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あけてびっくり玉手箱

資金繰りが厳しいから家屋敷を売りたいと思っているのに、妻は子供の転校を理由に反対している。どうしたらいいだろうか。K社の社長が経営状況の相談を求めて訪問した際、開口一番に発した言葉だ。

K社のことは、まだ何も知らない。財務分析すらこれから始める段階だ。それでも、まずは話を聞くことから始めるしかないと考えた。

昨年、新工場を建設した影響で、その建設費の支払いが重くのしかかり、毎月の資金繰りが厳しい状況だという。お決まりの融通手形は月商の80%にも達している。バランスシートを確認すると、利益率は極めて低く、辛うじて赤字を免れている状態だった。

「建設資金分の支払手形の総額は?」と尋ねても、すぐに答えられず、一件一件、指を折りながら金額を挙げていく状況だ。「とりあえず資金繰り表を見せてもらえますか」と言うと、出てきたのは当月分の資金繰り表だけだった。

財務分析も収益向上も議論の余地がない。損益がどうであれ、資金がショートした瞬間に倒産は免れない。それにもかかわらず、自社の資金状況が全く把握できていないというのは驚くばかりだ。唖然とするほかない。

「まずは資金繰り表を作成して、どの月にどれだけ不足するのかを把握してから考えましょう」という結論に落ち着いた。コンサルティング初日で、まだ会社の実態がほとんど掴めていない状況で、いきなりこの状態だ。これがどれだけ厄介なコンサルティングになるか、早くも予感がした。

社長に売上予測と回収見込みを聞き出し、経理担当者がまとめた費用計算を基に、まずは6か月分の資金繰り表を作成する作業に取り掛かった。資金繰り表は3か月分でも経理的には問題ないかもしれないが、経営判断を行うには短すぎる。最低でも6か月分の見通しが必要だ。

1項目ずつ数字を埋め込み、全体を6か月分まとめ終わると、月別の収支計算に進んだ。計算を進める中で、各月の資金不足額が次第に明らかになり、問題の全貌が浮かび上がってきた。

計算の結果、不足額は月商を基準にすると、当月0.8、翌月0.5、翌々月1.0、4か月目には0.4、5か月目には0.2、そして6か月目にようやく収支が均衡するという状況だった。つまり、6か月間で累計不足額は月商の2.9倍に達する。6か月間で実に3か月分近い資金不足が生じるという、この数字は驚愕するほかない。

資金繰り表の結果を目にした社長の顔はみるみるうちに青ざめ、額には冷や汗が浮かび始めた。漠然と感じていた苦境が、具体的な数字として目の前に現れたことで、その深刻さに改めて直面したのだ。「まさか、ここまでとは思わなかった」――その驚きと動揺が、表情からありありと伝わってきた。

これまでは目の前の当月分の不足だけを見ており、深刻さをあまり実感していなかったのだろう。しかし、今回は6か月間にわたる資金不足の総額を突きつけられ、その現実に驚愕したのだ。短期的な問題として捉えていたものが、実は長期的で根深い課題だと気づかされた瞬間だった。

不足資金の調達ができなければ、倒産は避けられない。私は社長に質問を重ねながら、考え得るすべての資金調達策を検討した。幸いなことに、当月分だけは商工中金からの借入れが決まっており、ひとまず1か月分の時間を確保することができた。その「猶予」があるうちに、次の具体策を見つけ出す必要があった。

材料の支払いをすべて現金払いから約束手形に切り替えることで、0.5か月分の資金を捻出できる見込みが立った。ところが、社長は「材料は現金払いの約束だから無理だ」と消極的な反応を示す。冗談ではない。会社が存続の危機に直面しているこの状況で、そんな悠長なことを言っている余裕はないはずだ。ここで動かなければ、倒産は免れない。

材料屋には事情を説明し、その分の金利を支払う形で対応すればいい、と社長に強く促す。「これこそが社長の仕事だ」と一喝して、動くように仕向けた。さらに、次の対策案をまとめ上げた。

  • 得意先からの前借りと製品前納による繰り上げ支払いで0.2か月分を確保
  • 協同組合からのボーナス融資で0.2か月分を補填
  • 親戚や友人からの支援で0.2か月分を捻出
  • 増産分による収益で0.2か月分を見込む
  • 残る1か月分を銀行からの借入で賄う

このプランで、何とか資金不足を埋める道筋をつけた。

この計画を実行すれば、家屋敷を売却せずに済む道が見える。しかし、これはあくまで「案」であり、現時点で確定したものではない。これから一つ一つ、相手との交渉を進めて、具体的な形にしていく必要がある。実現までの道のりは険しいが、ここで動かなければ何も変わらない。

とにかく、一刻の猶予もなく金融機関への申し込みを進める必要があった。メーンバンクと国民金融公庫から半々で借り入れる方針を決め、借入申込書類を作成する作業に取り掛かった。完成までに3日間を要した。

その後の5か月間、社長は必死に動き回り、あらゆる手を尽くして奮闘した。その努力が実を結び、どうにか窮地を乗り越えることに成功したのである。

その過程で、私の勧告を受け入れた社長が懸命に営業活動に取り組んだ結果、有利な仕事を獲得することができた。それが会社の体質強化につながり、黒字基調への足掛かりを築くことができた。しかし、これで終わりではない。次に待ち受けているのは、融通手形という厄介な問題の解決だ。

「油断は禁物だ」と社長に釘を刺し、さらなる努力を促す。それが私の役目だと自覚している。まだ道半ば。気を緩めるわけにはいかない。

K社がこのような事態に陥った原因は、無計画な資金運用にあると言わざるを得ない。もっとも、運用という言葉さえ使うのがはばかられるほど、乱暴で無謀なやり方だった。

月商の10か月分にも相当する新工場の建設費を、旧工場の土地売却代金と1年程度の月賦手形でまかなうという判断をしてしまった。この計画には、長期的な資金繰りやリスク管理の視点が完全に欠落していた。その結果が、目の前の危機につながっている。

初めての経験だったとはいえ、「設備投資は長期資金で賄う」という経営の基本すら理解していなかった。月賦手形の月別支払い額を確認すれば、それを継続的に支払えないことに気づけたはずだ。しかし、それさえも怠った。

これまで何とかやってきたという過去の実績に過信し、資金繰りの厳しさを軽視してしまった結果、こうした状況に追い込まれたのだ。経営の基本を無視した甘さが、危機を引き起こした最大の要因だったと言える。

さらに問題がある。家屋敷を売却した場合、その資金がどう使われるかについての具体的な検討を全く行わないまま、不動産業者に依頼していたのだ。詳しく調べてみると、すでに買い替え特例の適用期限が過ぎており、売却代金の大半は銀行への借金返済に充てないと手形を割り引いてもらえないことが判明した。

さらに、残った金額も税金として消え、運転資金としてはほとんど何も残らない状況だった。このような計画性のなさが、資金繰りを一層厳しくしているのは明白だった。

このケースから明らかなのは、経営が無計画な資金運用によって危機的状況に陥ることの恐ろしさだ。K社の社長が新工場の建設に踏み切った際、資金繰りの計画が十分でなかったため、後から資金不足に気づくこととなった。さらに、手元の資金を正確に把握せずに家屋敷の売却まで検討し、不動産業者に依頼するという焦りからの行動が目立つ。結局、売却代金が手形の支払いや税金で消えてしまうことに気づかず、結果として運転資金にはならないことが判明した。

K社の事例は、資金計画の重要性を浮き彫りにしている。資金繰り表を作成し、長期的な視点で収支を把握することで、どの時期にどれだけの資金が不足するかが具体的にわかる。さらに、K社では、現金払いから手形払いへの切り替えや、顧客への前払い交渉、金融機関からの借入れを駆使して資金不足を乗り切った。このような資金対策のためには、まずは経営者が現状を冷静に見つめ、具体的な数字でリスクを把握することが不可欠だ。

また、社長が営業活動に注力し、新たな仕事を見つけ出すことで、企業の財務状況は黒字基調へと改善されていった。このように、目先の資金繰りだけでなく、収益を生む営業戦略も並行して進めることが経営には求められる。

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