を来すからだというのである。

そのワケというのは、次のようなことであった。混和剤業界といえども過当競争である。各社は競って混和剤の貯留タンクを自社の負担で生コンエ場に据えつける。

K社とて同様なことをしなければならない。営業部門から据え付けの許可を社長に申請すると「そんなものはサービスだから小さなものでよい」と言って、小さなものしか許可しなかった。これが販売不振の第一の原因だった。

小さなタンクのために、使いだすとアッという間になくなってしまう。補充を頼んでもすぐには届けてくれない。というのは、社長の出している「配送効率の向上」という方針があるために、少量配送では効率が悪くなって社長から叱れる。

これが第二の原因だった。社長の方針自体が販売不振の根本原因だったのである。社長は愕然とした。

しかし、販売不振の原因がハッキリしたのだから、これを直せばよいのだ。私は社長と相談した。倒産寸前の会社に貯留タンクの大きなものを据えつける余裕はない。

それは余裕ができてからということにして、とりあえずやらなければならないのは、配送効率を無視してお客様の操業に支障を来さないようにすることである。

そのためには、お得意様の数を配送能力に合わせて減らすことである、ということになった。よくても悪くても、死にもの狂いでこれを行うより他にないのである。

新しい方針は、たちまち効果をあげだした。六カ月後には対前年比売上げ三〇%増、一年後にはなんと六〇%増となったのである。会社は黒字転換である。

後でのK社長のお話では「お客様のところへ行った時の驚きといったらなかった。競合会社の貯留タンクは一〇〇〇リットルかそれ以上もあるのに、我社のタンクはたった二〇〇リットルなんですからねえ」というのだった。この例は、別にいろいろな教訓を含んでいる。

まず第一は、たったこれだけのサービスで年間六〇%もの売上げ増ということは、「競合他社のサービスもあまりよくない」ということである。

第二には、K社のような「限界生産者(占有率が低く、長期的には生き残れない会社)といえども、お客様の要求を正しく把握してサービスをすれば、大手に勝つ道がある」ということである。サービスは力に勝るのである

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