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二〇〇〇ルックスの照明

I社は従業員約700人を抱えるメッキ工場である。I社長は経営計画書の基本方針に環境整備を掲げ、その推進に力を入れてきた。その結果、目を見張るほどの大きな成果が二つ得られた。

一つ目の成果は、生産性が30%以上向上したことだ。もう一つは「メッキ不良」が大幅に減少したことであり、不良率はもはや問題視する必要がないレベルにまで達した。

その結果、納期が確実に守られるようになり、得意先からの信頼も大きく向上した。良いことづくめの状況となり、その流れの中で値上げの依頼もこれまでにないほどスムーズに進めることができた。

環境整備の重点項目の一つとして、照明の明るさを向上させる取り組みが行われた。作業面の明るさは2000ルクスに設定され、社内は文字通り一気に明るい雰囲気の会社へと変貌した。そのために増えた電気料金はごく僅かであり、問題視する必要は全くないとされている。

I社長は毎月一回、自ら環境整備のチェックを行っているが、整備が不十分な箇所は決まって照明が暗い場所だという。社長の指摘は「照明をもっと明るくしなさい」というもので、整備不良そのものには触れない。それにもかかわらず、次回の巡回時にはその箇所がきちんと整備され、美しくなっているのだという。

この環境整備は意外な副産物を生んだ。それは、パートの女性たちがお化粧をして職場に来るようになったことだ。「きれいになったね」と声をかけると、照れくさそうに「だってこんなに明るくなったら、お化粧しないと恥ずかしいんです」と答える。なんとも素晴らしいことではないだろうか。

N社でも同じような現象が起こった。和菓子を製造し、自社店舗で直販を行っている企業だが、私は全店舗の照明を2000ルクスにすることを提案した。

提案を実施すると、たちまち売上が伸び始めた。それだけでなく、女性店員たちがみな一層丁寧にお化粧をしてくるようになり、その結果、態度も礼儀正しくなり、接客対応が格段に向上した。

K社は電子部品を製造する企業だ。ここでも照明を明るくする取り組みを行ったはずだったが、実際に工場を訪れてみると妙に暗い。「どうしてこんなことになったのか」と問い詰めると、K社長はこう答えた。「照明のことで一倉さんに叱られるだろうと思っていました。

K社長は続けた。「実は先日、主要な得意先の購買課長がいらして、『照明が明るすぎる。これではコストが高くなるのではないか』と言われたんです。それで仕方なく、しぶしぶ暗くしました」。こんなやり取りがあったという。

コスト病にかかっている人は驚くほど多い。この「コスト病」は、企業内で最も危険な病気の一つだ。発症すると、製品の質が必ず低下するだけでなく、企業活動の中で「最も重要なもの」が「コスト」にすり替わってしまう。お客様サービスに必要なコストが真っ先に削減され、その結果、お客様の怒りを買ったり、信頼を失ったりすることも少なくない。さらに極端なケースでは、コスト病が原因で会社が倒産するという恐ろしい事態に陥ることすらある。

今どきの中小企業には、もはや削れる費用などほとんど残っていない。わずかなムダさえ、企業活動の中ではクッションとして必要なものだ。本当に重要なのは、コストを削ることではなく、「収益」、つまり付加価値や粗利益をどう増やすかという視点である。

コスト病患者には、この本質が全く理解できない。「1」のコストを削減できたとしても、その結果「10」の収益が減るような状況でも、彼らの関心はひたすらコスト削減だけに向かっているのだ。

K社長に気合を入れようとすると、私のやり方をよく知っている彼はこう言った。「明日の夕方にお越しください。それまでに明るくしておきます」と。

K社長はこう話してくれた。「照明を明るくした途端、不良品がみるみる減少し、お客様から喜ばれるようになりました。ある得意先からは、『これで月間数百万円のコストダウンは確実だ』と大変感謝されました」と。

B社は文房具店だ。店内が暗かったため、照明を明るくすることを提案した。その明るさの基準として、「天気の良い日の正午頃、道路の向かい側から店内の陳列がはっきりと見える程度の明るさにする」という目安を示した。

しばらくしてB社を訪れると、店主がこう話してくれた。「一倉さん、売上が3割も増えましたよ。この照明工事にかかった費用は18万円でしたが、まさかここまで効果があるとは思いませんでした」と驚きと感謝の声を聞かせてくれた。

照明を明るくすることが、企業の環境整備と生産性、売上にどれほど大きな影響を与えるかを示す興味深い事例です。

I社のメッキ工場では、2000ルックスの明るさを実現した結果、生産性が30%以上向上し、不良率が激減しました。この成果は、納期の安定と顧客からの信頼をもたらし、値上げのお願いさえもスムーズに進められるようになりました。さらに、社長自ら環境整備のチェックを行い、暗い箇所には「もっと明るく」と指示するだけで、次回には改善されていたというエピソードも、照明の重要性を物語っています。

また、照明が明るくなると、パート社員の方々が化粧をしてくるようになるなど、働く人の意識が自然と向上する効果も見られました。N社やK社といった他の企業でも、明るい照明によって売上が上がり、不良が減少し、顧客満足度が向上しています。

一方で、「コスト病」の例として紹介されたK社の話も印象的です。コスト削減に過剰にこだわり、照明を暗くすることで製品品質が低下し、顧客満足度が損なわれる危険が示されました。このケースでは、K社長が照明を元の明るさに戻したところ、たちまち不良が減少し、顧客に喜ばれたという成功体験を得ています。

文房具店B社では、外からの見えやすさを基準に照明を明るくすることで、売上が3割も増加し、わずか18万円の投資で驚くべき効果が得られました。

これらの例から、照明の明るさが業績に与える影響が非常に大きいことが明らかであり、照明に投資することで多くの企業が収益性や顧客満足度を高めることができるという結論に至ります。

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