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正しいワンマン経営とは

社長の役割とは何か

社長は、経済におけるリスクを伴う意思決定を行う立場にある。役割を果たすためには、次の三つの点が重要となる。

  1. 関心と行動を未来に向けること
  2. 市場や顧客の要求の変化を捉え、絶え間なく革新を続けること
  3. 高い収益を生み出す事業を構築すること

これらの要素を実践することで、社長としての責務を果たすことができる。

社長の基本的な態度は、外部指向、未来指向、そして構造指向に集約される。外部の情勢は絶え間なく、しかも驚くべき速度で変化を続けている。この変化に対応するためには迅速な判断と行動が欠かせない。躊躇すれば、会社は市場から取り残され、あっという間に淘汰されてしまうのが現実である。

外部情勢の変化を正確に把握し、その変化が自社の経営にどのような影響を及ぼすのかを分析することが求められる。そして、その変化に適応するために自社をどのように変革していくべきかを決断しなければならない。その対応には短くとも二年から五年、場合によっては十年を要することもある。この長期的な視点を持ちつつ、今何をすべきかを見極めることが経営者の責任だ。

ここに未来指向の重要性がある。十年後を見据え、五年後の自社の姿を具体的に想定し、その姿に向けて自社を変革していく必要がある。そのためには、「今この瞬間に出発しなければ手遅れになる」という意識を持たなければならない。五年後や十年後という時間軸は、社長にとって常に「現在」として捉えるべきものである。

スター精密は、かつてカメラや時計のネジを製造するメーカーだった。しかし、十数年前に時計の電子化が進み始めると、佐藤社長は電子時代の到来を見越し、会社をエレクトロニクス分野へと転換する決断を下した。メカの会社をエレクトロニクスの会社へと生まれ変わらせるという、大胆な挑戦に踏み切ったのである。

そして、言語に尽くしがたい苦労を経て、ついに会社の転換を成功させた。佐藤社長は私に向かって「一倉さん、こんな苦労だけは二度としたくありませんよ」と語った。その言葉には、奇跡とも言える偉業を成し遂げた人ならではの重みがあった。部外者には想像も及ばない困難があったに違いない。このエレクトロニクスへの転換は、単なる「決定」というより、「決断」と呼ぶべきものではないだろうか。

クラウゼビッツは「決定」と「決断」の違いについて明快な解釈を示している。決定とは、複数の選択肢の中から最適な手段を選ぶ行為である。一方、決断とは、不確実性と不安が立ち込める暗雲の中へ賭ける行為である、と彼は述べている。選択の範囲を超えた覚悟とリスクを伴う行為、それが決断であるというわけだ。

社長の決断や決定は、常に外部環境への対応であり、未来を見据えたものである。それは多くの場合、社員が知らない世界や領域に関わるものであり、社員に意見を求めても本質的な助けにはならないことが多い。むしろ、意見を求めるべき対象は社内ではなく、社外の専門家や情報源であることが多い。さらに、重要な事柄であればあるほど、社員に意見を求めることはできない。こうした一連のプロセスこそが事業運営の現実であり、社長の責務を象徴するものである。

この点については、日頃から社員に説明し、理解を得ておく必要がある。それを怠ると、経営の実態を知らない社員が「うちの社長は私たちに相談をしない」「ワンマンで困ったものだ」といった的外れな評価を下す危険がある。社員に誤解を与えないためにも、社長の決断や判断がどのような背景で行われるものなのかを平素から伝えておくことが重要だ。

会社の内部事情を無視せざるを得ない決定を下す場面も出てくることがある。それは外部への対応として避けられない場合もあるからだ。事業とは本質的に市場活動であり、市場の変化に適切に対応できなければ、会社そのものが存続の危機に直面する。内部の調整よりも市場の要求を優先しなければならない場面があるのは、この現実に基づいている。

正しいワンマン経営とは、社長が未来を見据えた決断と外部環境への迅速な対応を実践することに他ならない。社長の役割は、企業を未来に導くことであり、そのためには「市場と顧客の変化に対応して革新を行い、高収益型事業を創り出す」という明確な目標が求められる。ワンマン経営の「正しさ」とは、独裁的に振る舞うのではなく、外部に対して構造的な視野を持ち、未来に向けた責任ある意思決定を下すことである。

経営者の意思決定には、しばしば「決断」が必要だ。クラウゼビッツの言葉を借りれば、決断は「無気味な暗雲の中への賭け」であり、未知の未来に向けて企業の方向を定める行為だ。これは単なる選択の問題ではなく、社長が不確実な状況下でリスクを負って推し進めるべきものである。スター精密の佐藤社長が、時計部品メーカーからエレクトロニクス分野への転換を決断したように、未来を見据えた大きな決断がなければ、企業は市場の変化に取り残されてしまう。

また、社長の決断は社内の事情や意見に左右されるべきではなく、あくまで外部環境の変化に基づいて行われるべきである。こうした決断を下すためには、社員よりもむしろ社外の専門家や友人など、幅広い視点を持つ人々から意見を得ることが重要だ。なぜなら、事業は市場活動であり、市場の動向に対する理解と対応が最も重要だからだ。社内の声に頼りすぎると、内向きの判断に陥り、外部の変化に適応する機会を逃してしまう可能性がある。

さらに、経営者はこの「ワンマンの意味」を社員に理解させておくことが必要だ。未来指向の経営判断を行う上で、社員への相談が欠かせないわけではないことを説明し、経営者の役割を周知することで、誤解や不満を防ぐことができる。経営とは、常に市場に対して外向きの姿勢を持ち、未来に対して責任を持つことで成り立つ。そして、社員には社長の判断が市場活動への対応であることを理解させ、共に同じ方向を目指す体制を整えることが、正しいワンマン経営の基盤となる。

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