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商品の特性と市場競争

目次

商品の特性と販売戦略の基本

商品は生産形態によって販売方法が異なる。個別生産品ではトップ営業が重視され、多量生産品では効率的な販売網が求められる。

そして、装置生産品においては需要の創造が鍵となる。この点については、「社長学シリーズ」第三巻『販売戦略・市場戦略』で詳しく触れられている。

商品の特性によって販売方法が異なるため、市場競争の様相も当然変化する。市場戦略を展開する際には、これらの違いを十分に理解しておく必要がある。以下に、その基本的な違いについて述べていく。

個別生産品は、建売住宅や分譲マンションといった一部の例外を除き、基本的に受注生産が主流となる。このため、同業者間の競争は主に機能や性能の特色を打ち出すことに重点が置かれる。その特色を活かした受注活動が中心となり、価格競争の比重は比較的低いと言える。

自然な流れとして、大手企業は大規模な物件を、小規模な企業は小規模な物件を扱う傾向がある。それぞれの企業規模に見合った価格帯を維持することが賢明だ。これを怠ると、事業効率が低下し、収益性にも悪影響を及ぼすことになる。以下に具体例を挙げて説明する。

価格帯と収益性の関係

G社は小規模な道路工事業者だったが、業績は低迷し、赤字が次第に膨らんでいた。売上物件のリストを確認したところ、5000万円を超える高額な案件もあれば、500万円以下の小規模な案件も含まれており、価格のバラツキが極めて大きいことが問題として浮かび上がった。

「なるほど」と気づいたところで、価格帯別に粗利益を計算し、粗利益率を算出してみた。結果は予想通りで、500万円以下の案件では粗利益率が30%以上に達し、中には50%を超えるものもあった。一方、2000万円までの案件ではおおむね25%程度、3000万円までになると10%台に落ち込み、それ以上の案件では10%を切るものさえ見受けられた。

社長にそのリストを提示し、説明を行った。小額物件は利益率が高いだけでなく、工期も短い。これは小規模企業にとって理想的な条件を備えた物件である。一方で、5000万円以上の物件は利益率が低い上に、物件の引き合いがあっても対応する余裕がないことが多い。さらに、工期が長くなるというデメリットもある。これらの点を社長と共に検討する中で、小額物件を中心に事業を展開する方が効率的であることが明らかになった。

G社長は「一倉さん、うちは1000万円以下の小型物件に絞ったほうが有利なようですね。これまで大型物件が有利だと思い込んで無理して落札してきたのですが、どうやら思い違いだったようです」と言った。そこで私は、「その通りです。社長の会社には1000万円以下の小型物件が体質に合っています」と答えた。こうして、G社は1000万円以下の小型物件に重点を置く方針に切り替えた。その結果、業績は目に見えて改善し始めたのである。

大型案件のリスクと効率的な価格帯の選定

A社はスプレードライヤー(噴霧乾燥機)の製造メーカーで、社員数は100名だった。ある日、A社長がこう語った。「一倉さんのセミナーで、占有率が大きいほど収益性が向上し、業績が安定すると伺いました。しかし、わが社にはそれが当てはまりません。占有率は90%もあるのに、業績は一向に改善しないし、安定もしません」と。

なるほどと思いながら売上の年間推移を確認すると、まるで大波のように激しく上下している状況が見て取れた。そこで物件価格を詳しく調べてみたところ、価格帯は2000万円クラスから5億円にまで及び、極端にバラついていることが分かった。この大型物件こそが、業績の不安定さを引き起こす元凶だったのである。

その理由は、企業規模に対して物件価格が極端に大きすぎることにある。大型物件に着手すると、それにリソースが集中し、他の物件を手掛ける余裕がなくなってしまう。また、大型であるがゆえに仕掛け期間が長引き、資金の回転が非常に悪化する。さらに、大型物件に共通する特徴として、粗利益率が低いことも問題を悪化させている。

ようやく大型物件が片付いたと思っても、次の仕事へとスムーズにつながらない。これがさらなる効率の悪化を招き、結果として低迷した業績と不安定な経営状態を引き起こしていたのだ。

A社長は説明を聞いて何か思い当たるところがあったようで、こう言った。「一倉さん、私はこれまで大型物件ほど効率が良いと思い込んでいました。理由は、5000万円の物件の設計も5億円の物件の設計も、大雑把に言えば『0』を一つ加えるだけで済むような感覚があり、設計コストが10分の1になると考えていたのです。しかし、たしかに設計コストは低く抑えられるかもしれませんが、製作効率が非常に悪いせいで、経営的には低収益かつ不安定な状態になっていたのですね。そこで伺いたいのですが、どの程度の価格帯が効率的なのでしょうか?」

この問いは非常に重要だ。価格帯の見極めこそが、今後の経営方針を大きく左右するポイントになるからである。

私の答えはこうだった。「『社員一人当たり物件価格』という考え方が最も簡単で分かりやすい。基準として、一人あたり1万円を目安にするのがよい。あなたの会社は社員数が100人なので、これを基に計算すると100万円になる。それに『0』を一つ足せば1000万円となる。したがって、物件価格は『下限100万円、上限1000万円』と考えるのが適切だ。ただし、これは厳密なルールではなく、上下限を超える場合でも、その超過部分は上下限金額の50%以内に収めることを目安にすればよい。」と説明した。

この考え方は、すべての会社に応用可能なものだ。ただし、基準となる「一人あたり1万円」という数字は絶対ではなく、状況に応じて2万円やそれ以上を基準にしてもよい。A社の場合、私は「一人あたり2万円」が適切だと判断し、その数字を提案した。すると、A社長は納得した様子でこう答えた。「一倉さん、まったくその通りです。うちは社員が100人ですから、200万円から2000万円という価格帯になりますが、実際には1000万円から2000万円の物件が最も効率的なんです」と。

200万円以下の物件は安すぎて引き受けたくないし、2000万円以上になると会社にとって負担が重すぎるという結論に至ったのだ。A社長は最後にこう言った。「一倉さん、大切なのは物件価格の基準を持つことなんですね」。その通りである。基準を持つことは、経営の安定と効率を追求する上で不可欠な要素なのだ。

事業経営において、数字という物差しを持つことは極めて重要だ。「労働分配率を40%に抑える」「長期適合率が50%に達しない限り設備投資はしない」といった明確な基準を掲げる社長の経営は、安定感があり、信頼して見守ることができる。数字に基づいた判断こそが、経営の指針となるのだ。

そのような基準は、意思決定の誤りを未然に防ぐ強力な指針となることは疑いの余地がない。「一人当たり」という物差しは、生産性を測るための指標であり、非常に優れた基準であることをぜひ知っておいてほしい。この物差しを活用することで、経営の効率性を高め、判断の精度を向上させることができるのだ。

市場競争のライフステージと企業戦略

多量生産品は、商品の誕生から市場が形成されるところから始まる。この初期段階は「発生期」と呼ばれ、緩やかな成長が特徴的だ。この時期、市場規模は小さく、参入する業者の多くは小規模企業である。ただし、例外として、VTRのように初めから大企業が参入したケースも存在する。発生期においては、業者の数が徐々に増加していくものの、業者間の競争はまだそれほど激しくない。

潜在市場が大きいため、この時期には同業他社との競争に力を入れるよりも、新市場の開拓に注力する方が有利である。このような状況下では、どの企業も努力次第で業績を伸ばすことができる。言い換えれば、業者が群立し、それぞれが独自の成長を遂げることが可能な段階である。

しかし、業界がさらに成長するにつれて、企業間の優劣が次第に明確になってくる。同業者間の競争は激化し、各企業は競合他社を強く意識せざるを得なくなる。この段階では、市場戦略の重要性が一段と高まり、競争の中で生き残るための戦略的な対応が不可欠となる時期である。

発生期はやがて成長期へと移行する。この時期には、業界全体の成長率が急激に高まり、いわゆる「上向きの釘折れ現象」が見られる。人々の関心が一気に高まり、大型の企業が次々と参入してくることが特徴的だ。中には、商品がブームとなり、過熱現象に至るケースもある。このような状況は市場の拡大を加速させるが、同時に競争の激化を招く兆候でもある。

特に、大企業の参入は業界にとって脅威となる。それが業界全体の構図を大きく変えていく要因となるからだ。松下電器の「二番手商法」と呼ばれる戦略は、このような状況の典型例である。こうして、生え抜きの企業同士の競争に新規参入の大手企業が加わり、本格的な占有率争いが激化していく。これは業界全体の競争環境を一変させ、各企業にとってさらなる戦略の重要性を求める段階へと移行させる。

こうなれば、もはや「力」のある企業が勝つ時代となる。生え抜きの企業でも十分な実力を持っていれば生き残ることができるが、力がなければ新規参入の大手企業が持つ強大なブランド力、販売力、生産力を駆使した大規模な攻勢に耐えられない。結果として、成長期の中頃から一社、また一社と脱落していく。市場は徐々に淘汰が進み、生存競争が一段と厳しさを増していくのである。

まことに非情な現実である。占有率を確保するために求められる条件、すなわち商品品種の多様化と高機能化、販売網の強化、効果的なキャンペーン力、さらには値下げや値引きに対応できる資金的な余力が備わっていない企業は、どれだけ努力を重ねても結果を出すことが難しい。この厳しい環境では、条件を満たせない企業は競争に埋没していく運命を免れないのだ。

そこに立ちはだかるのは冷厳な「市場原理」であり、それに刃向かうことはどんな企業にとっても不可能である。このような厳しい情勢の中で新規参入を試みることは、現実を無視した無謀な行為としか言いようがない。市場は甘くなく、準備や実力が不十分なままでは、結果として淘汰されるだけである。

ダイエーの「ブブ」は、まさにこの典型例と言える。ブブの行く末がどうなるかは明白だったにもかかわらず、それを推し進めたのは、まさに「盲蛇におじず」のごとく現実を見誤った結果だ。その結果、ブブはダイエーの大きなお荷物となり、経営の足かせとなってしまったのである。

市場原理と競争戦略の本質

どんな商品であっても、永久に成長し続けることは不可能だ。成長率はやがて鈍化し、ついには売上が伸び悩み、横ばい状態に陥る。この段階が成熟期と呼ばれるものであり、市場が飽和し、新たな需要を生み出すことが難しくなる時期である。

成熟商品の課題と新市場への対応

成熟期に入ると、競争はさらに厳しさを増す。特徴的なのは、ある一社の売上が伸びれば、その分だけ他社の売上が減少するというゼロサムゲームの状況に陥ることだ。成長期のように市場全体が拡大することで全員が利益を得られる状況とは異なる。そして、競争が激化する中で淘汰が進み、最終的にはわずかな数社だけが生き残る結果となる。これが成熟期特有の厳しい現実である。

成熟期において、まれに生き残る限界的な企業は、大手企業とは異なる種類の商品を持っている場合が多い。異種の商品を扱うことで、直接的な競争を避けることができたために生き延びたのである。しかし、成熟した商品の特徴として、長期間同じ状態が続くと次第にブランド力が低下していく傾向がある。例えば、砂糖、ティッシュペーパー、ライター、パンティストッキング、ボールペン、チョコレートなど、多くの事例を挙げることができる。これらの商品は、競争の激化や市場の飽和によってブランドの差別化が難しくなり、価格競争に巻き込まれることが多い。

差別化が完全になくなると、商品は「最寄品」として扱われるようになる。つまり、どのブランドでもほとんど違いがなく、消費者にとって手近で手に入りやすいものとして選ばれるだけの存在になってしまうのだ。耐久消費財でさえ、かつてほどのブランド志向は薄れつつある。この現象は、企業に対して「ブランドにいつまでも寄りかかってはいられない」という現実を突きつけ、ブランド力の維持だけではなく、新たな価値創造が不可欠であることを認識させるものである。

一方で、ブランドイメージに縛られ、新商品の開発や発売に制約を受けていた企業にとっては、この現象は好都合でもある。これによって、必要に応じて新ブランドをいくつでも立ち上げることが可能になる。たとえブランドが異なっても、有名メーカーが手掛けたものであれば、流通業者は抵抗なく取り扱ってくれるからだ。

腕時計の「アルバ」は、セイコー社が立ち上げた新ブランドの一例である。特にアパレル業界ではこのような動きが顕著であり、多くの読者もその傾向を目にしたことがあるだろう。この戦略により、企業は多様な市場に対応しながらも、自社のブランドイメージを守り続けることができる。

成熟商品の運命は、大きく二つに分けることができる。その一つは、より消費者の要求に適合した異種商品が登場し、その市場地位を奪われて斜陽化していくことである。この場合、成熟商品は次第に市場から姿を消し、最終的には完全に消滅するか、あるいはニッチな需要に応える形で痕跡的に残るだけとなる。この現象は、技術革新や消費者ニーズの変化によって頻繁に見られるものである。

第二の運命としては、代替商品が登場しない場合、目先を変えた改良品を投入する程度で市場に留まり、長期間にわたって寿命を維持するケースである。しかし、この場合、売上の大幅な伸びは期待できず、収益性の向上も難しいという現実を受け入れなければならない。こうした商品は、市場で一定の存在感を保ちながらも、成長や革新が停滞し、企業にとっては収益構造の中で限られた役割を果たすにとどまる。

昭和59年初頭に松下電器が「脱家電」を掲げ、総合エレクトロニクス企業への大転換を宣言した背景には、家電市場の成熟化があった。家電分野では成長率が一桁台、それも4~5%台に低迷し、利益の大幅減少という深刻な状況に陥っていたためである。このような成熟商品は、新たに有望な商品が生まれた場合には、適切なタイミングで切り捨てる決断が必要となるだろう。

多量生産品戦略:製品ライフステージにおける柔軟な対応の重要性

多量生産品に対する戦略は、その製品のライフステージや市場の年齢とともに大きく変化する。発生期から成長期、成熟期、そして衰退期へと移行する中で、それぞれの段階に応じた柔軟な対応が求められるのである。

発生したばかりの商品は、ほとんどの場合、その将来性が全く読めない状態にある。どれほど力を入れて販売を試みても、初期の成果は惨憺たるものになりがちだ。「これは失敗作なのではないか?」「早めにあきらめたほうがいいのではないか?」といった迷いや不安が頭をよぎることも多い。しかし、これは「我慢の時期」と言える。

やがて、売上が少しずつ伸び始める兆しが見えてくるが、それでも当面の間、収支は合わない状態が続く。新商品を市場に定着させるためには、この期間を乗り越えるための忍耐と、適切な戦略が不可欠である。

新商品を続けるべきかどうかの判断は、売上高の動向を基準にするのが適切だ。もし売上高が徐々に上昇していなければ、その商品は経営者の「我の申し子」に過ぎず、迷わず捨てるべきである。一方で、売上高が徐々に上がっているならば、希望はある。この兆候が見え始めると、やがて順調な売上へとつながっていく。

売上が順調になり始めた段階で、まず考えるべきことは供給体制の整備である。需要の増加に対応し、安定的に商品を市場に供給できる仕組みを整えることが、この時期の最優先課題となる。

売上げの上昇に引きずられて生産体制を作るのではなく、常に今の三倍の売上げに対応できる体制を予め考え、手を打っておくことが重要である。多くの中小企業では、これを実現できていないことが問題となる。主な原因の一つは、内作中心主義にある。設備投資、特に高性能な機械を導入すること自体は間違っていないが、そのアプローチには問題がある。新たな設備に頼り切って、設置に時間がかかるうちに注文が殺到するというリスクが存在する。このような事態に備えて、柔軟でスピーディな対応ができる体制を整えることが、企業成長において重要なポイントとなる。

後発のメーカーが登場するようになれば、市場は成長期に差し掛かったと考えられる。この段階で多くの企業が陥りがちな失敗は、資源投入が不十分であることだ。

売上が伸びていることに安心して販売の努力を怠ったり、供給体制を現状の売上規模の三倍に拡大する準備を忘れたりすると、気づいた時には競合他社に追い抜かれている可能性が高い。

供給体制を現状の売上規模の三倍にするというのは、単純に設備を三倍に増やすことを意味しない。売上が三倍になった際にどのような供給体制が求められるのかを見据え、適切な手を打つことが重要だ。これを怠ると、売上が三倍に達するどころか、わずか50%増加した時点で供給力が不足するような事態に陥る可能性がある。

そのためには、外注工場の活用を最大限に検討し、常に柔軟な供給体制を意識しておくことが重要だ。成長期の前半でどのような準備や対応を行うかが、成長期の後半に大きな影響を与えることを肝に銘じておく必要がある。

成長期の後半に差し掛かると、各社の優劣が徐々に明確になってくる。この段階までに市場占有率をしっかりと確保しておかないと、それ以降で占有率を大きく伸ばすのは非常に困難になる。

成長期の終盤に差し掛かると、業界全体の売上高の伸び率が徐々に鈍化し、最終的には頭打ちとなる。これは市場が成熟し、拡大余地が限られてくるためだ。

市場が成熟期に近づいたと判断した時点で、新たな資源投入は慎重に控えるべきだ。この段階では各社の勢力範囲がほぼ固定化されており、追加の資源を投入しても無益な競争を招く可能性が高い。

この段階では、資源を量的に追加するよりも、質的な転換を図るか、場合によっては資源の削減を検討する必要がある時期に入っている。価格競争が激化し、収益性の向上が期待できなくなるためだ。追加資源の投入によって売上を拡大しようとするのは誤りであり、慎むべきである。

成熟期以降は、売上が横ばいであろうと下降に転じようと、市場の成り行きに任せるのが最も合理的な選択と言える。特に売上が下降局面に入った際、内作中心主義と外作中心主義のどちらが有利かは言うまでもない。外作中心主義の強みは、こうした状況で一層際立つ。重要なのは、新たな収益性の高い商品を見つけるか、自社で開発する方向に舵を切ることである。

最後に重要なのは、適切なタイミングで事業や資源を捨て去る決断を下すことであり、これは経営者自身が責任を持って行わなければならない。一連のプロセスにおいて最も大切なのは、事業の発生から撤退まで、一貫して3~5年先を見据え、先手を打って行動することだ。

装置生産品に基づく新技術を応用した化学合成品や基礎資材は多くの場合、導入初期には装置が小規模であるため、どうしても従来品と比較してコストが割高になる。この結果、競争が厳しくなるのは避けられない状況だ。

必死の努力や新たな用途の開発によって、徐々に売上が増加していく。さらに、従来品の価格が上昇するような状況が発生すれば、それを取り込む形でシェアを拡大することも可能だ。売上が拡大すれば装置の大型化が実現し、生産コストを引き下げることができる。

売上拡大と装置の大型化に伴い、新市場への進出が可能となり、さらに装置の大型化、コスト低下、市場拡大という好循環が生まれる。このプロセスを通じて、従来品との競争に打ち勝つことができるのだ。最初に直面するのは従来の業種や商品との競合であり、その競争を増産によるコスト削減で制した商品だけが生き残ることになる。

従来商品の敗北が見え始める頃になると、新たな同業界の商品が市場に参入してくる。初めのうちは従来商品との競争が中心だが、次第に同業他社間の競争へと移行し、最終的には同業界内での激しい競合が展開されるようになる。このように競り合いが続く中で、市場は徐々に成熟期へと進んでいく。

成熟期に入り売上の伸びが止まると、過剰設備という新たな問題が浮上する。この問題の背景には、成長期に各社が「この成長は長期的に続く」という信念を抱き、その信念のもとで「他社に負けない生産力」を目指して大規模な生産設備を構築したことがある。その結果、需要の伸びが鈍化した際に供給過多となり、業界全体が再編成を余儀なくされる状況に陥るのだ。

以上、生産形態の観点から商品の市場競争の様相を簡単に述べてきた。しかし、これが生産品に限った話であり、メーカーに特有の問題であって、流通業やサービス業には関係ないと考えるのは大きな誤りだ。市場競争の原理は、どの業界でも同様に当てはまるものである。

生産品をメーカー自身が販売するか、あるいは流通業者が販売するかという違いがあるだけで、市場活動の基本的な仕組みや流れは全く同じだ。どちらの形態でも、需要と供給のバランスを取りながら競争を通じて市場を拡大し、シェアを確保するという原理に変わりはない。

ここで最も重要なのは、異業種や異業態の実例から経営の本質を見抜き、それを自社の実践に応用する経営者の能力だ。商品が置かれた客観的な状況や市場の変化、競合関係の推移、さらには市場の成熟度や消費者の嗜好の変化など、これらすべてが市場競争の様相に大きな影響を与える。経営者はこれらの要因を的確に読み取り、柔軟に対応する力が求められる。

戦いの法則とランチェスター戦略

経営者たる者、自社の実力や市場での立ち位置を的確に把握した上で、どのような戦略を立て、どのように推進していくかを決定しなければならない。そのためには、市場原理、つまり競争の原理を深く理解しておくことが不可欠だ。この基本的な理解がなければ、戦略を効果的に進めることはできず、競争に勝ち抜くことも難しいだろう。

しかしながら、多くの社長は市場原理や競争の本質を十分に理解していない。その結果、戦いといえばセールスマンに発破をかける、値引きや値下げを繰り返す、キャンペーンや特売、展示会、景品配布や招待イベントを実施するといった、限られた手法しか持ち合わせていない場合が多い。もちろん、これらの施策は重要ではあるが、計画性や一貫性のない無茶な実行では、期待する効果を十分に得ることは難しい。戦術の背後に戦略がなければ、競争に勝つのは難しいだろう。

正しい市場原理を理解し、それに基づいて「自社独自の市場戦略」を構築することが不可欠だ。そして、社長自身がその戦略の先頭に立ち、「采配」を振ることで初めて競争に勝つことができる。多様な販売促進手段も、明確な市場戦略の一部として組み込まれることで初めて、その真価を発揮する。戦術と戦略が一体化してこそ、持続的な成功が可能となるのだ。

どれほど戦いが複雑で多様に見え、手を尽くさなければならないように思えたとしても、その根底にある原理は極めて単純だ。それは、「強いものが勝つ」という一点に尽きる。市場においても、戦略・戦術・資源を駆使して競争力を高めた者だけが最終的に勝利を収める。この基本原則を忘れてはならない。

とはいえ、大規模な軍勢や圧倒的な総合力を持っているだけで、必ず勝利できるわけではないことは明白だ。同時に、小さな企業であっても、工夫や戦略次第で大きな競合に打ち勝ち、さらには追い抜いていくことが可能な例も少なくない。勝敗を分けるのは、単なる規模の大小ではなく、戦略の巧妙さ、実行力、そして状況を的確に見極める洞察力である。

そして、このような現象が起こるのも、「強い者が勝つ」という市場原理が働いているからに他ならない。「強さ」とは、単に規模や資源の多さを意味するのではなく、状況を見極め、的確な戦略を立て、それを実行する力を指す。戦いとは、まさにこの原理が形を変えながら作用する場であり、その本質を理解しなければ勝利はおぼつかない。

戦いに勝つためには、「戦いの法則」を深く理解し、それを最大限に活用することが重要だ。この法則を正しく用いることで、大軍であれば圧倒的な優位性を活かして楽に勝利を収めることができる。一方、寡兵であっても、巧妙な戦略を駆使することで強大な敵を打ち破ることが可能になる。勝利の鍵は、戦いの本質を知り、それに基づいて行動することにある。

この「戦いの法則」は、ランチェスターの法則として知られており、この法則を基に構築される市場戦略がランチェスター戦略と呼ばれる。次章では、このランチェスター戦略について詳しく解説し、その理論と実践方法を探っていくこととする。

「商品の特性に基づく市場戦略:個別生産、多量生産、装置生産品の競争法則」

市場競争は、単に価格競争ではなく、商品の特性や生産形態によって異なる戦い方が求められる。個別生産品、多量生産品、装置生産品など、各商品特性に合わせた市場戦略が重要であり、競争優位を得るためには商品ごとに適したアプローチが欠かせない。

1. 個別生産品:オーダーメイドの勝負

個別生産品は、一般的に顧客の注文に応じたオーダーメイドの生産形態をとるため、機能や性能で差別化し、独自の特徴で勝負するのが基本だ。このカテゴリーでは価格競争は二の次であり、競争力を高めるためには、顧客のニーズに合ったカスタマイズと高い品質が求められる。小規模の企業にとっては、無理に大規模な案件に挑むよりも、小規模で利益率の高い物件に特化することで経営が安定しやすい。

2. 多量生産品:成長期から成熟期までの戦略

多量生産品は、成長期と成熟期で大きく異なる戦略が求められる。初期段階では市場の開拓が主な目的となるため、供給体制を整え、拡大に備えた資源の確保が不可欠だ。特に成長期に入ると、業界大手が参入し、熾烈な競争が展開される。この段階では、価格や販売網の強化、広告キャンペーンなど、占有率を高めるための総合的な競争力が重要である。大手との競争に耐えられない企業は、次第に脱落することが多いため、経営者は競争力強化に全力を尽くす必要がある。

成熟期に入った商品は、売上の伸びが停滞し、競争が一層厳しくなる。新規資源の投入は避け、収益性の高い商品に注力するなど、慎重な経営判断が求められる。市場の需要が徐々に低下していく中で、過剰な資源投下や無謀な価格競争は、企業の財務を悪化させる危険がある。

3. 装置生産品:需要創造とコスト削減の循環

装置生産品は、初期段階ではコストが高く、市場に受け入れられるには時間がかかる。しかし、需要を開拓し、生産装置の大型化を進めることで、徐々にコストを引き下げ、競争力を高めていく。新技術を活かして需要を創出することが重要で、装置の大型化とコスト削減の循環を通じて市場を拡大し、競合に対して優位に立つことが可能だ。成熟期に至ると、過剰な設備投資によるコスト負担が増すため、慎重な資源運用が不可欠である。

市場原理に基づく戦略的リーダーシップ

社長には市場原理、つまり「強いものが勝つ」という基本法則を理解したうえで、各商品の特性に応じた市場戦略を策定し、経営の先頭に立つことが求められる。占有率を維持・向上させるためには、単なる価格競争ではなく、競争の原理と市場の流れに沿った計画的な戦略が必要だ。

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