前項の「中小企業3つの競争原則」では、何よりも先に自社が圧倒的1位を狙える市場、ビジネス領域を「勝てる戦場」として選択しました(NO.1主義)。このビジネス領域の範囲は後から拡大修正することもできますので、まずは自由に決めて構いません。ここで重要なのは、ビジネス領域を細分化したら、「その領域における顧客=買ってくれる人とはどんな人か」を突き詰めて考え、イメージすることです。細分化したその顧客だけに選ばれればよいわけですので、徹底的に「その顧客」の価値観を知り、ニーズを把握して、そこに当てはめた商品・サービスを開発していくことがポイントになります。これまで事例としてきた家電店A社の場合、細分化した領域でのターゲットは「〇〇市(地元)のシルバー層」でした(前項参照)。ただしシルバー層とはほとんどの企業が狙う有望市場です。そこで圧倒的1位となるためには、「大手にできないサービスで顧客の問題を解決していく」必要があり、さらにその実現のためにはまず、「〇〇市のシルバー層は、電化製品を、いつ・どこで・なぜ・どのように購入しているのか」、「今現在どのような電化製品を所有していて、どんな問題を抱えているか」を調べ、そこから自社のサービスが喜ばれ、顧客から選ばれていくストーリーを考える必要があります。顧客を絞り、その顧客のためだけの商品提供を行うからこそ、限られたビジネス領域で圧倒的1位を目指すことができるのです。ここで作成したストーリーの整合性を検討したら、次は「本当にこのストーリーは他社にはできない、自社独自のものだろうか?」と見直し、絶対に真似できないというレベルまでブラッシュアップしていきます(差別化戦略)。この磨き上げの視点が、「差別化6つの視点」です。差別化6つの視点●商品:他にない機能を足す/引く、高品質など●価格:バイイングパワー、原価率200%など●チャネル(流通):仕入ルート、直販に変更、インターネット販売など●プロモーション:販売戦略、ブランディングなど●サービス:アフターサービス、短納期など●地域:地域密着、半径30分以内の地域だけなどビジネス領域を絞る=対象顧客を絞るからこそ、その顧客のニーズに合わせ、ほとんどオーダーメイドに近いレベルにまでサービスを磨き上げることが可能となります。ただし、そのような形で差別化を図るなら、最低でも上記に示した視点のうち、3つ以上は掛け合わせる必要があります。A社ではまず、自社の対象顧客と想定した「〇〇市(地元)のシルバー層」に対し、自社の商品に関して要望や不満点を徹底的に聞き出していきました。すると、個々の不満や要望は、「最近の家電は使い方がよくわからない。だから教えてほしい、全部やってほしい」という一点に集約されることがわかりました。そこでA社ではこのニーズに対応すべく、電球1個の交換から、エコポイントの手続き、テレビの録画予約と、望まれたサービスはノーと言わず徹底的に何でもやる、「サービスの差別化」を考えます。さらには、ペットの餌やりや駅までの送迎、留守の見守り、水まきなど、シルバー層が必要とするものなら家電にかかわらず、できることなら何でもすることにしました。やがて、シルバー層が実は話し相手やコミュニティとなる場を求めていることに気づくと、お店でじゃがいものつかみ取りのような楽しいイベントを何度も開催したり、最適な電化生活の提案を行うため足繁く訪問するなどの発想が得られます。このようにして積極的に顧客との接点を増やし、直接情報を届け続けたことが「差別化6つの視点」のうち、「プロモーションにおける差別化」にあたるわけです。さらには○○市のシルバー層だけが、こういった至れり尽くせりのサービスを受けられていることがマスコミなどでも話題となり、これが「地域の差別化」につながりました。「わが街○○市の電器屋さん」というイメージが醸成され、定着していったのです。これらの活動は、まさにA社が「ビジョン」として描いた、「顧客に対して豊かな電化生活を提案できるようになる」という状態と、完全に首尾一貫しています。また差別化の視点が、上記6つのうち3つ(プロモーション×サービス×地域)まで組み合わされており、結果として他社が真似できないレベルまで差別化された家電店となりました(図9)。
家電販売というのはご承知の通り、「他店で1円でも安い店があればお知らせください。うちも値引きします」という熾烈な競争を繰り広げている業界です。実はA社がある○○市とは、他にも大手チェーンが12店出店している大激戦エリアでした。しかし、売っている商品が同じであるにもかかわらず、A社は大手量販店の1・5倍もの粗利率を達成し、○○市におけるシルバー層のトップシェアを占めるまでに成長したのです。ここぞというビジネス領域を定めたからこそ、「価格」でなく「価値」で勝負することができ、大手量販店との差別化を図ることに成功したのです。差別化の視点は、上述の通り3つ以上を掛け合わせることで他社が真似できないものとなりますが、同時にすべて取り組むことは中小企業には困難かもしれません。A社のように、まずは1つを徹底して実行し、それができたら次、という具合に、地道にやりきったことを積み上げていくことが重要です。気づいた時にはいつの間にか誰にも真似できない差別化要因を獲得した、オンリーワンの企業となっているでしょう。Column「マーケティング・ミックス(4P)」とは4Pとは「戦略目標を設定する」という項目でも触れた通り、マーケティング戦略の立案・実行プロセスの1つである、マーケティング・ミックスにおいてコントロールすべき4要素(製品・価格・流通・プロモーション)をまとめて指した名称です。以下本項では改めて、マーケティングの基礎をまとめています。重複する部分もありますが、理解を深めていただくために必要な内容ですのでぜひご確認ください。マーケティング戦略の立案・実行のプロセスは、大きく次の6つのステップからなります。①マーケティング環境分析と市場機会の発見②セグメンテーション(市場細分化)③ターゲティング(市場の絞り込み)④ポジショニング⑤マーケティング・ミックス(4P)⑥マーケティング戦略の実行と評価市場におけるチャンスを発見し、顧客を絞り込み、競合よりも魅力的な製品・サービスをつくり上げた次のステップが、マーケティング・ミックスです。この段階では製品・サービスの価値を損なうことなく顧客に伝えることが求められ、そのために必要な要素が、●製品(Product)●価格(Price)●流通(Place)●プロモーション(Promotion)であるというわけです。4Pを考える際は、これらを個々に、単体で考えるのではなく、それぞれのPの整合性を図っていくことが重要です。例えば、素材にこだわって開発した高品質の商品を高価格で販売しようとしているのに、安売り店を販路として選択したのでは、狙ったセグメントには到達できず、整合性のとれたマーケティング・ミックスとは言えません。また、これら4Pには前述のSTP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)の要素も密接に関わってきます。先ほどの事例で言えば、品質より価格を重視し、節約して子どもの教育費を貯めているファミリー層をターゲットとしているのであれば、そこに高品質高価格の商品を提供することは一貫性がとれておらず、このままではうまくいかない可能性が高いと言えるのです。いかなる商品も、それを求める顧客から支持されなければ拡販は見込めません。現在自社が行っているマーケティング活動が適切かどうかを確認し、より良い方法を検討していく手法の1つが「マーケティング・ミックス(4P)」なのです(図10)。
既に販売開始した製品(サービス)でも、時代の変化に伴う顧客ニーズの変化や、競合他社の動きに合わせた修正は常に必要です。それを怠れば、「以前は売れたのになぜ売上が落ちてきたのか……?」と適切な手も打てず、ただ困惑するだけ、ということにもなりかねません。4つのPで自社のマーケティング施策を検証していく際、大切なことは、個々のPの視点から考えるだけでなく、「常に複数のPの視点で考える」ことです。例えば、ある製品(サービス)の価格が妥当かどうかを考える際には、「価格」だけでなく「流通(提供チャネル)」の視点も加えて、「この価格は、この店舗の来店客にとって妥当であるか?」、あるいは「ネットで購入する顧客はこの価格を妥当と受け止めるか?」と判断していくのです。同様に、「流通」と「プロモーション」を合わせて、「今後ネット顧客を増やすにはどのような告知方法が適切なのか?」、「カタログで購入を検討する顧客にとって、どのような製品アピールが効果的か?」等の検討も考えられるでしょう。なお、4つのPの組み合わせは単純に考えれば16通りとなりますが、「『製品(サービス)』×『価格』」と、「『価格』×『製品(サービス)』」とは、同じようで実は検討の視点が異なります。前者は、「価格戦略にあった製品(サービス)になっているか」の検討であるのに対し、後者は「製品の品質に見合った価格であるか」を検討することになります。さらに、「製品」×「価格」×「流通」のように、4つのうち3つのPの視点を組み合わせて考えれば4の3乗の組み合わせになり……と、どんどん複雑化していきます。このような検討を経て、最終的に自社が想定する顧客ターゲットに向け、●Product………彼らが求める製品(サービス)を●Price……………競合他社と比べ競争力のある価格で●Place……………顧客ターゲットが検討し購入しやすいチャネルを使って●Promotion…顧客ターゲットが製品の良さを理解しやすい方法で案内する……という一貫性を持ったマーケティング施策を策定していくのです。
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