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特命工事が多くなってゆく

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特命工事が多くなってゆく

S社は建築業である。S社長は、明けても暮れてもお客様訪間と建築現場の巡回である。この二つを社長が始めてから、S社は全く変わってしまった。

現場回りの重点指導事項は環境整備である。これをやるようになってから、社員は丁寧な仕事をするようになり、お客様の評判は非常によくなった。

環境整備の成果は大きかった。工期が目に見えて短縮されていった。ある冬の時期に、小学校の講堂を請負った。その冬は例年になく寒気が厳しく、何十年ぶりというような雪が降り、工事のできない日が多かった。

校長先生は、卒業式は新築した講堂で行う予定が狂って、父兄にご迷惑をかけることになるのではないかと、ずいぶん心配されたという。しかし、その心配は無用だった。予定通りに工事が進み、卒業式に間に合った。校長先生は大喜びであった。

工期は六カ月の予定だったが、工事の出来ない日が一カ月以上あったにもかかわらずである。三割もの工期が短縮されたのである。もう一つ、転落事故がバッタリと後を断ち、ケガも日に見えて減ってしまったのである。

S社長は、「一倉さん、労災保険の負担金が最低になりましたよ」と私に語った。S社の建築現場を見せていただいた時には、私は自分の目を疑った。

木造注文住宅で、かなりの大型だった。休日だったので作業員はいなかったが、「チリ一つない」なんて表現が物足りない程であった。

敷地内にチリ一片ないのである。ゴミ箱の中までである。これから使う部材は、屋内であれ、屋外であれ、必ず家と平行又は直角に置かれ、その端末はキチンと揃えてあるのだ。毎日作業をしている現場でこれである。

S社長の話では、お施主(建築主)さんが現場を見にきて、みな感嘆される。そして「S社に頼んでよかった」とおっしゃるという。ある人は「お宅の会社は誠に不思議な会社だ。私がいつきて見ても、監督の方は必ずほうきを持っている。まるで掃除夫のようだ。あれで、よく監督がつとまるな、と思うのだが、引渡し期日が遅れたことがない。本当にどうなっているのですか」と。

これが作業現場の理想の姿だと私は思っている。K社の鋳造工場――金型を使ってのアルミ鋳造― ―は、会社の中で最も環境整備ができていて、不良率は極めて低い。環境整備前には他社なみの不良率だったとのことだ。

そこの課長は、毎日職場のあちこちのペンキ塗りばかりしている。課長としての仕事は、以前は毎日忙しかったが、今はごく僅かしかないので、ペンキ塗りでもしているより外に仕方がないのだということだった。

話をS社にもどそう。S社の仕事の質は他社を圧し、しかも納期確実ときている。お客様は、僅かばかり高い価格など当然のこととして大切な仕事をまかせてくれる。

S社の仕事は年を追うに従って「特命工事」の比率が高まってゆく。最近では受注の七〇%を超す特命である。

そのために、収益性は高まり、その上不況になる程注文が増えていくというのである。この、信じられないようなことが、S社の姿なのである。

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