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ショッピングセンターをつくりたい

C社は小規模な店舗を3つ展開するスーパーマーケットで、業績は堅調だった。さらなる成長を目指し、社長は中規模店舗の導入が事業拡大に不可欠だと考えていた。

偶然にも適切な候補地が見つかり、この計画を実現するチャンスが訪れた。どうせならと、大胆にショッピングセンターを建設する方針を決め、C社を核とした別会社(α社)を設立して、テナントを誘致する形をとることになった。

社長は早速、必要な資金を試算した。テナントから得られる保証金は控えめに見積もっても相当な額となり、銀行からの借入金もC社の規模を考えれば無理のない範囲に収まると判断された。

C社長は、自身で作成したショッピングセンター建設計画を持参し、私に意見を求めてきた。ちょうどスーパー業界が成長期にあったことや、社長の経営手腕を考えれば、その規模の計画が過大であるとは私も感じなかった。

しかし、課題は資金面にあった。資金調達計画には、建設費用の不足分とその返済分しか考慮されておらず、その返済はC社を含むテナントの家賃収入でまかなえるという見通しだった。

そこで「その計算書を見せてほしい」と尋ねたが、社長は「難しい計算ではないから大丈夫だ」と言うのみで、具体的な計算書は存在しなかった。ここに問題の本質がある。さらに、法人税や地方税などは考慮しているのかと問いただすと、「それは忘れていた」と返答された。すでに社長の目算はこの時点で大きく狂っており、まさに危うさを感じざるを得なかった。

これほどの長期借入金を返済するためには、結局、新たな借入で返済資金を補填していかざるを得なくなるのは明白だ。計算せずとも容易に想像がつく話だ。その点について社長に確認すると、まったく考えが及んでいなかったという。危なっかしいにもほどがある。

こんな安易な見通しでショッピングセンターを建設すれば、資金繰りはすぐに行き詰まり、深刻な経営危機に陥るのは火を見るよりも明らかだ。苦境に立たされる未来が容易に予測できる。

私は、長期的な利益計画とそれに基づく資金運用計画の重要性を社長に説き、具体的なプランを立てる必要があることを強調した。私の助言を受けて、長期利益計画(巻末「第23表」)、長期資金運用計画(巻末「第24表」)、そして長期借入金返済計画(巻末「第25表」)が作成された。その詳細な作成方法については後述することとする。

社長はそれらの計画表を目にして驚愕した。全く想定していなかった追加の借入が、なんと初年度から必要となり、その状態が5年連続で続くという結果が示されていたのだ。その借入のピークは5年目に達し、6年目以降にようやく最大の借入金返済が終了することで、資金繰りが少しずつ楽になる見込みが示されていた。

私はこれらの表を示しながら、社長に次のように説明した。たとえ経常利益が出たとしても、その半分以上は税金として消えていく。税金を支払った残りからさらに配当や役員賞与を差し引くと、手元に残るのはわずかであり、それは経常利益の4分の1程度にすぎない。資金として実際に増加するのは、その残りと減価償却費だけなのだ、という現実を伝えた。

さらに、このわずかな資金増加分から予定納税を差し引いた額が、借入金の返済資金として充てられることを説明した。ただし、予定納税は翌年には資金の源泉となるものの、それまでは資金を圧迫する要因であることも指摘した。

さらに、その資金増加分が返済額を下回れば、その差額は資金不足となることを指摘した。この不足が5年間にわたって続き、しかもその総額が非常に大きなものになることを社長に詳しく説明した。これにより、事業計画に潜む深刻なリスクを明確に示したのだった。

この現実を理解しないまま、初期の建設資金だけを借り入れてしまえば、早々に資金不足に陥るのは目に見えている。そうなれば、初年度から慌てて銀行に追加融資を求める羽目になるだろう。その際、銀行がどう思うかを考えてほしい。社長に対する信用は一気に失墜する。さらに状況次第では、単に信用を失うだけで済まず、融資の打ち切りや条件の厳格化といった厳しい対応を受ける可能性も十分にあるのだ。

この綿密な資料を添えた借入申込は、驚くほどスムーズに承認された。銀行にとって、これほどまでに詳細かつ論理的に計画を立てた借入申込は初めてのことであったようだ。「ここまでしっかりと考え抜かれているのか」と、銀行側に強い信頼感を与えた結果だといえるだろう。

これは単に建設資金の融資を得ただけではなく、5年間にわたる追加融資までも同時に承認されたことを意味している。長期資金運用計画の重要性とその効果が、まさにここに表れていると言えるだろう。この計画があったからこそ、銀行に対して説得力を持ち、信頼を勝ち得ることができたのだ。

ショッピングセンターの建設には、短期的な利益や初期投資だけでなく、長期的な資金運用計画が不可欠です。以下に、C社の事例から学べるポイントをまとめます。

長期資金運用計画の重要性

  1. 初期資金計画だけでは不十分:建設資金だけでなく、返済に必要な資金を長期的に見積もる必要があります。特に税金、配当、役員賞与など、利益からの差し引き項目を考慮したうえで、余剰資金がどれだけ返済に回せるかを見積もることが大切です。
  2. 税金の見落とし:法人税や地方税など、利益が出た分に対する税金が発生します。これらを加味せずに利益をそのまま返済原資と見込むと、資金不足のリスクが高まります。
  3. 予定納税と資金の循環:予定納税は支払いタイミングが翌期に持ち越されるため、キャッシュフロー上で年次ごとに変動します。これを考慮したうえで資金運用計画を立てることで、返済資金としてどの程度確保できるかを精査できます。
  4. 資金不足の予測と対応:借入金の返済が予定利益よりも大きい場合、追加の借り入れが必要になります。C社では、計画を立てることで第一年目から資金不足が生じることがわかり、事前に銀行へ追加融資の承認を得ることができました。こうした事前対策は、経営の安定につながります。
  5. 銀行の信頼を得る:長期的な利益計画と資金運用計画を添えた借入申込書は、金融機関からの高い評価を得ます。こうした計画は、追加融資も見越した継続的なサポートを受けるための有効な方法です。

必要な計画の作成

  • 長期利益計画:どれだけの利益を確保できるかを見込み、そこから税金や配当などを引いた後、どれだけ返済資金として使えるかを明確にする。
  • 長期資金運用計画:定期的な資金の流れを管理し、資金不足が予想されるタイミングを特定する。
  • 借入金返済計画:返済額を年次ごとに明確にし、返済に必要な資金の確保方法を検討する。

長期資金運用計画が事業の成否を左右する重要なポイントです。

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