環境整備はこうして
まず、絶対条件は社長が先頭に立つ、ことである。これだけで社員の心構えが全く違ってしまうからである。
「よきに計らえ」というのはバカ殿様のやることで、よきに計らってやれるようなことではないからだ。
第二には、徹底的に行うことであって、「もうこのくらいでいいだろう」では、たちまち崩れてしまい、もとに戻ってしまう。妥協は絶対禁物である。
右の二つのことを前提として、
1 整備の担当区分とリーダーを決める
会社全体の平面図に担当区分を明示し、メンバーとリーダーを決定する。整備の責任は必ず境界より五〇センチ超えるようにする。つまり境界線よりお互いに五〇センチずつ、つまり一メートルの幅は、両方の担当責任とする。
これをやらずに、柱を境界とするということにすると、柱の幅だけ不整備の帯ができてしまうからである。これが人間というものである。
2、整備道具を取揃える
ほうきoチリトリ・雑巾という掃除道具だけでは整備はできない。環境整備は正規の仕事だから、それにマッチした道具が必要である。
最も基本的な道具は、ウエスと歯ブラシである。ウエスはボロ切れではなく、新しい木綿を適宜切って使用するのである。
あとは、ドライバー・へら・ピック・ブラシ・モップ・錆落し。洗潅剤・塗料その他必要に応じて揃えたり、特別作ったりする。道具は優れた仕事をするために絶対必要なものであり、価格もあまり高くないのだから、自由に買い求めさせればよい。
右の準備段階は大した手間も金もかからない。次はいよいよ環境整備である。
一番始めにやるのは、
3、社長自ら(でなければダメ)全社を巡回する
記録係を連れてである。何をやるかというと、「捨てるものを指示する」のである。むろん期限つきである。今使っていないもの、当分使うアテのないものは残らずである。
この時に、「何かにいるかもしれない」「修理すれば使える」と思ってはいけない。こんなことをすると、捨てるものがなくなってしまうからである。
何かにいるかもしれないといってとっておくと、しまいには始末に負えなくなって、必要な時に取り出すことができなくなってしまう。
修理すれば使えると思っても、いつ使うか分からぬものを修理するなんてことは、やる筈がない。必要になった時には修理しているヒマなどないのだ。
困るのは、「もったいない」という考えである。年配になる程この考えが強い。「もったいない」と思う程、もったいないことはない。
そのために大切なスペースをとられて、日常の仕事の邪魔になる。これ程もったいないことはない。スペースというものは、その一坪一坪に資本が投下されているのである。金利つきの資本がである。
とにかく、「今使っていないものは、何もかも捨てる」と思うべきである。むしろ、捨て過ぎると思われる程にである。
では、「捨てたものが必要になったらどうするか」というのだが、その時は「新しく買えばよい」だけの話である。
だから、すべてのものに目をつぶる思いで、いらないものは、「捨てて、捨てて、捨てまくる」ことが絶対に大切なのである。
これがやれるか、やれないかが、環境整備が成功するかしないかの分かれ道であることを肝に銘じなければならない。
だからこそ、社員にやらせたらダメである。必ず中途半端になって環境整備は失敗してしまうからである。
4、環境整備は毎日行わなければならない
環境整備は必ず「賃金を払っている時間内で行う」ことが絶対条件である。
もしも残業で行うような場合が生じたら、必ず残業手当を払わなければならないのとはいっても、残業時間で行うのは賢明ではない。どうしても「時間外」というイメージがつきまとって真剣味がうすれるからである。
また、「繁忙期だから」といって、その期間環境整備を中止したら百年目、環境整備は失敗し、社長はじめ社員の「精神革命」は失敗し、会社繁栄の機会は永久に失われてしまう。
忙しい時期でも、環境整備は必ず正規の勤務時間内に行い、それ以外の仕事を残業に回すのである。
毎日の環境整備の時間帯は、会社の勤務上の都合で決める。始業時から一時間、午後の始業時間から一時間、終業時前の一時間と、会社によってマチマチである。
「一時間なんてもったいない」と思われるかもしれないが、そこを我慢してとにかくやってみることをお勧めしたい。必ずよい結果を手に入れることができるからである。夢ゆめ疑うべからず、である。
とはいえ、毎日の全社をあげての環境整備に問題がないわけではない。それは、営業関係や配送業務の人たちは、一緒にできない場合があるからである。
こういう人たちは、土曜日の午後(週休二日制の場合には金曜日の午後)などに、まとめた時間をとって行うとかの工夫を必要とすることがある。
5、環境整備はどのように行うか
毎日一時間の整備を、ただ漫然と行ったのでは成果の期待はもてない。効果的なやり方をしなければダメである。
それは……まず、 一日一時間とすれば、始めの十分〜十五分は、その日の仕事の後始末をし、残りの時間はグループ毎の計画にもとづいて、特定の箇所だけに限定して行う必要がある。
それは、各人が一人で週刊誌の見開きの面積だけとし、それ以上やらないことである。「今日はこれだけ」という「これだけ主義」を守ることである。これだけを四十〜五十分かけて徹底的に磨きあげることである。
ただし、あまり汚れていない時は、もっと広い面積を行ってもよいが、広げすぎないことが大切である。こうすると、磨きあげた部分と汚い部分の差がハッキリして、効果を確認できるのである。これは極めて重要なことだから厳重に守っていただきたいのである。
そして、机の引出しの中・棚・車のトランクやダッシュボードもぬかりなく行う。
一方、管理職の人々は、雨もり、破損箇所、排水溝のつまり、サビている箇所、危険な箇所などの修理又は修理計画をたてる。
さらに、物の置き場所の決定、線引き、棚などの設置、表示などを行うのである。
これらのことを行う場合に最も注意しなければならないことがある。それは、会社始まって以来一度も使ったことのない場所―例えば建物の外壁とフェンスの間などであるが、ここを十分に清掃や整備を行うことである。
もう一つ、窓枠とか手擢り、内外壁、フェンスなどの塗りかえは、できるだけ社員で行うことである。手際はプロより悪いが、これによって一種の愛着が生れるから不思議である。ただし、地上ニメートルまでとし、それより上は危険だから、専門家に頼むことである。
もう一つ大切なことがある。この時間を利用して″防火訓練´を最小限月一回は行うべきである。
某焼肉レストランで、夜、満員の客席から、焼肉コンロが過熱のために発火し、全焼したことがある。ところが、定期的な防火訓練の効果があらわれ、店長の指揮のもとに、整然とお客様を誘導し、ロハ一人の負傷者も出さなかった。
ある社員は、火の中でお客様用トイレの扉を叩いて、「お客様、いらっしゃいますか、火事ですよ」という行動さえとったのである。翌日、焼跡の検証を行った警察と消防署の方は、「一人の負傷者も出さないというケースは珍しい。
いったい平素どんな訓練を行っていたか」と感心の面持ちで質問をしたという。
A社長は「社員がよくやってくれて、お客様に怪我一つさせなかった」と目に涙を浮かべながら社員への感謝の気持を私に語ったのである。
6、社長自ら定期チェックを行う
定期チェックは絶対に社長自ら行うべきである。これは、社長の熱意を表明するものである。
チェックは月一回とし、予め日時を指定しておくことが大切である。不意打ちして社員の手落ちを責めるようなことは厳禁である。
一回目はチェックというよりは、やり方を指導するのである。社員は、かなり不十分でも、以前よりははるかによくなっているので、それで十分だと思っているからである。
不十分な箇所はウエスと歯ブラシを持ってきてもらい、自分でやってみせるのがよい。汚れを全く認められない程でなければダメなのである。
二回目は一回目のチェックとし、三回目には、お絞りとツマ楊子を持って、汚れの徹底的なチェックを行うようにする。
四回目からは、チェックリストを持って回り採点を行って公表するのである。半年か一年に一回はコンクールを行って、優勝、準優勝、二等賞というように、それぞれ優勝旗とか、カップとかを授与し別に個人賞を出すのもよい。
優勝旗には、優勝グループのリボンをつける。等外は努力賞として、タオルと石鹸を出し、「もっときれいにしま賞」ということにでもしたらいい。
某社では、ボーナスの査定項目の最重点項目にしている。(第1表は、この会社の環境整備計画表で、基本方針の7にこのことが明記されている。)
このようにして、環境整備を「社風」にまで育てられたら立派である。
このような域にまで高められると、会社の意識革命というよりは、むしろ精神革命ということになる。
会社は完全に生れ変わり、かつての我社の姿などは別世界のように遠いものになってしまうのである。偉なるかな環境整備、ということになるのである。
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