「戦い」である以上、勝利に価値が宿る。勝利こそが、企業が生き残るための不可欠な条件だ。
では、勝つためには何が必要なのか。戦いには、強者が勝つという明快な原則が存在する。
この原則は誰もが理解しているにもかかわらず、企業間競争においてこれほど軽視されるものはない。
その理由は、企業間の競争において敗北感が希薄であることにある。競争入札や安値競争で特定の顧客への特定の商品や案件を失った際に、わずかな敗北感を抱くことはあっても、「自社のテリトリー全体が失われた」という深刻な意識には至らないのが現実だ。多くの場合、「あの地域ではあの会社が強い」という程度の認識にとどまる。これは確かに敗北意識の一種ではあるが、「自社の存続が脅かされる重大な事態」という危機感には結びつかない。「勝敗は兵家の常」として受け流し、それを気に病んでいては何も進まない、という言い訳に逃げ込んでしまうのだ。
考え方の問題もあるかもしれないが、それ以上に大きな要因は、特定のテリトリーで「売上がゼロになる」という状況がほとんど起こらないことにある。そのため、たとえ敗北の結果であっても、売上実績という数字を成果として捉えてしまう点が問題の本質だ。
考え方の違いもあるかもしれないが、それ以上に大きな要因は、特定のテリトリーで「売上がゼロになる」という事態がほとんど起こらない点にある。その結果、たとえそれが敗北の結果であったとしても、売上実績という数字を成果として捉えてしまう傾向がある。
これが恐ろしい落とし穴になっている。たとえ売上という成果があったとしても、生き残りに必要な占有率を下回っていたり、占有率が下がっている状況では、それは完全な敗北といえるのだ。
この点を肝に銘じておく必要がある。「戦うからには必ず勝つ」という強い覚悟を持ってこそ、真の事業経営者といえる。では、戦えば必ず勝つ方法とは何か――それこそがランチェスター戦略であることは、すでに明らかなことである。
戦いに勝つためには、敵より強くあればそれで十分だ。そのためには、敵を凌駕する威力を要点に集中させて発揮すればよい。強者は自らの持つ力を最大限に活用することを考え、弱者は要点において強者を上回る力を集中的に投入することで、目的を達成することが可能になる。
強者の攻め方について考える。まず重要なのは、現在占有率が40%以上の地域、商品、得意先をしっかりと守り抜き、敵に奪われないようにすることだ。この段階では特別に難しいことを求められるわけではない。そもそも有利な立場にあるのだから、油断さえしなければ十分に対応可能だ。
次に取り組むべきは、ナンバー1の地位を確保しているものの、まだ占有率が40%に達していない領域を40%以上に引き上げることだ。この戦略こそが優先順位として正しい選択であることを肝に銘じておく必要がある。
これにより、ナンバー1の地位を揺るぎないものにできる。主導的な占有率は何よりも強力であり、そこから得られるメリットも非常に大きい。
しかし、多くの経営者は強者であれ弱者であれ、占有率の高い領域からさらに占有率を高めることの利点を理解していない。むしろ、占有率が低い領域にこそ強い関心を寄せ、「ここが低い、早急に対策を講じろ」といった的外れな指示を出してしまうのが実情だ。
こうした姿勢は、戦いの本質を理解していないと言われても仕方がない。このような考え方をする背景には、まともな根拠や深い思考が存在しているわけではない。ただ、「他所はもっと成果を上げているのだから、うちも上がるはずだ」という浅はかな発想に基づいているに過ぎず、それが問題なのである。
正しい考え方は、「占有率が他所より低いのは、それなりの理由がある」という認識だ。たとえば、遠隔地であるとか、人手が足りないといった自社の事情もあるが、もっと重要なのは「そこには強力な競合が存在している」という事実だ。自社の占有率が低いからといって、その市場が空白地帯になっているわけではない。
したがって、そのような市場において自社は「弱者」の立場にあるということになる。ここは最も難しく、成果が上がりにくい領域であることを認識しなければならない。この点を理解していれば、そこを最優先するのではなく、最も後回しにするのが正しい戦略だという結論に至るはずだ。
次に考えるべきは、「ナンバー2を攻めるべき場所はどこか」という点だ。この戦略を進めるには、「敵の弱点は何か、どこが苦手なのか」を見極めることが重要となる。最小の努力で最大の効果を引き出すために、敵の脆い部分を的確に突く必要がある。
敵の最も脆い部分を狙うのが戦いの基本であることを理解していなければならない。この戦略を実行することで、結果として自社の占有率を効果的に高めることができるのは言うまでもない。
最後に残るのは「まだナンバーワンにはなっていない部分」という結論だ。しかし、これは何も悲観する必要はない。「ここは割り切る」や「成り行きに任せる」といった選択も、重要であり十分に価値のある決断だということを忘れてはならない。
「ナンバーワンになっていないからといって、何が何でもそれをナンバーワンにしなければならない」という考え方が唯一の選択肢ではない。それを受け入れることや別の道を選ぶことも、十分に立派な決断であるということを忘れてはならない。
このような心の余裕を欠いたままだと、不利な状況やまだ時期が熟していない段階で無謀に突き進み、大きな失敗を招く危険を見落とすことになる。それでは、弱者が戦場を選ぶ際にはどのような方法を取るべきなのか。
弱者は、まず自分の非力さを正確に認識することから始めるべきだ。その基本姿勢は、強者の死角や市場の隙間を的確に突くことにある。そのポイントに資源を集中的に投入し、その分野で強者になることを目指すべきだ。まさに一点突破の戦略が求められる。
このポイントでナンバーワンとなり、どうしても四十%以上の占有率を確保する必要がある。それを達成するまでは、無闇に戦線を広げるべきではない。たとえ限られた範囲であっても、圧倒的な強さを発揮することが市場戦略の核心である。
こうしたアプローチを取ることで、初めて次の戦略を効果的に展開する土台が築かれる。そして、この方法ならば弱者にも実行可能だ。しかし、これと同時に、もう一つ達成しなければならない課題がある。
それは、この地域内で「日本一」もしくは「将来日本一になる」と胸を張れる「何か」を作り上げることだ。商品で日本一、技術で日本一、味で日本一、サービスで日本一、環境整備で日本一……どんな分野でも構わない、とにかく日本一と呼べるものを生み出すことが重要だ。これにより、社員にも日本一への誇りと自信を持たせることができる。
日本一への誇りは、想像を超える大きな力を生み出す原動力となる。この段階で「日本一を実現する」という悲願を掲げることこそ、将来の大成に向けた基礎条件となるのだ。
本田宗一郎氏は、創業間もないころ、オンボロ工場でドテラをまとい、いろりの火をかき立てながらも、世界制覇という壮大な夢を掲げていたのだ。
その理念は、「世界一でなければ日本一ではない」というものであった。吹けば飛ぶような零細企業でありながら、その視線は既に世界を見据えていたのだ。
事業を営む以上、たとえ世界一を目指すまでには至らなくとも、少なくとも「何かで日本一になる」という気概は持ちたいものだ。
日本一とは、必ずしも規模で日本一になることを意味しない。むしろ、自分の実力を省みず規模の日本一を目指すのは、悲願ではなく単なる「誇大妄想」に過ぎない。
自分の力量を超えたことに手を出せば、いずれ破綻を招く。まずは自らの力を正確に把握し、その力を「何か」一つに集中的に注ぎ込むことで日本一を目指すべきだ。
地域でナンバーワンになり、さらに何かで日本一を達成したら、その基盤をもとに次のステップに進む。ただし、次に狙う地域は、自社の力で強者になれると見込める場所に限定すべきだ。ここでの判断が非常に難しい。多くの場合、自社の力を過信し、初心を忘れて戦線を無計画に拡大してしまい、結果として失敗を招くケースが後を絶たない。
これは、ちょうど自動車運転免許を取得したばかりの頃と同じだ。最初は慎重に運転し、大きな事故を起こすことは少ない。しかし、運転に慣れ、自分の思い通りに車を動かせるようになると、ついスピードを出し過ぎて事故を起こしてしまう。まさに「初心忘るべからず」という教訓がここにも当てはまる。
これは、ちょうど自動車運転免許を取り立てたばかりの頃と似ている。最初のうちは慎重に運転し、この段階では大きな事故を起こすことはほとんどない。しかし、運転に慣れ、自分の思い通りに車を操れるようになると、ついスピードを出し過ぎてしまい、事故を起こすようになる。この状況は、「初心忘るべからず」という言葉の意味をまさに体現している。
どこから攻めるか – 戦略的選択と勝利の道
- 勝つための心構え
戦いで重要なのは「勝つこと」であり、それが企業の存続に欠かせない条件だ。企業戦争において「敗北」を実感する場面は少ないが、売上げがあっても占有率が下がっているなら、それは事実上の敗北と同義である。戦うからには必ず勝つことを強く意識するべきだ。 - 強者の攻め方
強者は、まず現在の占有率が高い地域や顧客をしっかりと守り、次に、もう少しで40%の占有率に到達しそうな領域で攻勢をかけて主導的な地位を固めるべきだ。多くの経営者は占有率の低いエリアを改善しようとしがちだが、そこには競合が強く根付いている場合が多く、むやみに手を出すのは非効率である。 - 弱者の戦い方
弱者は、自分の力を冷静に理解し、敵の弱点や市場の隙間を狙って一点に資源を集中する戦略を取るべきである。まずは限定された地域で40%以上の占有率を確保し、強みのある商品やサービスで日本一を目指すことで、社員に誇りとやる気を持たせることが重要だ。 - 「何かで日本一」をつくる
占有率を高めると同時に、会社や製品、サービスなどで「何かで日本一」をつくることを目指す。規模で一位になる必要はなく、品質、技術、サービス、環境整備など、何かの点で一番になることが、企業の基盤強化につながる。 - 戦線の拡大と慎重さ
一度占有率を確保したら、次に隣接する強者になれる地域へと拡大していく。ここでのポイントは初心を忘れないことだ。自分の実力を過信せず、慎重な姿勢で次の戦いに挑むことが必要だ。
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