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人事評価とMBOSの関係はどうあるべきか?

人事評価とMBOSの統合人事評価とMBOSとの関係はどうあるべきか。このテーマに関する筆者の見解を述べてみたい。まず、「両者は結合すべきか、それとも分離すべきなのか?」と聞かれたら、躊躇なく、「結合すべきだ」と答える。理由は2つある。1つは、人事評価の主たる材料は仕事の成果であり、成果のかなりの部分はMBOSの活動結果で説明できるからだ。2つ目の理由は、働く人々のモチベーションに関することである。ある会社では、第1章で述べた杓子定規な成果主義の弊害への対策として、MBOSと人事評価との抱き合わせ運用をやめて、両者の分離実施に踏み切った。きっとうまくいくと思いきや、「やっぱり、MBOSの活動結果は人事評価に反映してほしい。そうでなければ、ヤル気が出ない」と訴える人たちが続出した。筆者もそう思う。懸命に仕事に打ち込んで成果を上げた人ほど、成果の人事評価への反映を望むものである。それなのに、「そういうことと人事評価とは無関係」。これではヤル気が失せて当然だ。意欲的な働きぶりは会社の宝であり、その人たちのモチベーションアップのためにはMBOSと人事評価との結合が不可欠なのである。成果主義とどこが違うのか?それでは、第1章で言っていたことと違うじゃないか。そんな声が聞こえてくる。筆者が主張するのは、人事評価とMBOSとの〝緩やかな〟結合である。そして、何よりも決定的なのは、人事評価と向き合う際の根本姿勢の違いである。だから、成果主義とは似て非なるもの、なのだ。クロネコヤマトの創始者である小倉昌男(2005年没)は、「私が、42年に及ぶヤマト運輸の勤務のなかで、つくらねばならないと思いながら完成し得なかったものがある。人事考課の制度である」(『小倉昌男経営学』/小倉昌男/日経BP社/1999年)と述べている。それほど難しいのが人事評価であり、難しさの根源的理由は評価の公正性の担保の仕方が人類5000年の叡智をもってしてもいまだ見つからない、というところにある。もしも、仕事が陸上競技の100メートル競走のように同一条件のもとで行われるならば、人事評価はどんなにか楽なことであろう。ストップウォッチで測定すればよいからだ。しかし、仕事の成果測定はそうはいかない。かなりの部分を人間の主観に頼らざるを得ない作業であり、あえて言えば、フィギュア・スケートの採点をするようなものであろう。それなのに、強引に100メートル競走の客観的な測定方法を人事評価に持ち込む。これが杓子定規な成果主義の本質的な特徴であり、それがあるから「人事評価とMBOSとのタイトな結合」という論理が成立するのである。筆者はその本質部分を否定して、緩やかな結合方法を提唱する。重要なのは「公正な主観」人事評価は「上司の下す意思決定」であり、意思決定の公正性は「上司の公正な主観」で担保する。これが人事評価と向き合うときの基本スタンスである。筆者は、人事評価はダイヤモンドの鑑定と相通ずるものがあると考える。ダイヤモンドは、カラット(希少価値としての「重さ」)、カット(輝きの美しさを決定する「研磨具合」)、カラー(美しく輝くための「色味のグレード」)、クラリティ(透明度やキズの有無)という4つの評価基準を使って鑑定される。鑑定に際しては、重さであるカラットは精密機械を用いて測定するが、それ以外の評価要素の測定には科学的な検査方法が適用できず、頼りになるのは鑑定士の「目」と「勘」と「主観」である。そのため、鑑定士や鑑定機関によって評価が大幅に違うことも稀ではない。だから、顧客は信頼できる鑑定機関の発行する鑑定書を求める。これは、サイエンスというよりはハートの世界であり、アートと呼ぶべき作業である。人事評価にも、このダイヤモンド鑑定の考え方の適用が必要ではなかろうか。科学的に測定可能なものは人事評価ルールとして作成し(そういうものがあるかないかは疑問だが……)、そうでないものは評価者の全身全霊に委ねるのである。これを世間では、人徳や人間力による「納得」と呼び、それが公正な主観を担保するための重要な寄りどころになるのである。3つの緩やかさ従来の成果主義は、人事評価とMBOSとの結合をあまりにもタイトに追求し過ぎたきらいがある。相当の権限を持つ事業部の統括マネジャークラスならまだしも、下位階層にまでタイトな結合を要求した。その結果、諸々の問題が発生しているのは第1章で述べた通りである。その反省を踏まえて、筆者は緩やかな結合を提唱する。「緩やか」とは何なのか。それは、3つの意味を含んでいる。1つは、チャレンジ目標の達成度だけではなく、「達成プロセスにおける努力度」も評価対象に組み入れることである。とくに、下位階層には絶対に必要な措置だと考える。2つは、目標達成度とプロセスの努力度の構成比率についての緩やかさである。ポジションや状況、あるいは権限の大小にもよるが、構成比は一般的には半々程度が望ましいのではなかろうか。そして、3つ目の緩やかな結合とは、「チャレンジ目標とそれ以外の業務とをどのような割合で人事評価に反映させるのか」という疑問に対する答えである。人事評価の対象領域のすべてをチャレンジ目標として設定するのは不可能であり、必然的に目標にしなかった業務や、難易度は低くとも、自分の責任においてきちんと処理しなければならない仕事も存在するだろう。さらには、チームワークへの貢献も仕事のうちであり、上級者になればなるほど人柄も大切で、それらの人事評価への組み入れも必要になるであろう。以上のことを勘案するならば、やはりチャレンジ目標の人事評価への反映度は50%程度が妥当なのではないかと考える。このような3つの緩やかさを採り入れた人事評価とMBOSとの結合ならば、働く人々の納得感が得られるし、やさしい目標を設定して会社を潰すという成果主義の弊害も、ある程度薄めることができるだろう。ぜひ、そうあってほしいと願っている。

第4章のまとめチャレンジ目標のSeeとは、1年間(6ヶ月間)のMBOS活動の総括だ。・オープン展開で、職場目標の振り返りミーティングと個人の成果確認ミーティングを実施する。・ミーティングの目的は、「今期の成果の共有化」と「来期に向けた課題づくり」である。職場目標の振り返りミーティングでは、目標ごとに、「目標の難易度の見直し→目標の達成度の確定→なぜ、その達成度になったのかの検討→来期の職場課題の明確化」というストーリで話し合う。個人の成果確認ミーティングも職場目標の振り返りと同様の考え方で、自分の仕事の成果を確認し、来期の課題を考える。本書では、上記に加えて、「自己成長の手応え」の振り返りを強く提唱する。個人の成果確認ミーティングも、職場の振り返りと同様に、オープンシステムで実施する。個人の成果確認ミーティングの結果にもとづいて、来期の自分の能力開発プランを作成する。・「会社への貢献」と「自分のキャリア・ビジョンの実現」との統合を図ること。ビジネスパーソンの最も重要な能力は、「経験能力(体験がもたらす知恵やノウハウ)」である。・経験能力の開発とは、実務における、目標達成手段の立案とその完全遂行に他ならない。チャレンジ目標のPlan→Do→SeeというMBOSの実務は「お祭り」で締めくくろう。

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