前項で企業経営は理念実現のためにある、とご説明しました。利益の追求はこの理念を実現する手段に過ぎません。
また、理念においては、その内容や表現より、1人ひとりの社員がその理念をいかに深く理解し、己の信念として「信じて」いるかが重要です。
経営とは人を通じて事を成すことです。自分1人の力などたかが知れています。
経営者がどれほど優秀でも、個人にできることには限界があり、それよりもいかに社員の心に火を点け、1つの方向に率いていけるか、ということのほうがよほど経営者にとっては重要です。
自社の理念が社員1人ひとりの一挙一動に一貫して理念が実現され、息づいている状態を実現すること、それこそが経営の真髄と言えるでしょう。
企業経営の基本的な姿勢としては、
- 目的…何のために、この会社を経営するのか(理念・使命)
- 目標…何を目指す会社なのか?いつまでにどうなりたいのか?(経営ビジョン)
- 行動基準…具体的に各社員はどんな行動基準で行動するのか(バリュー・行動指針)
段階です。
第二段階(成長期)は経営者の価値観が確立されてくる時期です。会社の経営に携わると日々様々なことが起こります。その中で経営者は自身で考え、意思決定していかねばなりません。
そういった経験を積み重ねることで自身の経営における確固とした価値観が形成されていきます。
そして、第三段階(成長、成熟期)は企業として共有する価値観・思考、及び行動規範の確立と定着が図られる時期です。
最後(事業承継期)に第三段階で醸成された企業文化が、学習によって社員に伝承されていくというステップにつながっていきます。
前項のケーススタディに対し、様々な意見が出たように、自社がどのステージにあるかによって経営理念のあり方は当然異なります。
ただ、何より重要なのは、経営者自身が、ご自分の想いや夢をこめたものか、そして、心から「必ずこれを実現する」という熱意を持てるものであるか、です。
経営者が自分自身の言葉で経営理念を表現すべき理由は2つです。
1つには、経営者にとって、経営理念こそがあらゆる判断の「基軸」となるものだからです。
企業経営は決して良い時ばかりではありません。
売上の低迷や関係法規の改正、天災や事故、どんな困難な状況に陥っても、誰にも頼れず、迅速な経営判断を下していくのが経営者です。
そんな時、自分の中にこれだけは譲れないという確固たる軸がなければ、肝心の判断にぶれが生じます。いついかなる時でもそこに立ち戻ることのできる原点、あるいは拠り所となるもの。それが経営理念です。
2つめは、経営者の価値観を明文化することで、共に働く社員や周囲の仲間が、その価値観を理解し、共感し、一緒にそれを実現してくれるようになるからです。
もしあなたが、どこかから借りてきたような、心のこもらない経営理念しか持っていなかったとしたら。あるいは、理念を明文化せず、社員と共有しようともしていなかったとしたら。社員には、当然ながら、経営者の想いが伝わりません。
いかに素晴らしい成長戦略を立てようとも、その「基軸」となる価値観、即ち「何に重きをおいて経営し、どのような会社にしていきたいのか」がわからなければ、必ず計画遂行の段階で齟齬が出てくるでしょう。
社員が経営理念や行動指針に基づいて「今、自分はどうしたらよいか?」と主体的に考えることのできる会社なら、突発的な事故など計画通りに業務が進まない際にも、正しい対応をとることができます。
それどころか、理念の実現のため、いかなる視点で商品を開発するか、その商品の価格設定はどうあるべきか、店舗の販売員はどのような態度でお客様に接するべきか、店舗のデザインはどうあるべきか……と、日常のあらゆる面で共通の経営理念に基づいた変革が見られるようになります。
しかし理念のない会社、浸透していない会社では、
- ●社員によってバラバラの考え方であるため品質が一定しない
- ●何を大事にするかが曖昧で、時には保身のために顧客に損をさせてしまう
- ●会社がどこに向かおうとしているかわからず社員の帰属意識が低くなる
- ●常に経営者に依存することになり幹部陣が成長しない、人財育成がなかなか進まない
……というように、目的を理解しない行動が積み重なっていきがちであり、最終的に会社の価値に大きなダメージを与える可能性すらあります。
どんな戦略を立てても、実際にそれを遂行するのは個々の社員です。
いかにして彼らを共に同じ理念を追求する仲間としていくかが肝要であり、この理念の浸透こそ、経営者が生涯をかけて取り組むべきテーマと言えるのです。
経営理念と言うとどうしても、額縁に入った立派な書が会社の応接室に飾ってある光景を思い浮かべがちです。あれがそんなに重要なんだろうかと、読みながら首をかしげる方もいらっしゃるかもしれません。
もちろん、素晴らしい理念を掲げているのに経営状況は精彩を欠く、そんな例はいくらもあります。
経営理念を「つくっただけ」では何も変わりません。
自社が経営理念の価値を発揮させられているか否か、以下のポイントから判断してみましょう。
Checkpoint
- □明文化された経営理念があり、社員全員に共有されている
- □社員1人ひとりがその経営理念に心から共感し、自分自身の行動指針としている
- □その結果会社のあらゆる業務、行動に一貫してその理念が反映されている
- □この状況を実現するため、経営者は率先して理念浸透の努力を行っている
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