戦略目標と日銭目標の資源配分をどうするか日銭目標一色にならないように注意する目標づくりをするときのリーダーの役割の1つに資源配分の意思決定がある。どの目標に、どれだけの人的資源と時間を張りつけるのか。そこに当たりをつける作業である。目標1つ1つに対する資源の配分計画も、ときと場合によっては必要だが、それよりも、戦略目標と日銭目標との資源配分のバランスに注目することが大切だ。一般的に、企業活動の大部分のエネルギーは日銭業務に費やされ、残されたほんの僅かな経営資源で戦略業務を遂行する。それはそれでやむを得ぬことではあるが、それさえも日銭業務に投入してしまい、戦略業務が断絶する。よくある話である。なぜ、そうなってしまうのだろうか。年度目標は決算と直結しているために、リーダーも含め、みんなが無意識のうちに、利益と売上という日銭目標の達成を優先させるからである。その結果、職場は日銭目標一色に染まり、極端な場合には、「戦略の重要性はわかっているが、もっと大事なことがある。きょうの飯の種を稼がずに、何が戦略だ」という戦略の存在そのものを軽視するような雰囲気が、職場全体を支配する。これを防ぐために、多くの企業では、戦略目標と日銭目標との2本立ての目標設定シートで対応しようとしているが、あまりうまく機能していないのではなかろうか。確かにみんな、期初の目標設定シートには、戦略目標の詳細を克明に記入する。しかし、期末に振り返ると、やれたのは3割くらいで、残りは未実施という文字が躍っている。目標設定の仕組みが機能不全に陥っている状態である。まず、「戦略目標」に資源配分をそうなってしまうのも致し方ない現実がある。ただでさえ日銭目標の達成に関心が向きがちな現場の人たちに、追い打ちをかけるように日銭業務が次から次へと押し寄せる。上位者からは緊急の資料づくりが要請されるし、突発的な客先クレームも稀ではない。それらを無事処理すれば、「ひと仕事成し終えた」という満足感が味わえる。その満足感も手伝って、悪気なく、戦略業務の遂行が後手に回ってしまうのだ。その状態は以下のような図式で表現できる。根底には、まず日銭業務を優先させ、「残った経営資源で戦略業務を……」という考え方が存在する。このような発想で仕事を進めると、間違いなく、ほとんどの経営資源が日銭業務に吸い取られ、気がついたら戦略業務に使うべき資源が限りなくゼロになる。では、どうするか。次の図のように、日銭業務と戦略業務との組み替えを行うことである。これは、戦略目標の達成に資源配分の優先順位を与え、残った資源で日銭目標を達成しようとする発想である。この発想を用いれば、能力開発のために一定の日数をあらかじめ割くとか、新しい仕事の仕組みづくりの試行錯誤にまとまった人員を優先的に投入するなど、従来とは違った仕事のやり方が可能になる。それを実践すれば、日銭業務に費やす経営資源は減少し、日銭業務のあり方は必然的に変革せざるを得なくなる。残った資源で、日銭目標の達成努力を!普通の人間は、恵まれた環境にいるときよりも、何かが多少不足している環境の方が知恵を出しやすいと言われている。旅行に行くときにも、限られた予算の中で、運賃が安くなる方法はないのか、特典のあるホテルはどこなのかなど、あれこれ工夫を凝らすはずである。旅費という資源不足を知恵でカバーしようとする行動であり、もし、たっぷりお金があれば、こんなことは考えない。仕事も同様で、経営資源にゆとりがある状況では、なかなか仕事の見直しは進まない。ルーチンワークに従事している人たちの、「毎年、代わり映えのしない目標しか立てられない」というボヤキとも諦めともつかぬ言葉をときどき耳にする。おそらく、彼らの職場のほとんどは資源不足とは無縁であろう。恵まれた環境ゆえに、彼らは従来と同じ方法で定常業務を淡々とこなしている。このマンネリを打破するには、新たな仕事条件の設定が必要だ。「今まで100億円の売上を100人で作ってきたが、今年は90人で100億円以上の業績を達成する」というように、チャレンジングな仕事条件を設定する。そうすれば、陳腐化した万年床のような目標での仕事は不可能になり、必然的に働く人々は仕事の改善・改良目標を立案する。このような日銭目標の質的向上は、経営資源の戦略業務への優先配分が日銭業務に与える波及効果である。
第2章のまとめチャレンジ目標とは「ギリギリ背伸びした目標」である。チャレンジ目標を決めるための5つのステップは、オープン展開(みんなでワイワイガヤガヤ)で行うとよい。5つのステップ・[ステップ]会社や部門の中期経営計画(中長期のビジョンと戦略)の理解・[ステップ]職場や個人の中長期的な役割(ミッション)の明確化・[ステップ]部門の今期計画の理解・[ステップ]今期の職場の貢献領域一覧表の作成・[ステップ]職場の今期目標と個人の今期目標(チャレンジ目標)の決定職場・個人ミッションとは、職場や個人が担う中長期的な役割と責任である(ステップ)。・ミッションをはっきりさせることで、仕事に対する責任感や情熱が高まる。職場の貢献領域一覧表作りは、年度レベルですべきことを総ざらいする作業である(ステップ)。・これを全部やることが、職場の今期の役割責任だとみんなで確認し合う。職場の貢献領域一覧表の中から主要業務を選び出し、職場目標と個人目標を作る(ステップ)。・「何を、どれくらい、いつまでに、どのように」を決める。「どれくらい、いつまでに」は、ギリギリ背伸びしたものを設定すること。・ギリギリの背伸びが、業績向上と人々の能力開発を促進する。達成手段の情報源は社内外の成功・失敗事例に求めるとよい。目標の達成基準は、進捗管理や評価に耐え得るように設定する。・定量目標は必ず数値化を、定性目標は具体化するのが原則である。戦略目標と日銭目標との資源配分(人や時間の配分)のバランスに気をつける。・鉄則は、戦略目標への資源の優先配分である。このような目標連鎖のステップをみんなでワイワイガヤガヤ進めることで、リーダーもメンバーも職場目標と個人目標に対する納得感を深め、「やらねばならぬ!」という責任感も醸成される。それがチャレンジ目標のPlanである。
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