正しいクレーム処理とは
大方の記憶に残る事件に、三洋電機の「ファンヒーター事件」があると思う。ヒーターの排ガス中毒で死人がでたのである。事件が起ったのが一月。
これが社長の耳に入ったのが五月だった。
死人の発生した事件が社長の耳に入るのに四カ月もかかったとは、驚くべきことだが、なぜ、こんなことになってしまうのか、を考えてみよう。
この事件だけではなく、何か重大な事件が発生すると、社長は事件を引起した人の責任を追及する、という全く間違った態度をとるからである。
宮仕え人種が上司から何等かの落度やミスなどを追及された場合には、ごく軽いものなら話は別、ある程度以上に重大な過失は「一週間の減給なんてことでは済まず、降格、左遷などの処罰を受けると、もうその会社では一生日の目を見ることができない」ということにもなりかねない。
このような事態になるおそれのある過失は、社員が一人残らず結束してこれをかくす。仲の悪いものといえども例外ではない。明日は我身かも知れないからである。
もしも、課長が部下の過失を知った場合は、課長はヒタかくし、知らんふりして絶対に部長に報告しない。
部長がこれを知った場合は、これまた上司には報告しない。このようにして二重、四重のバリヤ(防御態勢)を張って、その間にモミ消しを行うのである。
事故が起ったのは一月だが、井植社長の耳に入ったのは、五月である。
事件が大きすぎて、かくし通すことができなかったのである。「せめて、事件が起った時に私の耳に入っていたならば……」という社長の退任時の言葉は、たしかにそうだが、何をいっても″後の祭クである。
こんな重大事故でさえ、これである。もっと小さな事故やトラブル、クレームなどは殆んど社長の耳には届かないのである。このことを知っている社長は極めて少ない。
社長の知らない間に多くの事故やクレームがヤミからヤミに葬られて、お客様に多くのご迷惑をおかけし、会社の信用を落しているのである。
このような事故を未然に防ぐことこそ、社長の最も重要な役割の一つである。私は、このことを経営計画書の方針書に、明記しておくべきだという主張を持っている。
それも、基本方針の中でなければならないというのが私の考えである。それ程の重要性を持っているのである。
それは、
1、クレーム処理は、すべての業務に最優先して処理しなければならない。
2、いかなるいい訳も絶対にしてはならない。「申し訳ありません、直ちに処置します」とだけ申しあげる。
3、クレーム処理には、時間と費用を絶対に惜しんではならない。
4、クレーム自体の責任は絶対に追及しない。クレーム不報告の責任を厳重に追及する。
というものである。
クレームは、責任云々の問題ではない。クレームを起そうと思っている人はいない。みんな一生懸命やっているのだ。
しかし、人間である限り誤りを起すのはいたし方ない。大切なことは、一刻も早く正しい処置をとることなのだ。それが、この方針である。
そのためには、クレームを即刻社長が知ることである。
だから、クレーム報告こそ最重要事である。これを怠ることは、お客様と我社への反逆である。だから厳重にその責任が追及されなければならないのである。
報告責任者は、「一番先にお客様からクレームをきいた人」であって、クレームを起した人であるとかないとかは全く関係ないのだ。
報告は、即時口頭で行い、さらに文書によって報告する。どのようにしたら社長に最も早く知らせるかを工夫して明文化しておくとよい。
文書は、年月日、クレームをつけられた得意先と役職、氏名、クレームを受けた人、クレームの内容、とこれだけでよい。クドクドと色々なことを書かないほうがよい。
社長は直ちに、まず電話でおわびし、必要があれば即時お客様のところへお伺いするのである。あとは、処置完了まで何をしなければならないかは、ここに書く必要はないだろう。
クレームは広く解釈したほうがよい。
あるブティックのチェーン店では、毎日クレームの数が店舗勤務者の数と同じ数だけあることを知って、社長がビックリしたということがある。クレーム処理ほど、社長の姿勢が明らかに表われるものはない
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