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公害防止の姿勢は正しいか

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公害防止の姿勢は正しいか

Z社は、化学薬品の製造販売と、メッキ加工を行っている。

ある時、化学薬品の製造工程のミスから、排煙公害を起してしまった。それは、

ただ一回だけであり、直ちに排煙公害防止の処置をとったのである(それ以後、

排煙公害を全く起していない)。

それにもかかわらず、このただ一回のミスに世間の非難が集中し、テレビで名

指しによるつるしあげを食ったのである。

Z社長は、すべては自分の不徳と、その非難を甘受した。そして、今後絶対に

公害を起すまい、と固く心に誓った。

そして、非難を受けた化学薬品のみならず、メッキ廃水についても、徹底した

公害防止の手を打ったのである。

メッキ廃水には、クロームという重金属の酸化物が多量に含まれていた。メッ

キの最終工程で、クローム酸液から引上げた品物を、水槽を数個ならべて、順次

にその中につけて、洗溝を行っていた。その水槽の水は、たちまちクローム酸に

よって黄かっ色によごれ、水槽に絶えず注がれる水によって、タレ流しにされて

いたのである。

このような高濃度の廃水を処理することなど、現実には不可能といってよい。

(従来のメッキエ場の実態がこれであり、それを、多量の水で薄めて流すか、申

し訳程度の処理装置でお茶を濁しているのだ。だからメッキエ場の廃水には、ク

ローム、ニッケル、カドミ、銅、亜鉛などの重金属や、猛毒性のシアンなどが多

量に含まれているのである)

この難問をどうするか。社長は社内の衆知をあつめて、必死に取組んだ。

そして、ついに突破口を見つけたのである。それは、発想の転換である。廃液

にクローム酸が含まれているから厄介なのであって、クローム酸を排出しなけれ

ばいいのだ、ということである。つまり、「クローズド・システム」という発想

である。

それは、水洗を「噴霧洗滸」に切換えるということである。幸いなことに、高

性能の噴霧ノズルが見つかった。噴霧洗鞣槽を二つならべて、二回の噴霧洗淮を

行った後に、水洗をするのである。その水槽の水は長時間使っても肉眼ではほど

んど色がつかない程であった。

噴霧洗滸槽の底にたまった少量の高濃度の液は、メッキ槽への補充用にするの

である。もう一つの工夫は、六価クロームと二価クロームの変換装置である。

さらに、排水処理装置をつくり、専従者をおいて、厳重な管理を行うようにし

たのである。

その結果は、定時測定によってチェックするのであるが、県の排水基準よりも、

はるかにきれいになっているのである。

社長は、この結果にもまだ満足していない。BOD (水がどの程度汚れてい

るかを示す基準値)がまだ不十分だというのである。現在、その研究を続行中

である。

ところで、この公害防止装置の損益計算書はどうであろうか。

まず、支出増は、装置の減価償却と金利、専従者の人件費、操業費の一切が、

年間一千万円である。

支出減は、材料費(クローム酸)節約が何と年間二千五百万円にのぼるので

ある。差引一千五百万円の黒字を計上できたのである。まさに見事な「一石二鳥」

である。

Z社長いわく『公害防止はペイする」と。こうして、かつての公害企業が、公

害防止優良企業に生れかわり、県の公害課の絶大な信頼を得てしまった。そして、

公害課の紹介で、見学者が殺到し、見学者は一様に舌を巻いて感心するのである。

その上、公害防止のセミナーの講師依頼があとを絶たず、社長はこれには閉口

しているのである。いちいち応じていたら仕事にならないのである。

それでも、県の公害課の依頼など、のっぴきならない事情で講師を引受けるこ

ともある。その時の、社長の結論をご紹介しよう。それは、

『公害防止の基本は、社長の姿勢である』

というのである。

公害防止が、企業の社会的責任であることはいうまでもない。しかし、問題は

社長がこの責任をどのように受けとめ、どのように実行するかである。

公害防止は、Z社のように、いつも引合うとは限らない。そのために、どうし

ても消極的になりやすい。その気持はもっともではあるけれど、そこを、 一歩実

行に踏みきってもらいたいのである。

S社の廃液は、石粉が混じっている。本当は実害は大きくないといってもよい。

それにもかかわらず、澄んだ廃液にするという社長の方針により、「公害防止委

員会」をつくり、社長自らその委員長になって公害防止に取り組んでいる。

そのために、廃液は見る間にきれいになり、排水溝に魚の姿が見られるように

なった。社長は、『その魚が廃液で死ぬようなことが絶対にあってはならない』

と自らをいましめ、社員にもいいきかせている。

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