S社長は一年を通して常に三つか四つの役割を担っている。たとえば、工業会の理事長、経営者向け経営研究会の幹事、業界主催の外国派遣研修生の予備教育のサポート役など、多岐にわたる活動に携わっている。
社長がそんなことをするべきではないと考え、かつて石田バルブの社長が業界の世話役に力を入れすぎて自社を倒産させた話を引き合いに出して説得を試みる。それに対してS氏は、「その話はよくわかっている。しかし、誰かがやらなければならないし、他に引き受ける人がいないとなると、つい頼まれるままに受けてしまうんだ」と語るのだ。
改選の際には、S氏を再選させるための裏工作(?)が行われることもある。人が良いS氏は、そうした流れに流され、他人のために大切な自分の時間を費やしすぎる。その結果、自社の経営がどうしてもおざなりになってしまうのだ。
「輪番制でやらなければならない役なら仕方ない。でも、それなら適当にこなして再選の声が上がらないようにし、さっさと次の人にバトンを渡すべきだ」と悪知恵(?)を授けても、結局は効果がない。こうなると、もはやS氏の性分が「世話好き」そのものなのだろう。一生この役割から抜け出せないのではないか、と思えてくる。
「一倉さんは心配するけれど、会社の経営に手を抜いているわけじゃないから大丈夫だ」とS氏は言う。しかし、それは本人がそう思っているだけで、私の目には明らかに見落としている部分や、抜け落ちていることが少なくないように映るのだ。
こちらが心配しているのに、S氏は相変わらず他人の世話ばかり焼いて、自社の経営をおろそかにしている。「勝手にしろ。会社がどうなろうと知ったことではない」と心の中で突き放してみるものの、しばらく疎遠になっていたS氏の会社の業績が最近芳しくないという噂を耳にすると、やはり気にかかってしまう。
S社が何とか立ち直ってくれることを願う気持ちは強い。そして、今もなお世話役を続けているのだろうか。もしそうなら、今度こそすべての世話役をきっぱりと辞め、経営に専念してもらいたいものだ。
会社経営は、いくつもの世話役を抱えながら片手間でできるほど簡単なものではない。本来、全力を注いでもなお不十分だと感じるほど難しいものだ。それに、世話役というのは見た目以上に手間がかかる役割である。三つも四つも抱えたなら、とても本業である社長業に集中することなどできるはずがない。
だから、ほとんどの社長は世話役を敬遠し、人のいい社長にその役を押しつけるのだ。しかし、私に言わせれば、悪いのは押しつける側の社長ではなく、押しつけられてしまう側の社長である。結局、それを断れない性格が問題なのだ。
押しつけられるのではなく、自ら進んでやりたがる人もいる。こういう人に関しては、いっそのこと社長を辞めて、世話役に専念してもらうのが最善だろう。その方が本人にとっても、会社にとっても幸せなのではないかと思う。
本業である社長よりも世話役が好きだというのなら、好きな道に進むのが最も自然であり、本人にとっても良い選択だろう。しかし、社長という職務が持つ重大な社会的責任を自覚しているならば、そもそも世話役などに時間を割く余裕はないはずだ。本業に専念できないのであれば、その責任を果たしているとは言えないのである。
話は少しそれるが、平日のウィークデーに、お客の接待でもないのにゴルフに出かける社長もいる。もしそれが自分だけの楽しみのためであり、そのせいで本業がなおざりになっているのだとしたら、改めて考えてもらいたい。本業を放置して趣味に走るようでは、社長としての責任を果たしているとは到底言えない。
社長が何をしようとも、それを注意する人間は誰もいない。それが社長という立場だ。しかし、だからこそ社長自身が自戒しなければならない。自分の行動が本業に支障をきたすようなことがあってはならないし、ましてやそのような振る舞いが会社の士気や信用を損なうことがあってはならないのである。
S社長のように、世話役を引き受けすぎて自分の会社を後回しにしてしまう経営者には、しばしば「責任感が強すぎるがゆえに引き受けてしまう」ケースが見られます。しかし、その善意が本業に悪影響を及ぼすことが多いのも現実です。世話役は想像以上に労力を奪うもので、いくつも兼任することで会社経営が手薄になり、結果として業績が低迷する原因にもなります。
こうした状況では、世話役を全てやめて本業に集中することが最善でしょう。社長自身が率先して経営の全てを管理・判断することで、従業員にもその姿勢が伝わり、会社の雰囲気も大きく変わるはずです。社長は会社を支える中心的存在であり、社長業に全力を注ぐことが何よりも優先されるべきです。
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