◇手元資金の重要性
これまで損益計算書、貸借対照表と説明してきましたが、中小企業の実態は実は財務諸表からは見えづらい点も多々あります。私は講座の中では特に「手元資金の重要性」を受講生の皆さんに強く訴えていますが、この手元資金こそが経営の実態を見るに最も確実な指標と言えるでしょう。中小企業の安全性を見る順番とは、①手元流動性②当座比率(当座資産/流動負債)、あるいは流動比率(流動資産/流動負債)③自己資本比率(自己資本/総資本)であり、「現金に近いところから見ていく」のが大原則です。緊急性の高い順、つまりは短期的な指標から見ていかねばなりません。まずは自社の「手元流動性」を把握していただくため、以下その重要性を解説していきます。手元流動性=(現預金+有価証券等すぐ換金できる資産+すぐに調達できる資金)/月商手元流動性とは、上記のようにすぐに用意できる現金、及びそれに準じたものを月商で割ったものです。中小企業であれば1・7ヶ月分(大企業なら1ヶ月、新興企業なら1・5ヶ月)が安全性の高い会社かどうかの目安となります。すぐ動かせる資金が多ければ、そうそう資金が枯渇することはありません。逆に0・3ヶ月も満たない状態ではその会社はいわゆる自転車操業であり、ギリギリの状態で資金を回している、という状況ですので、もし不測の事態が生じてしまったら一気に経営が傾き、金策に奔走することになります。それが1年の中での稼ぎ時であれば、その機会ロスは多大なものとなるでしょう。余談ながら、「うちは無借金経営です」という場合も、それが自転車操業であるなら、あまり意味はないと思われます。無借金経営であり、かつ手元流動性が高い、という状況であって初めてキャッシュリッチな会社と言えるのであり、自転車操業になるくらいなら、多少借入をしてでも手元流動性を確保していたほうが、不測の事態を見据えれば遥かに安全性の高い企業とみなされるのです。また、借入そのものはその企業の信用度を図る指標ともなりますから、その点からも一概に「無借金経営が最も好ましい」とは言い切れません。中小企業の財務諸表には経営者の姿勢、考え方が強く反映されてきます。私も多くの受講生から持参した決算書を見てほしいと依頼されるのですが、例えば創業から80年、100年を超える会社の財務内容は、傾向として安全性の高いものであることが多いようです。そこで受講生から現社長や先代社長の経営姿勢について伺うと、必ずと言っていいほど明確なポリシーをお持ちであり、それがそのまま数値に反映されています。長寿企業となると、「会社の存続」が第一ですから、必然的に安全性の高い経営となる傾向が強いように思われます。まさにその会社の社風が数値になって表れていると言ってよいでしょう。
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