さて、ここまで、自社の経営理念、経営ビジョンを明確にし、その実現のため、具体的に3年後達成すべき目標を定め、特に中小企業が「勝てる」戦略を立案する視点をご説明してきました。ここからはいよいよ、立てた戦略を実行していく手段としての組織づくりを考えていきます。戦略的中期経営計画には必ず想定される組織図を添付します。こう申し上げると、「組織図なんて、うちはまだ社長も含め5人しかいませんが」という方もいらっしゃるでしょうが、実のところそれは問題ではありません。組織図とは自社の戦略目標を達成するためにどのような責任分掌を採り、どのような機能を発揮していくかということを表したものであり、策定した戦略を実現するため、具体的に誰が何を行っていくのかを解き明かす説明書なのです。その結果、人数が少ないために「営業部」、「経理部」という表記でなく、「営業担当:○○さん」、「経理担当:○○さん」という組織図になることも当然あるでしょう。通常の経営計画の策定ステップの中でも、この組織図策定のくだりは比較的軽視されがちです。が、実際には社員数が多いから必要、少ないから不要ということではなく、少なくとも自分と共に働く人が1人でも存在するのなら、組織図によって役割分担を明示することが絶対的に必要なのです。さもなければいつまで経っても経営者1人で何でもやらなければならず、いつまで経っても下に人が育たず、何事も成し得ないまま、「結局は自分がいないと」と愚痴をこぼすことになります。どのような目標のために、誰がどの分野のキーマンとなって責任を持つのか、そうした役割分担が明確に設定されない組織は組織として機能せず、ただの烏合の衆に終わります。野球に例えれば、それぞれのポジションごとの役割が明確になっているからこそチームがチームとして機能するのであり、もし個々の守備範囲が決まっていなければ、打球が飛んできても「誰かが捕るだろう」と考え、初動が遅れてしまう、というミスが頻出するでしょう。人間の心理として人数が増えれば増えるほど、責任感や当事者意識が薄れがちになるため、「指示されたらやろう」、「言われてないことはきっと誰かがやるんだろう」と考えるようになるものだからです。逆に、それぞれの責任範囲を各人が明確に理解している組織では、その責任が適度なプレッシャーとなり、自然と主体的に業務に取り組むよう仕向けられていきます。個々が自立して業務に取り組むことが組織の活性化につながるのですし、きちんと設計された組織だからこそ、個々の能力を活かすことができるのです。ではどのような組織を築くべきか。企業の組織構造は様々です。日本で最も一般的な「ピラミッド型組織」はトップの指示命令を迅速に現場まで伝達し、実行させる上で理想的な形態として普及しました。が、社会全体が成熟期を迎え、ニーズの多様化が起こってくると、現場の問題意識や市場動向、顧客ニーズの変化といった情報を経営陣まで吸い上げるのに適したフラットな「文鎮型組織」や、新市場、新規事業にチャレンジするのに有効な「タスクフォース型組織」、事業再生期では「クロスファンクション型組織」などが注目されるようになりました。戦略と同じく、組織構造にもそれぞれに一長一短があり、どの短とどの長を選ぶかは経営者の考え1つです。ただし、経営学の権威、アルフレッド・チャンドラーは、「経営戦略に従って組織構造も変革される」と述べています。変わりゆく経営環境の中で確実に成長戦略を実現するためには、経営幹部の能力向上や、新たな知識・スキルを保有した人財の育成及び採用、さらには、組織が持つべき機能や役割の変化……といった組織面での変革が不可欠です。組織は戦略を遂行していく過程で、より適した形に変化していく必要があり、そこに属する人財に求められる能力や人財育成方針も戦略次第で変わります。この「組織は戦略に従う」ことを念頭に、3年後の目標を見据え、組織構造を考えていきましょう。具体的には後述する事例をご参照いただきたいのですが、まずは現在の組織図をまとめ、それぞれの部門・部署の機能を明らかにします。そこでさらに、「目標を達成するために、3年後、自社はどのような組織になっているか?」と想像するのです。3年後の経営目標を達成するためにはどのような業務が発生し、それを果たしていくのに自社にはどのような機能が求められるか、どのような能力を持つ人財をいつまでに何人獲得し、育成しておくべきか……と考えていきます。3年という数字は、自社の戦略目標達成の時期や、ご自分の事業承継の時期に合わせ、自由に設定していただいて構いません。自社が戦略を実行する力を持つために、どのような組織が必要か、以下の4つのポイントを踏まえ、考えてみましょう。より良い組織構造をつくるための4つのポイント●戦略目標に応じて組織構造を常に改善し続ける●環境の変化に適応できる柔軟な組織構造をつくる●小さな本社・フラットで簡素な組織構造をつくる●情報が迅速に流通する組織構造をつくる
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