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占有率はどうなっているか

ランチェスターグラフ

まず把握すべきは、自社が業界内でどのような立ち位置にあるのかということだ。

次に重要なのは、業界内で主要な競合企業、特に自社が注目すべき相手の地位を正確に理解することだ。

これらの占有率を調査することは簡単な作業ではない。さらに、これを毎年継続的に調査するとなれば、相当に手間がかかる。とはいえ、毎年調査しなければ変化の推移を把握することはできなくなる。

そこで、占有率の代わりに業界内での売上高ランキングを調査する方法を採用するのが現実的だ。この方法で十分な情報を得られる。上場企業であれば有価証券報告書を参考にし、非上場企業であれば興信所の調査を利用すればよい。

興信所の調査報告書には「過去三年間の売上高」というデータが含まれている。この情報を活用し、調査対象となるすべての企業の売上高を年度別(または期別)にプロットし、一つの線グラフとしてまとめる。

この線グラフこそがランチェスターグラフと呼ばれるものである。〈第6表〉がその例だ。年度ごとのデータのプロットは年度線上に行う形で構わない。同じ年度内でも決算月が一月から十二月と異なるため、最大で十一カ月のズレが生じるが、この点を深刻に捉える必要はない。

なぜなら、このグラフは長期的にデータを記録していくものであり、この程度のズレは全体の傾向を把握するうえで影響を与えることがほとんどないからだ。ただし、このズレが気になる場合は、次の年度までの期間を十二カ月に分割し、該当する月に対応する位置へプロットする方法を採用すればよい。

会社ごとに色分けをする必要はない。会社名は表と同様に、矢印で示せば十分だ。ただし、自社だけは目立たせるために色を変えて表示したほうがよい。

作表における留意点として、グラフは必ず「ゼロ」から始めることが挙げられる。また、目盛りの間隔は途中で変えたり、切ったりしてはいけない。このグラフを長期にわたって使用することを前提にするなら、上方と右方に余裕を持たせたデザインにしておくべきだ。

多くの社長がこのグラフを見て抱く感想の一つに、自社の市場での地位が自分の予想よりもかなり低いという認識がある。また、特定の競合企業の位置が想像以上に高いことに驚くケースも多い。これらを踏まえた作表が重要となる。

ここにも「社長は自社の実態をよく把握していない」という現実が浮き彫りになる。このグラフで分かるのは、各社の総売上高の推移にすぎない。そのため、売上高の内訳や具体的な収益構造については把握できないことを認識しておく必要がある。

しかし、各社の商品構成や、総売上に対する各商品の構成比は異なる。そのため、このグラフに示された金額が、そのまま業界内の地位を正確に反映しているわけではない。この点を理解した上で、グラフの数値を頭の中で修正しながら読み解く必要がある。そのプロセス自体が、社長の状況判断力を養い、より的確な意思決定を促す一助となる。

どのような情報であれ、自社が求めるものがそのまま完全な形で手に入ることはほとんどない。必ずといっていいほど、必要でないデータが含まれていたり、逆に重要な部分が欠落していたりするものだ。

不完全な情報の中から、いかにして実態に近いものを読み取るか。それこそが事業経営における現実であり、経営者に求められる重要なスキルの一つである。

ランチェスターグラフも例外ではなく、不完全な情報を含むのは当然だ。しかし、他の商品群の売上が含まれていたとしても、総売上高という指標は、その企業の「力」を示していることに間違いはない。この「力」が実際に重要な局面で影響を及ぼすことを忘れてはならない。いざというとき、その事実を踏まえた判断が求められるのだ。

ランチェスターグラフは、一見シンプルな形式ながら、見る者に多くの思考を促す不思議な特性を持っている。描かれているのは競合各社の総売上高だけに過ぎないにもかかわらず、その背後にあるデータの意味や構造について、自然と分析や考察を深めることができるからだ。特に経営者にとって、このグラフは単なる数字以上の洞察を与えるツールとなる。

同時に、このグラフを見ることで「絶対に負けてたまるものか」という覚悟が新たに芽生える。こうした事例を何度も経験するうちに、ランチェスターグラフが事業経営において欠かせない資料の一つであることを、否応なく実感させられるようになる。

細分化

最初に取り組むべきは、「主要得意先別売上高年計グラフ」と「主要商品別売上高年計グラフ」の作成である。これについては、すでに「経営戦略・利益戦略」篇で述べているので、そちらを参照するとよい。

次に取り組むべきは、「得意先別売上高ABC分析表」〈第7表〉と「商品別売上高ABC分析表」〈第8表〉だ。この二つの分析表を活用することで、経営戦略的には得意先や商品の戦略的格付け、収益性の評価、さらには切り捨ての検討などを行う。また、それにとどまらず、これらを基に市場戦略的な分析も進めていく。その詳細については次に述べる。

「得意先別売上高ABC分析表」から行う分析では、まず得意先の売上高を地域ごとに集計し、その地域(テリトリー)での占有率や順位を計算する。しかし、この手法には一つの難点がある。それは、得意先が大手企業で全国的な販路を持っている場合、具体的な販売先や金額が不明な場合が多く、地域別の集計が困難になる点である。これが分析を進める上での大きな課題となる。

この情報を得るためには、得意先から販売先や金額の詳細を教えてもらえるだけの信頼関係と親密な関係性が不可欠だ。テリトリー占有率やランクが把握できれば、現行の市場戦略の効果を測定することが可能となり、さらに、新たな市場戦略を構築する際にも極めて貴重なデータとなる。

次に注目すべきは、重要な得意先の全国的な占有率や地域ごとの占有率、あるいはランクである。そして、それに加えて、その得意先に対する自社の納入額、占有率、さらにはランクを把握することが重要だ。これらのデータは、得意先との取引状況を深く理解し、戦略を調整するための基礎となる。

占有率やランクは、全国であれ地域であれ、あるいは納入高に基づくものであれ、その値が低いほど市場戦略の展開が難しくなる。だからこそ、現状の占有率が高いのか低いのかを正確に把握し、それに基づいて作戦を立てる必要がある。この段階で誤った判断をしないことが、戦略の成功を左右する鍵となる。

さらに注目すべきは、得意先の社長の年齢である。もし社長が70歳以上であれば、その会社の発展はあまり期待できないと考えたほうがよい。一方、社長が若い場合、その人物が積極的か消極的かを見極める必要がある。もし消極的であれば、やはりその会社の発展は難しいだろう。経営者の姿勢や年齢は、その企業の将来を見通す上で重要な指標となる。

「商品別売上高ABC分析表」(〈第7表〉の「得意先別売上高ABC分析表」の得意先名を商品名に置き換えた表)から得られるデータで、まず行うべきは商品の類型分析である。この類型分析についての詳細は、「経営戦略・利益戦略」篇を参照するとよい。

次に注目すべきは、重要商品の全国的な占有率および主要テリトリーごとの占有率である。これらの情報をもとに、商品ごとの市場での位置づけを明確にし、戦略を練ることが求められる。

さらに、必要に応じて以下のような切り口で占有率を分析することが重要である。業界別、業種別、業態別、商品やサービスのグレード別、顧客の年齢層別、得意先の規模別など、多角的な視点からデータを精査することで、より精緻な戦略立案が可能となる。これらの分析は、市場動向や顧客ニーズを正確に捉えるための基盤となる。

これらの分析は、市場戦略を展開するうえで極めて重要な役割を果たす。それらの結果を活用することで、自社の強みをさらに強化し、弱みの部分は優先順位を下げて後回しにする、といった作戦の優先順位を明確に決定できる。このプロセスが、限られたリソースを最適に配分し、最大の成果を上げるための鍵となる。

企業にとって占有率を把握することは、市場での自社の位置を明確にし、競争戦略を策定する上で重要です。そのために「ランチェスターグラフ」を活用する方法は、以下のように整理できます。

ランチェスターグラフとは

  • 目的:自社と競合企業の売上高を年次でプロットし、業界での地位を視覚的に把握する。
  • 作成方法:上場企業であれば有価証券報告書、非上場企業であれば興信所の調査報告書から、各企業の売上高を収集し、グラフにプロットします。
  • 特徴:競合他社の「総売上高」を用いるため、会社全体の「力」を示す一方、特定の商品や地域での占有率を直接示すわけではありませんが、推移を見ることで市場での自社の位置を長期的に把握できます。

ランチェスターグラフの活用

  1. 市場での自社の位置確認
  • 業界での自社の位置を把握し、競合他社の売上推移と比較することで、自社がリーダーかフォロワーかを知る。
  1. 長期的な推移と戦略修正
  • 毎年の売上推移を確認することで、市場での自社の変動や競合他社の動向が見え、戦略の効果を測定できる。
  1. 作戦計画と競争意識の強化
  • 競合の動きと自社の位置を把握し、「負けない戦略」を策定するための材料とし、社長や経営陣にとって競争意識を高めるツールになる。

分析対象の細分化

さらに詳細に分析するためには、次のように売上高を要素別に分解します。

  • 得意先別売上高ABC分析表:主要得意先の売上を分析し、地域ごとに集計することで、地域ごとの市場戦略が見えてきます。
  • 商品別売上高ABC分析表:主要商品の売上を分析し、各商品の強弱を把握して、主力商品の戦略強化や構成比の見直しが可能です。

戦略における優先順位

占有率の高いテリトリー(地域や顧客層)で優位を維持するため、まずは強みをさらに強化する戦略を取り、占有率の低い分野は後回しにします。

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