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小企業が全国的な販売網を持つでも

販売を戦いに例えることはよくあるが、その「戦い」の具体的な中身を理解している企業は驚くほど少ない。営業部門に全てを委ね、競争の本質を深く考えることなく、単なる価格競争や漠然とした「競争している」という意識だけで済ませているケースが大半だ。

その証拠に、「市場戦略計画書」と呼べるようなものを目にする機会はほとんどない。この分野がこれほどまでに未開であることに驚きを禁じ得ない。結果として、敵の攻勢を受けた際には何の対策も取れず、ただ狼狽し、右往左往するだけの状態に陥る。

そのため、継続的に市場情報を収集し、それを基盤に一貫した市場戦略を構築している企業は、圧倒的に有利な戦いを展開できる。この戦いにおいて最も効果的とされる戦略が、「ランチェスター戦略」だ。

この戦略は、業界や業種、業態、さらには企業の規模にかかわらず、あらゆる企業で導入可能だ。その応用範囲は極めて広く、まさに無限と言っても過言ではない。

社長である以上、ランチェスター戦略を深く理解し、自ら情報を分析し、自らの意志で市場戦略を立案する必要がある。そして、陣頭に立ち、それを推進していかなければならない。その先には大きな成果が待っており、それを手にすることで市場での優位性を確立することができる。

とはいえ、ランチェスター戦略が唯一無二の最善策というわけではない。その戦略にも限界があることを認識しておく必要がある。限界を理解した上でこれを活用することこそ、真にその力を引き出す道だ。競争がますます激化する中で、自社を生き残らせるためには、ランチェスター戦略を十分に駆使し、成果を上げることが社長の責務である。

A社は四国のT市に拠点を置くパッケージ食品のメーカーで、従業員数は約130名。月商は2000万円である一方、損益分岐点は3000万円に達しており、現在大幅な赤字を抱えている。市場全体の規模は月10億円にのぼるが、同社の市場占有率はわずか2%にすぎない。まさに「限界企業」または「限界生産者」と呼ばれる状態に陥っている。

小規模な企業ながら、A社は全国的な販売網を構築していた。営業所は主要都市に配置され、本社に4名を置き、北から仙台1名、東京4名、名古屋1名、大阪6名、広島1名、福岡2名の計19名という布陣だった。しかし、営業所ごとの「売上年計」を分析したところ、例外なくどの営業所もジリ貧の状態にあることが判明した。この状況は、まさに典型的な限界企業型の特徴を示している。

売上不振を挽回しようと、社長をはじめ社員全員が必死だった。「売れないのではない。売らないのだ」という意気込みを込めたスローガンも掲げられたが、実際のところ、その言葉は空回りするばかりで効果を生むことはなかった。

新商品を次々に開発してはみたものの、売れなければそれで終わりだった。数年前にようやく売れる商品を開発し、一時は喜びに沸いたものの、その成功も束の間。大手競合他社にあっという間に模倣され、売上はすぐに頭打ちとなった。それ以降、どう打開すればよいか分からず、苦境に立たされる日々が続いていた。

私が最初に勧告したのは、新商品開発に対する考え方の転換だった。「どれだけ売れる商品を開発したとしても、限界企業は販売力が弱いため、その成果をすぐに模倣する大手企業に利益を奪われるだけだ。結果として、自社が開発費を投じて競合他社を利する『モルモット』になってしまう。この構造を理解しなければならない。新商品開発の華やかな夢も、限界企業にとっては『幻』に過ぎないのだ」と。

だからこそ、新商品開発の夢は将来に延期し、今取り組むべきは、現在扱っている商品の品質、特に「味」を向上させることに限定すべきだ。現行の商品群自体には大きな欠陥は見られないため、その点を過度に心配する必要はない。そして、何より優先すべきは売上の増大である。それが今、最も取り組まなければならない課題だ。

そのために最初に取り組むべきは、販売網の再整備だ。販売活動は自社単独で完結するものではなく、競合相手との間で顧客を奪い合う「争奪戦」の一環である。この現実を理解し、効果的な販売体制を築くことが、売上増大への第一歩となる。

さらに厳しい現実として、競争相手はどれも自社より遥かに規模の大きい企業ばかりだ。そして、その競争において自社が負け続けているのは明白だ。その証拠が、各営業所ごとの売上年計が一向に伸びず、むしろジリ貧の状態に陥っているという現状だ。

もし戦いに勝利しているのなら、売上年計は右肩上がりで成長しているはずだ。現状を直視し、「販売戦に敗れ続けている」という厳しい認識を持つことが何よりも重要である。この事実を受け入れることから、真の改善策が生まれる。

「我が社が戦いに敗れ続けている原因は、現在の戦法が誤っているからだ。だから、今のやり方をいくら必死に続けても成果は期待できない。戦法そのものを見直し、変えるところから再スタートしなければならない。まずは、自社の戦法のどこに問題があるのかを徹底的に検討することから始めよう。」

根本的な原因は、あなたの会社が「限界企業」であることに起因する。業界全体の市場占有率が一定のパーセント以下の企業を「限界企業」と呼び、限界企業は販売競争において、あらゆる面で不利な立場に立たされる。市場占有率の重要性については、『社長学シリーズ』第一巻「経営戦略・利益戦略」篇で詳述しており、本篇でも後に繰り返し解説していく。

だからこそ、大手と同じ発想や手法で販売促進策を展開しても、限界企業には通用しない。ここで、あなたの会社の営業所配置について改めて考えてみよう。全国的な販売網を持ちながら、全国占有率がたったの2%しかないという現状は、何か根本的な問題を示している。少なくとも、5%や7%程度の占有率があってもおかしくないはずだ。それが実現できていない理由を、冷静かつ徹底的に分析する必要がある。

占有率が5%になれば月商は5000万円、7%になれば7000万円に達する計算だ。それにもかかわらず、全国的な販売網を展開して既に10年が経過しているのに、いまだに2%の占有率に留まっているという現状は、明らかに問題を抱えている。この数字は、単なる販売力不足ではなく、戦略そのものが機能していないことを如実に示している。

このままでは、いくら努力を重ねても黒字転換は望めない。その理由は明白で、あなたの会社は各営業所ごとに競争相手との戦いに敗れ続けているからだ。つまり、販売網は存在しているものの、その機能が競争相手に対して十分に発揮されていない状態にある。これが占有率の低迷、ひいては売上不振の根本原因だ。

「戦い」とは、基本的に力の強い者が勝つものである。あなたの会社が各営業所で競争に負け続けている理由は、兵力、つまり販売リソースや競争力が敵に比べて圧倒的に少ないからに他ならない。この兵力差が、そのまま占有率や売上の差となって現れているのだ。戦場において必要な戦力を揃えられない限り、勝利は望めない。

どれだけ努力してみても、営業マン個々の力量はどの会社も大きく変わらない。どの企業もセールスマンは一所懸命に活動している。そのため、最終的に差を生むのは「人数」の違いだ。この人数の差は、競争において決定的な要因となり得る。いくら優れた戦術を用いても、兵力が不足していれば戦いに勝つことは難しい。

あなたの会社のセールスマン数は、大手企業に比べて圧倒的に少ない。その限られた兵力を分散してしまえば、各戦場での競争力はさらに弱まり、勝利はますます遠のく。だからこそ、兵力を一箇所に集中させ、その戦場において敵を上回る優位性を確保することが重要だ。この「集中の原則」を実践することで、初めて競争に勝利し、成果を上げることができる。

そのためには、営業所の配置と人員構成を大胆に再編する必要がある。具体的には、本社の4名はそのまま維持する一方、仙台、東京、名古屋、広島、福岡の営業所はすべて撤収し、これらの人員を大阪営業所に集中させるべきだ。これにより、兵力の分散を避け、戦力を一箇所に集約することで、大阪という重要市場で競合他社を圧倒できる体制を整えることができる。

この再配置により、大阪営業所の陣容は15名となる。この15名をもって、競合他社の人数が15名以下の地域に集中攻撃を仕掛ける。そこで敵を圧倒し、確実に勝利を収める戦略を実行するのだ。これこそが「戦い」の本質であり、効果的な兵力運用の要である。戦力を優位に立たせるためには、このような集中と選択の戦術が不可欠である。

私の勧告を聞いた社長は、自分が考えていた方向性とまったく逆の提案に驚きを隠せない様子だった。「意外だ」とでも言いたげな口調で、「とんでもない話だ。今これだけ全国に販売網を広げて頑張っているのに、それでも売上が伸びていない。一倉さんはそれをさらに縮小しろというが、そんなことをしたら売上が大幅に下がってしまうではないか」と言い、勧告を受け入れる気配はまったくなかった。

私は、さまざまな角度から説明を重ね、納得してもらおうと試みた。そして、こう提案した。「すべてを一度に実行する必要はない。まずは仙台営業所を閉鎖し、その人員を大阪営業所に振り向ける。そして、この新しい戦略をもとに具体的な成果を検証しながら進めていけばよい。」

「そして、まず効果が確認できたら、次に広島営業所を撤収し、その人員を大阪に集める、という段階的な進め方で問題ない。もし、それでも不安が拭えないのであれば、現状の人員体制の中から何とか1名を捻出し、大阪営業所に追加投入してみるとよい。そしてその成果を見極めてから、次に仙台営業所を閉鎖し、その人員を大阪に振り向けるというように、慎重に進めても構わない」と提案した。

その新戦略は、すでに地元T市で実験的に実施され、大きな効果を上げていたにもかかわらず、社長は私の勧告に耳を傾けようとはしなかった。どれだけ理路整然と説得を試みても、私の提案が受け入れられることはなかった。最終的に、私はこれ以上お手伝いを続けることは難しいと判断し、辞退せざるを得なかった。

もう一つの例として、関西地方にある化粧品メーカーを挙げたい。社長からの強い要望を受け、直接お目にかかり、お話を伺う機会を得た。この企業の年商は5億円だったが、売上はジリジリと下降線をたどり、赤字経営に陥っていた。さらに、この会社の特約店は全国のすべての都道府県に均等に配置されている状況だった。

当時、化粧品市場の規模は年間5000億円に達していた。その中で年商5億円ということは、市場占有率はわずか0.1%にすぎない。これは「限界企業」を通り越して、まさに「超限界企業」と言える状況だった。こうした背景を踏まえ、私の勧告は以下の通りだった。

  1. 全国展開の見直し
    全国すべての府県に特約店を配置しているが、この戦略は明らかに非効率的である。まずは、特約店の集中配置を検討すべきだ。限られたリソースを最大限活用するために、地域を絞り込む必要がある。
  2. 占有率の向上を目指す
    市場全体での競争を一旦諦め、特定の地域で圧倒的な占有率を確保する戦略に切り替えるべきだ。小さなエリアで勝利を積み重ね、その成功を基盤に拡大を図る。
  3. 販売力の強化
    販売の現場での活動を強化するため、特約店への支援や営業力の集中を図る。戦力を分散させず、勝てるエリアに全力を投入することが重要である。

このような方針で、現在の分散型戦略を再構築することが、最も現実的な解決策だと考えた。

「あなたの会社は、限界企業を超えて『超限界企業』の状態にあります。それにもかかわらず、全国的な販売網を展開しているのは、根本的に誤った戦略です。その証拠が売上年計のジリ貧という現状に表れています。つまり、あなたの会社はすべての地域でお客様からほとんど無視されているのです。これは単に知名度が低いというレベルではなく、ほぼゼロに等しい状況だからです。」

「お客様は、知名度の低い商品を積極的に購入しようとはしません。知名度を高めるためには、特定の地域を選定し、そこに集中して広告宣伝と販売活動を展開する必要があります。あなたの会社は規模が小さいのだから、全国的な活動を追求することは現実的ではありません。限られたリソースを効率的に使うためには、地域を絞り込んで戦力を集中させるしかないのです。」

「あなたの会社に適した市場規模を考えると、人口16万人の淡路島が最適です。まず、何が何でもセールスマンを1名確保し、この淡路島を専任で担当させます。そして、徹底的な戸別訪問を行い、地域密着型の販売活動を展開するのです。このように、限られたリソースを集中させることで、確実に成果を上げる戦略を実行すべきです。」

「広告も淡路島だけに集中させるべきです。そうすることで、知名度が自然に上昇し、売上も増加していきます。その結果、淡路島市場での有名商品となることが可能です。淡路島の市場規模を人口割りで見積もると、年間約8億円程度。少なめに見積もっても5億円の市場はあると考えられます。そこで、わずか1%の占有率を達成し、年間500万円(月40万円)の売上を確保すれば、全国平均の10倍の占有率を実現することができます。

さらに、占有率を5%に引き上げ、年間2500万円(月商200万円)を達成できれば、専任セールスマンの人件費や販売経費を十分に賄い、さらに利益が残るでしょう。このように、リソースを一点集中することで、小さな市場でも確実に利益を上げる戦略が成立します。」

「もし月商400万円を達成できれば、全国平均の100倍にあたる10%の占有率を実現することが可能です。この目標は、3年間頑張れば決して不可能ではありません。そして、この10%の占有率は、現在のあなたの会社の売上高全体の10%に相当します。これほど効率の良い戦略が他にあるでしょうか?限られたリソースを最大限活用するためにも、この地域集中型のアプローチが最適であることがお分かりいただけるはずです。」

「販売とは、このように考え、計画的に実行するものであり、こうしたアプローチこそが『市場戦略』と呼ばれるものです。あなたの会社は、この市場戦略をしっかりと持つことで、業績を飛躍的に向上させる可能性を秘めています。しかし、現在のように全国すべての都道府県に特約店を広げるだけでは、効果は期待できません」と説明しました。

ところが、社長はこの勧告が気に入らなかったようで、何も自分の意見を述べることなく、ただ黙ってその場を立ち去ってしまいました。こちらの提案に対する具体的な反応がなかったため、説得の糸口をつかむことができず、残念な気持ちが残りました。

多くの中小企業の社長たちは、先に挙げた二社の社長と同様の考え方を持っている。売上が伸び悩んでいるからこそ、全国的な販売展開を目指したいと考え、各県に1名ずつセールスマンを配置しようとする会社が少なくない。また、「全国的に貸マンションを展開したい」といった野心的な相談も、私のところに次々と持ち込まれる。こうした計画は、一見すると規模の拡大を目指す積極的な戦略に思えるが、現実には多くの問題を孕んでいることが少なくない。

多くの中小企業の社長は、全国的に販路を広げることが売上を増やす最良の方法だと信じている。しかし、実際にはそのような構想は多くの場合、挫折に終わる。その根本的な原因は、市場には競争が存在するという現実にある。そして、競争では常に「強い者が勝つ」。ただ闇雲に全国的な戦いを展開しても、戦力が分散するだけであり、勝利を収めることはまず不可能だ。戦略を持たずして、競争に挑むことの危険性を理解する必要がある。

数多くの企業が一つの市場で激しい競争を繰り広げ、必死に販売戦を展開している。その中に、小規模な会社が飛び込んで勝ち抜こうとしても、容易に成功するものではない。競争は熾烈であり、戦略とリソースに劣る企業が安易に生き残れるほど、世の中は甘くないのだ。現実を直視し、効果的な戦略を練ることが不可欠である。

小さな会社や力のない会社は、自分たちの規模や実力に見合った行動を取らなければならない。それを忘れ、自分たちの力を超えた無理な挑戦をしても、成功することはほとんどない。この現実をしっかり理解し、自社の身の丈に合った戦略を選び取ることが、企業として生き残るための第一歩である。

この意見はよく聞かれる反論のひとつだ。「小さな会社が身の丈に合ったことばかりしていては、いつまでたっても成長できないではないか。それではおかしい。実際、小さな会社でも大きな会社との戦いに勝ち抜いて成長を遂げた企業は、世の中にいくらでもあるではないか」というものだ。

確かに、そのような成功例は存在する。しかし、これらの成功例に共通しているのは、単なる力任せの挑戦ではなく、明確な戦略、集中と選択、そしてリソースの効率的な活用による勝利だ。彼らは身分相応を超える挑戦をしたのではなく、自分たちの強みを理解し、それを最大限活かせる「戦い方」を選んでいたのである。

無計画に力を広げすぎて失敗した企業もまた多く存在する。成功するためには、大企業に真っ向勝負を挑むのではなく、自分たちの規模に合った戦術で、小さな勝利を積み重ねる必要がある。そこから成長の足がかりを築いていくのだ。

その通りだ。小企業が全国的な販売網を持ち、大企業との競争に勝利して成長を遂げたケースでは、単に「力を持っていた」だけではなく、その力を効果的に発揮するための優れた販売戦略を有していた。競合他社を凌駕する何かしらの差別化要素や優位性を武器にしていたのだ。

例えば、特定の商品やサービスで他社にない独自性を持っていたり、特定の地域や市場で圧倒的な支持を得ていたり、または革新的な販売手法を導入して競争力を高めていた。これらの要因が揃って初めて、大企業との戦いに勝ち抜くことができたのである。

単なる規模の拡大や、全国的な展開だけで成功できるほど競争は甘くない。成功するためには、限られたリソースを最大限活用し、強みを活かした戦略で挑む必要がある。それが、真の勝利をつかむための鍵なのだ。

その戦略こそが「市場戦略」である。たとえ、その会社が市場戦略という言葉や概念を知らなかったとしても、成功した企業は必ず知らず知らずのうちに市場戦略の原理を実践していたと断言できる。

具体的には、限られたリソースを集中して活用し、特定の市場や顧客層で優位性を確立していたり、競争相手の弱点を突く形で行動していたりする。これらは市場戦略の基本的な原則に他ならない。

つまり、成功した小企業は「偶然の成功」ではなく、自覚の有無にかかわらず、市場戦略の原理に従った行動を取っていたからこそ、大企業との競争を勝ち抜き、成長を遂げることができたのである。この視点を理解することが、中小企業が自らの未来を切り拓く鍵となる。

成長を目指すのであれば、大きくなるための土台として、競合他社以上の努力を積み重ね、まず他社を上回る力量を身につけることが不可欠である。しかし、それだけでは十分ではない。その力量を最も効果的に活かし、成果を生むための市場戦略が必要不可欠だ。

市場戦略を欠いた状態では、どれほど優れた力量を持っていても、それは活用されないまま「宝の持ち腐れ」となってしまう。力量を発揮するためには、何をどのように、どの市場で行うべきかを明確に定め、それに基づいて行動することが不可欠なのである。市場戦略とは、まさにそのための羅針盤であり、成功への道筋を示すものだ。

市場戦略とは、大企業が他社を圧倒して業界でトップの地位を手にするための戦略であると同時に、小さな会社が大企業と戦い、勝利を収めるための戦略でもある。規模や資源の違いを超えて、いかに限られたリソースを効果的に活用し、競争優位を築くかが市場戦略の本質だ。

小さな会社にとって市場戦略は、単なる防御策ではなく、積極的に成長を目指すための武器となる。それは、自社の強みを活かし、競争相手の弱点を突くことで、限られた領域で確実な成果を生む手段である。市場戦略があれば、小さな会社でも大企業との競争に打ち勝つことができるのだ。

「市場戦略なんてものが本当にあるのか?競争相手はそれぞれ異なり、何をしてくるか分からないのだから、相手の動きを見ながら臨機応変に対応するしかない。それが最も合理的ではないか」と思うかもしれない。しかし、それは明らかに誤った認識だ。

市場戦略には厳然たる原理が存在する。それは偶然や感覚に頼るものではなく、競争の中で勝つために体系化された法則である。競争相手がどう出るかを予測しきれない中でも、自社の強みを活かし、弱点を補強しながら、どのように戦うべきかを指針として提供するのが市場戦略だ。臨機応変さだけに頼るのではなく、原理に基づいた戦略があって初めて、確実な成果を得ることができるのである。

市場戦略の原理、いわゆる「ランチェスター戦略」は、単なる机上の空論や頭の良い学者が考えた理論ではない。この戦略は、実際の数々の戦いの現場から得られた「戦いの法則」に基づいている。つまり、観念的な理論ではなく、現実の競争において実践され、その結果から導き出された教訓そのものなのだ。

ランチェスター戦略の強みは、実戦の中で何度も検証されていることにある。これにより、小規模な企業でも自社の力を最大限に活かし、競合他社に勝つための具体的な指針を提供することが可能となる。現実に即した実戦的な法則であるがゆえに、その適用範囲は広く、さまざまな状況に対応できるのだ。

社長が絶対に知らなければならない市場戦略とは、自社の規模や強み、リソースを最大限に活かし、競争相手に対して優位に立つための具体的な指針である。この戦略は、単なる理論ではなく、現実の競争に基づいた実戦的な法則だ。

市場戦略を学ぶことで、社長は以下のことを理解し、実行できるようになる:

  1. 限られたリソースの効果的な配分
    小規模な会社が大手に対抗するには、リソースを分散させず、特定の市場やターゲットに集中させる必要がある。
  2. 強みの最大化
    自社の製品やサービスが他社に比べて優れている点を見極め、それを活かして市場での競争力を高める。
  3. 競争相手の弱点を突く
    相手の強さだけに注目するのではなく、弱点を見つけ、それを攻めることで勝利を得る。
  4. 戦いの選択と集中
    勝てる市場、勝てる戦いに絞り込むことで、無駄な努力を避け、効率的に成果を上げる。

本書の目的は、この市場戦略の基本原則を社長にしっかりと身につけてもらい、それを自社の経営に活かすことで、確実な成果を上げる方法を提供することにある。市場戦略を理解し、実践することこそ、競争の中で生き残り、さらには成長を遂げるための鍵となる。

「販売戦略とは、会社の命運を決める武器」

販売は単なる「売る」行為ではなく、企業同士の戦いだ。競争相手を意識し、攻めるべき市場を見極め、戦略的に優位に立つことで初めて勝ち残れる。にもかかわらず、多くの企業が営業部門に任せきりで、価格競争に頼るのみで市場での真の勝利への準備を怠っている。市場戦略に基づく行動計画を持たない企業は、敵から攻勢をかけられた際、ただ右往左往するばかりだ。情報の収集とそれに基づく市場戦略がなければ、競争での勝利は望めない。

競争力を高める「ランチェスター戦略」

ランチェスター戦略は、業界や会社の規模を問わず適用可能な、非常に効果的な市場戦略である。この戦略の肝は、兵力を分散せず、ターゲット市場に集中させることだ。例えば、全国展開を目指す中小企業が販売網を広げすぎると、リソースが分散し、全ての拠点で大手に押される結果となる。競争に勝つためには、集中攻撃を通じて他社よりも優位に立つ必要がある。兵力の分散を避け、強力な販売体制を築き、重点地域での知名度を高めることが戦いの勝敗を分けるのだ。

戦略なしに広がるのは、ただの消耗

全国的な販売網を築きたいと願う中小企業は多いが、力を持たないまま全地域に展開しても、効果が薄い。むしろ特定地域にリソースを集中し、知名度と販売力を築く方が効率的だ。地域密着型の戦略を取り、まずは一つの市場で勝利を収めることが、成功への第一歩となる。例えば、人口の少ない地域でも、しっかりと販売網を敷くことで、その地域でのシェアを獲得し、利益を確保することが可能だ。

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