ここからは、中期経営計画を作った後の見直し方や進捗管理の仕方についてお話していきます。
①既存の中期経営計画についての経営企画の悩み中期経営計画が走り出した後、半年から1年ほど経つと、経営企画の方々は以下のような悩みを抱えることがあるようです。
⒜経営目標が高すぎ、実績と大きく乖離⒝中計を見直すべきか、維持すべきか⒞中計をローリングすべきか否か⒟中計が予算に反映されていない⒠中計で掲げた課題への取り組みが進んでいない⒡中期経営計画が忘れられている以下、それぞれの状況について触れていきましょう。
⒜経営目標が高すぎて、実績と大きく乖離している⒜はオーナー系の会社や、精力的な経営者が実力以上の高い目標設定を要求するような場合によく見られるケースです。
経営側はそうすることによって幹部・管理職等を鼓舞する意図があるのですが、当の幹部・管理職の人たちは、「そんな目標できるわけがない」と最初から諦めてしまいます。
実際に1年目が走ってみると、予想したとおり乖離が激しく、その差がどんどん広がっていきます。
月次でPDCAを行っていても、差が大きすぎて途方に暮れてしまいます。
⒝中計を見直すべきか、そのままにしておくべきか⒜のように目標が高い場合ばかりでなく、何らかの外部環境の変化で経営目標が達成できなくなりそうになることがあります。
そうした際に中計の目標そのものを見直すべきか、あるいはそのままにしておくべきかといったことに悩まされることがあります。
⒞中計をローリングすべきか、フィックスで進めるべきか中期経営計画の策定方法には、毎年3カ年を作り直すローリング方式と、一度3年先を決めたら、3年経つまでそのままにしておくフィックス方式とがあります。
それぞれメリットデメリットがあります((2)中期経営計画をローリング(期中修正)する方法としない方法にて後述)が、フィックス方式の会社は「ローリング方式の方がよいのではないのか」と、逆にローリング方式の会社は「フィックス方式の方がよいのではないか」と悩まされることがあります。
⒟中計が予算に反映されていない3月が決算期の会社であれば、中期経営計画は前年の12月末までくらいに作成し、年度予算案は3月末までにまとめます。
中計と予算の作成時期にはわずか3カ月の差しかないのですが、その間に状況の変化があり、初年度から中計と予算がずれるということも起こり得ます。
こうした場合に、「ずれたままにしていてよいのか」と悩まされることがあります。
⒠中計で掲げた課題への取り組みが進んでいない中期経営計画では、さまざまな新しい課題にチャレンジする旨がうたわれますが、いざスタートしてみると、なかなかそれらの課題への取り組みがはかどらないことがあります。
こうした時、経営企画の方々は「みんな現業に一生懸命で、中計課題に取り組むつもりがないのでは」と心配になるでしょう。
⒡中期経営計画が忘れられている「忘れられている」というと、ショックが強いかもしれませんが、実はよくある事象です。
4月頃に中計を発表した頃は「新しい中計が出たか」と社内の注目を集めますが、半年ほどすれば、皆さん「中期経営計画」という言葉すら口にしなくなります。
まるで「人の噂も七十五日」を地で行っているようです。
これら6つの悩みは、いずれも中期経営計画の作り方や運用方法に端を発している問題です。
そこで、このパートでは、作った後の中期経営計画をどうするかについて論じていきたいと思います。
②中計を途中で大幅に見直した事例/中期経営計画を見直さずそのまま着地した事例ここでいったん、実際にあったA・B・C3社の事例を紹介して、中計を見直すべきかについてのポイントを見ていきましょう。
⒜事例A社A社は、創業100周年に向けて長期ビジョンを掲げ、その第一期として中期経営計画を策定し発表しました。
ところが、途中でリーマンショックのように過去経験したことがないような大きな外部事業環境の変化があり、中期経営計画だけでなく長期ビジョンも併せて見直しを行い発表しました。
しかし、幸いなことに当初予想されたよりも短期間で事業環境が好転したので、再度前広な長期ビジョンと中期経営計画を打ち出しました。
ところが、その後また、大きな事業環境の変化があったので、再度中期経営計画と長期ビジョンの見直しを行うことにしたのです。
結局Aは、事業環境の変化のたびに、長期ビジョンと中期経営計画を見直すことになりました。
【解説】この事例の好ましくない点は、中期経営計画を見直しただけでなく、長期ビジョンまで見直してしまったことです。
経済環境の変化は日々起こり得ます。
そしてそれはプラスに働いたりマイナスに働いたりします。
このため、単年度は当然ながら中期での見直しが必要な場合はありますが、10年先の長期まで一緒に見直す必要はなかったのではないでしょうか。
あまりコロコロと数字を変えると「また変わるのでは」と、外部・内部双方からの信用を損ないかねません。
⒝事例B社B社は、比較的好景気の時期に「10年後は売上を2倍に伸ばす」という長期ビジョンと、連動した中期経営計画を発表しました。
同社は国内中心でやってきた会社であったため、売上を大きく伸ばすには海外に進出する必要がありました。
このため、中期経営計画では海外の同業・類似他社を積極的にM&Aする計画となっていました。
実際に中計が走り出すと、思いのほかM&Aが進展し、2年目で中期経営計画の売上目標を超過達成してしまう見通しとなりました。
このため、2年目の終わりに3年目の目標を上方修正して発表しました。
しかし、実際の3年目には、外部事業環境がマイナスに働き、新たに設定した目標が未達成に終わってしまいました。
さらに、その後はM&Aも手控えたため、数年経過して長期ビジョン自体が未達成となる可能性が高くなり、長期ビジョン自体を先延ばしすることにしました。
【解説】この事例は、長期ビジョンを打ち出して海外に積極的に出て行った点や、さらに2年目で3年目の目標を超過達成しそうになったことにより目標を見直
したこともよかったと思います。
ただし、海外で買収した会社を立て直し、業績をアップするまでは達成できていません。
いわゆるポストM&Aインテグレーション(PMI:M&A後の統合)がうまく行っていないようです。
M&Aを行う際には、あらかじめPMIノウハウを身につけておく必要があったでしょう。
⒞事例C社C社は、中期経営計画の最終年度で外部事業環境の大きなマイナスに見舞われてから、もう3年目となっていたことから、、中期経営計画を見直す余裕もなく、大きな赤字を出して、いったん終了しました。
C社は3年ごとのフィックス方式で中期経営計画を作成している会社であったため、「次の中期経営計画をどう打ち出すか」という問題はあったのですが、景気回復が見通せず、次期中計は「中期経営計画」という形ではなく、暫定的な「緊急対策と構造改革」という名目で取り組むこととなり、事態が収まった後に、再度3カ年ごとの中期経営計画を作成し、運用することになりました。
【解説】C社の場合、最終年度に大きな事業環境の変化が起こったために見直しには至りませんでした。
これがもし初年度や2年目であれば、見直しが必要となっていたことでしょう。
次期中期経営計画については、見通しがつかないまま作成・発表するのでは外部からの信頼性も低くなってしまいますので、緊急対策的に取り組んだことはよかったのではないでしょうか。
以上3つの事例から、中期経営計画を見直すべきかどうかの論点が見えてきます。
具体的には、以下の4つのポイントで考えるとよいでしょう(図表6-1)。
1.急激かつ大きな環境変化による中期経営計画の前提条件の崩壊:中期経営計画で前提としている外部事業環境が大きく崩れた場合には、見直しが必要になることがある2.目標機能の喪失(超過達成・大幅未達成を含む):B社のように2年目で超過達成になると、3年目の目標の意味がなくなる(=「目標機能の喪失」)ため、見直しの必要が発生する3.外部内部へのシグナル効果(+/両面で):A社のように経営目標を頻繁に変えると、外部・内部双方からの信頼性や求心力が失われるため、内部・外部への影響を考慮した対応が必要となる4.タイミング(残りの年月等):その事象が中期経営計画の何年目に発生したかによって、見直しの要否が決まる
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