経営戦略策定の予備作業として、まず強みと弱みの分析と、成功パターンの分析を行います。
▼(1)強み・弱みと成功パターン
マンガのストーリーにあるように、自社経営資源分析を行うと、自社・自事業の問題点ばかりが見えてしまい、「お先真っ暗」な気分になってしまうことがあります。
しかし、皆さんの会社がある程度の年月存続できてきたということは、それなりに長所や強みがあったはずなのです。欠点ばかり見ていても、展望が開けません。
このため、強みと弱みの分析や成功パターンの分析を行って、戦略代替案を検討します。
①SWOT分析・クロスSWOT分析──活かせる強みはどこだ
まずはSWOT分析です。
SWOT分析は、かつてハーバードビジネススクールのアンドリューズ教授が、経験の浅い若手ビジネスマンのために考え出した手法で、誰でもステップを踏んで検討できるので便利だということで広まったものです。
具体的には、図表3-1にあるように、まず内部要因である「強み」(Strengths)と「弱み」(Weaknesses)を抽出します。
この際、なるべく客観的な裏付けのある事柄をピックアップするように心がけます。
必要に応じて、外部や顧客にインタビューをするなどして客観的な意見を取り入れるのもよいでしょう。
次に、外部要因である「機会」(Opportunities)と「脅威」(Threats)を抽出します。
要因の中には、捉え方によって機会になったり脅威になったりする事柄もあり得ます。
ここで注意すべきは、単純に抽出すると、強みよりも弱みが多く出てきたり、機会よりも脅威の方が多く出てきたりすることがあります。
これは、抽出している本人たちがマイナス思考に陥っていたり、リスクに敏感になっていたりするためで、物事のプラス面やチャンスにあまり目を向けようとしていないことの現われといえます。
ですから、左右の分量のバランスをとるように注意しましょう。
一定量が抽出できたら、次にクロスSWOT分析に進みます。
クロスSWOT分析では、SWOT分析で抽出した4つの要素のうち、主要なものを3つから5つ選択し、図表3-2のように周辺に配置します。
そして、強みを機会に活かせる組み合わせを「SO戦略」として複数記述します。
この際、複数の要素同士を組み合わせても構いません。
同様に、弱みを補完して機会に活かすWO戦略、強みで脅威に対処するST戦略、弱みと脅威を最小化するWT戦略というように組み合わせを検討していきます。
どの要素同士を組み合わせたかが後でもわかるように、要素に番号をつけておくとよいでしょう。
また、一人で行うと組み合わせが思いつかないとか煮詰まってしまうことがあります。
複数のメンバーでの集団発想法を活用してホワイトボードなどに記述してみるとよいでしょう。
なお、SWOT分析は、事業別に行うケースと事業横断的に行うケース等があります。
目的に応じて使い分けるとよいでしょう。
この際、重要なのは、これまでにない新しい組み合わせを思いつくことです。
人によってはすでにある組み合わせを記述して満足しているケースが見受けられますが、それは単に事後確認しているに過ぎません。
新しい組み合わせを抽出するように心がけなければなりません。
私のワークショップでは、既存の組み合わせの場合には黒字で、新しい組み合わせの場合には赤字で記述し、どれだけ新しい組み合わせを考え出すことができたかを一見してわかるようにしています。
ただし、ビジネススクールでSWOT分析を学んでも、新しい組み合わせが考えられない人もいるようです。
そういう場合は、別途アイデア発想法を学んだ方がよいでしょう。
「新しいアイデア」の基本は「既存の要素の新しい組み合わせ」ですから、そのような発想法を学んだ上で、SWOT分析に取り組むとよいでしょう。
クロスSWOT分析では、SO戦略、WO戦略、ST戦略、WT戦略という4種類の組み合わせが出てきますが、この中で最も経営上プラスのインパクトが大きいのは、SO戦略です。
なぜなら強みはすでに保有していますし、機会はそこにあるので、実現可能性が高いからです。
一方、WO戦略は、弱みを補完しなければならないため、補完できるまでに時間がかかりますし、場合によっては補完しきれない可能性も否定できません。
このように、良い戦略代替案を導き出したいと思ったら、有効な強みと有望な機会をしっかり捉えることが重要なのです。
しかし、すでに見たように、経験が浅くマイナス思考が強い人は弱みや脅威にばかり目を奪われて、本来必要となる強みや機会をうまく見つけられないことがあります。
有望な機会を見つけるには、常日頃アンテナを高く張っておく必要がありますが、忙しく業務に埋没していると、ついついアンテナが低くなり、微弱な機会情報を見逃しがちになります。
SWOT分析を行う際には、いったんアンテナを高くして、幅広く情報を集めるようにしましょう。
②成功パターンの分析──再現性と継続性のある「型」があるか
SWOT分析は、戦略代替案の抽出に有効ですが、図表3-2のSO戦略「低コストを武器に新興国市場に参入」の場合、参入するまではよいのですが、果たしてその後成功できるのかというと定かではありません。
このため、企業としては再現性のある成功パターンを持っておくと有効です。
ただし、成功パターンをいきなり作るのは難しいので、まずこれまでで成功したことのあるパターンを分析してみます。
継続企業であれば、これまで何らかの成功パターンがあったからこそ存続できてきたはずですので、その部分を知っている人にも参加してもらい、成功パターン分析を行います。
成功パターンの記述方法は、図表3-3にあるように、事業別に(矢印マーク)と+(プラスマーク)を組み合わせて表現します。
矢印マークは順番を、プラスマークは要素の組み合わせを表しています。
この組み合わせが多ければ多いほど、他社が真似しにくいものとなります。
戦国時代、毛利元就は孫子の兵法の「百戦して百勝するは善の善なるものにあらざるなり。
戦わずして人の兵を屈することこそ善の善なるものなり」をもとに「戦わずして勝つ」はかりごとを駆使して、国人領主から戦国有数の大大名になり、豊臣政権下では孫の毛利輝元が5大老に名を連ねるまでになりました。
これは、「はかりごと」(調略)という成功パターンを繰り返し実施して成功した例です。
現代のコンビニ業界では、長らくセブン・イレブンが1位の座を維持していますが、それは「ドミナント出店」という出店方法と「オリジナル商品」という商品企画方法を組み合わせた成功パターンを駆使しているからです。
1日の店別販売高を「日販」といいますが、いまだにローソンやファミリーマートは追いついていません。
成功パターンには、事業としての成功パターンだけでなく、会社としての成功パターンというものもあります。
例えば、A事業で成功した経験とノウハウをもとにB事業に進出したり、C事業の顧客をもとにD事業に進出したりすることなどが考えられます。
よく「過去の成功パターンにとらわれすぎてはいけない」と言われますが、まず「過去どのようにして成功したのか」を冷静に分析することは、将来を考えるのに有意義なことです。
これまでの成功パターンが分析できたら、それをもとに今後の成功パターンを描きます。
その際には、今後の環境変化や技術革新、新しい取り組みなどを取り入れて描いてみるとよいでしょう。
なお、成功パターンが描け、社内で共有できると、以下のようないくつかの好影響が得られます。
- ①ベクトルが合う:みんなが同じ方向を向けるようになる
- ②ブレない:よけいなトライアル&エラーが減る
- ③スピードと効率性が増す:成功パターンが共有できている
と、何か新しい提案があったときに、「あのパターンで取り組めばいいな」と社内の意思決定が早くなり、スピードをもって物事に取り組めるようになる。
事実、マクドナルドなどチェーン展開しているところには、不動産会社から新しい物件情報がすぐに入ってきます。
それはこうした会社が、社内に物件判別の方程式を持っていて、短期間にイエスかノーかの判断ができるからです。
以前、幹部の出自が異なるために意見が割れていたある大手の機械メーカーの子会社をサポートしたことがありました。
サラリーマン出身者が多いため、経営目標設定にあたっては当初保守的な意見が多かったのですが、クロスSWOT分析や成功パターン分析を行ったら、経営目標がぐんと高くなりました。
マンガのストーリーでの山本電機の人たちも、自社経営資源分析では暗い未来しか描けていませんでしたが、このクロスSWOT分析と成功パターン分析で希望が見えてきたのではないでしょうか。
戦略代替案が出てきたところで、ここから正式に戦略策定パートの戦略立案に入っていきます。
手順としては、まず目標と実績のギャップの分析を行ってギャップを埋められるような基本戦略を検討し、その後事業別の事業戦略、組織機能別の機能別戦略、組織構造や組織の運営方法を扱う組織戦略(この3つを「基本戦略」に対して「個別戦略」と呼びます)を具体化します。
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