MENU

勘定あって銭足らず

先日、経理士が提示した決算書を見てみると、前期の利益が予想以上に出ているようだ。しかし、自分としてはそれほど利益が出ている実感がどうしても湧かない。本当にそんなに利益が出ているのなら、資金繰りがもっと楽になっているはずではないか――これがC社社長の率直な疑問だった。

しかし、社長がこの状態では問題がある。損益と資金運用の関係について何も理解していないのだ。それでよく社長という立場を務められるものだと、妙なところで感心してしまう。

そこで、先期と先々期の決算報告書を借りてきて、社長の目の前で比較貸借対照表を作ってみせた。正式な形式ではなく、「財産の部」と「借金の部」という表現を使った一倉流のやり方だ。この表を使いながら、社長にわかりやすく説明を進めていく。

利益とは手元に残った現金そのものではない。会計期間中における財産の増減と借金の増減との差額であること。そして、実際に手元に残る金というのは、現金や当座預金といった流動資産に限られるという点を伝えた。

ところで、あなたの会社では、財産自体はこれだけ増えている。しかし、その内訳を見ると、売掛金がこれだけ増加している。つまり、「貸し売り」がこれだけ増えているため、その分だけ現金が足りなくなっているということだ。

さらに、定期預金が増加した分だけ、手元にある現金が減っていることも指摘する。そのほか、受取手形や在庫、固定資産といった財産項目についても、それぞれの増加内容を丁寧に説明していく。

次に、借金の部について説明する。あなたの会社では、これだけ借入金が減っている。つまり、それだけ借金を返済したということだ。借金を返せば当然、その分だけ現金も減っている。……さらに、その他の借金項目についても一つひとつ噛み砕いて説明する。そして最後に、あなたの会社では財産がこれだけ増えており、借金の増加はそれよりもわずかだ。その差額が、まさに利益として計上されている部分なのだと結論付けた。

利益とはそういうものだ、と。ようやく理解してもらえた。説明する側も汗だくになりながらの努力だった。しかし、社長が納得したからといって、これで問題が解決したわけではない。資金計画を立て、それを基に経営を進めるようになって初めて、この問題は本質的に解決するのだ。とはいえ、この社長が特別に例外的な存在というわけではない。同じような状況に陥っている経営者は決して少なくないのだ。

「勘定あって銭足らず」とは、帳簿上では利益が出ているのに、実際の現金が不足している状況を指します。C社の社長の疑問もこれに該当し、決算書を見て「利益が出ているのに資金が不足している」という矛盾に悩んでいました。

この状況を解き明かすために、比較貸借対照表を用いて、財産の部(資産)と借金の部(負債)を明確に示す説明が行われました。帳簿上の利益は、単に「会計期間中の財産の増減と借金の増減との差額」であり、現金として手元に残るものではありません。具体的には、増えた売掛金や定期預金が現金を圧迫していることや、借入金の返済が資金を減少させていることが説明されました。つまり、利益は計上されていても、その多くが「現金以外の資産」に形を変えており、実際の資金繰りにはつながらないのです。

この理解により、社長もようやく帳簿上の利益と実際の現金の関係を把握できましたが、問題はこれで解決するわけではありません。根本的な解決には、資金計画を立て、資金の流れを管理する体制が必要です。利益が出ているからと安心するのではなく、資金繰りの見える化を通じて、実際の資金状況に基づく経営を行うことが求められます。このような資金管理の意識を持つことが、安定した経営を実現するための鍵となります。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次