タンクローリーの注入口に封印をする
M社はタンクローリーでN社の食品を運搬していた。タンクローリーはもちろん、車庫も事務所も排水溝も、一カ所どころか、一点の汚れもないという完璧な環境整備である。
運転手の人達は、仕事を終って帰社するとドシャ降りだろうと雪だろうと、雨具に身をかためて休む間もなく車の洗車である。これが終らないうちは絶対に休憩しない。全員一日二時間を車の整備にあてているという。
着ている作業衣は、まっ白、車はピカピカ、礼儀正しさは、こちらが面食らうのである。
見学の人達が絶えないのだが、みな、あまりの見事さに、腰を抜かさんばかりに驚くのである。
今年購入した新車と、五年使って今年廃車になる車を並べて、十メートル離れて見ると、どちらが五年使った車か区別がつかないのである。車の整備は万全、運転手は慎重、事故など起す筈がない。燃費効率は最高である。
同業者の社長から、冗談めかした苦情がでる。「あんまリピカピカにするな。すれ違う時に眩しくて運転に差し支える」というのである。
運ぶ品は「水あめ」が主体で、タンク注入時には、注入回の周囲をアルコールで噴霧消毒し、注入し終ると封印をする。これはお客様から要求されたのではなく、M社が自主的に行っているのだ。
納品先のK社のごときは、N社に対して「我社はM社の車で運んだ品物以外は受入れをしない」という申し入れをしている。毒物混入というような悪質な妨害をされる心配がないからである。
N社で新工場を造った時には、「新工場の品物の運搬を頼む」といわれた。そこにはN社系列の運搬会社があるにもかかわらずである。
最近は、M社の評判を聞いて、大手の会社から次から次へと仕事の依頼がある。その対応に忙しくて、いくら増車をしても間に合わない程である。新規得意先の開拓など全く必要としないのである。
M社は「お客様に大きくされてしまう会社」なのである。
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