成長とは何か?成長とは有能感の獲得である成果確認シートに記入しているうちに、「成長とはいったい何なのか?」、あるいは「どんな切り口で成長を捉えたらいいのだろう?」という疑問が湧いてくるかもしれない。何をもって成長とするのかは人それぞれであり、絶対的な正解は存在しないが、筆者は「有能感」という概念で成長を捉えている。有能感とは、「自分は仕事をうまくやれる力を持っている」という自分に対する自信である。「失敗の繰り返しがなくなった」、「障害もたくさんあったが、我ながらうまく切り抜けたものだ。もう大丈夫だ」、「まったく新しいことへのチャレンジで、ものすごく不安であったが、何とかそれを成し遂げた。次の仕事が待ち遠しい」これらはみな有能感の発露であり、この種の思いが自然と湧き出てくる瞬間、それが成長の実感である。有能感は仕事の面白さがつれてくる有能感を手に入れるためには、仕事の面白さを感じながら仕事に打ち込むのがベストである。第3章で説明したように、「気づき、達成感、フロー体験」などの仕事の面白さを経験した人たちは、面白さに動機づけられて、さらなる課題にチャレンジする。チャレンジは苦しいが、同時に新たな面白さもつれてくる。面白いからまたチャレンジする。この繰り返しのプロセスで、人々は仕事に必要な知識を学ぶ。スキルにも磨きをかけ、同時に有能感も獲得する。このように、仕事の面白さは有能感の促進剤であり、日々の仕事の中で小さな面白さをたくさん体験することが、有能感の獲得に向けた出発点なのである。もし、成果確認シートの記入に際し、「成長の実感と言われても、そんな大袈裟な体験はなかったが……」と思ったときは、「あっ、そうか」という小さな気づきや、「比較的仕事に乗れていたなぁ」と感じられたときの出来事をメモしてほしい。有能感のレベルアップ筆者は、常々、「なぜ、美容師は、あんなに必死になって勉強するのだろうか」と疑問に思っていた。朝は始業前の8時から夜は閉店後の24時頃まで、実技訓練を自分に課し、一心不乱に技能習得に励んでいる。休日は休日で、講習会だ、商品勉強会だ、技術発表会だとさまざまな行事が目白押しである。同年代の若者がアフターファイブで浮かれていても、羨ましさをグッと抑えて勉強する。何が彼らの原動力になっているのだろうか。経験者によれば、根底には「美容師は自分の腕だけが頼りだから……」という職人独特の「技能習得の努力」に対する納得感と覚悟を持っているという。また、「他の仲間も一所懸命やっているのだから負けられない」という競争心も無視できない。しかし、それはベースの話であり、脱落しないための最低条件である。こうまでも彼らが頑張れるのは、一人前の美容師になるまでのキャリアの形成目標が明確であり、かなりの確率で「努力すれば達成できる」という予感があるからだ。達成の予感を抱く美容師はキャリアアップ目標をステップ・バイ・ステップで設定し、上述のごとくの努力をする。それは見方を変えれば、有能感のレベルアップの旅路である。たとえば、入社したての見習い美容師がシャンプーの基本技能をマスターした。それは1つの成長であり、嬉しい体験に違いない。しかし、喜びも束の間で、すぐまた次の成長欲求が芽生えてくる。お客様の頭皮や髪質に応じたシャンプー技術の習得である。これは難度の高い目標で、一朝一夕の習得は難しい。何百人、何千人という単位で、実務経験しなければ、身につかない能力である。しかも、経験だけでなく、研究が必要だ。ときには、失敗し、お客様からも上司からも叱られる。それでもめげずに努力して、数年後には多くの指名客を獲得するまでにシャンプーが上達し、心の中には「自分は、どんなタイプのお客様にも対応できるシャンプー技術を持っている」という有能感が湧いてくる。次はスタイリスト(ヘアカットの担当)へのチャレンジだ。シャンプーとはまったく違う取り組みで、新たな努力が待っている。友達におカネを払ってモデルを頼み、ヘアカットを練習する。そんな努力の甲斐あって、スタイリストに採用された。一人前の美容師として、周囲から認知された瞬間である。承認欲求が満たされ、自己成長の手応えもズシンと感じる。美容師にとってはもの凄く嬉しい体験である。しかし、その嬉しさは「スタイリストに採用された」という目標達成の喜びであり、その段階ではまだ「スタイリストとしての有能感」を実感するのは難しい。有能感の獲得には、次なる目標のトップ・スタイリストへの挑戦プロセスで、カット技術の向上に向け、再びコツコツと地道な努力をやり続けることが必要だ。このように、キャリアアップ目標を追いかけるプロセスで、レベルアップの伴った「新たな種類の有能感」を獲得する。それが成長の手応えの1つの捉え方である。大きな成功体験がもたらす自分の可能性の確信前述のように、有能感の獲得には、何よりも日々の小さな努力の積み重ねが大切だが、より強い有能感を得るためには、意図して仕掛ける「大きな成功体験」が必要だ。それは、自分の意思が相当程度込められた「極限まで背伸びした目標」を意欲的に追いかけて、目標達成を手に入れる。あるいは、いいところまで追い詰めるという体験である。トップ・スタイリストを目指す美容師が、業界主催の技術発表会にチャレンジする。目標は優勝である。仕事の合間を縫って、新しいヘアスタイルの考案に向け、彼女をモデルに何度も何度も試行錯誤を繰り返す。「いい加減にしてよ!」と膨れっ面で睨まれても、拝み倒して工夫を続けた結果、発表会で入賞する。しかし、優勝できなかった悔しさがこみ上げて、とても素直には喜べない。悔しさをバネに再度チャレンジし、ついには優勝を勝ち取った。その瞬間の彼の心模様は優勝の喜びもさることながら、「自分にはカット技術だけでなく、デザイン・センスもありそうだ」という自分の新たな可能性に対する確信だったという。このような大きな成功体験をいくつか経験すると、「自分は無限に近い可能性を持っている」という感情が芽生えてくる。もちろん、連戦連勝は考えにくく、ときには失敗があったり、結果が出なかったりで、落ち込んでしまうこともあるだろう。それを何とか堪えて、チャレンジを続行し、再び新たな成功体験をつかみ取る。つかみ取るたびに、自分の可能性に対する確信は深まり、「そんなに可能性があるならば、もっともっと力を磨き、自分らしさを極めたい」という思いを募らせる。それは単なるキャリアアップを超えた新たな次元の成長欲求の出現であり、その状態を筆者は「自己実現欲求の喚起」と呼んでいる。このような「最高の自分らしさを極めたい」という自己成長の追求の世界に到達したかどうか。そいう切り口で自分の成長度合いを確認するのが、成長の手応えの2つ目の捉え方なのである。
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