販売戦とランチェスターの法則
ランチェスターの法則を理解したとしても、「そんなものを知らなくてもこれまでやってきたし、業績も上がっている」と考える経営者もいるだろう。販売は戦いである以上、成功することもあれば失敗することもある。「勝敗は兵家の常」と言うではないか。それほど気にする必要はないのではないか、という意見ももっともだと言える。
このように考えるのは、販売戦が実際の戦闘とは性質がいくらか異なるからだ。本物の戦闘であれば、我が軍の損害は戦死者の数や負傷者の数といった具体的な数字として現れ、その深刻さが直接的に実感される。
しかし、販売戦における「損害」は、明確な数字で把握することが難しい。むしろ、「実現した売上」という形で成果として感じられるため、損失の実感が曖昧になりがちである。
占有率と競争優位性の重要性
敵との販売戦で敗北すること、それが「売損い」だ。この「売損い」は、具体的な数字で把握することができない。会計学的に言えば「機会損失」に相当するものであり、直接的に数字で表すのが難しいのだ。そこで、この損失を測る指標として、数字で捉えられるものに置き換える必要が出てくる。その指標が「占有率」であり、さらに「ランク」である。
「これだけしか売れない」と捉える視点を持つことが重要だ。この物差しを用いて、ランチェスターの法則に全く関心を持たない企業が自然な成り行きの中でどのように振る舞うのかを検討してみよう。
実例分析:K社、O社、M社の戦略課題
第一の例として〈第1表〉を見てほしい。これは、岐阜に本社を構えるアパレルメーカーK社のケースだ。社員数はわずか50名余りで、完全に限界企業の状態にあった。私が訪問した際、同社は過去3年間連続して赤字を計上していた。
会議室には日本地図が掲げられており、その地図には主要な得意先ごとに丸頭のピンが刺されていた。ピンの色によって、売上高のランクが区分されているのが一目でわかるようになっていた。
この地図から何がわかるのか尋ねてみたところ、「売上状況がわかる」程度の答えしか返ってこなかった。それ以上の分析や理解はまったくされていないようだった。まあ、それが普通なのだろう。しかし、私が見れば「なるほど」と納得できるポイントがいくつかある。そこで、それを社長にもわかりやすく説明するために、この表を作成してもらったのだ。
この表を検討する際に重要なポイントは、K社が唯一構えている営業所が東京にあるという事実だ。というのも、K社長の考え方はこうだ。「岐阜のような地方都市とその周辺地域、さらに名古屋地区くらいでは売上はたかが知れている。だから、どうしても大消費地である東京に進出しなければならない」という発想に基づいているのである。
こうした考え方は、ローカルの中小企業の社長たちの多くが共通して持つものであり、その事実を私はこれまで嫌というほど目の当たりにしてきた。K社の場合、最重点地域と位置づける東京での実績を見ても、年商300万円以上の取引先はわずかに2社にすぎない。
年商1,000万円以上の取引先は全国で7都市8社にとどまっている。そのうち、地方経済の中心都市と言えるのは大阪と仙台だけであり、残りは完全にローカル都市と呼べる場所ばかりだ。特に興味深いのは、人口わずか38万の宇都宮に2社も存在している点である。
栃木県は、他県からの参入が非常に容易な地域だ。そのため、私は東京に進出を目指している地方の社長や、東京から地方進出を考えている社長には、「まず宇都宮や栃木県内の都市をターゲットにするのが良い」というアドバイスをしている。
年商600万円以上の取引先を見ると、地方の中心都市として挙げられるのは札幌だけで、ここに2社が存在している。それ以外は完全にローカル都市ばかりだ。中でも飯田は、人口わずか8万の信州伊那の小都市にすぎない。中央高速道路が開通し、名古屋から2時間圏内となったことで、名古屋の業者が進出してくるかと思いきや、そうした動きは全く見られない。まさに手つかずの市場といった状況である。
だからこそ、K社のような限界企業でもこのような地域で成功を収めることができたのだ。年商300万円以上の取引先を見ると、東京と福岡以外では四国の2都市、そして岐阜市にほど近い人口5万の中津川や、小さな温泉地でしかない下呂といった場所に集中している。
以上の状況を見れば、K社は大きな市場では大阪の1社を除いてまったく成果を上げられていないことが明らかだ。一見、東京ではそれなりにやっているように見えるが、詳しく調べると年商300万円以上の2社は東京都内ではなく千葉県にあった。都内の得意先はすべて三流以下の企業であり、これがK社の実態だった。
一方で、小さな市場ではいくつかの地域で何とか成果を出しており、最も成功しているのは辺鄙な田舎町のような小さな都市だ。K社のような力のない企業は、大手が手を伸ばせない場所、つまり実質的には行商的な活動に依存していることを示している。このことが、K社が成功を収められる条件を証明しているのだ。さらに、札幌から福岡まで広がるとされる全国的な販売網も、実際には「破れ網」に過ぎないという実態が浮き彫りになっている。
進出しているすべての都市で戦いに敗れている。それが限界企業の実態だ。むしろ、このようなやり方を続けているからこそ、限界企業から抜け出すことができないのである。
私の勧告は次の通りである:
- 商品力の維持
商品力は競合他社とほぼ互角であるため、現状のままとする。 - 得意先別売上高の再分析
得意先別売上高のABC分析を実施し、下位5%の得意先については、シンデレラ(潜在的に成長する可能性のある取引先)の有無を検討した上で、セールスマンの訪問を禁止。これにより浮いた戦力を最重点戦略地域に集中投入する。 - 最重点戦略地域の設定
最重点戦略地域を岐阜市内とその近隣都市とし、地の利を最大限に活用する。定期的な蛇口訪問(訪問頻度)を最低でも競合他社の2倍以上に設定する。 - 重点戦略地域の選定
東京営業所を拠点とし、東京都の周辺、特に千葉県や埼玉県東南部を重点戦略地域とする。この地域では、競合他社の2倍以上の訪問頻度を確保できる得意先に限定して営業活動を行う。 - その他地域の訪問継続
最重点・重点地域以外の得意先については、従来の訪問頻度を維持する。 - セールスマンの行動管理
セールスマンは午前9時半までに必ず営業所を出発することを徹底する。従来のように、書類整理や見積書作成、商品の入荷待ち、得意先からの返答待ちなどを理由に午前11時頃まで社内に留まる行動を廃止する。
この具体的な施策により、戦力の集中と効率的な営業活動を実現し、限界企業からの脱却を目指すべきだと考えた。
これは、ランチェスターの第一法則を活用した戦略地域の設定と、第二法則を基にした蛇口訪問の強化の成果である。その結果、売上が増大し、K社は三年続きの赤字から脱出することができたのである。
第二の例として〈第2表〉を見てほしい。これは建具製造業を営むO社の事例だ。同社は社員約300名を擁し、本社を東京に構えている。営業所は北海道から九州まで全国を網羅する形で配置されており、社長はこれを完璧な体制と自負していた。
このような会社では、売上がもう少し増えるどころか、思うように伸びない場合、次の一手として広島や新潟に営業所を設ける方向に進むのが目に見えている。そして、さらに高松にも営業所を開設すれば、社長も社員も「これで完全無欠の販売網が完成した」と信じ込んでしまうだろう。
社長が最も力を注いでいるのは言うまでもなく関東地方だが、一方で悩みの種となっているのは近畿地方以西の売上不振だった。業界全体の総売上の推定値が手元にあったため、それを地方ブロックごとの世帯数に基づいて割り当て、O社の推定占有率を算出したのがこの表である。
この表を見た社長は、その内容に驚きを隠せなかった。まず、関東地方の占有率が自分の予想よりもはるかに低いことに衝撃を受けた。さらに、低いと予想していた近畿地方以西の占有率が、予想をはるかに下回るほど低かったことも驚きだった。一方で、さほど重要視していなかった東北地方の占有率が意外にも高かったことに、思わぬ発見をしたのである。
この表は、社長の意図とは裏腹に、東京・名古屋・大阪・福岡といった主要都市を含む地域では成功を収められておらず、実態としては東北地方を中心とした田舎企業に過ぎないことを明確に示している。
この表は、社長の意図とは異なり、東京、名古屋、大阪、福岡といった主要都市を含む地域では成功を収められず、実際には東北地方を中心とした地方企業に過ぎないという現実を如実に示している。
小さな会社が大きな市場でいくら努力しても、大手企業には太刀打ちできない。大手の手が届かない場所でのみ成功を収められるという現実を、この表は物語っているのだ。全国的に隈なく販売網を展開しているように見えていたのは、あくまで営業所の配置だけの話であり、実際にはこのように偏った実態が隠れていたのである。
O社長への私の勧告は次のとおりである:
- 東北地方を最重点地域とし、占有率を40%以上に引き上げる。
既存の強みを最大限に活用し、東北地方での市場支配力をさらに強化する。 - 関東地方を重点地域とし、占有率を10%以上に引き上げる。
この際、関東全域に均等に力を入れるのではなく、県ごとに市場を細分化する。特に占有率が最も高い県に資源を集中投入し、まずはその県で占有率30%を達成する。 - その他の地方は得意先単位で再評価する。
県ごとの戦略ではなく、得意先ごとに見直しを行い、各得意先における自社の地位をNo.1にできる可能性の高い企業から順に、他社を上回る資源を優先的に投入していく。
この戦略により、資源の効率的な配分と重点的な市場攻略を目指し、持続的な成長を実現することを提案した。
強い地域では広域に作戦を展開し、その優位性をさらに拡大する。一方で、弱い地域ではエリアを限定し、その中で確実に勝つ戦略を取る。そして、最も弱い地域においては、まず特定の「点」を強化し、そこから徐々に勢力を広げていく。このように、地域ごとの強弱に応じた柔軟な戦略を展開することが重要である。
O社長にとって、このような戦略はこれまで全く考えたことがなかった。社長の方針はただひたすら大市場を狙い、全国規模で販売活動を展開するというものだった。しかし、その結果として生じたのは、社長の意図とは全く異なる現実だったのである。
その結果がどうなっているのかさえ、社長は私が行った分析結果を見るまで把握していなかった。その原因は、金額の数字だけを見て占有率を考慮しなかったことにある。また、その金額も「対前年比」だけを基準にして伸び率について議論するだけで、実態を見抜けていなかったのである。
販売の数字というものは、絶対額だけでは不十分であり、必ず占有率で評価されなければならない。絶対額や対前年比だけを見ていては、それは自社だけの数字に過ぎない。販売の数字は、競合他社との比較の中で初めて意味を持つものであり、したがって占有率を基準とするべきなのである。
占有率において重要なのは、「いくら伸びたか」ではなく、「競合他社より伸びたか」という点である。もし占有率が競合他社の伸びよりも低ければ、それは敵に敗北していることを意味する。そして、下がった占有率は、自社が被った損害として認識すべきなのである。
第三の例は、仙台に本社を置く衣料品問屋のM社である。社員数は20名にも満たない限界企業であり、売上不振が続いた結果、赤字に転落していた。さらに、私が訪問する直前には、営業部長が営業員数名を引き抜いて独立するという事件が発生し、残された社員たちは大きな動揺を抱えていた。
展示場を兼ねた倉庫を見せてもらった際、私は商品構成そのものに赤字の原因を見出した。それは明らかに「総合問屋」の典型的な商品構成だった。紳士物、婦人物、子供物を揃えているだけでなく、寝装品まで取り扱っていたのである。それも、「洋品なら何でも扱う」というような広範囲にわたる品揃えだった。
紳士物の品揃えは非常に広範で、背広をはじめ、ブレザー、スラックス、コート、ワイシャツ、ネクタイ、靴下、ハンカチ、ベルト、ネクタイピン、カフス止め、サスペンダーと、必要なものが一通り揃っている。冬になればマフラーや手袋まで取り扱うことは間違いないだろう。
婦人物もスーツからアクセサリーに至るまで幅広い品揃えで、年齢層もジュニアからハイミセスまでカバーしている。子供物に関しても、トドラー(幼児)からガールズ、ボーイズまで、あらゆる年齢層に対応したラインナップが揃っている。さらに、寝装品も全てのカテゴリーを網羅しており、まさに何でも取り扱う総合問屋の典型的な構成となっている。
さらに、ジーンズまで取り扱っており、それも子供物にまで及んでいる。このような幅広い品揃えについて、ランチェスターの法則から何が言えるだろうか。それは、「集中効果の法則」である。具体的には、「特定品種における商品力は、アイテム数の二乗に比例する」という原則が当てはまる。つまり、商品の種類を絞り込むことで、各アイテムの競争力を飛躍的に高めることができるということである。
例えば、5,000円クラスのワイシャツにおける競争力は、ワイシャツのアイテム数の二乗に比例する。これは単にランチェスターの第二法則を適用したものではない。お客様が耐久消費財を購入する際、必ず見比べながら選ぶという購買行動をとるからだ。アイテム数が多いということは、それだけ見比べる選択肢が多いことを意味し、これが大きな強みとなる。この強みが、商品力としてアイテム数の二乗に比例して増大するという原理が働いているのである。
例えば、5,000円クラスのワイシャツにおける競争力は、ワイシャツのアイテム数の二乗に比例する。これは、単なるランチェスター第二法則の適用にとどまらない。お客様が耐久消費財を購入する際には、必ず複数の商品を見比べながら選択する。そのため、アイテム数が多いということは、見比べる選択肢が豊富であることを意味し、これが商品の競争力を高める要因となる。この「見比べの強み」が、アイテム数の二乗に比例して大きくなるという原則が働いているのである。
広範な品種をすべて扱おうとすると、必然的に各品種ごとのアイテム数が少なくなるのは当然だ。すべてを揃えようとすれば、その結果としてどれ一つとして十分に揃えることができなくなる。これは、リソースの分散によって一つ一つの商品の競争力が低下することを意味している。
M社の誤りは、まさにこの点にある。広範な品種を扱おうとするあまり、戦う前から既に敗北していたのだ。孫子の兵法には、「敵を見ずして敵を制するを戦略という」とある。つまり、相手を理解し、勝つための準備を整えないままに戦いに臨むことは、もはや戦略とは呼べないということだ。M社は、この基本原則を見落としていたのである。
社長に上記の問題点を説明し、その誤りを正すために次のような改革案を提案した:
- 寝装品の撤退
寝装品は全て切り捨てる。ただし、パジャマだけは残して取り扱いを続ける。 - 紳士物の重点化
紳士物はブレザー、スラックス、ワイシャツの3つを主要商品として柱に据える。それ以外の商品は大幅に縮小または完全に切り捨てる。 - 婦人物の絞り込み
婦人物はミセス向けの商品を主力とし、下着、肌着、アクセサリー類は全て廃止する。 - 子供物の限定化
子供物はトドラ(幼児)のみを対象とし、他の年齢層の商品は取り扱わない。 - ジーンズの維持
ジーンズに関しては現状の品揃えを維持する。
この方針により、M社の経営資源を特定の商品に集中させ、競争力を高める戦略を進めた。
寝装品は最も弱い分野であったため、切り捨てるのは当然の判断である。そもそも寝装品には専門業者が存在しており、これらの専門業者と正面から戦うことは不可能に近い。初めから競争力のない分野を扱うこと自体が戦略的に誤っていたと言える。
パジャマを残したのは、当初の計画では切り捨てる予定だったが、お客様からの強い要望があったためである。お客様の意見として、「大メーカーのパジャマはアイテム数が少なくて売りにくいが、M社はアイテムが豊富で選びやすく、売りやすい」という声が寄せられた。そのため、顧客ニーズを考慮してパジャマの取り扱いを継続することにしたのである。
大企業は「コスト」第一主義に偏り、お客様の要求を軽視している結果、不評を買っている。このような状況は、もし大メーカーの社長自らがお客様の店舗を巡回していれば容易に察知できたはずだ。10店舗ほど訪れるだけで、現場のニーズや不満を把握し、適切な対策を講じることが可能だったのだが、それができていないからこそ、こうした問題が起きているのである。
それはさておき、「アイテム数が少ないから売りにくい」という指摘は、実は社長の会社が取り扱う他のすべての商品にも当てはまることだ。これこそが、一倉の主張の核心部分であり、この事例によってその正しさが裏付けられたのだ。こうして、社長に対して実際の商品と現場の声を通じた実物教育を行うことができたのである。
紳士物においても、背広は専門業者でなければ取り扱うのが難しい商品であり、M社が扱うこと自体が誤りであると説明した。しかし、高額商品であるがゆえに、社長には未練があった。そこで妥協案として、「在庫を置かない」という条件をつけることで、取扱いを続けることに合意した。これにより、無駄な在庫負担を避けつつ、社長の希望もある程度反映させる形となった。
私としては、他の商品が売れるようになれば、背広の取り扱いは自然に消滅するだろうという見込みを持っていた。そのため、背広の在庫に投入していた資金をブレザーとスラックスに振り向け、これらの商品群のアイテム数を増やすことを提案した。また、プライスゾーン(価格帯)は売れ筋を中心に絞り込み、それより安価なものや高価なものは削減していく方針とした。これにより、資金の効率的な活用と商品力の強化を図ることが可能となると考えた。
商品の価格帯を少しずつ上下に広げて配置し、プライスゾーンの一段高い商品の売上に注目することが重要である。この価格帯の商品については、売れ筋商品の半分の回転率を基準として在庫を管理する。これを実行しなければ、お客様の嗜好が徐々にグレードの高い商品へと移行していく際に、その動きを見逃してしまうリスクがある。適切な在庫管理と価格帯の調整を行うことで、こうした市場の変化に対応する準備が整うのである。
売れ筋より安い商品は、いわば「おとり」としての役割を果たす。これらの商品は、売れ筋商品をより買いやすく見せるために必要な「演出」商品である。料理のメニューに「松・竹・梅」とランクが設定されているのと同じ理屈だ。例えば、「竹」を売りたい場合、比較対象として「梅」が存在することで、自然と「竹」が選ばれやすくなる。これは、人間の心理に「見栄を張りたい」という感情があるからこそ効果を発揮する戦略である。
以上の4社の実例を全体的に検討すると、業種・業態・規模などに大きな違いがあるにもかかわらず、驚くべき共通点が浮かび上がる。それぞれの社長は「市場戦略」という概念を全く理解しておらず、具体的な販売方針も持ち合わせていなかった。その結果、販売部門は自由に、いやむしろ勝手に自分たちの考えに基づいて販売活動を展開していた。
それにもかかわらず、4社すべてにおいて、「判で押したような」同じ現象が見られた。これは、戦略の欠如や計画性のなさが、どの企業にも共通する課題として現れたことを意味している。この点を理解することが、これらの企業が抱える本質的な問題の解決への第一歩となる。
何か目に見えない大きな力に支配されているとしか思えない。アダム・スミスの言葉を借りるなら、それは「見えざる神の手」のような存在だ。その目に見えない力、それこそが「市場原理」である。そして、この市場原理とは、まさにランチェスターの法則そのものだといえる。前にも述べたことと重なるが、この点こそが本質的に重要であり、この理解が市場戦略の成功の半分を握る。だからこそ、改めて強調する必要があると考えた。
大市場と小市場の戦略的選択
売上を伸ばすためには、たくさん売れる場所、つまり大市場を狙うべきだと多くの人が考える。ここが重要なポイントだ。誰もがそのように考え、大市場に一斉に押し寄せる結果、売り手が過剰になり、激しい競争が繰り広げられる。そして、ここでランチェスターの法則が発動し、力の弱い者は淘汰されていくことになる。
市場自体が大きくても、参入する業者が多すぎると、一社あたりの取り分はごく小さくなってしまう。その結果、小さな市場規模しか得られず、売上も限られてしまう。この点をしっかり理解しておくべきだ。大市場で成功できるのは、圧倒的な力を持つ大手だけだ。これこそがランチェスターの第一法則を体現している。
大市場だからといって安易に参入しても、自分の会社だけがその市場を狙っているわけではない。ほとんどの会社が同じ考えで参入してくるのが現実だ。この点をしっかりと考慮しないことが、結果的に失敗を招く要因となる。
大市場に対する考え方を完全に逆転させたものが、小市場や辺境の市場に対するアプローチだ。これらの市場に積極的に力を入れる業者は少なく、その結果、一社あたりのマーケットが大きくなる。競争が少ないために価格競争も起きにくく、最終的には大市場よりもはるかに有利な状況を作り出すことができる。
弱者の販売戦略における自然な流れは、常に大市場では苦戦し、小市場では優位に立つというものだ。どれだけ大市場で成果を上げようとしても、そこには必ず強者が存在し、その強者に打ち勝つことは基本的に不可能である。
ランチェスターの法則を知っていようが知らなかろうが、どのように行動したとしても、最終的な結果はその法則に従った形となる。これは避けようのない現実だ。
であるならば、ランチェスターの法則を理解し、それを戦略的に活用することが賢明だ。そのためには、まず市場の状況を把握し、とりわけ競合他社の行動を詳細に調べることが重要だ。その上で、自社の資源を要点に集中させ、競合に勝る力を発揮して撃破するか、あるいは競合が見落としている隙間や盲点を突いて成果を上げることが成功への鍵となる。
人間の行動様式やランチェスターの法則を知らずに行動することは、まるで急流を逆流しようとするような愚行だ。そのような無謀な試みを避けるためにも、まず原則を理解し、それに基づいた戦略を立てることが不可欠である。
自らの実力を顧みず、強者の支配する領域に踏み込み、敗北を繰り返すような愚行は避けるべきだ。自分の力で勝利を収められる戦場を、自らの意思で慎重に選び、そこで勝利を収める戦略的な賢さを身につけることが重要である。
ランチェスターの法則を活用した販売戦略
占有率の自然の成り行きは、ランチェスターの法則の通りに進行しがちであり、特に中小企業においては大市場での競争は過酷なものである。ランチェスター戦略に基づけば、弱者が大手に勝つには、大市場を避け、小市場や辺境の市場に資源を集中させるのが有効である。これは、競争が少なく、値崩れのリスクが低いため、売上や利益率が高まる傾向がある。
たとえば、企業が東京などの大市場にこだわって参入する場合、そこでは既に多くの大手企業が優位な地位を確保していることが多い。多くの企業が「大市場の売上が多い」という発想でそこに参入するが、結局、競争が激化し過当競争や価格崩壊につながり、収益性が悪化する。しかし、小市場や辺境の地域では、大手の手が届きにくいため、競争が少なく、小さな企業でも占有率を高めやすく、利益を確保しやすいのが特徴だ。
結果的に、大市場での競争に無理に挑むことは弱者にとって逆効果であり、自然の成り行きで「小さな市場で強く、大きな市場で弱くなる」のが一般的な傾向である。この流れを理解し、敢えて小市場に集中することで、弱者も安定した成長や収益を得ることができる。
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