後追い設定の事例夢のような仕組みを創り出すある会社では、営業部隊の強化の一環として、「内勤者の約半数を営業部門に配転する」という方針を決定した。総務部門は、それとの連動で、「現有の50%の人員で、現在のサービス水準を落とさずに、内勤業務がまっとうできるような〝新業務システム〟、3年がかりで構築する」という中期戦略を策定し、「新業務システムの試行に耐え得る〝第1次プランの完成〟」という部門の年度戦略目標を設定した。いまだこの世にない仕組みの創出であり、どんなものが完成するのか、その詳細を目標設定時点で描き出すのは難しい。「目標を追いかけながら、目標のグレードアップや新たな目標を創り出す」という類いの目標である。それを受け、主管部署のリーダーは、「夢のような仕組みの創出」という漠たるゴールに向けて、段取りを考えた。第1四半期は他社の先行事例を徹底的に調査して、質の高い調査レポートを作成する。第2四半期は調査レポートの内容を手掛かりに社内のヒアリングを実施して……、第3四半期はヒアリングで得られた情報にもとづいて今後の課題を整理する……。というような大まかな仕事手順の組み立てである。次に、リーダーは第1四半期にやるべき他社の先行事例の調査に関する具体的な手段をメンバーと検討した。この種の調査で陥りがちなのは成功談に偏った情報収集であり、通常のインタビューでは、生々しい失敗体験や問題点がなかなか聞き取れない。そういうメンバーの問題提起を採り入れて、公式インタビューとは別枠で社内のプライベート人脈を活用した、相手先のホンネを引き出すような〝インフォーマル・インタビュー〟も企画した。これが、「手順や手段の目標化」である。今一度、リーダーの目標を整理すれば、第1四半期の目標は「先行するA社とB社の事例を調査して、期末の〇月〇日までに、質の高いレポートを作成する。そのために、公式インタビューとインフォーマル・インタビューとを実施する」という内容である。チャレンジ性は「短納期」と「レポートの質的向上」リーダーは、目標のチャレンジ性についてもメンバーと議論した。「MBOSの目標には〝チャレンジ性が必要だが、我々の第1四半期の目標に、どんなチャレンジをどう盛り込めばよいのだろうか?」そう質問すると、「短納期で完成させればよい」、「インタビュー先には知人もいるし、何とかなりそうだ」とメンバーが反応し、「2週間前倒しの納期」をみんなで合意した。難航を極めたのが、レポートの質の高さに対するチャレンジである。レポートの質的部分は仕事を進めながら高めるのが定石であり、期初に詳細を決定するのは不可能だ。どうしようか。ああでもない、こうでもないと話し合ったが、なかなか妙案が浮かばない。最後はリーダーが決断した。レポートの質的部分のチャレンジは後追い設定という方法を採用する。完成したレポートに目を通した上司や関係者が「まずまずのレポートが仕上がった」、あるいは「かなり不満が残るが……」と言ったとき、レポートの質に評価が下されて、同時に〝レポート内容〟と〝手順や手段〟の質的目標が決定される。そういう考え方で、ハイ・クオリティなレポートづくりにチャレンジする。そうリーダーは説明し、メンバーもリーダーの決断を受け入れた。このように、手順や手段の目標化は質的部分の後追い設定という弱みを持つが、抽象的な体言止めの雲のような目標もどきを目標にするよりは、遥かに意欲的で効率的な仕事を約束してくれる。それは経験的に見て、まず間違いのない事実である。
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