赤字経営の会社が一つある。その会社は立派な邸宅を所有している。その価値は現在、三千万円を超えると言われている。数年前、業績が好調だった頃に購入したものらしい。
赤字経営のため資金繰りに苦しんでいる。その状況を受けて、社長は大邸宅を担保に銀行から融資を受ける計画を立てた。借入額は二千万円ほどになる見込みだという。
「なぜ売却しないのか」と問いかけると、社長は「将来的に値上がりを期待しているからだ」と答えた。それを受けて、さらに踏み込んだ質問を投げかけた。「社長は今の会社を続けたいのか、それとも不動産業に転身したいのか、どちらなんですか?」と。社長は少し間を置いて、「今の会社を続けたい」と返答した。その言葉を聞いた瞬間、私は遠慮を捨てた忠告を思わず口にしてしまった。
「あなたの資金繰りの考え方、いや、それ以上に経営者としての覚悟が甘すぎるのではないか。不動産業に転向したいなら、家を担保にして資金を借り、その金を運用するのも一つの道だろう。しかし、あなたは今の会社を続けたいと言っている。その会社は現在赤字を抱えている状況にある。」
赤字会社にとって最優先の命題は、どんな犠牲を払ってでも黒字化を達成することだ。不動産の値上がりを待つなど論外だ。それは黒字会社だけが享受できる特権であり、赤字会社が許される行動ではない。今すぐ売却し、その資金で借金を返済するか、運転資金に充てるべきだ。
もし私があなたの立場なら、最優先で融通手形を整理し、残った資金を借金返済に充てる。それによって金利負担が軽減され、経営の負担が少しでも和らぐだろう。一方で、家を担保に資金を借り入れる選択をすれば、新たな借金に伴う利息が重くのしかかるだけだ。
その差引き勘定は、複雑な計算をするまでもない。仮に今、邸宅を2500万円で売却できたとしよう。その金額で借金を返済すれば、年利8%として約200万円の金利負担がなくなる。一方、2000万円を新たに借り入れた場合、年間160万円の利息を支払う必要が出てくる。この二つを比較すると、年間で360万円の差が生じることになる。
たとえ足元を見られて2000万円でしか売却できなかったとしても、年間約250万円の金利差が生まれる。これを3年続ければ、合計で1000万円以上の金利差となる計算だ。この数字が示すように、不動産を保持し続けるリスクより、売却して金利負担を軽減する方が経営的に合理的だといえる。
叩き売りであろうと、その資金を会社の危機に投じる方が、結果として有利になることは明白だ。重要なのは、経営者としての覚悟と冷静な経済計算だ、という趣旨の話をした。その社長は、私の辛辣な忠告にも怒ることなく真摯に耳を傾けてくれた。その姿勢に触れ、むしろ私の方が感服してしまった。
このエピソードは、企業の本来の目的である「黒字化」と「事業の安定」に対する経営者の心構えの重要性を示しています。特に赤字の状態である場合、手元の資産の使い方について甘い期待や希望的観測に頼るのではなく、現実的な判断が求められます。
大邸宅を保持して値上がりを期待する姿勢は、安定した黒字企業ならば許される選択肢かもしれませんが、経営の危機にある企業にとっては適切ではありません。売却によって得られる現金を会社の立て直しに用いることで、毎年の金利負担が減少し、経営の健全化に向けた足掛かりが作られるからです。
この例では、経営者が資産の売却と資金の有効活用を考え直し、どのような選択が「会社の存続と成長」にとって最も効果的かを見極めることが大切だということがわかります。
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