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▼(5)個別戦略を具体化する

個別戦略は、先に述べたように事業ごとの事業戦略、組織機能別の機能別戦略、組織構造とその運営方法を決める組織戦略の3つからなります。

基本戦略と事業戦略・機能別戦略の関係を示すと図表3-14のようになります。

全社の戦略的方向性を表すのが基本戦略、そして事業別に事業戦略があり、事業を横串にする形で機能別戦略があります。

基本戦略は「全社戦略」と呼ばれることもありますが、企業グループの場合には「全社」というと親会社のことだけを指すこともあるため、一般には「基本戦略」と呼んでいます。

①事業戦略──どの事業戦略パターンをとるか事業戦略は、事業別に設定します。

事業戦略の軸は3つあります。

⒜事業戦略のパターンこれは「戦略類型」のことをいいます。

図表3-15に示すようにSWOT分析や成功パターン分析からその事業に適した戦略的な代替案が想定されますから、既存事業・新規事業にかかわらず、どのような戦略パターンで進むかを選択ないし独自のアレンジを行います。

最近では、事業拡大を図る際にM&Aを活用する例が多く見られます。

かつては「社風の違い」を理由に敬遠されていたM&Aですが、最近ではさまざまな背景から多用されるようになっています。

⒝セグメント化の切り口競争戦略で見たように、マーケット全体を対象とするのか、一部のセグメント化されたマーケットを対象にするのかにより戦略パターンは異なってきますが、そのセグメンテーションの切り口に何を使うかも重要です。

図表3-16にあるように、価格帯や性能ばかりでなく、用途や流通経路等もセグメンテーションの切り口に使われます。

コンビニ専用商品のような場合には、コンビニという流通ルートをセグメンテーションの切り口に使っていることになります。

⒞マーケティングミックスマーケティングミックスは、通常、Product(商品・サービス)、Price(価格)、Place(流通チャネル)、Promotion(広告・宣伝)の4つの「P」で表現します(図表3-17)。

その事業で扱う商品サービスの特徴はProductで定義し、価格戦略はPriceで明確化し、どの流通ルートを使うか、はたまた複数の流通ルートを組み合わせで使う等のチャネル戦略はPlaceで具体化し、Promotionではどのように認知度を高め購買意欲をそそるかをメディアミックスで組み合わせて計画します。

事業戦略の記述にあたっては、図表3-18のようなワークシートを活用するといいでしょう。

これは軽自動車をイメージして作成したものです。

事業別に既存と新規の区分を行い、それぞれについて、対象市場・顧客と事業戦略のパターン、対象セグメント、マーケティングミックス(4P)の各要素について、整合性が取れるように記述します。

対象市場・顧客については、括弧内に、顧客ニーズを記述します。

また、事業戦略のパターンについては、単にパターンを記述するだけではなく、括弧内に具体的にはどのようにしてそのパターンを成り立たせるのかを補足して記述します。

事例では、新興国の工場で部品を安く生産し、それを輸入して組み立てることでコスト削減を図ろうとしています。

図表3-18は概略ですので、詳しい部分はこれに付け加えて作ってもらえればと思います。

②機能別戦略──機能別に展開するとどうなるか機能別戦略は、組織機能別の戦略なので、図表3-19に示すように、基本戦略をベースに開発戦略、生産戦略、営業・販売戦略等のように記述していきます。

その際、外部事業環境変化や自社経営資源分析で抽出された取り組むべき課題や経営ビジョン・経営目標で設定された望ましい将来像を実現するために必要な取り組み課題、ギャップ分析から抽出された定量・定性ギャップなどを考慮に入れながら、重要かつ緊急性の高い戦略課題設定を行ってきます。

人事や経理・財務、広報、情報システムなど間接機能の部分は業種を超えて共通しますが、メーカーでいえば開発や生産などの直接機能の部分は、業種や業態で異なります。

図表3-19と図表3-20では、メーカーの事例と流通業の事例を示していますので参考にしてください。

◆海外との文化の違いを理解し、対応する

近年、グローバル対応が重要なテーマの一つになっています。

ここで、グローバル対応の条件として一つ述べておくと、「ローコンテキスト社会への適合」が一つのキーワードとなると思います。

日本は世界でまれに見るハイコンテキスト社会です。

「コンテキスト」とは「文脈」という意味ですが、「ハイコンテキスト社会」とは、「文脈共有度が高い」、つまり、「あまり多くの言葉を使わなくても意思疎通ができる」ということです。

例えば、「あうんの呼吸」とか「以心伝心」「忖度」などはハイコンテキスト社会に特有の事象です。

ところが、海外はローコンテキス社会が基本です。

黙ってただニコニコしていても何も伝わりません。

会議で発言しなければ「何も考えていない人」だと軽視されます。

日本では子供の頃から人に合わせることを求められますが、仕事に就いてからも上司の意見や考えに合わせ続けていると、自分の考えというものがなくなってしまいます。

そのような状況で海外に出ると、その人個人の意見が求められているにもかかわらず、ついつい日本人の代表のようなつもりで「WeJapanesethink…」「OurCompanyis…」のように話し始めてしまいます。

場合によっては、こうした日本の「わざわざ言葉にしなくても伝わる」こと自体をなぜかと質問を受けることもあります。

こうした場合に対応するためには、当然と思われること、前提となっていることについても「なぜそうなのか」を説明できる言葉と能力が必要になります。

「なぜ日本人は、新年になると初詣に行くのですか?」「それは神社でもお寺でもどちらでもいいのですか?」という海外の方からの質問に、あなたならどう答えるでしょうか。

図表3-21に、日本と海外の文化や習慣の違いと、それにより起こりやすいトラブル、対応策をまとめていますので、参考にしてください。

③組織戦略──将来の望ましい組織図は組織戦略については、「組織構造をどうするのか」という組織構造論と「組織をどのように運営するのか」という組織運営論とがあります。

組織構造については、代表的な組織形態である「職能別組織」(「機能別組織」ともいいます)と「事業部制」「カンパニー制」「持ち株会社制」等があります(図表3-22)。

メーカーは職能別組織であることが多く、開発と生産・営業等職能別組織間での壁が問題になりやすいという特徴があります。

事業部制については「事業部にどこまで機能を持たせるか」という議論がありますが、本来の事業部制は開発と生産と営業が一体になった組織をいいます。

カンパニー制の特徴は、事業部長よりもカンパニー長(通常「プレジデント」と呼びます)により大きな権限を持たせ、損益計算書だけでなくバランスシートにまで責任を持たせるというものです。

本来の事業部制は、P/L、B/S両方について責任を持つというものでしたが、だんだん事業部の責任範囲が狭まり、P/L責任だけになっていたので、カンパニー制でB/S責任まで持たせるようにしたのです。

パナソニックで事業部制を解体した時は、事業の単位が小さすぎたため、より大括りなカンパニー制に変更しました。

カンパニー制そのものはソニーの発案ですが、その後多くの電機メーカーで採用されています。

カンパニー制をさらに進めたのが持ち株会社制で、戦後、財閥解体とともに純粋持ち株会社が禁止されていましたが、90年代以降の事業再編の枠組みの一つとして、97年に50年ぶりに解禁されました。

「○○ホールディングス」と名前のついている企業グループは、純粋持ち株会社制を採っていることになります。

純粋持ち株会社の特徴は、事業を別会社として切り出し、毎年財務諸表を作らせるので、事業再編の際に売買がしやすいというメリットがあります。

ただし、100%子会社でないと連結納税ができないなどの制約があり、導入は一部の企業グループに偏っています。

以上の組織構造に対し、組織運営については、例えば、ガバナンスを働かせるために社外取締役を増やすとか、取締役会の議論を活発化させるために取締役の人数を絞るとか、実質的な意思決定機関となる経営会議を月1回から週1回開催にしてスピードを速めるとか、権限委譲して事業部長の意思決定権限を強化するなど、いろいろなポイントがあります。

組織論については、一般的な議論をしても仕方がないので、自社の現状の組織上の問題点を抽出して、それが改善・解決できるような組織構造と運営方法を決めていく必要があります。

組織についてはさまざまな論点がありますが、中期経営計画を策定するうえでの一番の近道は、「現状はさておき望ましい組織の将来像を組織図で表現してみる」という方法です。

社内のいろいろな人に望ましい将来の組織図を書いてもらってみてください。

そうすると彼らが何を望んでいるかがよくわかります。

もちろんその通りにするということではなく、困っていることや期待値・希望を把握するのに役立てるということです。

◆組織が先か戦略が先か

「組織は戦略に従う」という言葉と、「戦略は組織に従う」という一見相反する言葉があります。

さて、どちらが正しいのでしょうか。

答えは、組織に明確な戦略がある場合には組織は戦略に従いますが、明確な戦略が打ち出されていない場合には、下部組織で勝手な戦略を考えます。

そうすると「戦略は組織に従う」となります。

例えば、会社としての基本戦略や方針を打ち出さないまま、事業部に中計素案の提出を求めると、事業部ごとに考えた事業戦略が前提となり、基本戦略はその寄せ集めとなってしまいます。

そうすると結果として「戦略は組織に従う」となってしまうので要注意です。

日中戦争の泥沼や、また東南アジアの戦線で大失敗を犯した日本軍の行動を分析した『失敗の本質──日本軍の組織論的研究』(1984年、ダイヤモンド社にて初版)では、そうした「戦略は組織に従う」の典型的な悪い事例を示しています。

歴史上、日本人は「戦略は組織に従う」を犯しやすい民族である、つまり、本社に明確な基本戦略がなければ、事業部が勝手に事業戦略を遂行して既成事実作りをしてしまうおそれがある、ということを理解しておいた方がいいでしょう。

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