「私の会社は……」「私の会社の場合ではですね……」という言葉が口ぐせになってい る方がよくいます。自分が起業し、ここまで苦労して育てた会社はわが子同然。
「私が ……」「私が……」と連発したくなる気持ちもよくわかります。
そうした経営者がよくやりがちなのが、経営が苦しくなると、自分の個人的な資金を 会社の資金不足の穴埋めに使い、当面の帳尻を合わせることです。
企業経営を志すならば、これは絶対にやってはいけないことだということを、まず、 しっかり頭に入れておいてください。
いわゆるパパママストアならば、経営者の家の買い物のお金をちょっと借りるだけだ とレジからもち出したり、反対に、取引先が集金に来たようなとき、足りない分を経営者の個人的な財布から支払ったりすることもあるかもしれません。
しかし、仮にも会社を経営している以上、こうした公私混同は絶対に避けなければいけません。会社の経営はあくまでも会社のお金でまかなうものです。
資金繰りがショートし、支 払いに困るときは、しかるべきステップを踏んで金融機関から融資を受けて支払いをす るのが妥当です。
そんなことくらいわかっている。でも、銀行から融資を受けるまでには時間がかかる。窮余の一策で今回だけ、つなぎ資金に個人資産を切り崩したのだ。たいていの経営者は こう釈明します。
ところが、ものごとはたいてい、1度が2度になり、2度が3度になり、気がつくと それが常態化してしまっている……、ということになっていくものです。
最初の一歩を踏みとどまれるかどうか。ここで勝負が決まります。
銀行の返済に困って、これまで懸命に仕事をし、蓄えてきた預貯金や先祖代々の資産 を売却して、懸命に返済していく。
気がついたら、預貯金は底をつき、代々の資産も人 手に渡ってしまった……。こうなるともう後の手はありません。担保にするものがなくなつてしまったのですか ら銀行もあっさり見限り、去っていくでしょう。
再生しようにももはや、どこからも資金調達ができません。
私が莫大な負債を抱えてしまったとき、最初にしたことは家族を集め、何がなんでも 会社を再生する、といい渡したことでした。
三條コーポレーションは売上規模30 億円程 度でした。実態は父が社長、息子である私などが役員に顔を並べる典型的な家族経営企 業でした。
ですから、何よりも家族の結束が大事だったのです。
同時に、家族のお金を差し出すことの愚を説き、そうした資金があれば、返済を終え て、再生への一歩を踏み出すときに使おうと話し合いました。
個人資金を会社に投入することは自爆テ回、いや、特攻隊と同じだと私はよくお話し しています。突っ込んでいった結果、経営者の家庭も会社も、皆、なくなってしまって、 それで終わり。
そこまで覚悟ができているなら、事業を縮小したり、会社の不採算部門を切り売りし たりするなど、延命策はまだきっとあるはずです。
個人の資産は、万一、会社が倒れてしまった場合を想定し、その再生資金に使うよう にすべきです。
同様の意味で、社長が経理部長を兼ねることも企業発展を妨げる大きなネックになる ものです。社長と経理部長ではおのずとなすべき仕事が異なります。中小企業の生命線は資金繰りです。
しかし、日々の資金繰りや経理処理を社長自らが やっているようでは、会社の発展は望めません。
社長が会社の数字をチェックすることが大事だと前述しましたが、社長には社長の仕事があることをもっとシビアに自覚してほしいのです。
社長は、会社全体を見回すこと。さらには3年後、5年後という将来の発展計画をつくること。
それを実現するための資金調達など、未来形の仕事に力を注ぎ、会社全体を 引っ張つていくことに全力を注いでください。
▼経営資金に個人の資金投入を、という思いがちらついたら赤信号。
コメント