オーラの到達距離は四〇〇キロメートルか
F社に初めてお伺いした時に、工場のあまりの汚さに「トサカ」にきた私は、「こんなザマだから赤字になるのだ。会社をつぶすとも売りとばすとも、勝手にしろ」と、散々毒づいて帰ってしまったのである。
一年余り過ぎたころ、F社長から連絡があり、「一倉さんに叱られてから、心を入れかえて環境整備を行ったところ、不思議なことに仕事が増えてきて、業績が急上昇してきた。もう一度会社を見てほしい」という話だった。
私の罵倒を怒るどころか反省し、見事に業績を回復されたF社長は誠に立派な方である。
機会を得てF社を訪問した私は、ビックリ仰天してしまった。同一人が、これ程までに変われるものかと。
終業後だったので、私のために居残って下さった女子社員の方が一名だけだったが、その応接の態度からして、にこやかで礼儀正しかった。
事務所の机の上には何もなかった。優良会社共通のことである。
湯わかし場の食器棚の中は見事としかいいようがなかった。茶碗、カップをはじめ、引出しの中のスプーンやフォークまで一ミリのズレもない。仕切りを使っているのだった。
タイムカード室の掲示板には、大きさの違った二枚の貼紙があったが、上辺はキチッと揃っていた。
トイレは社長が清掃担当だということだが、輝くばかりで、汲み取り式なのに臭気は感じられなかった。トイレタリー用品はお客様用が別になっており、香水まで用意されていた。
その隣りの駐車場では、バンパーの前縁が糸で引いたような直線になっていた。
すべての機械は磨きに磨かれて、ところどころ塗料が磨き減りで生地が出ているのである。それでも、環境整備が完全に根付くまでは塗りかえをさせないとのことであった。
工具研磨室では、室の隅にさえ砥石の粉が全く見当らず、工具棚の中は整然として毛筋ほどの乱れもないのである。
F社長は、「毎日一時間の環境整備は、我社で最も生産性の高い時間です。これによって、従来より三〇%もの増産ができるのですから」というのである。
この、一点非の打ちどころもないような環境整備は、F社に奇跡をもたらした。F社から四百キロも離れたメインの得意先S社の購買部長が突然来訪され、環境整備の見事さに深く感銘されたのであろう。部長が帰社するや否や仕事がドッと持ちこまれた。
続いてD社の外注課長が来社し、途端にD社からの仕事が増えだした。その他、大手の四社ほどから新たな仕事が次々と持ちこまれてきたのである。
この不思議な現象は、単なる偶然とはどうしても思われないのである。整備された建物からは建物の精が、磨き抜かれた機械からは機械の精が、清浄で強力な精気(オーラ)を発し、これが遠く四百キロも離れた得意先にまで届いたからだ、と解釈したいのである。
そんなことがある筈がないといわれようが、こうした現象を他にも見ているのである。次のレストランの例がこれである。
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