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セルフ・コントロールについてまとめよう

セルフ・コントロールについてまとめよう

MBOSは、一人ひとりが上位計画と連動した「ギリギリ背伸びのチャレンジ目標」を設定し、その達成を「意欲的、かつ自律的」に追いかけるプロセスである。しかし、それをごく自然にやり切るのはひと握りの特別な人であり、普通の人には難しい。最大の難しさは、「会社の目標を自分の目標に同化させること」ではないか。もし、同化がうまくいけば、あとは比較的簡単で、働く人々は自主性を発揮して意欲的にチャレンジ目標を追いかける。それがセルフ・コントロールの世界であるが、MBOSの目標はプライベートの目標のようにはセルフ・コントロール状態が訪れない。プライベート目標においてセルフ・コントロールが容易なのは同化の努力が不要だからである。たとえば、筆者はこの本の執筆を8ヶ月前に決意した。誰に言われたわけでもなく、自分でそうしようと思ったのだ。なおかつ、目標を達成することに「大いなる魅力」も感じる。そういう「自分で決めた自分の目標」だから、何が何でも達成したいと強く思う。その思いがセルフ・コントロールの源泉であり、それは「目標設定そのもの」が必然的にもたらすパワーである。ところが、MBOSの目標はそうはいかない。出発点には会社の目標が制約条件として存在し、自分の意思決定を制約する。目標達成の魅力もピーンと来るものがあまり見当たらないかもしれない。チャレンジ目標は設定してみたものの、それはあくまでも「会社のための目標」であって「自分の目標だ」という実感が湧きにくい。だから、同化の努力が必須であり、そのままでは「趣味の世界ではあんなにイキイキしているのに、それが仕事でなぜできない!」という状態になってしまうのが常である。では、自分が背負う業務目標を自分の目標と受け止めて、セルフ・コントロール状態を作り出すためにはどうしたらいいのか。それは、チャレンジ目標のPlan→Do→Seeの各場面において、「納得感と責任感」を育てて、「仕事の面白さや自己成長の手応え」を実感することである。これが基本であるが、そこにもう1つ、外発的動機づけを差し込むことも重要だ。働く人々の意欲的行動は内発的動機づけだけでなく、他者からの承認や称賛という外発的動機づけにも支えられており、多くの人たちがその充足を望んでいるからである。このような、チャレンジ目標のPlan→Do→Seeの場面における内発的動機づけと外発的動機づけは、一対一の個人面接だけでは限界があり、オープン展開との組み合わせが必要だ。みんなでワイワイガヤガヤと語り合いながらヤル気を高めていくのである。ここまでやれれば、会社の目標は自分の目標とかなりの程度同化して、セルフ・コントロールのパワーも強まるであろう。しかし、油断は禁物だ。人間は複雑な生き物であり、四六時中、仕事のことばかり考えたり、仕事がらみの話をするだけでは疲れがたまり、セルフ・コントロールのパワーも陰りを見せる。仕事の合間には、遊び心を楽しんだり、憩いの時間を持つことも必要だ。また、仕事の持ち場を離れて、仕事に必要な知識を充電するという勉強の場も大切である。そのようなリフレッシュや勉強があるから、再び修羅場に突入する気力も湧いてくるのである。リフレッシュや勉強に有効な方策を職場の行事として仕事の中に組み入れて、その行事とチャレンジ目標のPlan→Do→Seeの各場面における動機づけとをうまく融合させること。それが「同時並行多面作戦」であり、チームワームの強化と働く人々のセルフ・コントロールの促進剤として不可欠な押さえどころと考える。普通の人間がセルフ・コントロールに火をつけて、それを維持することは簡単なことではない。それが身にしみてわかっているから、自ら飛び込まず、一歩引いて他者の努力を傍観したり、「オレには無理だよなぁ〜」と逃避を決め込む人が出てくる。しかし、本来、人間はセルフ・コントロールの力を潜在的に持っていて、その顕在化は「同時並行多面作戦」の展開により可能なのではないか。少なくとも、今までの体験から、筆者はそう固く信じている。「社長、あんたが来てから何となく忙しくて、わしら、あれよ、あれよと言っている間に、気がついたら黒字になっていたよ」、「やれ標語を出せ、ポスターを書け、新しいバッジを配るぞ、QCの勉強しろ、合宿研修だ、花壇を作れ、何だかんだと仕事と仕事以外の何やらとごちゃまぜにして、バタバタと走りまわっているうちに黒字になっちゃった」これは、「同時並行多面作戦」でセルフ・コントロール状態を経験した、『黒字浮上!最終指令』の会社の従業員の後日談である。

おわりにミドルを応援したい筆者の職業は教育コンサルタントである。世間の人からは研修講師と呼ばれているが、モノを教える講師ではない。マネジメント研修に参加する人たちの「モチベーションの刺激剤」になることが、自分の付加価値だと思っている。受講者の大半は「課長やチームリーダー」と呼ばれる、いわゆる「ミドル・マネジメント」という階層に属している人たちだ。ミドルというと、何かマイナーな響きを感じる人も多いと聞く。事実、「ミドル:会社の中でいちばん多くいる種族。〝若くはないが偉くもない〟という人すべての総称」(『ビジネス版悪魔の辞典』/山田英夫/株式会社メディアファクトリー/1998年)、と揶揄される対象である。しかし、ミドルは間違いなく、会社を支える屋台骨である。揶揄されようが、ときには嫌悪されようとも歯を食いしばって働いており、その努力なしに会社の成長はあり得ない。そういう存在がミドル・マネジメントである。また、多くのミドルはプレイング・マネジャーであり、自分自身の担当業務を持っている。重要客先の担当であったり、主要技術の開発業務であったりする。それだけでも大変な仕事なのに、それに加えてマネジメントも担当する。野球でいえば、4番バッターと監督の兼任であり、とても月並みな言葉では表現できない重責労働である。上級マネジャーは、背伸びしても届かない天文学的数字を平気で投げてきて、達成方法は「現場で考えろ!」と突き放す。自己主張は一人前でも、責任感の希薄なメンバーもいる。役職離脱の年長者はいまだに上司顔で接してくる。最近では外国人のメンバーも珍しくなく、彼らは何を考えているかよくわからない。そのうえに、わがままなお客様からは無理難題が飛んでくる。これが現場の実態であり、ミドルはもろもろの問題解決に振り回され、あっという間に1日が暮れていく。へとへとの心と体を引きずって、家路を急ぐ電車の中では「マネジャーとは雑用係かぁ。あぁ~、あぁ、課長なんかにならなければ……」と嘆きの吐息を漏らしてしまい、家に帰れば愚痴の1つも言いたくなる。それが平均的なミドルの実態なのではなかろうか。そんなミドルを筆者は応援したい。ミドルの元気に役立つような、マネジメントのヒントを提供したい。そういう思いを込めて、この本を執筆した。マネジメント仮説の構築を!ミドルが元気を出すためには、自分なりの「マネジメント仮説」を持つことが必要だ。仮説とは「今現在の己の信じる道」であり、仮説があれば明日の行動が見えてくる。プレイング・マネジャーの「限られたマネジメント時間」の有効活用も可能になる。仮説は、ミドルを元気に導くためのナビゲーターとして機能する。だから、仮説づくりをしてほしい。仮説づくりに際しては、「手掛かりとなる情報」が必要だが、いちばん身近にある情報源は「自分の体験」である。すでにマネジメント経験のある人は「自分のマネジメント行動」を振り返り、うまくいったことや失敗したことなどを整理する。経験のない人は、メンバーの立場から見たリーダーの行動で、「なるほど……、もし自分が上司だったら……」と思ったことを書き出してみる。書きとめる行為は「自分に言い聞かす」という効果があり、それだけでも、やってみる価値は十分ある。しかし、自分の体験は断片的であり、それだけではマネジメント仮説の構築は難しい。全体を支える「背骨」がほしい。背骨があれば、「体系的な仮説」が可能である。本書で解説したMBOSは、筆者の実体験や見聞を整理した筆者なりの仮説であり、ミドルの「仮説づくりの背骨」になり得るものと信じている。目標管理制度を導入済みの会社はもちろんのこと、マネジメントに携わるすべてのミドルに推奨したい「マネジメントの基本枠組み」である。仮説づくりと並行して、仮説を試してみることも大切である。実践してこそ、仮説は価値がある。そう頭でわかっていても、実践は別物だ。MBOSは当たり前の地道な実践の世界ゆえ、頓挫することも珍しくない。やり切るためには「一途な思い」と「愚直さ」が必要である。その思いを持って真っ直ぐ取り組めば、何らかの手応えがあり、仮説の補強も可能になる。「マネジメントの面白さ」も実感される。そんな好循環をイメージして、仮説の実践に励んでほしい。現場のミドルは奮起せよ!日本はすでに、知識労働の時代に突入した。20年以上も前に、ドラッカーが言った通りの事態である。「これまでの100年は、肉体労働の生産性の向上に成功した国や産業が世界経済のリーダー役となった。はじめにアメリカ、次にドイツと日本が続いた。これに対し、これからの50年において世界経済のリーダー役となるのは、〝知識労働の生産性向上〟に成功した国や産業である」(『テクノロジストの条件』/P・F・ドラッカー/ダイヤモンド社/2005年)。もう後戻りはあり得ない。大企業も中小企業も、定型労働の手際の良さが生み出す「規格品の大量生産」から「知恵の創出産業」への変身をせざるを得ない状況に置かれている。マネジメントも「アメとムチのマネジメント」からMBOSへの切り替えが急務であり、その成否のカギを握っているのが「現場のミドル」である。だから、ミドルには、MBOSのコンセプトを具現化した自分のマネジメント仮説を本気になって実践してほしい。今がミドルの力の見せ所、そう奮起した現場のミドルが大勢現れること。それが筆者の切なる願いである。

謝辞本書の執筆にあたり、いろいろな方々のお世話になった。『黒字浮上!最終指令』との出会いがなければ、おそらく本書は存在しなかったであろう。著者の猿谷雅治氏(平成10年没)との深い交わりがあったからこそ、MBOSをライフワークにすることが可能になった。まずは、同氏と、同氏亡き後も温かい心で筆者を包み込んでいただいているご家族に、最大限の感謝の意を表したい。多くの企業や公共団体のご支援もいただいた。情熱だけが取り柄の未熟な筆者に期待をかけて、40歳代から今日まで、20年以上の長きにわたり、仕事を出し続けてくれる会社もある。大規模企業にもかかわらず、MBOS研修の全社展開を筆者一人に委ねてくれた会社も数社ある。教育コンサルタントのみならず、戦略コンサルタントをも兼任させ、東証1部上場のプロセスを間近で見させてくれた会社もある。経営の細部にまで筆者を立ち入らせ、現実の修羅場を体験させくれた中小企業の社長もあまたいる。いずれも、「生涯、足を向けて寝られない存在」と感謝の気持ちでいっぱいである。研修受講者との交流からも、多くのことを学ばせていただいた。喫煙室での瞬間的な会話から、はっとするような気づきが得られたことも稀ではない。「ありがとうございます」と心からお礼を申し上げたい。また、学者やコンサルタントの方々からも、多くのヒントや示唆、それと励ましをいただいた。とりわけ、問題解決研修の師である佐藤允一先生(自己啓発協会会長、帝京大学名誉教授)には、その包容力の大きさに感謝の念を抱いている。末尾になったが、ダイヤモンド社の方々にもお礼を申し述べたい。書籍編集局第一編集部の中嶋秀喜編集長には、執筆の機会のみならず、執筆パターンにも変身を促すような配慮をしていただいた。企画から上梓までの一切合財をお世話いただいた、第一編集部の真田友美さんのアドバイスがなければ、筆者は自分の殻を打ち破れず、本書もこのようなスタイルにはならなかったであろう。今回の執筆は、自分の潜在的可能性を感じ取る、またとない体験であったと感謝の念を表したい。最後に、執筆にもがき苦しむ筆者に寄り添いながら、3月の誕生日を迎えた、お茶目でピュアな妻に感謝して、心を込めて本書を捧げたい。2012年4月五十嵐英憲

[著者]五十嵐英憲(いがらし・ひでのり)1969年早稲田大学商学部卒。資生堂、リクルートを経て教育コンサルタントとして独立。現在、五十嵐コンサルタント(株)代表取締役。(株)自己啓発協会インストラクター。専門分野はMBOS(目標管理)研修やマネジメント・システムの構築支援活動。セミナー受講、講演受講者はのべ10万人超。著書に『新版・目標管理の本質』ダイヤモンド社などがある。連絡先igarashi@pp.iij4u.or.jp個人、チーム、組織を伸ばす目標管理の教科書——ノルマ主義に陥らないMBOの正しいやり方2012年5月31日プリント版第1刷発行2014年12月26日電子版発行著者——五十嵐英憲発行所——ダイヤモンド社〒150‐8409東京都渋谷区神宮前6‐12‐17http://www.diamond.co.jp/電話/03・5778・7232(編集)03・5778・7263(製作)装丁—————水戸部功本文デザイン——大谷昌稔(POWERHOUSE)製作進行————ダイヤモンド・グラフィック社編集担当————真田友美

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