さて、創業者であればどなたでも必ず、前項に挙げたような会社の存在理由・意義について、とことん考え抜くというステップを経験しています。
「理念なんて、そんな大層なものはありません」とおっしゃる方の場合でも、よくよくお話を伺えば、「ああ、この経営者はこういったことを心がけていらっしゃるんだな」、「こんな想いで顧客と向き合ってこられたのだな」ということが窺えるのです。
もし皆さんの会社が、これまで
●経営理念として明確に言葉で表現されたものがない
●経営理念はあるが、社員や顧客にまで伝わっていない
という状況であるなら、その見直しに、事業承継ほど適した機会はないでしょう。
後継者が経営者となるには、「この会社で自分は何を実現したいのか」をとことん考え、覚悟を決めることだと書きました。
その覚悟の内容、即ち将来への夢や実現したい理想が、これからつくっていく経営理念のベースとなります。
ぜひ、第二第三の創業を行うつもりで、ご自分の実現したい夢、理想を追求していただきたいと思います。
「いや、自分は後継者として、先代の理念を守っていきたい」とお考えであるなら、親子の会話の中で、既に存在している我が社の経営理念について解説を求めたり、この会社を起こした時(代々続いている家業であれば継いだ時)はどういう状況で、先代はそれについてどう感じていたか、どんな理想を持って、何を心がけてこの会社を経営してきたか、今までこの仕事をしていて一番困ったことや嬉しかったことは何か、そういった事柄に耳を傾ける機会を、設けていただきたいと思います。
そこに貫かれている先代の価値観を抽出し、理解していくことが肝要です。
会社の存続が事業承継の目的なのではなく、理念実現のためのバトンタッチであると考えるのです。
経営理念抽出のポイント創業者、先代経営者の話「なぜこの会社をつくろうと思ったか」→(会社の目的・存在理由)「会社をつくり、どんなことを実現したかったか」→(社会的使命感)それを踏まえ、「社会全体に対して」「顧客に対して」「社員に対して」自社はどうありたいか?後継者に対し「まだ後を継がせるのは早い」と考え、具体的な事業承継の相談を後回しにする経営者は少なくありません。
が、このように後継者のほうから「思い出話を聞きたい」、「会社についてきちんと知りたい」という働きかけを示されると比較的受け入れやすいようです。
先代となかなか腹を割った話ができないという場合には、コミュニケーションを深める糸口としても最適ではないでしょうか。
なお、この経営理念も含め、先代の方針をそのまま踏襲すべきか、それとも最初から何もかも変えていくべきか、とお悩みの方もいらっしゃるかと思います。
私としてはどちらも「あり」だと考えます。
ベンチャー型事業承継の成功例をとってみても、
●強引に社長交代を推し進め、先代のカラーを完全に払拭し、自社を全く新しい会社として生まれ変わらせた後継者もいれば、
●あくまで先代の事業にかける想い・理想の延長線上でありながら、それを「社会から好感を持って受け入れられる」という非常に高いレベル
にまで引き上げるため、社員の、そして先代社長自身の反対にも粘り強く対応し、抜本的な改革を実現した後継者もいます。
何が正解かは、やはり、その会社の状況によるでしょう。
ただ、これまでの経営理念をそのまま踏襲する場合でも、今後その理念を自らが社員の手本となって率先し体現していくべきであると考えれば、先代の話を傾聴する際も当時の経営環境を調べ、「先代はどんな気持ちでこれを実施したのだろうか」と感情移入したり、自分なりに咀嚼してみることが最低限必要になるでしょう。
自分の言葉で社員たちに解説したり、受け継いだ経営理念をさらにビジョンやミッション、コアバリューという形に落とし込んでいくことができれば、なお良いでしょう。
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