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店舗展開戦略

イトーヨーカ堂の店舗展開には、非常に明確な戦略が見て取れる。まず東京都を起点に展開を開始し、その後は周辺地域へ拡大していった。次に東日本全体へ広がり、さらに段階的に西へと進出するという流れをとっている。

まず、東京都での展開だが、店舗所在地は東京都北部、東北部、東部、東南部に集中している。その分布は、いずれも商業地としては二流とされる地域ばかりで、一流地とされる中心部や西部には一店舗もない。その他のエリアとしては、三多摩地区の都市にも展開している。

一流地を避けるという明確な方針が浮かび上がる。次に、近隣県での店舗展開を出店順に見ると、北浦和、川越、越谷、蕨、川口、春日部、松戸、西川口、久喜、せんげん台、坂戸、東松山といった順で広がっている。一方で、埼玉県内で第二の都市とされる大宮市には出店していない。また、北浦和も浦和市の中心地からは距離がある。

神奈川県でも、展開の中心は県都以外の都市に置かれている。県都である横浜市の中心部には一切出店せず、すべて郊外のベッドタウンに店舗を構えている。この方針からも、一流地を避ける戦略が一貫していることがうかがえる。

栃木県や茨城県においても、県都である宇都宮や水戸には出店していない。一方で例外的なケースとして、長野店は商店街の中心地である権堂町に出店している。これらの事例から、同社の出店戦略の特徴が十分に理解できるだろう。一流地を避けつつ、郊外や二流地を中心に展開する明確な方針が見て取れる。

では、店舗の立地条件について具体的な例を挙げてみよう。大阪府堺市における店舗の立地条件がその一例だ。〈第3図〉を参照しながら、その特徴を確認してほしい。

南海高野線の堺東駅周辺には、高島屋、ニチイ、イズミヤ、長崎屋の四つの大規模店舗が集積している。このエリアは明らかに過剰な店舗数を抱える、いわゆるオーバーストアの状態にあると言える。

さらに、市役所前に位置する「再開発ビル」にも注目が集まっており、将来的にはさらなる大手の進出が予想される。しかし、イトーヨーカ堂はそのような激戦地には関心を示さず、南海本線堺駅近くの旧市内西端にある戎島町という、商業地としては二流に分類される場所を選んで店舗を構えた。これは、阪神高速道路によって分断された市場の西部エリアにおける「核」となることを狙ったものであり、その意図は伊藤社長自らが明言している。

一流商店街への進出ばかりを競い合うように考える多くの社長たちは、「大市場や一流商店街こそが最大の収益をもたらす」という固定観念に縛られている。その結果、競争の激しい市場に飛び込むこと以外の選択肢を見出せないまま、同じ方向に突き進んでいるのだ。

その上、同じ考えを持つ他の社長たちも一流商店街に集中するため、結果として「骨折り損のくたびれもうけ」に終わる可能性が非常に高い。一方で、二流地や二流商店街を戦略的に狙うイトーヨーカ堂は、スーパー業界でナンバー1の業績を上げている。この事実が、固定観念に囚われない柔軟な戦略の重要性を物語っているといえるだろう。

イトーヨーカ堂の出店戦略は、常に県都を避け、一流商店街を避けるという「二流地主義」に基づいている。この二流地には強力な競争相手が存在しないため、ナンバー1の地位を獲得することが容易である。その結果、圧倒的な優位性を持って市場を支配し、高収益を上げている。この成功は、他社が踏み込まない領域を選び抜く、優れた戦略によるものであり、同社の大きな強みとなっている。

イトーヨーカ堂とは全く対照的な出店戦略を採用しているのが「丸井」である。同社の有名なキャッチフレーズ、「駅はどこ、丸井のそば。丸井はどこ、駅のそば」が示すように、丸井は駅近という一等地に出店し、大型店主義を貫いている。この戦略は、駅周辺の高い集客力を活かし、都市型の大型店舗として顧客を引き寄せる方針に基づいている。

イトーヨーカ堂の店舗展開戦略の要点を以下にまとめます。

1. 地域ごとの段階的な展開

  • 東京都から始め、次に周辺地域、さらに東日本、西日本へと拡大:イトーヨーカ堂は、まず東京都に集中し、続いてその近隣地域へ、そして東日本から次第に西日本へという順序で展開していく戦略を取っています。
  • 既存の拠点を起点に拡大:段階的に近接エリアに店舗を増やすことで、効率的にエリアの支配を強め、拠点からの物流や広告効果も高めているといえます。

2. 一流地を避け、二流地に出店

  • 競争の少ない二流地を選定:都内の商業エリアで競争の激しい一流地を避け、北部や東部の二流商店街や商圏に店舗を配置。たとえば、足立区、板橋区、葛飾区など、都心からやや離れた地域や三多摩地区の都市が中心です。
  • 高収益を狙うための二流地主義:一流地ではなく、あえて二流地に出店することで競合が少なく、独自の市場ポジションを築きやすい点を重視しています。

3. 人口の多いベッドタウンへの進出

  • 県都中心部を避け、住宅地やベッドタウンに出店:神奈川県では横浜市中心部を避けて郊外エリアに進出し、埼玉県でも大宮市の中心部を避け、川口や春日部などの郊外地域に出店。
  • 住民の生活需要に特化した立地選び:周辺住民の生活を支える大型店を展開することで、地元住民に密着した営業を行っています。

4. 立地条件の工夫

  • 交通利便性を考慮した郊外の立地:堺市の例では、交通の便が良いながらも競合が少ないエリアを選び、既存の競争過多なエリアを避けて郊外に拠点を設置。市内の再開発エリアを避け、南海本線の堺新駅近くの二流地を選んでいます。
  • マーケット内での「核」のポジションを目指す:都心部ではなく郊外やベッドタウンの核となる位置に出店し、そのエリアの「生活の中心」となる役割を狙っています。

5. 丸井との対比

  • 丸井はイトーヨーカ堂と対照的に、「駅のそば」にこだわり、大型店を展開する戦略です。これは丸井のクレジット販売における集客を最大化するためで、イトーヨーカ堂が住宅地中心に顧客接点を広げるのとは対照的なアプローチです。

まとめ

イトーヨーカ堂の店舗展開戦略は、段階的な地域展開と二流地選定によって競合を避け、効率的に収益を確保することを重視しています。都市部や競合の激しい一流地を避けることで、安定した集客と地域密着型のマーケティングが可能となり、強力な収益基盤を構築しています。

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