N電機のS氏は、まさにアイデアマンと言える人物だ。自社製品の多くが彼自身の発想から生まれている。その中でも主力商品は特許によってしっかりと守られており、会社の業績は驚異的な水準に達している。それにもかかわらず、彼は一切自慢することなく、謙虚な姿勢を貫いている。その人柄には感服するばかりで、自分など到底及ぶものではない。
S氏の依頼で経営に関するサポートをさせてもらった際のことだ。初めてS氏と顔を合わせたその時、彼はこう切り出した。「不躾ですが、先生のお話をテープに録音させていただいてもよろしいでしょうか」と。もちろん「どうぞ」と応じたものの、初対面の場で自分の話を録音されるというのは、それまで経験したことのない出来事だった。
S氏によれば、大切な話を聞く際にはいつも録音するのが習慣だという。話を聞き流してしまうと、重要なポイントを見落とす可能性があるからだそうだ。
こうして録音されたテープは、すでに数百本にのぼるという。それらのテープは毎晩、床についた後にイヤホンを使って一本ずつ聞くのが彼の日課だそうだ。特に重要な内容は何度でも繰り返し聞き直すという。その徹底ぶりは自分だけにとどまらず、専務を務める奥様にも同じように聞いてもらっているとのことだ。
S氏はこう語る。「私のように学問もなく、頭の悪い者は、こうした努力でもしなければ、世の中に置いて行かれてしまいます」と。その言葉には、謙虚さと共に、自分を律し続ける強い覚悟が感じられる。
後日、S氏が私のセミナーに参加された際にも、最前列で堂々と「公認(?)」の録音をしていた。その様子は決して奇抜なものではなく、至って平凡な行為だ。やろうと思えば誰にでもできることにすぎない。
とはいえ、それを実際に続けるのは簡単なことではない。実のところ、私自身も超小型のテープレコーダーを持っており、やろうと思えばいつでも録音できる環境にある。それにもかかわらず、来客時にたまに使う程度で、持ち歩いてまで活用することはしていない。
面倒だとか、荷物になるとか、そんな勝手な理由を自分に言い訳させているにすぎない。これはもう横着以外の何物でもない。そのくせ、後になって「録音しておけばよかった」と後悔することもしばしばだ。勝手なものだと思いつつも、分かっていながら実行に移せない自分がいる。まったく情けなく、恥ずかしい話だ。
S氏は、そうしたことを極めて当たり前のように実行している。やはり、優れた業績を上げる社長というのは何かが違う。その姿勢には感服せざるを得ず、本当に立派な方だと思う。
N電機のS社長のように、重要な話をテープに録音し、何度も聴き返すことで知識を深め、常に学び続ける姿勢は見習うべきものです。自らの「学問が足りない」という謙虚な姿勢から、日々の努力を惜しまず、成果を積み重ねていることが伝わってきます。
社長自身が開発したアイディアが自社の主力商品として成果を上げているだけでなく、さらに他者の意見や学びを積極的に取り入れて自らを成長させ続けている姿勢は、真のプロフェッショナル精神の表れといえるでしょう。
「分かっているけれど実行しない」というのは誰しも感じることでしょうが、S社長のように常に実行に移し、日常の中で習慣化しているところに、成功の秘訣があるのかもしれません。このような姿勢は、個人の成長や企業の発展に不可欠なものです。
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