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◇経営者となる準備はできているか

この記事でわかること
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CaseStudy

数年前から父親の経営する会社に入り、取締役を務めるAさんは、ある悩みを抱えています。

社長である父親が既に65歳を超えているため、周囲から「あと数年で世代交代だね」と声をかけられることも多く、自身もそのつもりで地元に戻ってきました。

しかしながら現実は日々の仕事が忙しく、いざ社長になると言われても、今とどう変わるのか、何をすればよいのか、正直ぴんと来ません。

家業は地域密着型のサービス業で、事業そのものが成熟~衰退期に入っており、Aさんが把握したところでは、決して儲かっているとは言えない状況です。

先行きの見通しも明るくない上、父親とのコミュニケーションも必ずしも円滑とは言えず、何も教えてもらえません。

数少ない社員もどちらかといえば父親に近い年代で、気軽に悩みを打ち明けることもできません。

この本を手に取られた方には、このAさんと同じく、家業を継いだばかりか、あるいは、いずれ事業承継することを前提に家業に入り、経営を学び始めた方が多いのではと思います。

仮にあなたが、地元の友人としてAさんから相談を受け、「自分は社長となるために、どんな準備をしておくべきだろうか?」と問われたとしたら、どのようなアドバイスをするでしょうか。

私は全国各地で次世代経営塾という後継者向けの勉強会を開いていますが、そこでは、実に様々な意見・回答が飛び出します。

例えば、「まずは勉強だ。少なくとも財務諸表は読めるようになって、会社の状況をしっかり把握すべきだ」とか、「今の間に地元の人脈を養っておくべきでは」とか。

あるいは、「父親や社員とのコミュニケーションをもっと図らないと」というものもあれば、「事業が衰退期に入っているなら、新規事業を検討して会社を立て直すのが先では」というご意見もあります。

そして、先輩経営者がディスカッションのテーブルにいれば必ず「このAさんは何でこの会社を継ごうと思ったんだろう?自分がどうしたいのかもはっきりさせられず、勝手にモヤモヤしているとしか見えない」という意見が出てきます。

もちろん、この問いに正解はありません。というより、その会社によって、おかれた状況によって、どの答えも正解となり得るでしょう。

ただ、私が講師として必ず後継者の皆さんに申し上げているのは、何よりも経営者になるという「覚悟」を決め、自分はこの会社をどんな会社にしたいのか、この会社で何を実現するのか、そのために必要なことは何か、事業承継前からとことん考えることが重要だ、という点です。

当たり前じゃないか、と思われるでしょうか。

ゼロから事業を立ち上げる起業家とは異なり、後継者はどこか、「自分がこの事業を選んだわけじゃない」、「自分がつくった会社じゃない」という気持ちを少なからず持っていることがあります。

そういった気持ちは、いつの間にか追い込まれた時の「逃げ」につながり、覚悟の妨げとなります。それでは経営など、到底やっていけるものではありません。

しっかりと覚悟を決め、自身が事業を受け継ぐことのメリット・デメリットを自覚した上で事業承継すること、その上で「この会社で自分は何をなすのか」を考えること、それが経営者としての第一歩なのです(図1)。

後継者が受け継ぐべき資産は様々です。

例えば、「うちは社員4人の小さい会社ですから」などと口にされる方がいるとします。

謙遜でおっしゃっているのでしょうが、もしあなたが全くのゼロから会社を起こそうとしていたら、もしくは個人事業主であったとしたら、新たに1人採用するにも、途方もなく高いハードルを超えねばならなかったでしょう。

雇用とはその人の人生を背負うことです。それだけの仕事を確保し、給料を払い続けるという決意、勇気が要る。また、広告を出したからといってすぐに求める人財が採用できるわけでもありません。

日々忙しく仕事をする傍ら、縁あって採用した人を定着させ、教育し、技術やノウハウを蓄積していく。

こう考えれば、「社員4人だから小さい」など、なかなか言えることではありません。

他にも、ベンチャー企業であれば事業に対する信用がないために資金調達が思うように進まなかったり、取引先を開拓しようにも仕事を受けてもらえないということがあります。

こんなことは、長年続いた各方面で信頼関係のある企業を承継する場合には、まずありえないことでしょう。

後継者が事業を引き継ぐのはそういった諸々のハードルを越えたあとの、会社という完成形であり、さらには金融機関との信頼関係も、地元で長年営業してきた信用も、初めから付与されています。

当たり前のことと思っているから気づかないだけで、実は貴重な宝がいくつも眠っている、ということを再認識しなければなりません。

その上で自分のなすべきこと、したいことを自由に発想していただきたいのです。

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