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お客様はどこに

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お客様はどこに

小ロットはやらない粉末冶金業者 K社で、新型の錠前を開発した時に、高性能を狙っているために、ある部品の 形状が複雑になり、さらに強度上の要求もあって、どうしても粉末冶金製でなけ ればならないということになった。 そこで、粉末冶金業者に五百個の見積りを依頼したところ「五千個以下ではお 受けできません」という返答である。 K社では「試売品なのでロットサイズが小さくて申し訳ないが、五千個の時の 価格でほしいといっているのではない。高価格は当然だし、型代も持つから作っ てくれないか」と頼んだが、どうしても受けてもらえなかった。 この、かたくなな態度が、自らの首を締めることになることに気づかないので ある。 別の例で説明しよう。あるプラスチックの成型業者が、得意先からの依頼によ

り、新材料を試作用として某社に一キログラムほしいと頼んだ。某社の返答とい うのは「一袋三〇キログラムなので、 一キログラムはお売りできません」と、ど う頼んでも承知してもらえなかった。仕方がないので、他のメーカーに依頼した ところ、即座に一キログラムだけ送ってきた。この成型業者は、このメーカーか ら、本生産の材料を買うようになったのである。 話をもとにもどして、この粉末冶金業者の態度こそ、自ら粉末冶金の普及を妨 げているのに気がつかない。自分で自分の首を締めている行為なのである。 この冶金業者の正しい態度は、私がここにあれこれいわなくてもお分かりいた だける筈である。担当者の心ない応対が問題なのではなくて、社長の態度自体が 問題なのである。あるラミネートの包材メーカーでは、経営計画書の方針書の中 に「お客様のご注文は、たとえ一メートルでもお受けする」と明記してある。 そして、それがお客様の大きな支持を受けて事業の発展に役立っているのであ る。 原価率守って赤字のレストラン

Z社はレストランのチェーン店である。創業以来七年間も赤字と黒字の間をさ まよっていた。社長は努力家であり、実によく勉強をしていた。そして業績不振 の原因はその勉強にあった。全く誤った思想を教えられており、それを忠実に守っ たがためだったのである。 その誤りは、ク原価率´という思想である。先生の教えは「原価率を三〇%以 下に押えよ」というのであった。Z社長は、店舗ごとに毎月データをとり、原価 率が三〇%を超すと、店長を呼びつけて叱りつけていたのである。 だから、各店長の関心と努力の焦点は「原価率を守る」ことだった。 ところで、外食産業の主要原料であるク生物クは、すべて市況商品である。相 場の変動で高値が続くときなどは、材料を落とし、量を減らさなければ原価率 三〇%は維持できない。看板料理は幕の内風の弁当であったが、それを見せても らったら、鮭のごときは紙のように薄かった。試食をしてみたら、案の定ひどい 味だった。 私は、「いくら原価率が低くとも、まずいものは売れない。売上げが少なければ、 いくら原価率が低くとも、絶対に利益は生まれない。原価率を無視して、わが社の調理師の腕ではこれ以上おいしいものは作れないという料理をお客様に提供し なければ、業績向上は夢のまた夢である」と、社長を説いた(私がいままでお手 伝いした業績不振の外食産業の会社では、 一社の例外もなく、ク原価率三〇%ク という神話を信じており、そのすべては業績が悪かった。そして私はいつも原価 率を無視することを勧告してきた)。 この説得は難航した。まさに社長にとっては青天の露震、前代未間の勧告だっ たからである。 私は、まず試作品を作ることを勧めた。そして、この試作品をク特別推奨品´ と銘打って試売し、あとはお客様の判定を受けることである。六つの店舗で、そ れぞれ二つの料理を選んで美味に挑戦した、といいたいところであるが、実は私 に強引に押し切られての消極的な取組みにしかすぎなかったのである。その証拠 には、ニカ月程の期間に、それぞれ三〜四回の試作でOKだというのである。 まだまだ不十分ではあるが、いままでよりはかなり上等になったので、これで 試売をしてみようということになった。ところが、いつまでたっても試売をしな いのである。その理由は「こんな高いものは売れない」ということだった。私はカンカンに怒った。「お客様にお伺いしてもみずに、何が売れないだ。勝手にせい」 と縁切りを宣言した。私の見幕に恐れをなして、社長はやっとのことで試売を約 束した。先に約束をホゴにしているので強く駄目押しをした。 試売の結果は、私も驚くほどの売上げ増であった。本店のシャブシャブは 二五〇〇円の従来品と四五〇〇円の特別推奨品であったが、半数のお客様は 四五〇〇円を注文して下さるのである。お客様によっては、「どこが違うか」と いう質問である。その時は、両方の肉の現物をお見せすると、納得して四五〇〇 円にするのである。従来品は″赤身クだが、特別推奨品はク霜ふり″だったから である。そして、赤身のシャブシャブなど、不味でよほどの味音痴でもない限り、 食べられた代物ではないのである。 ヤング中心の盛り場にある店舗の特別推奨品は、「えびフライ」であったが、 従来品の六五〇円ものはほとんど売れなくなってしまい、特別推奨品の九五〇円 に事実上切換えてしまったのである。 競艇場内の「ウドン」は、まさに爆発的な売上げ増大である。いままでは二台の自動販売機で間に合っていたのが、それでは遅すぎてどうにもならない。五人 を投入しての流れ式販売にしたのである。 一人はザルにウドン玉を入れてお湯に つける、 一人は井に盛る、 一人はつゆをかけて具をのせる、 一人はお客様に差し 出す、 一人は料金を受け取る、という式である。レースとレースの間に艇券を買 い、腹ごしらえをするのだから、店はそのたびに戦場のようなさわぎになってし まうのであった。三軒あるウドンの売店の、八割はZ社だった。 はじめ、このウドンを調べたところ、社長は何も方針を示していなかった。完 全な放任という、お客様に対しては不誠実極まる態度だったのである。「ゆで麺」 の仕入先は、何社くらい食べくらべて選んだかを聞いてみると、食べくらべなど 全然していないのである。「この怠慢社長」という一喝が私の日から飛ぶのであっ た。「ゆで麺」を吟味し、つゆのダシは削り節であるが″一番だし´だけとし、 味酬を上等なものに切換えた。せいぜいこの程度のことで味がガラリと変わって しまったのである。 社長は、初めて原価率の神話の誤りに気がついた。全面的な味の再検討が行わ れたのはいうまでもない。そして、それから一年後には、会社始まって以来の五千万円の経常利益をあげ た。従来の最高実績は、三百万円だったのである。

ゴルフ場の経営者はゴルフを知らない ゴルフ場は、ゴルファーが腕を磨く場所ではなくて、ゴルファーが楽しむ場所 であるということを、ゴルフ場の経営者は知らないし、知ろうともしない人が多 すぎる。 設計は設計者まかせ。その設計者というのは職人であるために経営を知らない。 そのために、やたらにトリッキーで難しいコースを設計する。名コースならぬ 迷コースをである。 栃木県のセント・アンドリウスのコースは世界のグランドスラマーの一員であ るジャック・ニクラスの設計であるが、アシスタントプロでもハーフ五〇を切れ ないことがしばしばあるというほど難しい。 アプローチは殆ど池かクリーク越えであり、花道なんか申し訳程度である。グ リーンは小さく、バンカーはやたらと多い。

そのためにお客様には不評で、倒産が二回とか。現在は某大企業の所有になっ ているから、つぶれることはないが……。 地階のロッカーは、扉が七色に塗り分けられていて、これをレインボーカラー というのだそうだが、これをサービスと心得ているから果れかえるばかりである。 痛にさわるのは、カート道に電導カートである。ボールは左、カートは右、七 番がいいのだが、手に持っているのは五番、前のホールは空いており、後からは 追われる。クラブを替えたいのだが時間がかかって後続のパーティに迷惑がかか るので、五番を短く持って軽く打つ、軽く打った時は不思議にナイスショット、 グリーンオーバーのOB、「もうこんなコースには来ないぞ」と思う。 だいたい六分間隔のスタートが間違っている。 アベレージゴルファーは、四人パーティでは七分間隔が最短である。それを六 分なので、朝のスタートの八時半が三十分も遅れて九時スタートなんてことはザ ラ、ティーグランドに撒水装置がないのなら、なぜ撒水車を用意しておかないの か。芝なんかないところに、ビニールのマット。キャディの教育など任せっきり で、不愉快なことが実に多い。いったいゴルフ場の側のエチケットとやらはどこ

にあるのか。要求するのはお客様のエチケットだけという無礼に気のつくような 人はいないのだろうか。全部の社長がそうだとはいわないが……。 事業部制でお客様を怒らせる N社では、新型のオフコンを発表した時に、ハード事業部とソフト事業部を作 ることによって販促を計った。 ところが、これが完全に裏目に出てしまった。というよりは、コンピューター も知らず、事業部制の何たることも知らなかった、というのが失敗だったのであ る。 ハード事業部では、小型のほうが安価で売り易いので小型機に販売の重点を置 いた。 ソフト事業部では、ハード事業部が売った機械だけしかソフトを組めなかった。 他社機ではコンピューター語が違うからである。 そのために、ハード事業部で売ったコンピューターのソフトは、なるべく多く 作らなければ売上げは伸びない。すると、小型機では容量が不足する。そこで「貴社の実情を調べたところ、必 要なソフトを組むには機械の容量が足りません。もう一つ上の機械にしなければ ならないのですが」ということになる。 これにはお客様が怒ってしまった。「そうならそうと、なぜ始めからいわない。 無責任も甚だしい」ということになってしまった。 このように、あまりにも多くのお客様からお叱りを受けたために、アッという 間にこの事業部制は取止めにしなければならなかったのである。

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