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▼(4)戦略類型

この記事でわかること

ここで、戦略類型についてご紹介しておきます。

戦に勝つには兵法を知っていなければならないのと同様に、ビジネスで成功を収めるには、ビジネス戦略に通じている必要があります。

ビジネス戦略の歴史は100年ほどありますが、その中の主要なものをここで紹介しておきます(図表3-7)。

まず戦略のタイプは、大きく

  1. ①ポジショニング派と
  2. ②ケイパビリティ派、
  3. ③アダプティブ派、
  4. ④その他

に分けることができます。

①ポジショニング派

ポジショニング派の特徴は、外部環境を重視することです。

日本で考えるなら、高齢者人口の増加を背景に、高齢者向けの事業に新たに取り組むとか、海外であれば新興国での伸びを期待して新興国に進出するとか、成長性が高く、将来利益拡大が見込める市場への参入や攻略を狙います。

ポジショニング派の代表格はマイケル・ポーターの競争戦略です。

ポーターは大胆にも、一般的に競争市場での戦略は⒜コストリーダーシップ(低価格戦略)、⒝差別化戦略、⒞フォーカス戦略(集中戦略)の3つに分けられるとしています。

⒜コストリーダーシップ戦略

コストリーダーシップ戦略は、図表3-8のようになるべく広いマーケット、またはマーケット全体を対象にして、低コストを武器にマーケットシェア獲得を狙う戦略です。

自動車業界では、トヨタ自動車がカンバン方式などに代表されるトヨタ式生産方式と関連部品メーカーを三河周辺に集結させることにより、競合他社よりも低コストで車の生産ができるようにして国内マーケットシェアを拡大していきました。

他社よりもコストを低く抑えられるので、価格を抑えたり、価格競争になった際に値引きで対抗する余力が生まれます。

コストリーダーシップ戦略を成り立たせるには、量産化によるコスト低減など、競合他社よりも安く商品を生産できる能力を備えている必要があります。

⒝差別化戦略(差異化戦略とも)

「差別化」とは、英語の「differentiation」の訳で、「差異化」とも呼ばれています。

差別化戦略の基本は、競合する製品に対して、顧客から見て有意な違いを生み出し、その違いに魅力を感じて購入してもらうということです。

差別化戦略も、マーケット全体を対象とする点でコストリーダーシップ戦略と対象範囲は同じです。

自動車メーカーでは日産自動車や本田技研が採用してきた戦略です。

差別化戦略のポイントは、顧客にとって意味のある差別化を行うことによるコストが余分にかかるため、そのコスト以上の価値を認めてもらう必要があります。

コストが余分にかかっているのに価格が同じであれば、その分利益は下がりますので、後の競争力が落ちてしまいます。

また、差別化した商品がヒットすると、マーケットリーダーをはじめ他社がまねをしてくることになります。

この場合、どうしたらよいのでしょうか。

その答えは、「さらに別の差別化を試みる」ということです。

「まねされたら価格を下げる」のは邪道です。

マーケットリーダーよりもコストが高い分、さらに利益率が悪くなります。

このように、差別化戦略の要諦は「差別化し続ける」ことなのです。

⒞フォーカス戦略(集中戦略)

フォーカス戦略のポイントは、マーケット全体を対象にするのではなく、特定のマーケットだけにフォーカスすることです。

そうすることによって、特定のマーケット固有のニーズに応えることができます。

自動車メーカーでは、スズキやダイハツなどが軽自動車をはじめ小型自動車を中心に、比較的車両価格が安く燃費のいいクルマ作りに励んでいます。

その結果、地方での軽自動車比率は非常に高くなっています。

自動車以外でも、象印やタイガーなどは、魔法瓶をはじめとした家庭用電化製品のニッチな市場を押さえています。

なお、マイケル・ポーターは、後にフォーカス戦略をさらに「コスト集中」と「差別化集中」に分けました。

家電製品で低コストを売りにしてきた船井電機などはコスト集中といえますし、自動車でポルシェなどはスポーティーカーで差別化集中戦略をとっているといえます。

ここで、ポジショニング派の一派ともいえる「ブルーオーシャン戦略」を紹介しましょう。

2000年代にフランスの欧州経営大学院インシアード(INSEAD)のW・チャン・キムとレネ・モボルニュは共同で研究を行い、東西のさまざまなビジネス戦略を分析し、競合と直接競争をしない土俵を作って事業拡大させる手法を導き出しました。

マイケル・ポーターの競争戦略の世界を、激しい競争によって赤字が出ることから「レッドオーシャン」と呼び、自分たちの手法を、競争しないで海が青々としているという意味で「ブルーオーシャン」と名付けたのです。

彼らの提言するブルーオーシャン戦略の長所は、戦略キャンバスやERRCアクションマトリックス等の戦略立案ツールを使うことにより、ブルーオーシャン戦略構築ができることです。

日本の事例では、ソニーのプレイステーションと競合していた任天堂がWiiを導入して、もともとゲームをしない人たちにまでユーザーを拡大して業績を拡大した例や、QBハウスのように理容業界では当然のように行われていたシャンプーや髭剃りを省略し、「カットのみで10分」という時短サービスを駅ナカや駅近で展開した例などがあります。

図表3-9はQBハウスをERRC(Eliminate:取り除く、Reduce:減らす、Raise:増やす、Create:付け加える)アクションマトリックスで分析したものです。

見方によっては、ブルーオーシャン戦略はマイケル・ポーターのいう「差別化」を強くした形態と見ることもできます。

自社でブルーオーシャン戦略をとるかどうかは別にしても、戦略検討の際に、自社の事業でブルーオーシャン戦略をとったらどうなるかを検討しておくのもよいでしょう。

②ケイパビリティ派(内部能力重視派)

ケイパビリティ派は、市場の魅力度よりも、自社の内部能力を重視します。

つまり、たとえ国内で高齢者市場が伸びていっても、自社にその市場で戦えるノウハウや能力等が不足していれば、参入しない方がよいという判断になります。

新興国についても同様です。

これまで国内市場中心であったためにまだ海外事業を成功させられるノウハウがないという状況であれば、進出しても成功を収める可能性は低いということになります。

⒜コア・コンピタンス論

ケイパビリティ派の一番古いものは、コア・コンピタンス論です。

自社の強みは何かを分析し、その強みが活かせる市場かを判断して市場参入を決めます。

例えば、昔のソニーは小型化することが得意でした。

大ヒットしたウォークマンも、持ち歩きにくい大きなラジカセが中心の市場に、手のひらサイズの再生専用機を作って打って出たのです。

図表3-10は、皆さんもご存知の会社のコア・コンピタンスと思えるものをピックアップしてみたものです。

コア・コンピタンスになり得るかどうかは、実現できる顧客価値、独自性、企業力の拡張性(将来の商品・サービスイメージ)の3つの観点があります。

⒝VRIO

ケイパビリティ派の2つ目はVRIOです。

オハイオ州立大学で教鞭をとっていたジェイ・B・バーニーは、持続的競争優位(サステナビリティ)を確保するには、ケイパビリティが重要性であると唱えました。

そのケイパビリティを表すキーワードの頭文字がVRIOです(図表3-11)。

Vは「Value」(経済価値:市場で受け入れられ、脅威や機会に適応できる経済的価値がある資源)、Rは「Rarity」(希少性:少数の競合企業しか所有していない希少な資源)、Iは「Imitability」(模倣困難性:競合企業にまねされない模倣困難な資源)、Oは「Organization」(組織:VROのような資源を活用できる組織)を表します。

このVRIOの4つの要素がすべて揃うと、持続的競争優位が保たれ、業績は標準以上となります。

一方、例えばⅤ(経済価値)だけしかないという場合は、他社にまねをされて競争均衡に陥り、業績は標準並みになります。

研究者の間では、「ポジショニング派をとるか」「ケイパビリティ派をとるか」という議論がありますが、実務家の観点では、ポジショニング派の視点でマーケットや競争環境を捉え、ケイパビリティ派の視点で「新規参入して競争優位性が保てるか」や、すでに参入している市場では「今後さらに持続的競争優位性が構築できるか」という視点で判断していけばよいと思います。

③アダプティブ派(適応重視派)

アダプティブ派の基本は試行錯誤です。

インターネットの世界のように、3カ月程度で状況が変わってしまうような市場の場合、じっくりと戦略を練るなどと悠長に構えることはできません。

日々刻々と変化している市場や競合に対応しながら打ち手を打っていく必要があります。

LINEを立ち上げた森川亮さんが、「事業計画書を作ったことがない」と言っていたことがアダプティブ派であることの証左です。

④その他の戦略

類型その他にも、上得意客を囲い込んで離さない囲い込み戦略や、事実上の標準を形成するデファクトスタンダード化戦略、顧客が利用するプラットホームを形成してその上にいろいろなサービスを取り揃えるプラットホーム戦略、セブン・イレブンのエリアドミナント戦略で見たような流通業固有の業種別戦略、ビジネスモデル派生の戦略等があります。

図表3-12で過去100年間にわたる経営戦略論の略史を紹介しますので、参考にしてください。

◆技術革新への対応技術革新が業種業態を大きく変えていくことがあります。

かつてのレコードはCDに取って代わられ、さらにCDは音楽ダウンロードに取って代わられ、一時はiPodのような携帯音楽プレーヤーが普及しましたが、今は大半の人がスマートフォンで音楽を聴いています。

ヨーゼフ・アロイス・シュンペーターは、イノベーション(技術革新)を「創造による破壊だ」と述べましたが、技術革新によって古い技術や事業者が破壊されて、市場から去っていきます。

エベレット・M・ロジャースは、そのイノベーションの普及プロセスにある法則があることを見つけました。

それは、市場には「革新的採用者」と呼ばれるイノベーションを最も早く取り入れる人が全体の2・5%ほど存在し、続いてその技術革新を採用する初期少数採用者が市場に13・5%ほど、その後採用に動く前期多数採用者と後期多数採用者がそれぞれ34%ずつ、そして採用遅滞者が16%程度存在するという分布ですが、これは統計学でいう「正規分布の分布状態」(標準偏差の間隔で分布している)と同じになります(図表3-13)。

最近、これに加えて「キャズム」という考え方が出てきました。

「キャズム」とは「深い溝」という意味ですが、技術革新もマーケット全体に普及するものと一部のマニアにしか普及しないものとがあります。

その境目がキャズムで、初期少数採用者と前期多数採用者の間に存在しています。

AppleWatchなどがそれに相当すると思われますが、前期多数採用者に採用されるには、コストパフォーマンスが重要だということがわかっています。

どの戦略類型を参考にするか、はたまた自社独自のオリジナルな戦略でいくのか、これまでのビジネス戦略史が示す過去の事例と、自社の得意技やリソース、現在置かれた状況と今後の環境変化等を総合的に判断して取り組んでいくとよいと思います。

戦国時代、播磨の国の小領主の家臣であった黒田官兵衛は、歴史的には親毛利派であった領主と家臣を、時代の先を読んで織田方に方向転換させて羽柴秀吉の家臣となり、天下統一に大きく貢献し、息子・長政の代には江戸時代を通じて続いた福岡藩(=黒田藩)の礎を築きます。

このように、時流を読む目が大切なのです。

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