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◇好ましい組織風土を醸成する

CaseStudy「なんて会社に来てしまったんだろう……」清掃会社A社に役員として赴任して、あまりの覇気の無さに呆然となったあなた。離職率の高さは事前に聞いていましたが遅刻や当日欠勤も多く、あなたから「おはようございます」、「こんにちは」と挨拶の声をかけても「はあ」と無表情に応えるだけのスタッフたち。肝心の清掃も通り一遍で、決して品質が高いとは言えません。クレームも少なくなく、会社の業績自体、低迷しています。他の役員に話を聞いても、「掃除スタッフの方は50代が中心で、今まで様々な職を転々としてきた人たちなので、今更我々が何か言ってもね」、「うちは3Kだしね」と半ば諦め気味です。実はあなたは、組織変革・業績アップの旗振り役としてこのA社に派遣されてきたのでした。これからこの会社をどのように変えていきたいと思いますか。そのためには何をどのように進めていくべきでしょうか。前項では「2:6:2の原則」についてご説明しました。組織において、「確固たる信念や理想を以て自律的に業務に邁進する社員」は上位2割程度で、大部分の社員は周囲の社員の言動に影響されて士気を高めたり低下させたりしています。確実な戦略実行のためにはこの中間層の社員を、できるだけ上位2割に近づけていく必要があるのですが、それにはそうなるような「空気」をつくっていかねばなりません。その組織固有の「空気=雰囲気」を、「組織風土」と言います。組織風土は組織の構成員に共有される価値観であり、思考及び行動の規範となるものであり、組織構成員の日常活動を通じ、あるいは学習によって、継承されていくものです。では、自社が目指すべき組織風土とは、どういうものなのでしょうか。実は、成長する企業にはほぼ共通して、ある好ましい組織風土が醸成されています。これを構成する要素としては、●「同一の危機感」●「共通の価値観」●「自信と信頼」●「感謝の気持ち」●「高い欲求水準」の5つが挙げられ、受講生の皆さんにはこの視点から自社の組織風土や、経営陣1人ひとりの行動様式を定期的に振り返っていただくよう提案しています。これらの要素は互いに関連しており、例えば企業においては慢心することなく、常に市場の変化や顧客の動きに気を配り、ビジネスチャンスを逃すことのないよう努めなければなりません。このような不断の努力を継続するには、皆がある程度健全な危機感を抱いている状態が望ましいのですが、この危機感にしても漫然と醸成されるものではなく、あくまで「正しい現状認識」や「自社や自分自身に対し抱いている何らかの理想像」とのギャップを埋めたい、という感情から生まれてくるものです。即ち、「共通の価値観」や「高い欲求水準」と「同一の危機感」は連動しているのです。また、同じ理想、同じ価値観の仲間と共に仕事をする中で、自分たちの目指す方向は間違っていないという「自信」や仲間への「信頼」が生まれます。「自信」があるからこそ今の環境への「感謝」も生まれますし、もっと成長したい、もっと会社や社会に貢献し、顧客に喜ばれてより良い人生を送りたいというふうに、自己への「欲求水準」も一層高められていきます。このようにご説明しますと「そううまくいくものでしょうか」とよく言われますが、もちろん、経営者の努力なくして勝手に好ましい風土が築かれることなどありません。例えば、経営者自身が自社の可能性に魅力を感じ、誇りと情熱を以て事業に邁進しているからこそ、社員も仕事にやりがいや面白みを感じるのです。中小企業において、経営者や経営幹部の行動が組織風土に与える影響は非常に大きいものです。誰よりもまず経営者自身が日々の行動を振り返り、改革することからスタートし、その後はマネジメントの中で、社員が経営者から受けた好ましい影響を一過性のものに終わらせず、組織全体に浸透させていくための「仕組み」・「仕掛け」となる施策を意図的に打っていきます。

皆さんは「新幹線劇場」という言葉を耳にされたことはあるでしょうか。「新幹線劇場」とは、新幹線が東京駅に到着してから出発するまでの停車時間、わずか7分の間にゴミの収集・処理から座席・ブラインドの調整、テーブルや窓枠の清拭、座席カバーの交換、忘れ物の確認・管理、トイレ清掃、破損箇所等の報告……等々の一連の業務をすべて成し遂げ、定刻通り車両を送り出すその迅速かつ徹底した清掃の見事さを表す言葉です。これを提供する株式会社JR東日本テクノハートTESSEIの優れたオペレーションや、それを支えるスタッフの士気の高さはハーバード大学ビジネススクールが教材として研究し、ディズニーはじめ多くの企業が見学に訪れるレベルです。しかし、実は同社も、かつてはケーススタディで取り上げたような、3K企業特有の「モチベーションの低下」や、「クレームの増加」という課題を抱えていました。そこからいかにして現在の状態にまで改革できたのか?との問いに、元TESSEIおもてなし創造部長、現在はおもてなし創造カンパニー代表を務める矢部輝夫氏は「変わったのは『マネジメント』のほうなんです」とオンラインマガジン「〝未来を変える〟プロジェクト」のインタビューで答えています。要は組織風土の醸成も経営者次第、マネジメント次第であり、この認識に立って自社の組織風土変革に取り組んでいただければと思います。

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