目標の達成手段の見つけ方手がかり情報をどこに求めるか目標設定において、もっとも労力を要するのは「手段を見つけること」である。手段の探索の出発点は、自分の体験の掘り起こしにある。過去の自分の成功や失敗体験を振り返り、活用できそうなものを拾い出す。次には、他のメンバーの経験的知識を借用する。何年か仕事を続ければ、そこには必ず成功事例や失敗体験があるはずだ。それを各人がテーブルの上に出し合って、ワイワイガヤガヤと揉み合う。しかし、職場内の情報だけでは、情報不足のきらいがある。知恵の創出には、もっと幅広く、職場の外に情報源を求めることも必要だ。リーダーは、人脈を活用し、社内の成功事例を収集する。その成功の本質を手掛かりに、職場目標やメンバーの目標達成手段を検討する。そういう知恵の出し方を「ナレッジ・マネジメント」という。一般的に「成功事例のヨコ展開」と呼ばれているものである。ナレッジとは「吸い取ること」ナレッジで留意すべきは、表層だけを見るのではダメだということだ。ある会社で、表彰制度を導入したら、社員が元気になり、業績が向上した。ならば、わが社も表彰制度を導入する。これがダメな典型例であり、成果を望むのは難しい。ナレッジは、あくまでも「本質の吸い取り」でなければならない。社員を元気にしたのは表彰制度そのものではなく、「社員に感動を与える仕組み」として表彰制度が機能したからである。この違いを理解せず、表面のみ真似をする。挙句の果ては、「うちの風土には馴染まなかった」と嘆きの声を漏らすケースがあまりにも多い。ナレッジ情報は、言語や文字、あるいは数学的表現ではうまく伝えられない情報であり、情報の受け手が成功事例の中から、「これだ!」というものを嗅ぎ取る作業である。そういう認識にもとづいて、ナレッジ・マネジメントに取り組む姿勢が肝要だ。社外人脈から得られる「ベンチマーク情報」ナレッジ情報を活用しても、目標達成手段が不足する。そのときは、「ベンチマーク情報」を活用する。ベンチマーク情報は「社外に存在する成功事例や失敗事例」であり、簡単には入手できない情報である。確かに、雑誌や新聞では、毎日のように「企業の意欲的な取り組み事例」が紹介されている。しかし、そのほとんどは「表面的な情報」であり、そのまま鵜呑みにするにはリスクが多すぎる。成功や失敗の本質に近い情報は、もっと「ドロッとした人間臭いもの」であり、「ここだけの話だが……」と耳元で囁くような情報ではなかろうか。そのような情報の収集には、「社外人脈」が不可欠である。リーダーは自分や同僚、さらには上位者の持つ人脈網を活用し、社外に存在する、有効な情報源となる人を探し出す。そこから得られた情報が「真実の情報」であり、それを手掛かりに目標の達成手段を補強する。そういう手段の探索方法が「ベンチマーキング」である。人脈は「財産」であり「重要なビジネス能力」ナレッジ・マネジメントにしろ、ベンチマーキングにしろ、キーワードとなるのは「人脈」である。リーダーに人脈がなければ、目標達成手段の探索は範囲の狭いものになり、職場目標や個人目標のチャレンジ性も弱めてしまう。そればかりか、学者の研究(たとえば、『変革型ミドルの探求』/金井壽宏/白桃書房/1991年)によれば、人脈不足は大きな仕事を成し遂げたり、変革を仕掛けたりするときの障害にすらなってしまうという。筆者の体験からも、課長などのミドルクラスの人たちが、よりチャレンジングな仕事をしようとするならば、社内外の人脈の構築と活用が必須である。とりわけ、社内の実力者とのパイプづくりは不可欠だと考える。また、インフォーマル・ネットワークの形成も重要だ。「この会社をもっとよくしてやろう!」という志を同じくする人たちが、水面下で心を1つに結びつけ、さまざまな新しい試みを同時多発的に実践する。実践結果を共有し、次なる試みを話し合う。そのような「同志的人脈」と「会社の公式組織」とが融合し、組織全体が変革に向けて動き出す。それが経営の実態であり、ミドルによるインフォーマル・ネットワークは、会社の隠れた経営資源として、無視できない存在なのである。昨今、ビジネス能力への関心が高まって、大勢の人たちが各種の資格取得や勉強に励んでいる。それはそれで大事なことだが、人脈の力を忘れないことが肝要だ。働く人々にとって、人脈は財産であり、その活用はきわめて重要なビジネス能力なのである。
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